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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

3/21(金・祝)オスロ・フィル日本公演/「鋭さ」を増した諏訪内晶子のメンデルスゾーンVn協奏曲

2014年03月24日 00時54分23秒 | クラシックコンサート
東芝グランドコンサート2014
オスロ・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演ツアー


2014年3月21日(金・祝)15:00~ ミューザ川崎シンフォニーホール S席 1階 C1列 23番 13,000円
指 揮: ヴァシリー・ペトレンコ
ヴァイオリン: 諏訪内晶子*
管弦楽: オスロ・フィルハーモニー管弦楽団
【曲目】
モーツァルト: 歌劇『フィガロの結婚』序曲 K.492
メンデルスゾーン: ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64*
《アンコール》
 J.S.バッハ: 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番より「ルーレ」*
マーラー: 交響曲 第1番 ニ短調「巨人」
《アンコール》
 ブラームス: ハンガリー舞曲 第6番

 「東芝グランドコンサート2014」のオスロ・フィルハーモニー管弦楽団の来日公演ツアーも終盤を迎え、今日を含めて残り2公演、明日の仙台で千秋楽となる。ツアーに持ってきた2つのプログラムのうち、先週、3月12日に東京芸術劇場で聴いたものとは違う方ということになる。ゲスト・ソリストに諏訪内晶子さんを迎えてのメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲と、マーラーの交響曲第1番「巨人」というプログラムは、このオーケストラが国際的なレベルであることを主張しているかのようで、ノルウェーや北欧といったイメージを敢えて打ち出さずに、アンコールを含めて全曲を独墺系で固めた。自信があるということなのだろう。
 「東芝グランドコンサート」シリーズは、今年で33回を迎えるというから、かなり老舗のシリーズである。毎回、世界の中堅オーケストラを招聘し、人気のあるソリストを迎えて必ず協奏曲をプログラムに組み、お手頃価格で全国ツアーを行う。昨年2013年はロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団だったが、良い席のチケットを取っていたにもかかわらず、インフルエンザに罹って行けなくなってしまった。2012年は南西ドイツ放送交響楽団バーデン=バーデン&フライブルクで、神尾真由子さんがソリストの日萩原麻未さんがソリストの日を聴きに行った。2011年はチェコ・フィルハーモニー管弦楽団だったが、ツアー中に東日本大震災が発生し、ミューザ川崎の崩壊などもあって、この時も最良のチケットを確保していたのに結局行けなかった。2010年はロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団で、ちょうど今年のツアーと同じく諏訪内晶子さんアリス=紗良・オットさんがソリストで、この年は2回聴きに行った。私にとっても、いろいろと因縁の深いシリーズだが、基本的には毎回行く予定ではいるのである。

 さて今日のお目当ては諏訪内さんである。彼女のメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲は、2011年11月のパリ管弦楽団の来日公演(指揮はパーヴォ・ヤルヴィさん)以来となる。その時の印象は、ひたすら美しく完成度の高い演奏を目指している、という感じであったが、今回初めて共演するヴァシリー・ペトレンコさんは1976年生まれなので、197*年生まれの諏訪内さんよりも年下である。また音楽界での経験や実績も、おそらく諏訪内さんの方が数段上にランクするだろう。ある意味では、諏訪内さんがリードする演奏を聴くことができるのかもしれない。そう思うと、パリ管の時とはまた違った、新たなメンデルスゾーンを聴かせていただけそうである。

 1曲目は、モーツァルトの『フィガロの結婚』序曲。ペトレンコさんの指揮は快速、快適に突っ走る。速いテンポで、しかもメリハリの効いたダイナミックレンジの広い演奏であるにも関わらず、若い指揮者にありがちな剛直、あるいは硬質に感じがせずに、しなやかで瑞々しく感じるのは、彼の豊かな音楽性によるものなのか、あるいは人徳なのか。コンサートの幕開けに相応しい、ワクワク感の詰まった素敵な演奏であった。

