映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

エリジウム

2013年10月01日 | 洋画(13年)
 『エリジウム』を吉祥寺のバウスシアターで見ました。

(1)マット・デイモンジョディ・フォスターが出演する作品だというので、映画館に行ってみました。

 映画の時点は2154年。
 その頃地球は荒廃してしまっていて(汚染と貧困)、一部の超富裕層は、地上400kmのところに作られた「エリジウム」というスペースコロニーで暮らしています。その「エリジウム」の安全を管理しているのが、防衛長官のデラコートジョディ・フォスター)、地球からの侵入を厳しく防いでいます。



 さて、主人公のマックスマット・デイモン)は、ロスにある工場で働いていたところ、事故に遭い大量の放射線を浴びてしまい、余命5日間と告げられます。
 しかし上空の「エリジウム」に行けば、どんな病気でも治す装置「医療ポッド」があるとのこと。
 金のないマックスは、闇商人スパイダーが持ち出す条件を呑んで、秘密裏に「エリジウム」に乗り込もうとします。



 しかし、マックスの前には、デラコートから司令を受けたエージェントのクルーガーシャールド・コプリー)が立ちはだかります。
 果たしてマックスは、うまくエリジウムに侵入できるでしょうか、………?

 富裕層と貧困層とに大きな差がついた現今の格差社会を背景に、ITによる情報管理とかロボットによる人間管理の問題などを取り込みつつ、あくまでもSFアクション映画として制作されていて、主演のマット・デイモンの熱演もあり、まずまずの仕上がりなのではと思いました(注1)。
 ただ、突っ込みどころは多そうであり、また、ラブストーリー的な面も描かれているものの、添え物的な扱いなのは残念な気がします(注2)。

(2)本作の空に浮かぶエリジウムは、10年ほど前にNHKスペシャルで放映された「要塞町の人々~アメリカ・競争社会の勝者たち~」で描かれた「要塞町」のコトデカザ(coto de caza)を、そのまま宇宙空間に移したような感じを受けます(注3)。
 エリジウムの場合、「要塞町」を取り囲むフェンス〔『パシフィック・リム』に関するエントリの「(2)ロ」で触れた「壁」に相当するでしょう〕が宇宙空間になっているわけで、さらに、そこには超富裕層しか居住することが出来ず、それ以外の者は締め出されてしまうのですから〔エリジウムの住民の数は、オフィシャルサイトによれば7,946人のようですが(注4)、ロスアンジェルス郊外にあるコトデカザの場合14,866人(2010年)とされています〕。

 勿論、時点に150年ほども差があるために、様々な点が異なります。
 大きな相違点は、エリジウムには、どんな病気も治るとされている「医療ポッド」が存在する一方で、そんなものは今のコトデカザには見当たらないことでしょう。
 その装置を使えば、マックスの幼友達フレイアリス・ブラガ:注5)の娘の白血病も治りますし、それどころか手榴弾の爆発で顔を潰され瀕死状態のクルーガーも、たちどころに治ってしまうのです(注6)。

 ですが、「医療ポッド」によってどんな病気も怪我も簡単に治るとすると、住民はなかなか死なず、「エリジウム」は早晩人口過多になってしまい崩壊してしまうのではないか、と想像されます。
 ただ、この点については、劇場用パンフレットに掲載の木川明彦氏による解説も意識していて、「エリジウム内にも近い将来、人口増加の危機が訪れることになるだろう。そのために新しいエリジウム型スペースコロニーの建設計画が進められてい」て、「エリジウムⅣは東京をベースとする予定までが組まれている」とのこと。

 とはいえ、その建設資金はどこから調達するのでしょうか?
 現在、上空に浮かんでいるエリジウムの建設については、そこに入居した超富裕層がその建設資金を負担したのでしょう。ですが、新しいエリジウムには、今エリジウムに暮らす人々の子孫が住み着くことになるところ、いったい彼らはその建設費用を負担できるのでしょうか?
 最初の超富裕層の富は、地球における経済活動から獲得したものでしょう。ところが、その子孫は始めからエリジウムに暮らしているわけで、建設に必要な莫大な富をどのように獲得するのでしょう?

