孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ「深南部」の紛争 「戦闘が下火になっている」?

2016-01-18 21:53:27 | 東南アジア

(深夜検問を行う警察官。幹線沿いに爆弾を仕掛けるテロが増えている(ヤハー)【1月18日 Newsweek 郡山総一郎氏】)

【「微笑みの国」の忘れられた紛争
タイ・バンコクでは昨年8月に爆弾テロが起きて世界的にも注目されましたが、「微笑みの国」として、また仏教国としてイメージされるタイは、以前からイスラム教徒住民との激しい紛争を抱えています。その犠牲者は6500名以上とも。

紛争地域は、地図で見るとマレーシア半島に長く突き出た部分で、マレーシアと国境を接する「深南部」と呼ばれる地域です。

****タイ深南部****
マレーシアと国境を接するタイ深南部(ナラティワート県、ヤラー県、パタニー県の3県とソンクラー県の一部)には、もともとイスラム教徒の小王国があったが、1902年にタイに併合された。

現在も住民の大半はマレー語方言を話すイスラム教徒で、タイ語を話せない人も多い。

タイ語、仏教が中心のタイでは異質な地域で、行政と住民の意思疎通が不足し、インフラ整備、保健衛生などはタイ国内で最低レベルにとどまっている。

深南部のマレー系イスラム教徒住民によるタイからの分離独立運動は断続的に続き、2001年から武装闘争が本格化。

2004年4月には、警察派出所や軍基地を襲撃した武装グループをタイ治安当局が迎え撃ち、1日で武装グループ側108人、治安当局側5人が死亡した。

同年10月にはナラティワート県タークバイ郡で、住民の逮捕などに反発したイスラム教徒住民約3000人が警察署前で抗議デモを起こし、治安当局による発砲などで7人が死亡、約1000人が逮捕され、逮捕者のうち78人が軍用トラックで収容先に移送される途中、窒息死した。両事件でマレー系イスラム教徒住民のタイ政府への反発は強まった。

タイ政府は常時10万人以上の兵士、警官を深南部に送り込み、力で鎮圧を図ってきたが、現在も銃撃、爆破、放火事件が頻繁に起き、事態が改善するめどは立っていない。【2015年9月18日 newsclip】
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紛争の原因は、単に仏教とイスラム教という宗教の違いだけでなく、かつて独自の「パタニー王国」があったという歴史的経緯、文化的な違い、更にはこの地域が開発・経済成長から取り残されてきたことによる経済格差、政府側の「力」で抑えこもうとする強権的な姿勢なども挙げられます。

また、「麻薬」利権も絡んでいるとも指摘されています。

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地元の仏教徒たちは暴力行為から身を守るため、自警団を組織している。軍や警察から支援を得ながら、仏教施設を通じて治安対策を続けているが、こうした措置が逆に対立に拍車を掛けているとの指摘もある。

近年さらに状況を複雑にしているのが、麻薬の問題だ。深南部で起きるテロには、麻薬密売の利権に絡んだケースも少なくない。麻薬取引には分離独立派組織だけでなく、行政側の人間も関与していると噂される。【2013年2月19日 Newsweek日本版】
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束の間の落ち着きは、嵐の前の静けさか?】
最近、この「深南部」に関するニュースを目にしなかったのですが、不安定さは以前同様にしても「戦闘が下火になっている」とのことです。

****タイ深南部、つかの間の安息****
年間3000万人近い観光客が世界中から押し寄せる東南アジアの楽園タイ。

微笑みの国として知られる仏教国タイには、あまり知られていない別の顔がある。マレーシアとの国境に近いディープサウス(深南部)と呼ばれる地域で続く激しい紛争だ。今も爆弾テロ事件などが毎月のように発生している。

タイ政府は深南部で、住民の多数派を占めるマレー系イスラム教徒を長く迫害してきた。そうした背景から、60年代に入るとタイからの分離独立を目指すイスラム系組織が生まれた。そして麻薬取引などを資金源とする武装勢力が、仏教徒を狙った攻撃を始めるようになる。近年では国軍や地元警察、さらに自警団までが紛争に加わり、2004年の紛争激化からこれまでに6500人以上が命を落としている。

2013年2月、タイ政府はついに重い腰を上げ、武装勢力との停戦交渉を開始するが、国内情勢の悪化で交渉は停止。2014年12月になってようやく、タイ政府とこの地域に強い影響力があるマレーシア政府が交渉再開に合意するに至った。

その甲斐あって、2014年の紛争の死者数は246人と、2004年以降最も死傷者が少ない年となった。

戦闘が下火になっている現在、街では緊張感が緩和され、住民は落ち着きを見せている。ただ散発的なテロ事件は相変わらず発生している。戦闘やテロが、いつ再び激化してもおかしくない不安定な状況は変わらない。

束の間の落ち着きは、嵐の前の静けさか、それともこのまま紛争は終息へと向かうのか――。今年のタイ深南部の情勢が注目される。【1月18日 Newsweek 山田敏弘氏】
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確かに、インラック政権時代の2013年にマレーシアを仲介とする交渉が始まりました。

****深南部」テロ タイ、和平交渉入り 政府とイスラム武装勢力****
タイ政府は28日、「深南部」と呼ばれる4県でテロを強行するイスラム武装組織の一つと、和平交渉に入ることで合意した。武装勢力側との公式な合意は初めてで、国境を接するマレーシアが仲介した。