 続いて、メンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲」。今日の諏訪内さんは、微笑みを絶やさず、エンジ系のスリムなドレスで登場。いつ見てもエレガントで美しい。プログラムにも今回のコンサートに関するインタビュー記事が載っているが、「この曲は30年以上演奏している」が「弾けば弾くほど奥深く、その奥に潜む作曲家の意図に近づくのはとても難しい」という。そして「ただ美しいというのではなく、燃えたぎるようなものを内包している作品だと感じている」そうだ。そんな諏訪内さんの演奏は・・・・・。
 第1楽章の冒頭、主題の提示から思いの外、強いハリのある音を出してきた。哀愁を帯びた旋律を細やかなニュアンスを与えて歌わせつつ、芯の強い音で硬質なイメージ。絹のような滑らかさ、美しさという彼女のイメージとはちょっと違い、アグレッシブな感じがする。さすがにひとつひとつのフレーズや旋律の歌わせ方は巧い! すべての音符に明らかな意味を感じさせるほど、隅々まで解釈が行き渡っていて、無駄に流すところなど微塵もない。自然に歌わせるように聞こえてくるのに、高い緊張感がヒシヒシと伝わって来るのだ。解釈の主導権は諏訪内さんが握っているらしく、ペトレンコさんも彼女に合わせて、オーケストラを従わせていく。今日の席位置は最前列の指揮者の真後ろなので、ほぼ目の前で弾いている諏訪内さんの音を、混じりっけ無しで直接受け止めることができる。かなり強めに押し出しているのが分かるのである。もっとも諏訪内さんのヴァイオリンはかなり遠鳴りするので、会場のどこで聴いても同じように聞こえたに違いない。
 第2楽章はさすがのもので、ヴァイオリンが素晴らしく歌っている。ヴィブラートの入れ方なども、まさにソプラノ歌手が歌曲を歌うよう。抑制の効いた高音部が殊の外美しい。また、諏訪内さんは演奏しながら身体を90度以上回転させる。曲想に合わせてしなやかに身体を回転運動させることによって、一層微妙なニュアンスを描き出しているようだ。
 第3楽章は一転して、かなり突っ込んだ演奏になった。テンポも速めだったし、まず諏訪内さんのヴァイオリンが、1拍目にアクセントを置いて、前へ前へのめって行くように、鋭さを増していく。オーケストラが後から一所懸命付いていくといった感じで、フィニッシュまで一気に駆け抜けていった。その分だけ、ヴァイオリンに少々粗っぽいところがあったが、その強引なまでの牽引力が、曲全体に強烈な緊張感を漲らせることになり、高揚感をもたらす。これこそが協奏曲の魅力! Brava!! 最近の諏訪内さんにしては、強烈な印象を残した演奏となった。こんなに鋭角的な諏訪内さんを初めて聴いたような気がする。

 諏訪内さんのアンコールは、J.S.バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番」より「ルーレ」。アンコールでこの曲を聴くのは初めてだろうか。こちらはまた憎いくらいにしっとりと落ち着いた演奏だった。

 後半は、マーラーの交響曲第1番「巨人」。オーケストラは弦楽が16型に拡大されフル編成となってステージいっぱいに広がった。演奏の方は、というと、前半のメンデルスゾーンではオーケストラが後手に回ってしまっていたので、メイン曲ではここぞとばかりに爆発した・・・・には違いないが、このマーラーについては必ずしも聴く人それぞれの感じかたが違ったのではないかと思う。私が全体的な印象として感じたのは、北欧系の澄んだ音色の端正な演奏のためか、マーラーの持つ鬱屈した「ねちっこさ」が感じられなかった。キレイに流れてしまって、毒がないといえば良いだろうか。そうなると、テンポの遅い部分などは退屈に感じてしまう。
 全体の印象も、どこはチグハグというか、バタついているというか、咬み合っていないというか・・・・。「明晰」な演奏には違いないのに、かえって各楽器がバラバラに分離しているようで、一体感が少ないように感じられたのである。とはいっても、別にアンサンブルが乱れているとか、テンポの採り方が曖昧だとか、そういった意味ではない。演奏は極めてしっかりしているのだと思うので、ケチをつけるつもりは全くない。もっともこれは、おそらく聴いている席の位置のせいではないかと思う。ミューザ川崎は、音が上に向かって拡がって行く印象が強く、1階だと置いていかれる感じがするのである。2階・3階で聴いていれば、また異なった印象になったに違いない。というわけなので、マーラーについては多くを語らないことにしよう。

 アンコールはおなじみのブラームスの「ハンガリー舞曲第6番」であったが、これはユーモアに溢れた楽しい演奏であった。

 というわけで、今日のコンサートは諏訪内さんに尽きるということになった。まあ、これは個人の勝手な印象なので、あまり深く捉えてもらうと困るのだが、ミューザ川崎には魔物が潜んでいるということにしておこう。

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