「もののあはれ」の物語

古き世のうたびとたちへ寄せる思いと折に触れての雑感です。

国宝に

2009年03月21日 | みやびの世界
 昨日の新聞に“国宝新たに二点”として、文化審議会の答申が出ていました。(20日日経)
 青森県八戸市の風張遺跡出土の「土偶」―縄文時代―と、与謝蕪村の「紙本墨画淡彩 夜色楼台図」―江戸時代―の二点です。

 若かりし日、萩原朔太郎の「郷愁の詩人与謝蕪村」に始まった蕪村への傾倒が、やがて蕪村の画家としての二足の草鞋を知ることとなり、年齢を重ねるとともに俳句の好みも“篭り居の詩人”蕪村への共感と変化してきました。
 油絵から転じて自分でも墨彩画を楽しむようになってからは、詩情溢れる洒脱な蕪村の世界に強く惹かれています。この重く垂れ込める雪空の下、ふわりと雪を被った低い屋根の連なりと、温かな灯火の色がかもし出す世界に、蕪村の一枚といわれれば躊躇なく選ぶのはこの一枚です。

夜色楼台図 部分

 昨年は、この一枚に会うために、はるばる信楽の山深く、MIHOミュージアムまで出かけました。5月の終わりから6月初めへかけての旅では紫香楽宮跡で、“万葉集の歌 初の木簡“にお目もじの付録もついていました。夜色楼台図の前からはしばらく動けないでいました。実寸は28×129,5cm.の小さな長幅が大きく見えました。
 
 墨彩画の仲間達からも、琳派でなければ蕪村を口にしてやまない私にお祝いの電話が掛かってきました。私がお祝いを受ける筋合いではないのですが、一緒に喜んでくれる仲間がいることは嬉しいことです。
 改めて分厚い図録の折込になったページを開いて、もう一足の草鞋に確たる陽が当たることになったのを心から喜んでいます。これで蕪村の国宝指定は「十宜帖」と二点となりました。このブログでも毎年のように取り上げた「夜色楼台図」であってみれば、ことのほかの嬉しさです。

 今年は他にも、海外の競売で宗教法人が落札して話題になった雲慶作とされる木造の大日如来像はじめ美術工芸品など38件が重要文化財の指定を受けることになるようです。
 重要文化財は10350件、うち国宝は864件になると報じられています。
わが憧れの蕪村のために、“先ず祝へ梅を心の冬篭り”と、芭蕉の句を借りて祝杯を傾けるとします。

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4 コメント

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ファンの心理 (香hill)
2009-03-21 23:44:55
芸術や文学には長い歴史があり、何時の時代にもファンは幅広い。

会う度にシャガールの事を語る人がいれば、漱石ばかり・美空ひばりonly・・といろんな人がいました、
トラキチとなれば昔の選手の成績まで記憶している御仁も。
最高なのは、アインシュタインのセリフかもしれません。
”死ぬという事はモーツアルトの音楽を聴けなくなること”だって。

本稿を読んで琳派と蕪村の熱烈サポーターの主宰の浮き立った気持ちを理解いたしました。
”雪”が”行き”となったまま、変換チェックをお忘れになるほど早く・早くとアップを急がれたご様子も可愛い。
国宝に認定との朗報に我が事のようにお喜びになるお姿をご覧になるご主人様も吃驚かな?
雪も消ゆ (boa !)
2009-03-22 07:20:07
ゆきもきゆ ほどの歓びでした。気付いて変換したままで変更の投稿の釦を押し忘れていました。ご注意ありがとうございました。

熱烈サポーターであることは自他共に認めるところ。時に「品がない」とあるじに注意されることもある饒舌となります。
まだ熱中できるものがあるのは若さが残っているからと、密かに口には出さず反論しています。
まだ次なるものへと方向転換ができないのは逆に老いたる証しかも知れませんね。

憧れの墨彩 ()
2009-03-23 09:54:44
まさに新聞を読んだ日、boa!さんを思いました。
 詩情溢れる作品が国宝に選ばれて、ご自分のことのようにお歓びでしょう と。ひっそり静まる家々から、籠り居の想像も膨らみますね。

 分厚い図録を広げ、洒脱な世界をあらためて拝見しています。解説では、下地に胡粉をおいて。 白の景色が深まって、ひとの温もりも感じます。剽軽な線描もboa!さんを虜にしたのでしょうね。
俳画に本領 (boa !)
2009-03-24 17:09:07
蛙さんにいただいた「与謝蕪村の小さな世界」から、辿る“籠り居”の桃源郷が蕪村の本領と思うようになっています。

線描だけの飄逸な俳画は、南画風の山水画よりも私には親しみが持てます。特に人物の表現には彼の人間に向き合うほのぼのと温かい姿勢を感じてしまいます。

この「夜色楼台」と、「鳶、烏図」を遺してくれただけで私には十分です。