 あるいは、超富裕層にとりエリジウムは単なる住まいであって、経済活動は従前のように地球で行っているのでしょうか?そうだとすると、この映画で描かれている以上に、地球とエリジウムの往来は煩雑なものとなるはずに思われます(企業家たちは、アーマダイン社CEOのカーライルのように、毎日19分の時間をかけて地球に通勤するのでしょうか)。
 それに、本作で描かれている地球は酷く荒廃してしまっていて(ロスアンジェルスだけなのでしょうか)、ヒューマノイドなどによる厳しい監視の下、人々は奴隷同然で働いており、著しく低い購買力しか持っていないように見えます。



 そんな状況で、超富裕層は、以前と同じように富を増殖させていくことができるのでしょうか?

 要すれば、こうしたエリジウムを存続可能にする経済的な側面が、本作からはうまく見えてこない感じがします。
 基本的には、一つの共同体を他の共同体から壁とか宇宙空間によって隔離してしまえば、いくらその中に富が蓄えられていようと、存続するのが難しいのでは、と思われるのですが、どうでしょう?

 といっても、そんなことは、本作をアクション映画として楽しむ分には何の差し障りにもなりませんが!

(3)渡まち子氏は、「宇宙規模の格差社会で人類を救うために命がけで戦うことになる主人公を描く異色SF「エリジウム」。スキンヘッドとサイボーグ姿のマット・デイモンに悲壮感が漂う」として75点をつけています。
 また、前田有一氏は、「SF作品というのは設定の奇抜さやおもしろさ、それらが必然的に語るメッセージ性がしっかりしていれば、リアリティについてはさほど問われない。 「エリジウム」は「第9地区」でそれらを高いレベルでクリヤーしたニール・ブロムカンプ監督による新作。当然ながら強い期待をもって見られると思うが、結論としてはもう一歩といったところ」として65点をつけています。




(注1)マット・デイモンについては、最近では『幸せへのキセキ』を見ましたし、ジョディ・フォスターは、『大人のけんか』を見ました。
なお、監督は、『第9地区』のニール・ブロムカンプ、本作のクルーガー役のシャールト・コプリーは、同作で主役のヴィカスを演じています。

(注2)映画の最初の方で、孤児院にいる幼いマックスは、友達のフレイと仲良く一緒に絵本を読んだり、「いつかエリジウムに連れて行くよ」とフレイに言ったりします。
 でも、二人は別々の道を歩んだのでしょう、大人になり、傷ついたマックスが病院へ行くと、何年かぶりで看護婦フレイに出逢います。ですが、彼女には娘がいて、「自分の人生はとても複雑なの」と言うばかり。最後まで、二人が愛情を持って接することはないように見えます。

(注3)同番組は、YouTubeで見ることができるようです。
なお、同番組の解説記事においては、「要塞町」について、次のように説明されています。
 「数十軒、数百軒、数千軒単位の住宅地で、周囲が塀で囲まれ、ゲートなどによって、外部からの自由な出入りを規制している地区。行政単位の「町」と、必ずしも一致するものではありません。英語では「Gated Community」として一般に紹介されています」。
 「ゲーテッドコミュニティ」については、Wikipediaのこの項を参照。
日本における「ゲーテッドコミュニティ」については、この記事が参考になるでしょう。

(注4)本作のオフィシャルサイトや劇場用パンフレットでは、エリジウム等について、映画の中で説明されているものを越えて、かなり詳細な解説が与えられています。映画の制作にあたっては、背景設定がそれだけ入念になされているということでしょう。

(注5)ブラジルの女優で、叔母さんが『蜘蛛女のキス』で有名なソニア・ブラガとのこと。

(注6)としたら、クルーガーによって首を切られたデラコートだって、医療ポッドを使えば簡単に治せそうなのですが、彼女は何も手当されずに息絶えてしまいます(部屋に閉じ込められてしまったためとも考えられますが、もともと彼女は防衛長官でありながら、副官などを従えてはいないのでしょうか)。




★★★☆☆



象のロケット:エリジウム