「もののあはれ」の物語

古き世のうたびとたちへ寄せる思いと折に触れての雑感です。

秋は琳派

2008年10月10日 | みやびの世界


 総じて琳派が琳派らしさを際立たせるのは秋の風物を描く時のように思えます。 木の葉のもみじする姿の色の混じりあいは、“たらしこみ“の技法がもっとも活かされるところでしょう。素材としても哀歓を漂わせる草花の多い季節で、月の色もどの季節にも増して風情を表現できるとなれば、王朝物語の世界への回帰も容易となります。
 琳派を代表する作品も春に劣らず秋のものが多いのも当然でしょう。


 虫食いの穴のあいた葉に、寂びの美しさを感じることができる美意識は日本独特のものかと思います。中国の草花を描いた画譜にあたっても、虫食いの病葉は滅多にお目にかかれません。(黄茎のように虫食いの穴の向うに色づいたうす紅の実を描いた人もいますが)
 わが琳派ではこの虫食いがアクセントになり景色になってリズムを生むのです。若冲などは積極的に強調さえしています。私の好きな切り口で、よく真似をしてみるのですが、必然ではなく行き当たりばったりに打つ私の虫食いの点は、汚れと識別しがたいものになってしまいます。よく見ると若冲のそれは、計算されつくした虫食い穴なのです。
 琳派との出会いは昭和47年(1972)、東京国立博物館が創立百年記念特別展「琳派」を開催した折です。手元に分厚い図録が残っています。表紙は琳派の金箔をなぞった一色に、墨で琳派とだけ記されています。初めて目にする「琳派」の呼称と解説を胸をときめかして繰り返し読んだ記憶があります。今とは違って、266ページの中に、カラーページは僅かに10枚ほどです。画家も、酒井抱一、鈴木其一までです。若冲や雪佳は含まれていません。この出会いを今に至るまで引きずっていることになります。
 洋の東西を問わず、デザイン性の強い作品に惹かれる私は、“悪女の深情け”と、口さがない酷評をされようとも、当分琳派から離れられそうにもありません。

 光琳よりも宗達が、そして若冲、雪佳が好みです。
 宗達の「蔦の細道」には現代に通用するモダンさがあります。(最初の画像、1双屏風の左隻)車のコマーシャルに使われる「風神雷神図」や、光琳の「紅白梅図」、「燕子花図」ほどは持て囃されていませんが好きな大作です。先だっての「対決 巨匠達の日本美術」の終わりの週に、光琳の「白楽天屏風」と合わせて対決されていたようです。
 折りしも、東京国立博物館では7日から「大琳派展~継承と変奏」と題した展覧会が始まっています。(会期は11月16日まで)出かけたいのですが、どうなりますか。



註 琳派とは  上記の東博図録より抜粋

 「琳派」というのは光琳の「琳」をとって名づけられた呼称である。流派名は創始者に因み名づけられるのが一般だが、桃山末期の光悦・宗達に始まり、江戸中期の光琳・乾山を経て末期の抱一に至る系譜の中間に位置する光琳をして代表させたことは異例に属する。光琳画にみられる極めて個性的な表現のうちにこの派の様式上の特色が顕著に認められるためである。
 光悦・宗達から光琳まで約百年、さらに抱一までは百年の時が流れている。隔世の師を求めながら流派的潮流を形成している。
 最近では、最も日本的なるがゆえに広く海外においても評価が高まっていることは、琳派の芸術性が民族的美意識と深い結びつきがあるためと見てよいであろう。 芸術創作の態度においても一つの画派としての域を超えて自由かつ積極的であった。師風に拘束される狩野、土佐派などの御用絵師の世界とも、また中国画に範をとる文人画の立場や時世粧の風俗画とも異なり、古典の伝統を踏まえながら彼らの生活環境にふさわしい多彩な創作活動を展開した。
 戦乱の癒えた桃山以降、都市生活者である上層町衆の高尚な趣味生活を通じての発想が純度の高い装飾的な芸術様式として実を結んだのが琳派の芸術である。

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4 コメント

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秋は琳派♪ (雪月花)
2008-10-10 13:57:46
boa!さま。
ご主人さまのことが第一でありますことは当然のことですが、それでも期待してお待ちいたしております ^^
わたしにとって、光琳は恋人ですが、宗達と光悦は神のような存在。このふたりが時期を同じくして活躍し、しかもコラボしたことは奇蹟とおもいます。「琳派」は光琳以降、と実はいいたいところで、宗達と光悦は別格です。(言いすぎ?)

先日の梶田半古につづき、小村雪岱に注目しています。鏡花本の装幀を和楽で見まして、ちょっとした驚きでした。芸術の秋も、ますます深まってゆきます。ワクワクいたします。

明日は十三夜ですね。
和楽の記事 (boa !)
2008-10-11 07:12:45
琳派と目につくとすぐに買い込む本がつぎつぎで、見渡すと若冲を中心に、雪佳まで、各図録や雑誌とさまざまです。和楽02年4月号の特集記事「琳派への美的入門」の中で山下裕二さんが、宗達は出刃包丁、骨ごと切れた断面をみせる野性の勢いがある。そして、光琳は柳葉包丁、刃物の精度がすごい。と語っておられました。上手い捉え方ですね。
光琳にとっては生涯のライバルが宗達だったのでしょうし、風神雷神図への答えが光琳の到達した紅白梅図だったと思います。蒔絵をはじめ乾山とのコラボ。工芸のあらゆる分野への総合プロジューサーとして、マルチの活躍ですぐれた感性を形にしています。光琳模様にはうならされますね。
半古、雪岱と幅を広げて進化を続けられる雪月花さんのこれからの作品を楽しみにしています。
私は今日も若冲模索です。
たのしみ! ()
2008-10-12 06:53:41
 boa!さんの 思い入れの深さも伝わりました。そぞろ歩きにも琳派を探して、必ず見にゆきます。 

 学び始めも、琳派といえば まばゆさや装飾の美に魅かれます。リズムやユーモア、デザインのモダンさを体感してこようと思います。

 是非 いらっしゃれると好いですね。ご教示ありがとうございます。
琳派ヲタ (boa !)
2008-10-12 12:31:32
蛙さん、別所沼の秋も次第に深まってゆく様子をブログで拝見しています。
昨日は午前中、久しぶりに絵の仲間が集まりました。私の若冲もどきの、これでもかとばかりの模索に呆れて酷評されましたが・・・・・突き詰めてゆくうちに何かが掴めるかと??
そのうち覚悟が決まったらブログにUPしますね。

東京行きはご主人様の様子次第です。14日が2年目の検査で、16日に診察が組まれています。
人混みは私も苦手なので、混み具合を想像すると躊躇います。
それでも、本音は別です。6回の展示替えが行なわれるようですから、どこがいいか狙いを定めてと、夢に終わるかもしれないことを思案しています。