孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

オーストラリア  増大する難民に苦慮、難民審査を国外施設に移す形に厳格化

2012-09-08 20:36:50 | 難民・移民

(2011年7月 出入国管理施設に留め置かれた未成年難民の解放を求めて、警官隊と対峙する難民支援団体の人々 一方で、長年続いた先住民アボリジニへの差別や、08~09年頃に問題となったインド系移民に対するヘイトクライム“カレー・バッシング”など、白豪主義の名残のような異民族排斥の動きもあります。
“flickr”より By Takver  http://www.flickr.com/photos/takver/5918017452/

中継地インドネシアの苦悩「避難民は犯罪者ではないが、自由の身でもないので難しい」】
アフガニスタン、ミャンマー、スリランカ、パキスタン、イラン、イラクなど、紛争を抱える中東・アジアから多くの難民がオーストラリアを目指して渡航しています。
しかし、命がけの危険な密航であり、沈没・座礁による犠牲者が後を絶ちません。

****150人乗り密航船沈没か=難民認定希望者?6人救助-インドネシア沖****
オーストラリア政府の30日の発表などによると、インドネシア沖で、密航船に乗っていたとみられる6人が商船に救助された。豪当局には前日、難民認定希望者150人を乗せたとみられる船からエンジンが故障したとして救助要請があった。インドネシアと豪当局がさらに生存者がいないか付近の海域を捜索している。【8月30日 時事】
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オーストラリアが難民の目的地とされているのは、“豪州では保守政権時代、難民希望者を直接入国させず、近隣のナウルやパプアニューギニアの収容所に隔離する政策をとっていた。2007年の政権交代後、労働党は、難民審査を豪州領内で行うことにした。難民希望者の期待が高まり、世界中の紛争地域などから多数が押し寄せ始めた”【8月19日 朝日】という事情によります。
また、“国外で(難民)申請をすると数年かかるが、豪州にたどり着いて収容施設入居後に審査を受けると1年ほどで定住が認められる”【9月7日 毎日】とのことです。

そこで、オーストラリアを目指す難民の中継地となっているのがインドネシアです。
ジャワ島南部から400キロ弱でオーストラリア領クリスマス島に到着できるためです。

****避難民流入、インドネシア悲鳴 豪州への中継地に****
紛争が続く中東やアジアからオーストラリアを目指す避難民たちが、「中継地」のインドネシアに流れ込んでいる。不法滞在を含めると1万人以上いるとみられ、領海内で沈没する難民船も相次ぐ。

シンガポールにほど近いインドネシア西部ビンタン島の主要都市タンジュンピナン。入管当局の許可を受け、3年前にできた「入国管理収容センター」を訪ねた。
3階建ての同センターには男性341人が収容されている(8月15日現在)。出身国はアフガニスタンが140人で一番多く、次いでミャンマー100人、スリランカ60人、パキスタン11人など。イラン、イラク人もおり、多くがイスラム教徒だ。

入り口から鉄柵扉を四つ抜けた1階では、ミャンマーから避難してきたイスラム教徒の少数派ロヒンギャ族の男性たちがひしめき合って暮らしていた。(中略)

ユヌス・ジュナイド所長によると、同センターは国内に13カ所ある収容所のうち最大で、唯一オーストラリアの支援で建てられた。食費や診療所運営費などは国際移住機関(IOM)の協力で国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が負担している。

約50人のセンター職員は法務・人権省管轄の入管職員で、うち警備担当は30人で3交代制。同所長は「たった10人で収容者300~400人を見張るのは限界があるのに、ボートピープルはどんどん入国してくる。なんとかならないかというのが本音だ」と話す。

建物には鉄条網が張られているが、塀はそれほど高くない。脱走事件も頻繁に起きる。7月16日の未明には55人が扉を壊し、塀を飛び越えて逃げた。うち27人が地元警察などに捕まって戻されたが、残りは今も行方不明だ。アフガン人たちが「何年待てば難民認定されるのか」と騒いだ末、抗議のハンガーストライキをしたこともあるという。

