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束芋展

2010年02月27日 | 美術(10年)
 横浜美術館で開催されている「束芋―断面の世代」展を見てきました(3月3日まで)。

 「束芋」とは、“田端さんちの妹”というところから付けられたペンネームで、まだ30代半ばの女性ながら世界的に評価の高い美術作家で、今年はデビューからちょうど10年目ということでこの展覧会が催されたようです。

 束芋氏が特殊な形式のものを制作するため、なかなかその作品に触れる機会はありませんでした。実際に出会ったのは、2006年に同じ横浜美術館で開催された「ゴス展」に出展された映像インスタレーション「ギニョる」です。 
 これは、暗い部屋に入ると、上部に360度のスクリーンが設けられていて、そこに連続的に“手”が蠢く様子が映し出されるものです。色合いと言い、対象物の描き方と言い、酷く不気味な印象を受けました。

     

 さて、今回の展覧会では、2006年に朝日新聞夕刊に連載された吉田修一氏の小説「惡人」の挿絵の原画が、まるで絵巻物のように連続して全点が展示されています(注1)。

     

 小説の本文と切り離されて挿絵だけの展示となっているために、いま一つ理解できないところがあるものの(彼女によれば、各回の小説原稿の中からキーワードをピックアップして描いた、とのこと)、束芋氏がこのところ関心を集中させている“指”とか“手首”、“足首”が何度も描かれていて興味を惹かれました。

 それから、新作の5点の大型映像インスタレーションが展示されています。
 中でも興味深かったのは、「ちぎれちぎれ」と題された作品です。狭いベランダのような場所に鑑賞者は位置し、その前の距離を置いたところにはかまぼこ状のトンネルがあって、裸の人体が中に描かれています。その人体は連続的に変化し、たとえば手足がバラバラになって空中に飛んでいき、その様子が上の雲の間に描き出されるとともに、それは下の鏡に映ったりします。

           

 これらの作品は、どれも数台のプロジェクターを使って様々な形状をしたスクリーンに映し出されるもので、かつ映し出された映像は連続的に変化します。ですから、2次元の画像を収めたカタログとか画集などでは、その片鱗しか把握できず、実際に美術館に出かけて行って自分の目で見なくては全貌はわかりません(いくつかDVDも出されていて、そこでは作品を動画として捉えようとしていますが、結局は2次元的といえます)。それも、余り大勢の人が押しかけると、十分に鑑賞できない作品もあります(鑑賞者の足元に映像が映し出されたり、上記の「ちぎれちぎれ」のように、鑑賞する場所がごく狭い場合もあります)。そして展示の期間を過ぎてしまえば、見るチャンスはなくなってしまいます(それぞれのインスタレーションはかなりの広さを必要としますから、個別に切り離すにしても常設するのは難しいでしょう)。
 新しい作品の姿といえるのではないでしょうか?

 なお、この展覧会のタイトルには「断面の世代」という副題が付いています。
 これは、束芋氏によれば、「大きな塊になることによって、世の中を大きく動かし、後の世代にも影響を与えて」いる「団塊の世代」に対するもので、「個に執着し、どんな小さな差異にも丁寧にスポットライトを当て」ている世代を指すとのことです。「大雑把に1970年代生まれ」の世代で、もちろん彼女もそこに入ります(注2)。
 そう思って展示された作品を見直してみると、たとえば、「惡人」の挿絵や「ちぎれちぎれ」などでは、人体のさまざまの部位に「丁寧にスポットライト」が当てられて、切断された肉体の部位がいろいろうごめいていますが、それらはそのままであって、決して全体を構成することはないように見えます。果たしてその先にはどんなものが見えるようになるのでしょうか?

(注1)この小説は、妻夫木聡主演で映画化(監督は『フラガール』の李相日、ヒロインは深津理恵)され、本年秋に公開される予定です。
(注2)一つ違いですから同じ世代に入ること、「小さな差異に丁寧にスポットライトを当て」ていること、作品から不気味な印象を強く受けること、などから、ジャンルは酷く違いますが、日本画家の松井冬子氏と共通するものがあるのでは、と思いました(「医学と芸術」展に関する記事の中で松井冬子氏に触れています)。


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2 コメント

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束芋といえば (milou)
2011-06-03 10:03:30
個人的な関係(彼女とではない)がありコメントを書いたが、余りにも“個人的な体験”なので公表はふさわしくないと没にした。


2003年のDVD「oimo」にある束芋の小学生時代に描いた絵こそ衝撃的でその“天才?”振りを見ると今(当時)の彼女は堕落していると思った。
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堕落! (クマネズミ)
2011-06-03 21:58:10
こんな記事にまでコメントをいただき、誠にありがとうございます。
milouさんの守備範囲は、実に広大かつ深いので驚きました。
なお、束芋氏については、比較的最近知ったばかりですので、そんな古い時代の作品まで見たことはありません。ただ、現在の束芋氏のように、メジャーになり(横浜美術館で展覧会を開催できるのですから!)、またお金がかかるインスタレーション作品が多いことからすると、どうしても守りの姿勢となり、初期の攻めの姿勢が薄れてしまうのもやむを得ないことではないか、とも思えるところです。むしろ、それらの作品を鑑賞する者が、それらの作品の中に隠れているかもしれない初期の頃の勢いを読み取ってあげる必要があるのかもしれません。
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