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東芝グランドコンサート2012
南西ドイツ放送交響楽団バーデン=バーデン&フライブルク
2012年2月14日(火)19:00~ サントリーホール・大ホール S席 1階 1列 21番 11,000円(会員割引)
指揮: フランソワ=グザヴィエ・ロト
ヴァイオリン: 神尾真由子*
管弦楽: 南西ドイツ放送交響楽団バーデン=バーデン&フライブルク
【曲目】
ヴェーベルン:「夏の風の中で」~オーケストラのための牧歌
シベリウス: ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47*
《アンコール》
パガニーニ:「24のカプリース」より第17番*
ベートーヴェン: 交響曲 第3番 変ホ長調 作品55「英雄
《アンコール》
モーツァルト: 歌劇『フィガロの結婚』より序曲
今年の東芝グランドコンサートは、フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮南西ドイツ放送交響楽団バーデン=バーデン&フライブルクの全国コンサート・ツアーが企画され、ゲスト・ソリストにはヴァイオリンの神尾真由子さんとピアノの萩原麻未さんが同行する。神尾さんはシベリウスのヴァイオリン協奏曲を、萩原さんはラヴェルのピアノ協奏曲ト長調を演奏し、その他にベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」とマーラーの交響曲第5番などが用意され、各地のコンサートではこれらの曲が組み合わせを変えてプログラムされている。名古屋、大阪、東京、広島、金沢、そして福岡の6都市で、計7回の公演。東京だけが本日と2月17日(金)の2回公演となっている。
「南西ドイツ放送交響楽団バーデン=バーデン&フライブルク」は1946年設立で、南西ドイツ放送(略称SWR)の所属オーケストラ。バーデン=バーデンに本拠を置いていたのに加えて、フライブルクのコンサートホールでも定期公演を行うようになったために、この長い名前になったという(ドイツ名は、SWR Sinfonieorchester Baden-Baden und Freiburg)。今回の来日公演ツアーを率いて来たのは2011-21012シーズンから主席指揮者を務めるフランソワ=グザヴィエ・ロトさんだが、前任者は、現在、読売日本交響楽団の常任指揮者を務めているシルヴァン・カンブルランさん(1999年~2011年)であった。ロトさんもフランス出身だが、バーデン=バーデンはフランス国境の近くということも影響しているのかもしれない。ロトさんは現代音楽を得意としているとのことだが、レパートリーは古楽から現代まで幅広い。今日はヴェーベルン、シベリウス、ベートーヴェンだが、2月17日ラヴェルもあるので、ドイツ音楽以外にも期待が高まる。
1曲目はヴェーベルンの「夏の風の中で」。ヴェーベルンといえば、無調・十二音技法の「新ウィーン楽派」の作曲家、いわば現代音楽の初期・確立期の人だが、この曲は1904年に作曲されたもので、音楽的には後期ロマン派的なものだ。調性もあるし、美しい和声にも彩られているが、形式的には自由で、標題にあるような牧歌的な曲想が穏やかに展開する。聴いたのは初めてだったが、オーケストラの音色、特に弦楽器のアンサンブルが美しく、官能的にさえ感じられた。とくに大きな音を出すわけでもないが、音色は透明でクセがなく、ジワリと滲み出てくるような美しさがあった。
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2曲目は神尾さんを迎えてのシベリウスのヴァイオリン協奏曲。神尾さんのシベリウスを聴くのは、2010年5月のBBC交響楽団の来日公演以来、およそ2年ぶりである。