だが、交渉の先行きは極めて不透明なうえ、他に多くの武装組織が存在しており、和平への悲観的な見方が強い。(後略)【2013年3月1日 産経】
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しかし、2013年6月には「ラマダン」時期の暴力抑制を巡っての対立が報じられていました。

****武装勢力が新たな要求=政府は拒否―タイ最南部問題****
タイ最南部で爆弾テロなど反政府活動を展開しているイスラム武装勢力「民族革命戦線(BRN)」は25日までに、動画投稿サイト「ユーチューブ」に掲載したビデオで、7月上旬からのラマダン(断食月)期間中に暴力を自制するという政府側との合意を履行する条件として、パタニなど最南部4県からの軍部隊撤収などを新たに政府側に要求した。

これに対し、スカムポン国防相は25日の記者会見で、「受け入れられない」と拒否する意向を表明。「われわれはできれば対話を進めるが、さもなければ停止する」と述べ、BRNの出方によっては今後、和平協議に応じない構えを示した。【2013年6月25日 時事】
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その後、この交渉がどうなったのか、情報を目にしていませんでした。
軍事クーデターでインラック政権が崩壊するなど、それどころではなかった・・・というところではないでしょうか。

前出【1月18日 Newsweek】によれば、“2014年12月になってようやく、タイ政府とこの地域に強い影響力があるマレーシア政府が交渉再開に合意するに至った。”とのことですが、すでに1年が経過していますが、どうなっているのでしょうか?

今も散発するテロ事件
大手メディアでは「深南部」の事件は最近見ませんが、現地情報サイトで見ると、この1年もテロがなかった訳ではありません。

****タイ深南部パタニー市で連続爆弾テロ いすゞショールームなど被害****
(2015年4月)2日未明、タイ深南部パタニー市内の3カ所と郊外の1カ所で爆弾が爆発し、いすゞのショールームの窓ガラスが割れたり、電柱が倒れるなどした。けが人はなかった。

深南部では先月25日、パタニー県内の村で、テロ容疑者を捜索していたタイ治安部隊が村の男性4人を射殺し、22人を逮捕する事件があった。

遺族、住民らは死亡した4人らがテロにかかわった事実はないと主張し、治安当局への反発を強めていた。【2015年4月2日 newsclip】
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****30カ所以上で爆発、20人超負傷 タイ深南部ヤラー市で連続爆弾テロ****
(2015年5月)14日夜から15日朝にかけ、タイ深南部ヤラー市の30カ所以上で爆弾が爆発し、住民ら20人以上が負傷した。

爆発が起きたのは大学のキャンパス、鉄道駅、銀行、商店など。

タイ治安当局は深南部の分離独立を目指すマレー系イスラム過激派による犯行とみて捜査を進めている。(後略)【2015年5月15日 newsclip】
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****8カ所で連続爆弾テロ 3人死亡、13人負傷 タイ深南部ナラティワート****
(2015年9月)17日夜、タイ深南部ナラティワート県ラゲ郡の8カ所で爆弾が爆発し、住民2人と兵士1人が死亡、13人が負傷した。

死傷者が出たのは8カ所のうちの1カ所で、バイクに仕掛けた爆弾が爆発した。犯行に使用されたバイクは今月14日、ラゲ郡で射殺された少女(17)のものだった。

深南部では14日、ヤラー市郊外の道路脇で爆弾が爆発し、現場を通りかかったピックアップトラックに乗っていた兵士5人が負傷。16日にはパタニー県の道路脇で爆弾が爆発し、徒歩でパトロール中の兵士1人が死亡した。

いずれもタイ深南部の分離独立を目指すマレー系イスラム武装勢力による犯行とみられている。

タイ軍事政権は武装勢力との和平交渉に乗り出し、服役中の組織幹部の仮釈放を17日に発表するなど、宥和姿勢を見せていた。【2015年9月18日 newsclip】
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また、現地日本大使館の発表では、2015年度第3四半期について“深南部のテロ発生状況は、第2四半期と比較すると増加傾向にある”とされています。

****在タイ日本国大使館、タイの治安・一般犯罪に関する情勢傾向を発表****
在タイ日本国大使館は(1月)14日、2015年度第3四半期のタイの治安、一般犯罪傾向などに関する情勢傾向を発表した。

■社会・治安情勢等「タイ深南部テロ情勢
今期、タイ深南部(ヤラー県、パッタニー県、ナラティワート県、ソンクラー県)では、イスラム武装勢力が関係すると思われる銃器、爆発物を使用したテロが月平均約27件発生した。

深南部のテロ発生状況は、第2四半期と比較すると増加傾向にある。これら地域では、治安当局とイスラム武装勢力、仏教徒間の抗争が継続しており、公共施設や商業施設周辺での発砲銃撃,爆弾事件も発生している。

ヤラー県、パッタニー県、ナラティワート県、ソンクラー県の一部(ジャナ、テーパー、サバヨーイ各郡)については、外務省より危険情報「レベル3:渡航は止めてください(渡航中止勧告)」が出されていることから、これらの地域への渡航はどのような目的であれ中止を求めている。【ArayZ】
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こうした情報からは、「戦闘が下火になっている」という感じもあまりしませんが・・・・どうなんでしょうか?

この地域が本格的に安定して、バンコクやチャンマイ同様に安心して観光できるようになることを期待しますが、政府側は新憲法制定問題、民政復帰、更には国王の健康問題などもあって、なかなか本腰を入れた交渉も難しい情勢かも。

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