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映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

シャンハイ

2011年09月03日 | 洋画(11年)
 『シャンハイ』を渋谷シネパレスで見てきました。

(1)終戦記念日の後で、時期的にはある意味でふさわしいのではないかと思い、映画館に出かけてきました。

 映画は太平洋戦争直前(1941年)の上海を舞台としています。
 物語は、米国情報部に所属する諜報員ソームズジョン・キューザック)が、友人コナーの要請で新聞記者になりすまして上海にやってきくるところから始まります。ですが、一度も会うことなくコナーは何者かの手によって殺されてしまったため、その真相を突き止めるべく、ソームズはあちこちに探りを入れていきます。
 そうして浮かび上がってくるのが、日本軍情報部のタナカ大佐渡辺謙)であり、上海マフィア(三合会)のボスのランティンチョウ・ユンファ)とその妻のアンナコン・リー)です。これに、タナカ大佐の愛人スミコ菊池凛子)が絡まってきます。
 はたしてソームズは、事件の真相を把握することができるのでしょうか、……。

 興味深い点はいくつかあります

 太平洋戦争が開始される直前の上海に焦点が当てられ、様々な国の人間がいろいろな思惑を秘めながら蠢いている様子は、これまでも映画などで盛んに取り上げられてきたところ、本作でも舞台装置として、格好のものになっています。
 特に、真珠湾撃の後には、上海にも日本軍がやってきて、当時の戦車が登場したり、上空には日本の戦闘機まで飛来し、上海は大混乱に陥りますが、そこら辺りを描いているシーンは、スペクタクルとしてよくできた映像だなと思いました。
 そして、そうしたものを背景にして、ソームズとアンナ、タナカ大佐とスミコ(それにコナーとスミコ)などというように、いく組もの恋愛関係がもつれ合って、面白い絵巻が展開されますが、そういうことがあっても当時の上海なら不思議でも何でもないと見る者に思わせます。

 また、本作では、アンナは、その父親が南京大虐殺を告発しようとして殺されてしまったことから、密かに抗日運動に参加するとされていますが、『ラスト・コーション』で取り上げられた二重スパイの鄭蘋如のような感じを受けます(注1)。



 さらに、後に真珠湾攻撃に参加する空母加賀が上海に停泊していて、その動向が情報機関の関心の的であったとの設定にも興味をひかれます(ソームズが得た情報によれば、この地で800キロ魚雷を積み込んだとのこと)。
 実際にも空母加賀は、日中戦争時には日本海軍の空母部隊の主力艦となっていたところ、真珠湾攻撃に参加すべく、中国沿岸を離れて呉軍港を経由し、集結地の択捉島に出向いたようです。

 ただ、問題点もあるでしょう。
 アンナが怪しいと目星を付けたタナカ大佐は、なぜ常時監視体制のもとに彼女を置かなかったのでしょうか?彼女は、随分と自由に上海市内を歩き回っているようなのです(あるいは、タナカ大佐の部下が入り込めない他国の租界に入り込んでしまうから追跡できないのでしょうか。でも諜報機関なら、どんな手段だって取れるのではないでしょうか)。

 そんなアンナにソームズは次第に惹かれていくものの、アンナの方は抗日活動におおわらわですし、ソームズもコナー事件の真相解明に時間を取られ、二人の愛のといった面では盛り上がりが見られません。

 また、スミコがコナーの愛人だったことを聞きこんだソームズが、スミコを探し出そうと懸命になるのが本作の一つの眼目でもあるために、スミコをあまり表に出せなくなってしまい(アヘンの吸い過ぎで体を壊してしまったスミコを、抵抗組織が匿っています)、その結果、実際にはタナカ大佐が彼女を愛していたのだと言われても、唐突な印象を持たざるを得ないところです。

 さらには、南京で大虐殺があったことが示唆されたり(いろいろ論争があるにもかかわらず)、果ては、日本軍情報部の建物の中において、米国に情報を流していたスパイ・キタに対する残酷な処刑が行われる様子が映し出されたりするのは、行きすぎではないかと思われたところです。

 とはいえ、出演する俳優が揃っていることもあって、まずまずの作品に仕上がっているのでは、と思われます。
 なかでも、タナカ大佐を演じる渡辺謙は、キャストの序列では、主要な俳優の最後の方に掲載されますが、実際には出番も多く重要な役割を与えられていて、最後の方までスクリーンから消えません(一度はランティンの銃撃で殺されかけますが、ラストでは蘇って、上海から出国しようとする人のチェックに当たっているのです)。