今日の神尾さんの演奏を一言で表すなら「緊張」というところか。もちろん悪い意味ではない。全体を通してピーンと張りつめたような緊張感が漲っていた。正確無比のテクニックと音程、瞬間的に燃え上がるような光彩を放つのが神尾さんの魅力だと思うが、今日の演奏の中には、慎重さと丁寧さも感じられた。これは指揮者ともオーケストラとも初共演という「緊張感」も手伝っていたのかもしれない。とくに第1楽章はオーケストラとのアンサンブルをしっかりと構築しながら、突っ走りそうになるのを抑えて、理知的な演奏をしていた。もっともフリーになるカデンツァでは、縦横に音楽を走らせていた。第2楽章は多少自由に旋律を歌わせていた。神尾さんのヴァイオリンは、音色そのものは非常にピュアで美しい。おそらく当代一といってもいいだろう。その美しい音と対比をなすのが、演奏の強さである。消え入るようなppから熱情迸るffまで、強い個性が前面に出てくる。旋律の歌わせ方にも「熱さ」がある。美しい第2楽章を、いつもの苦悩に満ちた表情で歌い上げていく。
第3楽章の冒頭では珍しいハプニング。最初の音をはずして、キィッと倍音になってしまった(!)。その時の彼女のアッという表情が意外にかわいらしい。もちろんその後の演奏にはまったく乱れはなく、かえって火が付いてしまったようだ。第3楽章は終始、鋭く突っ込んでいく感じで、オーケストラを引っ張っていく、昔の神尾さんが戻ってきたようだった。とくにコーダに入ってからはグイグイと引っ張っていくのが痛快というか、豪快というか。久しぶりに聴く、燃えるような協奏曲を堪能することができた。やっばり、なんだかんだといって、神尾さんはスゴイ。聴衆を巻き込んで盛り上げていく「力」を持った演奏家である。
アンコールは「24のカプリース」から第17番。シベリウスの大曲を弾いた後で、これだけの超絶技巧曲をサラリと弾きこなすだけでも、たいしたものである。オーケストラのメンバーたち全員が畏敬の表情で見つめていたのが印象的だった。
後半はベートーヴェンの「英雄」。この聴き慣れた名曲を、ロトさんがどのように料理するのか興味津々だったのだが、聴いてまたビックリである。
まず前述のように、オーケストラの音がとても美しく、透明感がある。全体に濁りがなく、いわゆるドイツ的な重厚感や渋さといったイメージが全く感じられないのだ。これは悪い意味で言っているのではなく、気持ちがよいくらいにキレイな音なのである。どちらかといえばフランスのオーケストラに近いイメージかもしれない。
そんな音で、しかも踊るようにしなやかなリズム感で、軽快に流れていく「英雄」交響曲。これはかなり新鮮な響きだ。第1楽章の英雄的な曲想は、開放的で屈託がなく、青春の息吹きのよう。すでに耳の障害が起こり始めていたベートーヴェンの「若い苦悩」を吹き飛ばしてしまうような、明快で闊達な演奏であった。雄壮なナポレオンが洒脱な伊達男になったような印象だ。第2楽章の葬送行進曲もけっして重苦しくなく、天高く青空の下での行進のようだ。中間部の天国的な曲想の部分も、むしろ現実的な自然描写のように聞こえてくるから不思議だ。第3楽章のスケルツォも明るく元気いっぱい。そして第4楽章の変奏曲は、フーガの技法などの論理性が、明瞭な音色のオーケストラによって解きほぐされるように描かれていく。テンポもかなり早めだ。それでも全体を包む雰囲気は、屈託がなく、明快で洒脱である。
今日の「英雄」は、期待していたドイツ風ご本家の演奏とはまったく趣を異にした演奏だった。しかしそれは、新鮮な驚きと感動に満ちたもので、この名曲の新しい側面を描き出したものになった。聴いていた者が笑顔でBravo!!と叫びたくなる、とても素晴らしい演奏だったと思う。
アンコールは…。ロトさんが「I don't speak Japanese.」と断った上で「アリガトウ」と挨拶して笑いを誘い、『フィガロの結婚』序曲。これもまた軽快で、弾むようで、ワクワク感がいっぱいで、とても素敵な演奏。まるで今からコンサートが始まるようだ…。
今日は期待していたサイン会もなく、そのまま終了。それでも聴いた後のスッキリして気分が良いのは何故なんだろう。会場を後にする人たちが、今日は皆笑顔だった。確かに、とても素敵なコンサートだった。