「避難民は犯罪者ではないが、自由の身でもないので難しい」と同所長。収容者は国連へ難民申請をしているが、難民認定が出るのに何年もかかる。認定されなければ本国へ任意帰国か強制送還される。「避難民の気持ちも理解できる。精神分析医も常駐しているが、精神的に参ってしまう人が多い」という。

■豪の入国政策が影響
入国管理当局によると、インドネシアでは今年5月現在で約1200人が難民認定されて第三国への移住を待っているほか、約4600人が難民申請をしている。そのほとんどが、オーストラリアへの移住を望んでいるという。

豪州では保守政権時代、難民希望者を直接入国させず、近隣のナウルやパプアニューギニアの収容所に隔離する政策をとっていた。2007年の政権交代後、労働党は、難民審査を豪州領内で行うことにした。難民希望者の期待が高まり、世界中の紛争地域などから多数が押し寄せ始めた。

この影響をインドネシアがもろに受けた。ジャワ島南部から400キロ弱で豪州領クリスマス島に到着できるため、格好の「中継地」となった。避難民たちはまずインドネシアに入り、あっせん業者の手引きで密航船に乗って豪州を目指す。

政府は今年4月、避難民問題の専門部署を政治・治安調整省内に設置した。責任者のジョニ・ウタウル氏によると、「紛争国からインドネシア経由豪州行き」のルートが密入国請負業者間でできている。「海軍などの巡視船がどこにいるか、どの地域の国境警備が手薄かなども業者は把握しているようだ」という。

アフガニスタン人やスリランカ人などの業者はまず、密航船を手配したうえでジャワ島の貧しい漁村へ行く。数人の漁師に1人50万円ほどの報酬を与え、「豪州領海へ人を運べ。もし豪州当局に捕まったら2年間ほど刑務所に入るが、所内労働で多額の報酬ももらえるから問題ない」と指示。難民希望者をバスなどで漁村に運び、夜、ひそかに出航させるという。

昨年末には、約250人が乗った難民船がジャワ島沖で沈み200人以上が死亡。今年に入ってからも計約7300人を乗せた100以上の難民船が豪州に入ったが、インドネシア領海内で沈没する事故も毎週のようにあり、豪州への批判が高まっている。

豪州のギラード政権は今月、方針の転換を決定。かつての保守政権と同様にナウルなどの収容所を再開することで、難民希望者の流入に歯止めがかかると期待している。(タンジュンピナン=郷富佐子) 【8月19日 朝日】
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【「密航してもすぐに国外に移送する」】
当然ながら、増大する難民は「移民の国」でもあり、また、白豪主義の国でもあったオーストラリアにおいても大きな問題となっています。

難民保護の理念と増大する軋轢という現実のはざまで、オーストラリアも揺れ動いています。
12年3月20日ブログ「難民への対応に見る、オーストラリア社会と日本社会の差」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120320
11年6月11日ブログ「オーストラリア  牛とラクダと難民に見る“人道的”ということ」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110611
11年6月6日ブログ「オーストラリア  迷走する難民対策 マレーシアで審査する案に人道上の問題」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110606
10年12月16日「オーストラリア・クリスマス島沖で難民船大破  難民対応に苦慮する豪政府」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101216

そして、上記記事にあるようにギラード政権は、ラッド前首相のもとで緩和した難民対策を、難民審査を南太平洋のナウルなど国外施設に移す形で、再び厳しくすることを決定しました。
ただ、今回決定には国連、そして労働党内部からの批判もあります。

****オーストラリア:難民政策を転換 密航抑制へ国外審査再開****
密航船での難民流入に苦慮するオーストラリアのギラード労働党政権が難民政策の抜本的改革に乗り出す。年間の難民受け入れ上限を引き上げる一方、密航船を抑制するため難民審査を南太平洋のナウルなど国外施設に移す方針に転換。しかし、国連や人権団体は「非人道的措置」と強く批判している。

豪州では07年の政権交代で労働党のラッド政権が誕生。難民の受け入れに寛容な政策を打ち出した。人権団体から「環境が劣悪」と指摘されたナウルとパプアニューギニアの国外2カ所の難民収容施設を閉鎖し、国内での審査に切り替えた。
豪州への難民希望者は、国外で申請をすると数年かかるが、豪州にたどり着いて収容施設入居後に審査を受けると1年ほどで定住が認められる。そのため、アフガニスタンやイランなどから豪州を目指す密航者が急増。中継地のインドネシアには密航をあっせんする組織も存在する。

