孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

民間警備会社  イラクでは米軍撤退後をカバー アフガンでは活動停止

2010-08-21 21:05:10 | 国際情勢

(5月訪米してオバマ大統領と会談するカルザイ大統領 カルザイ政権の腐敗に関して厳しいやりとりもあったようです。“flickr”より By U.S. Department of State
http://www.flickr.com/photos/statephotos/4643058331/)

【イラク:米軍撤退後は民間要員倍増で補完】
イラク駐留米軍の最後の戦闘部隊(約4000人)が18日にイラクから隣国クウェートに撤退を完了。ブッシュ政権当時の07年の増派で最大17万1000人に上ったイラク駐留米軍は戦闘部隊の撤退完了に伴い、5万6000人となります。このうち後方支援などにあたる6000人が今月末までに撤退し、この段階で正式に米軍の戦闘任務が完了する見通しで、9月以降はイラク治安部隊の訓練と支援を目的とする5万人が駐留する予定です。
今後は、11年末までに全部隊を撤退させることになっています。

オバマ米政権は、2011年末までのイラク駐留米軍完全撤退に伴う空白によって混乱が生じるのを回避するため、民間契約者を中心とする人員をイラク国内の数カ所に配置し、任務に当たらせることを検討していると報じられています。

****イラク駐留米軍の任務、撤退後は民間要員倍増で補完 米計画****
イラク駐留米軍の撤退に合わせ、米政府は同地で米軍が担っている任務の一部を、民間警備会社の要員を倍増して引き継がせる計画を検討している。米紙ニューヨーク・タイムズの報道内容を、フィリップ・クローリー米国務次官補(広報担当)が19日の会見で認めた。
バラク・オバマ大統領の計画どおり、イラク駐留米軍は19日、最後の戦闘部隊が撤退を完了した。残る約5万6000人も2011年10月までに全面撤退をほぼ完了する。
クローリー次官補は、これに合わせてイラクで活動する民間警備会社の警備要員を7000人に増員する計画を国務省が検討していると述べ、外交官や開発専門家の安全を確保するためと説明した。
イラクでは民間要員がすでに米大使館の警備にあたっているが、NY紙は匿名の高官の話として、敵対勢力の攻撃を捕捉するレーダーの運営や、道路脇などの仕掛け爆弾の捜索、無人偵察機の運用なども民間要員の活動に含まれると報じている。【8月20日 AFP】
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アメリカの戦争の多くの部分がすでに民間企業に委ねられていることは周知のところですが、イラクでの民間警備会社というと、2007年9月16日に首都バグダッド市内で発生した民間警備会社「ブラックウォーター」の従業員とされる警備員らの銃撃で、イラク民間人17人が死亡した事件が思い出されます。

事件当時、「業者に頼るしかなく、その人達の能力、勇気を称えるべきだ」と民間警備会社を弁護する考えがアメリカ政府内に多いともいわれていましたが、武器の横流しや民間人を無差別に撃って遊ぶ「実弾演習」が常態化しているという噂もあり、イラクでの反米派には、「ブラックウォーター社の社員は、犯罪者達だ」とする向きも多くありました。
最近の民間警備会社の実態はどんなものでしょうか?
もちろん、民間警備会社、その従業員と言っても様々でしょうが。
いずれにしても、一般人の武器所有が厳しく制限されており、警官の発砲すら問題になることも少なくない日本社会の感覚からすると、戦争の民間請負というのはなかなか理解が難しい面があります。

【アフガニスタン:民間警備会社に解散命令】
民間警備会社に後を託す形のイラクに対し、アフガニスタンではカルザイ大統領が唐突に民間警備会社の活動停止を発表しています。
*****アフガニスタン大統領、民間警備会社に解散命令*****
2010年08月18日 09:39 発信地:カブール/アフガニスタン
アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領は17日、「痛ましく悲劇的な事故」を起こしかねない武器の悪用を防止するため、同国で活動するすべての民間警備会社に解散を命じる大統領令を出した。解散の期限は2011年1月1日としている。
アフガニスタン国内で活動する50以上の民間警備会社で雇用される武装要員は4万人以上で、そのうち約半数がアフガニスタン人。これらの民間警備会社は国際部隊や米国防総省、国連ミッション、非政府組織(NGO)、大使館、欧米の報道機関などに警備を提供している。
カルザイ大統領は、民間警備会社について、アフガニスタンの治安部隊と任務が重なっており、軍や警察の訓練に必要な資源を横取りしているとして繰り返し不快感を表明していた。
解散後、民間警備会社の要員は要件を満たせばアフガニスタンの警察に参加することができる。一方、未登録の民間警備会社は違法化され、武器や装備は押収されることになる。

■治安部隊への引き継ぎに懸念
年内の解散命令という厳しい時間設定に国際社会の一部では戸惑いの声が上がったものの、民間警備会社の要員は多くの人びとから「民兵」とみられており、アフガニスタンからの民間警備会社の排除は幅広く支持されている。
最大の懸念は、アフガニスタンの治安部隊の能力が低く、汚職も多いとされていることから、治安部隊が民間警備会社の業務を引き継ぐことができないと考えられていることだ。【8月18日 AFP】
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民間警備会社の問題は数年前から認識されており、国際治安支援部隊(ISAF)も、すべての民間警備会社に登録を義務付けるといった提案をしていたとのことですが、今回発表では「活動停止」ということで、アメリカ政府などには戸惑いもあるようです。