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南西ドイツ放送交響楽団バーデン=バーデン&フライブルク
2012年2月14日(火)19:00~ サントリーホール・大ホール S席 1階 1列 21番 11,000円(会員割引)
指揮: フランソワ=グザヴィエ・ロト
ヴァイオリン: 神尾真由子*
管弦楽: 南西ドイツ放送交響楽団バーデン=バーデン&フライブルク
【曲目】
ヴェーベルン:「夏の風の中で」~オーケストラのための牧歌
シベリウス: ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47*
《アンコール》
パガニーニ:「24のカプリース」より第17番*
ベートーヴェン: 交響曲 第3番 変ホ長調 作品55「英雄
《アンコール》
モーツァルト: 歌劇『フィガロの結婚』より序曲
今年の東芝グランドコンサートは、フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮南西ドイツ放送交響楽団バーデン=バーデン&フライブルクの全国コンサート・ツアーが企画され、ゲスト・ソリストにはヴァイオリンの神尾真由子さんとピアノの萩原麻未さんが同行する。神尾さんはシベリウスのヴァイオリン協奏曲を、萩原さんはラヴェルのピアノ協奏曲ト長調を演奏し、その他にベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」とマーラーの交響曲第5番などが用意され、各地のコンサートではこれらの曲が組み合わせを変えてプログラムされている。名古屋、大阪、東京、広島、金沢、そして福岡の6都市で、計7回の公演。東京だけが本日と2月17日(金)の2回公演となっている。
「南西ドイツ放送交響楽団バーデン=バーデン&フライブルク」は1946年設立で、南西ドイツ放送(略称SWR)の所属オーケストラ。バーデン=バーデンに本拠を置いていたのに加えて、フライブルクのコンサートホールでも定期公演を行うようになったために、この長い名前になったという(ドイツ名は、SWR Sinfonieorchester Baden-Baden und Freiburg)。今回の来日公演ツアーを率いて来たのは2011-21012シーズンから主席指揮者を務めるフランソワ=グザヴィエ・ロトさんだが、前任者は、現在、読売日本交響楽団の常任指揮者を務めているシルヴァン・カンブルランさん(1999年~2011年)であった。ロトさんもフランス出身だが、バーデン=バーデンはフランス国境の近くということも影響しているのかもしれない。ロトさんは現代音楽を得意としているとのことだが、レパートリーは古楽から現代まで幅広い。今日はヴェーベルン、シベリウス、ベートーヴェンだが、2月17日ラヴェルもあるので、ドイツ音楽以外にも期待が高まる。
1曲目はヴェーベルンの「夏の風の中で」。ヴェーベルンといえば、無調・十二音技法の「新ウィーン楽派」の作曲家、いわば現代音楽の初期・確立期の人だが、この曲は1904年に作曲されたもので、音楽的には後期ロマン派的なものだ。調性もあるし、美しい和声にも彩られているが、形式的には自由で、標題にあるような牧歌的な曲想が穏やかに展開する。聴いたのは初めてだったが、オーケストラの音色、特に弦楽器のアンサンブルが美しく、官能的にさえ感じられた。とくに大きな音を出すわけでもないが、音色は透明でクセがなく、ジワリと滲み出てくるような美しさがあった。
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2曲目は神尾さんを迎えてのシベリウスのヴァイオリン協奏曲。神尾さんのシベリウスを聴くのは、2010年5月のBBC交響楽団の来日公演以来、およそ2年ぶりである。