 彼は、最早単なる彩りとしてハリウッド映画に出演しているのではなく、作品の上でも重要な役割を果たせるだけの存在になりつつあると言えるのかもしれません。

 他方、主役を演じるジョン・キューザックですが、新聞記者兼諜報員という役柄のためでしょう、狂言回しといった感じが否めず、むろん出番は多いものの、映画の中心人物はアンナやタナカ大佐の方に移ってしまっているといえるでしょう。




(2)上海を舞台にする映画はいろいろあり、今回の作品と比較するのであれば『ラスト・コーション』あたりがうってつけと思われるところ、生憎クマネズミはそれを見ておりませんので、ここでは次の作品を挙げてみましょう。 
 まず、『再会の食卓』ですが、この映画では、最近の上海の様子を垣間見ることができるでしょう。たとえば、2002年に開通した飛行場と市内を結ぶリニアモーターカーとか、超高層ビルの展望台、そして次々に建設されるマンション群などが、古い市街地の様子とともに描き出されています。
 また、『孫文の義士団』は、逆に今から100年くらい前の上海の様子が、CGをうまく使って映し出されています。
今回の作品では、これらの作品の丁度中間くらいの時代が設定されているといえるでしょう。

(3)このところ、この映画のPRのため、本作品に出演した渡辺謙がTVなどで露出する機会が増えているようです(注2)。
 ソウしたものの一つなのかもしれませんが、クマネズミには、8月15日に放送された「“9.11テロ”に立ち向かった日系人」は、なかなか優れた出来栄えだと思いました。

 内容は、専ら日系人のノーマン・ミネタ氏を巡るドキュメンタリーです。
 すなわち、9.11テロ以後、米国在住のアラブ系に対する風当たりが非常に強まっているときに、当時米国政府の運輸長官だったノーマン・ミネタ氏は、空港の荷物チェックなどの際、アラブ系の人々などに対する差別の禁止を宣言したのですが、その背景には、1944年の日系人の強制収容という過去があったとのことです(彼自身も収容所生活を送りました)。
 このことを俳優の渡辺謙が追跡するわけですが、小柄なノーマン・ミネタ氏の人物の大きさが上手く捉えられているように思いました。
 なにしろミネタ氏は、一方で下院議員として、強制収容は誤りであったと大統領に謝罪させ、賠償金を獲得しただけでなく、他方で運輸長官として様々の業績をも上げているのですから!

 それにしても、過酷な人種差別政策を掲げるナチスを民主主義の名の下に攻撃した米国で、常識では考えられないような人種差別を行っていたというのは、もの凄く皮肉なことだなと思いました。
 なにしろ米国は、人間の到底住めないような荒涼とした荒れ地に収容所を設けて、12万人もの日系人を強制的に収容したのですから!

 俳優の渡辺謙は、実際に、こうした強制収容所が設置された場所まで出向いて、その冬のとてつもない寒さを実体験しているのです。
 (ちなみに、最近自宅が男に侵入されたジャニー喜多川氏も、ごく僅かの期間ながら、強制収容所にいたことがあるようです。)

(4)渡まち子氏は、「歴史サスペンスとしては物足りず、ラブストーリーというには互いを思う情熱が伝わってこない。器は大きいが話は極めてパーソナルなこの映画、では何を楽しみに見ればいいかというと、やはり豪華スターの競演ということにな」り、特に、「堂々の存在感をみせる渡辺謙は、もはや世界の大スターのオーラが漂う」として60点をつけています。



(注1)高橋信也著『魔都上海に生きた女間諜―鄭蘋如の伝説1914-1940』(平凡社新書、2011.7)を参照。
 例えば、同書では、「川島芳子、李香蘭は、めまぐるしく変転する日中の状況を劇的に、華麗に、そして悲劇的に生きた人生だった。彼女らの人生に比べて、鄭蘋如の活動が短く限られた範囲だったとはいえ、二人の人生にも匹敵する生だったといっても過言ではない」(P.18)と述べられています。

 また、「1930年代上海-李香蘭をきっかけとして」というサイトの「日中戦のはざまで 鄭蘋如(テンピンルー)の悲劇」という記事が参考になると思います。

(注2)まとまった記事としては、朝日新聞のネット版の中の「DO楽」に掲載されている「ひとインタビュー」の第191回目の記事でしょう。





★★★☆☆




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1 コメント

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スミコに関して (KGR)
2011-09-04 08:32:40
この物語ではサスペンス部分のキーとなるはずのスミコの存在があいまいでした。
たいした情報を握っているわけでもなく、日米中のせめぎ合いの狭間で死んでいった感もありません。

出番も少なく演技も薄く「菊地凛子でなくてもよかった」果ては「私にもできる」とまで言い切る人もいました。
ちょっと残念です。

タナカとの愛については私も唐突な感じを受けました。
コナーが殺されたのが情報戦の末ではなく、愛憎/嫉妬=私怨であったのもがっかりです。
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