****アフガン大統領、民間警備会社に解散命令 米は懸念表明*****
アフガニスタンのカルザイ大統領は17日、国内で活動する民間警備会社に対し、4カ月以内に解散するよう求める大統領令を出した。統制が利きにくく、警察など政府の治安機関の権威を阻害するとの理由があるとされるが、米軍などは物資の輸送の警備などを民間会社に大きく依存しており、不安の声も出ている。
アフガン内務省によると、現在52の民間警備会社が登録しているが、未登録の企業もあり、武装警備員は外国人も含め、全国で3万~4万人と推定される。大統領令は、こうした企業に対して期限内に活動を停止するよう求めている。アフガン人スタッフについては警察官として採用する方針だという。ただ、大使館や国際機関などについては、敷地の警備に限って例外的に民間会社の活動を認めた。
米軍や北大西洋条約機構(NATO)軍の物資輸送についてはアフガン治安部隊が警備の責任を持つとしている。ただ、米国務省のクローリー次官補は大統領令に関する事前の報道を受けた16日の記者会見で、長期的な目標としては賛同するとしたうえで、「現時点では民間警備会社が活動を続ける必要がある」と早急な改革への懸念を表明した。【8月18日 朝日】
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【大統領親族の利権構造】
海外TV局の報道では、かねてよりカルザイ大統領に対して向けられている親族の民間警備事業利権に関する批判に対する大統領の回答が今回発表になっているとも報じていました。

****カルザイ・ファミリーの巨大利権*****
さらにカルザイ・ファミリーは、米軍の兵站支援業務でも巨利を得ており、カンダハルを拠点とする軍閥や犯罪組織と利益を分け合っている。
米国防総省は、米軍の兵站業務をアフガニスタンの民間企業に委託する「ホスト・ネーション・トラッキング契約」を現地の6社の企業と締結している。これは「ホスト・ネーション」、すなわちアフガニスタンの現地の輸送会社に軍事支援物資の輸送を業務委託するという総額22億ドルに上る巨大な契約だ。2年契約のこの事業は、アフガニスタンのGDPの実に10%近くに相当する巨額の利権である。

この契約をとった企業の一つにワタン・グループというアフガンのコングロマリットがある。このグループを支配しているのはハミド・カルザイ大統領の従弟で、元ムジャヒディーンのアフマド・ラテブ・ポパルという人物である。ワタン・グループは、カンダハルを中心に巨大なビジネス利権を牛耳るコンソーシアムで、傘下に通信、運輸などの会社を持つが、その中でも最も重要なのがワタン・リスク・マネージメントというセキュリティ会社である。ワタンはとりわけカブールからカンダハルへの主要幹線道路のセキュリティを牛耳っており、事実上、米軍向けの軍用物資の輸送・補給ラインを押さえている。
カンダハルへ通じる戦略的な道路「ハイウェイ1」はワタン・グループが完全に押さえており、このハイウェイのトラック輸送の警護もワタンが独占している。アフガン南部の麻薬利権を押さえるワリ・カルザイと、カンダハルの物流を押さえるワタン・グループのポパルは、共にカルザイ大統領の親類であり、連携して利益を分け合っていると言われている。
ちなみに、こうしたトラック輸送の際に、地域の武装勢力に対していわゆる「ショバ代」を支払うことでトラック輸送の安全を確保しており、この「武装勢力」にはタリバンも含まれているという。つまり、米軍の補給物資を運ぶトラックの安全を確保するためにタリバンに上納金を支払うという馬鹿げた仕組みになっているのだ。
ワリ・カルザイがタリバンとも持ちつ持たれつの関係を維持しているのはこうした理由によるものであり、カンダハルを中心にカルザイ・ファミリーと地方の軍閥や武装勢力やタリバンまで巻き込んだ巨大な利権の構図が存在することが分かるであろう。
ワタン・グループ以外にもこの米軍の兵站契約を結んでいる会社は、現国防相であるアブドル・ラヒム・ワルダク将軍の息子でアフガン系アメリカ人のハメッド・ワルダクが所有する「NCLホールディングズ」や、「アジア・セキュリティ・グループ」というカルザイ大統領の別の親族であるハシュマト・カルザイ氏が支配している会社など、カルザイ・ファミリーの身内ばかりである。【日経ビジネスonline 5月10日】
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ついでに言えば、カルザイ大統領の腹違いの弟であるワリ・カルザイは、現在カンダハル州の州議会議長を務めており、長年この州のパワーブローカーとして君臨し、一部では「キング・オブ・カンダハル」とまで呼ばれています。
ワリ・カルザイとその取り巻きは、麻薬取引などで得た不法な資金を使ってカンダハル州政府をコントロールし、その腐敗の元凶になっていると考えられています。このため、政府に反旗を翻して武装闘争を展開しているタリバンの方が市民の人気を集めているとも【同上】

こうした大統領親族が利権を独占し、腐敗が横行するアフガニスタンの実態に対し、オバマ大統領はカルザイ大統領に対し、腐敗是正に着手するよう強い圧力をかけています。
これに対し、カルザイ大統領は、「米国はアフガニスタンを支配しようとしている」、「タリバンの反乱は外国の侵略者に対する国民的な抵抗運動である」、「もし西側が圧力をかけ続けるのであれば、私自身タリバンに加わるしかない」とまで言い放ったとか。

唐突な民間警備会社活動停止の発表、アメリカの困惑、カルザイ大統領親族の利権構造、アメリカの批判、カルザイ大統領の反発・・・・今回の発表については、これから次の展開というか、第2幕があるようにも思えます。


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