今日の神尾さんの演奏を一言で表すなら「緊張」というところか。もちろん悪い意味ではない。全体を通してピーンと張りつめたような緊張感が漲っていた。正確無比のテクニックと音程、瞬間的に燃え上がるような光彩を放つのが神尾さんの魅力だと思うが、今日の演奏の中には、慎重さと丁寧さも感じられた。これは指揮者ともオーケストラとも初共演という「緊張感」も手伝っていたのかもしれない。とくに第1楽章はオーケストラとのアンサンブルをしっかりと構築しながら、突っ走りそうになるのを抑えて、理知的な演奏をしていた。もっともフリーになるカデンツァでは、縦横に音楽を走らせていた。第2楽章は多少自由に旋律を歌わせていた。神尾さんのヴァイオリンは、音色そのものは非常にピュアで美しい。おそらく当代一といってもいいだろう。その美しい音と対比をなすのが、演奏の強さである。消え入るようなppから熱情迸るffまで、強い個性が前面に出てくる。旋律の歌わせ方にも「熱さ」がある。美しい第2楽章を、いつもの苦悩に満ちた表情で歌い上げていく。
第3楽章の冒頭では珍しいハプニング。最初の音をはずして、キィッと倍音になってしまった(!)。その時の彼女のアッという表情が意外にかわいらしい。もちろんその後の演奏にはまったく乱れはなく、かえって火が付いてしまったようだ。第3楽章は終始、鋭く突っ込んでいく感じで、オーケストラを引っ張っていく、昔の神尾さんが戻ってきたようだった。とくにコーダに入ってからはグイグイと引っ張っていくのが痛快というか、豪快というか。久しぶりに聴く、燃えるような協奏曲を堪能することができた。やっばり、なんだかんだといって、神尾さんはスゴイ。聴衆を巻き込んで盛り上げていく「力」を持った演奏家である。
アンコールは「24のカプリース」から第17番。シベリウスの大曲を弾いた後で、これだけの超絶技巧曲をサラリと弾きこなすだけでも、たいしたものである。オーケストラのメンバーたち全員が畏敬の表情で見つめていたのが印象的だった。
後半はベートーヴェンの「英雄」。この聴き慣れた名曲を、ロトさんがどのように料理するのか興味津々だったのだが、聴いてまたビックリである。
まず前述のように、オーケストラの音がとても美しく、透明感がある。全体に濁りがなく、いわゆるドイツ的な重厚感や渋さといったイメージが全く感じられないのだ。これは悪い意味で言っているのではなく、気持ちがよいくらいにキレイな音なのである。どちらかといえばフランスのオーケストラに近いイメージかもしれない。
そんな音で、しかも踊るようにしなやかなリズム感で、軽快に流れていく「英雄」交響曲。これはかなり新鮮な響きだ。第1楽章の英雄的な曲想は、開放的で屈託がなく、青春の息吹きのよう。すでに耳の障害が起こり始めていたベートーヴェンの「若い苦悩」を吹き飛ばしてしまうような、明快で闊達な演奏であった。雄壮なナポレオンが洒脱な伊達男になったような印象だ。第2楽章の葬送行進曲もけっして重苦しくなく、天高く青空の下での行進のようだ。中間部の天国的な曲想の部分も、むしろ現実的な自然描写のように聞こえてくるから不思議だ。第3楽章のスケルツォも明るく元気いっぱい。そして第4楽章の変奏曲は、フーガの技法などの論理性が、明瞭な音色のオーケストラによって解きほぐされるように描かれていく。テンポもかなり早めだ。それでも全体を包む雰囲気は、屈託がなく、明快で洒脱である。
今日の「英雄」は、期待していたドイツ風ご本家の演奏とはまったく趣を異にした演奏だった。しかしそれは、新鮮な驚きと感動に満ちたもので、この名曲の新しい側面を描き出したものになった。聴いていた者が笑顔でBravo!!と叫びたくなる、とても素晴らしい演奏だったと思う。
アンコールは…。ロトさんが「I don't speak Japanese.」と断った上で「アリガトウ」と挨拶して笑いを誘い、『フィガロの結婚』序曲。これもまた軽快で、弾むようで、ワクワク感がいっぱいで、とても素敵な演奏。まるで今からコンサートが始まるようだ…。
今日は期待していたサイン会もなく、そのまま終了。それでも聴いた後のスッキリして気分が良いのは何故なんだろう。会場を後にする人たちが、今日は皆笑顔だった。確かに、とても素敵なコンサートだった。
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