密航には老朽化した船が使われることが多く、定員超過による沈没事故も多発。09年10月以降、計600人以上が犠牲になっている。先月末にもインドネシア沖でアフガニスタン人など約150人を乗せた密航船が沈没し、100人近くが行方不明になっている。

これを踏まえ、ギラード首相は犠牲者を防ぐためとして方針を転換。閉鎖した国外の難民収容施設の再開を決めた。難民受け入れ数を現在の年間1万3700人から2万人に増やすが、ギラード首相は「増加分は密航者ではなく、国外の被災者が対象」とし、「密航してもすぐに国外に移送する」と強調する。

ただ、審査期間は「数年」とされ、国連のピレイ人権高等弁務官は「無期限の拘束で人権が侵害される恐れがある」と懸念を表明。労働党内からも不満が出ており、方針転換はギラード政権に打撃となる可能性もある。【9月7日 毎日】
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【「難民認定希望者を保護する法的責任を免れるものではない」】
保守党サイドからは“難民船領外押し返し”といった強硬意見も出ているようですが、さすがにそこまでは踏み込んでいません。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、オーストラリアがどのような方法をとるにせよ「難民認定希望者を保護する法的責任を免れるものではない」としています。また、収容所に無期限に拘置することや、難民希望者の精神衛生問題に懸念を表明しています。

****国連は豪領外難民収容に関与せず*****
豪は9月末までにナウルに500人移送
ジュリア・ギラード労働党連邦政府は、3人専門家パネル設立時の約束に従い、同パネルの勧告を全面的に受け入れ、野党保守連合の提唱していたナウル難民収容所再開に向けて動いている。

一方、パネル設立時に、「政府の設立したパネルの勧告は受け入れない」と宣言していたトニー・アボット保守連合リーダーは、パネルが自分たちの提唱の一部を勧告していると分かると直ちにこれを受け入れた。しかし、保守連合が提唱していた、臨時保護ビザと難民船領外押し返しだけはパネルも勧告せず、「非人道的で難民希望者と豪海軍人員を危険に陥れる行為」と批判している。

政府は、陸軍部隊をナウルに派遣し、収容所の修復にあたらせることになっており、「9月末までに難民認定申請者500人をそちらに移送する」と発表した。もう一つの収容所立地、パプア・ニューギニア(PNG)のマヌス島については、PNG政府が公式に収容処理センターの再開を認可した。また、センター運営資金は新しく決められたPNG開発援助パッケージから充てられることになっている。

豪政府の動きに対して、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)地域代理リチャード・トール氏は、「UNHCRは、一定の距離を置いて豪政府の政策の監視と難民条約に基づいた監督業務を行うが、豪政府の計画を支援するつもりはまったくない。センターの活動の運営管理などで事務所はまったく関わらないし、難民条約を遵守し、同じように難民条約批准国であるナウル、PNGと協力し、その条約の枠内で義務を遂行するのが豪政府の責任だ。UNHCRはその計画には一切関わらない。オーストラリアは、難民希望者を他国領土に移送することができるが、そうしたところで難民認定申請処理から最終的な作業まで、その難民認定希望者を保護する法的責任を免れるものではない」と語っている。

また、「UNHCRは、難民希望者を収容所に無期限に拘置することや、難民希望者の精神衛生問題を特に懸念している。難民希望者は祖国で迫害を受けたために脱出してきており、オーストラリアに向けて危険な航海してきた結果、心理的外傷を負っている可能性がある。その人達に十分な医療とケアを維持するのは困難だ」としている。【8月24日 NICHIGO ONLINE】
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1 コメント

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Unknown (電鳳)
2014-01-08 19:53:53
オーストラリアが本格的に難民の送り返しを本格化したようです。豪州ABC放送
http://www.abc.net.au/news/2014-01-08/asylum-seekers-on-boats-turned-back-to-indonesia-speak/5191024
によると、水際でボートピープルをインドネシア領海に送り返したと報じました。
先進国各国で移民の排斥のうねりが強まっているようです。
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