「もののあはれ」の物語

古き世のうたびとたちへ寄せる思いと折に触れての雑感です。

「源氏物語の色」

2008年10月15日 | みやびの世界
 源氏物語千年紀の今年は、各地でさまざまな源氏物語に関しての催しが行なわれています。学ぶ機会にも恵まれているのですが、人ごみの中に出かけてゆくのが億劫になっています。
 今日は「源氏物語の色」創刊60号記念の別冊太陽で目の法悦にひたりました。(初版は1988年)
 登場する女君たちの衣擦れの音や、うすぐらい灯明のもと、着物に掛かる黒髪の流れが衣装を際立たせるといったイメージを重ねあわせて、重ね着のファッションが生み出す色の“あやかし”の世界に遊ぶのは、夜長の秋をすごす最高のときです。
 絵巻物と見比べながらの王朝世界への散策は私にとっての贅沢な充たされた時間でした。

 幾重にも襲ねる衣装は、そのうちなる人の情念を、重ねる衣で包みかくすためのものかもしれないと、宇治の浮舟の女君を想ったことでした。

 創刊60号記念のこの号では、十世紀に編纂された古代法典「延喜式」の染織に関する記述に拠る色の再現という気の遠くなるような作業が行なわれています。それは、伝統染織研究の第一人者である吉岡常雄氏によって植物から採集しての再現が丹念な手作業で行なわれていました。
 便覧などで見る色紙をずらして貼り合わせた襲の色目の説明とは異なり、織り上げた有職の布でそれを提示してあるので、疑問を持っていた“かさね“が視覚的にも理解できるありがたい企画でした。自然界の植物染料がかもしだす色を、伝統の手法で再現した色の余韻は、物語の世界にも反映して、その色を身に纏う登場人物像を豊かなものに膨らませてくれます。

 今宵は月も望月。お誂え向きの雲を伴って中天にかかっています。しばし王朝物語の世界にさすらい、琵琶の音が聞こえてくるような錯覚を喜んでいます。


上から順に
「櫻の唐の綺の御直衣、葡萄染エビゾメの下襲、裾いと長く引きて、・・・」花宴
光源氏20歳。桜襲(表白・裏紅)若い人が着る。綺は薄物の唐織。直衣は貴族の平常着

「曇りなく赤きに、山吹の花の細長は、かの西の対に奉れたまふを、・・」玉蔓
源氏が正月の晴れ着を玉蔓に贈る。山吹襲(表薄朽葉・裏黄)の細長と赤い袿

「袖の重なりながら長やかに出たりけるが、川霧に濡れて、御衣のくれないなるに、御直衣の花のおどろおどろしう移りたるを・・・」東屋
薫が浮舟を車に乗せて宇治に連れてゆく場面。直衣袖がすだれから長く外へ出ている。霧にしっとり濡れて、直衣の花色(薄い藍色)が、下の袿ウチギの紅に重なって、二藍フタアイに見える。  画像および引用文は別冊太陽より

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2 コメント

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あやかしの世界 ()
2008-10-16 22:52:59
 文字だけで心に描いていたものを、このように拝見すると、美しさにうっとりしてしまいます。
今朝ほど伺いましたときは、画像が見えなくて、想像の世界でした。

 「幾重にも襲ねる衣装は、そのうちなる人の情念を、重ねる衣で包みかくすためのものかもしれない」 そのままに
 
 あでやかな直衣、あるいは山吹襲、直衣の花色と袿の紅の重なり… へ 物語を深めてくれます。 boa!さん 素敵な画像をありがとうございます。 
夢のいろどり (boa !)
2008-10-17 06:54:53
どうしても色に拘ってしまいます。まとう衣装の色から、その人物を思い描くのは間違っているのかもしれませんが。薄物が重なった時に変化する”あやかし”を見落としていました。今回改めてこんな襲もあるのだと再認識しました。
王朝の男性の色彩感覚の高尚な華やぎは、現代にも活かしてほしいものですね。同じ重ね着ルックでも、かなり感覚的に差があります。貴族でなくても自由に色は許しの色になっているのですから。
山吹襲は若紫が雀を追って、泣きながら夕日を浴びて登場する場面で、今はそれがどんなに愛らしく、艶やかだったかが想像されます。真っ黒の髪が揺れる山吹色の印象に、若い源氏が目をとめるのも一つはこの色にあったとさえ思われて。