孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ギリシャ  財政緊縮策の13年度予算案・EU支援の行方は? 「ラガルド・リスト」で高まる国民の不満

2012-11-05 22:44:08 | 欧州情勢

(4月の抗議行動 “flickr”より By Hayk_Group http://www.flickr.com/photos/haykgroup/6947225108/ただ、今のギリシャの苦境は、こうした不満の爆発ではなく、経済再生に向けた努力と知恵にかかっていると思われます。そして、そのためには政治を含む社会の不公正の是正が前提になりますが、政治にその是正を牽引する力と意欲があるのか・・・?)

11日に13年度予算案採決 連立与党に足並みの乱れも
財政危機に瀕しているギリシャ救済策の前提条件とされているギリシャ自身の財政緊縮策については、EU、ECB、IMFなど協力機関とギリシャの間では合意をみていますが、肝心のギリシャ国内の合意はまだ不透明な状況です。

その意味で、下記記事の“破綻、当面回避へ”という見出しは、やや語弊があるようにも思えます。
まあ、「なんだかんだ文句を言っても、今のギリシャは緊縮策を受け入れるしか他に道がないのだから、結局は議会も認めるしかないじゃないか・・・」と言われれば、そうなのかもしれませんが。

****ギリシャ首相:財政緊縮策は合意 破綻、当面回避へ****
ギリシャのサマラス首相は30日、国際通貨基金(IMF)、欧州連合(EU)の欧州委員会、欧州中央銀行(ECB)との間で、ギリシャが315億ユーロ(約3兆2500億円)の支援を受ける条件となっている財政緊縮策について合意に達したとの声明を発表した。ギリシャの国庫は11月半ばに底をつくとされるが、それまでに合意内容通りに議会で承認されれば財政破綻は当面は回避される見通しとなった。

緊縮策は歳出削減や最低賃金引き下げ、公務員削減が柱。声明でサマラス首相は「(交渉では)できる限りのことを行い、重要な改善を達成した」と譲歩を勝ち取った点を強調。「合意が(議会で)承認されず、国が混乱すれば、ギリシャ国民にとってさらなる苦しみとなる」と述べ、連立与党パートナーに合意承認を要請した。

だが、サマラス連立政権の一角を成す「民主左派」は、合意では労働者の保護がないがしろにされているとして「交渉結果には合意できない。反対を貫く」と表明した。また、緊縮策への支持を示唆していた「全ギリシャ社会主義運動」も首相声明を「遺憾」と批判するなど与党内の足並みはそろっていない。

政府は緊縮策を盛り込んだ13年度予算案を31日にも議会(300議席)に提出する予定。連立与党は計176議席で、サマラス首相の中道右派政党「新民主主義党」は127議席。11月11日に予定される予算案採決で民主左派(16議席)の反対に加え、全ギリシャ(33議席)から10人以上が「造反」すると予算案否決の事態となる。

ギリシャへの融資は最大1300億ユーロの第2次支援策の一環。ユーロ圏は同12日の財務相会合で融資実施の最終判断を下す方針。【10月31日 毎日】
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日程的には、以下のようになっています。
11月7日 ギリシャ国会で緊縮策関連の構造改革法案採決
  11日 ギリシャ国会で13年度予算案採決
  12日 ユーロ圏財務相会合でギリシャ支援協議
  16日 ギリシャ短期国債の償還期限

【「政治は真実を隠してきた」】
ここにきて、緊縮策に苦しむギリシャ国民の不満を更に強めているのが、「ラガルド・リスト」の問題です。
スイス・ジュネーブの銀行に預金口座を持っているとされるギリシャ人2059人のリストで、2010年にラガルド仏財務相(当時)からギリシャのパパコンスタンティヌ財務相(同)に渡されたものです。
(なぜフランスがそうしたリストを入手できたのかは、よくわかりません)

このリストには、著名財界人や政治家の名が含まれており、サマラス首相の顧問や元閣僚、財務省高官の名もあります。
スイスの銀行に資産を「避難」させていたこれら富裕者が脱税していた可能性もありますが、歴代政権はこれを全く調査してきませんでした。

この「ラガルド・リスト」をすっぱ抜いて国民に公開したのが週刊誌「ホットドック」ですが、警察当局は「掲載者が脱税や資金洗浄などの法律違反をした証拠はない」として、10月28日、雑誌編集長を個人情報保護法違反の疑いで逮捕(逮捕後、保釈されています)しました。

11月1日、アテネ地裁はこの編集長に無罪判決を下しています。

****政財界の脱税疑惑名簿報道、ギリシャ人記者無罪****
ギリシャからの報道によると、アテネ地裁は1日、スイスの銀行に預金口座を持つ、脱税疑惑のあるギリシャ人約2000人の極秘名簿を報道して個人情報保護法違反に問われたジャーナリスト、コスタス・バクセバニス氏(46)に無罪判決を言い渡した。

バクセバニス氏が自身の発行する雑誌で10月27日に報じた名簿は、フランス政府が2010年に脱税捜査用の資料としてギリシャ政府に提供していたもので、著名財界人や政治家の名が含まれている。
しかし、ギリシャ政府は最近まで本格捜査を行ってこなかった。バクセバニス氏への無罪判決を受け、政府の姿勢を追及する動きにも拍車がかかりそうだ。
司法当局はすでに判決を前に、名簿を握りつぶしてきた歴代財務相の責任の調査を議会に求めている。【11月2日 読売】
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最低賃金引き下げ、公務員削減、年金カットなどの大きな痛みを強いられている国民からすれば、脱税の可能性がある富裕層(政治家・官僚を含む)が調査もされないというのは容認できないところですし、公開した編集長を逮捕するというのは見当違いもはなはだしい・・・ということにもなります。

****ギリシャ:脱税疑惑に大揺れ 富裕者リストに国民憤まん****
欧州債務危機を巡り、待ったなしの財政再建に取り組んでいるギリシャが脱税スキャンダルで揺れている。スイスの銀行に資産を「避難」させていた富裕者のリストをすっぱ抜いた週刊誌報道をきっかけに、リスト掲載者の税務調査に乗り出さなかった歴代政権に対する国民の憤まんが爆発。追加融資を受ける条件となる財政緊縮策の国会採決を今月中旬に控え、サマラス連立政権への逆風が強まっている。

(中略)
コスタス・バクゼバニス編集長(46)が10月28日に個人情報保護法違反容疑で逮捕されたことで内外の関心が高まった。編集長は1日の裁判で無罪となり、「富裕者リストがある一方、国民は(緊縮策による給料などの)カットに苦しんでいる」「政治は真実を隠してきた」との訴えが国民の共感を呼んだ。

リスト掲載者が脱税していたとの証拠はないが、事態を重視した金融検察当局はパパコンスタンティヌ氏と、業務を引き継いだベニゼロス元財務相が税務当局にリスト掲載者の調査を命じたかどうかについての調べを開始。しかし、ストゥルナラス現財務相は「リストは財務省内から見つからなかった」と話している。

ギリシャ支援を協議している他のユーロ加盟国に「徴税機能の不全」を見せつける格好となった。緊縮策を盛り込んだ13年度予算案採決を11日に控え、サマラス政権は連立維持が正念場の時に新たな火種を抱え込んだ。
連立政権の一角を占める「民主左派」は労働者の権利が保護されていないとして反対を明言。「全ギリシャ社会主義運動」からも緊縮策支持の党方針に抗議して2人が離党するなど、連立政権の足元が揺らいでいる。

ギリシャの会計検査院は1日、緊縮策に盛り込まれた年金のカットや受給開始年齢の引き上げが「憲法違反の可能性がある」との判断を下した。

政権側は「可決を確信する」と強気だが、ギリシャの国庫は今月半ばにも底を突く見通し。「緊縮策が成立しなければギリシャ支援はとまる」(外交筋)と懸念する声も出ている。【11月3日 毎日】
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「リストは財務省内から見つからなかった」・・・・日本でも、以前似た様な発言を中央官庁から聞いたような気もします。

「緊縮策が成立しなければギリシャ支援はとまる」という状況ではありますが、一方で、ギリシャ国内の合意が成立しなかったからといって、EUは今すぐギリシャを見放すことができるのか?そんなことをしたら、スペイン・イタリアなどにも火がつくことになるし、ユーロ圏の崩壊にもつながる・・・といった見方もあるでしょう。
もちろん、ドイツなどには「ギリシャの放漫財政の面倒はみきれない」といった強硬論もあります。

国内外の思惑が絡んで、どのような展開になるのか、ここしばらくは予断を許さない状況が続きそうです。

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