孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シーク教徒指導者殺害で対立が深まるインドとカナダ アメリカなど欧米諸国からはインド批判なし

2023-09-22 23:39:36 | 南アジア(インド)

(印首都でのG20サミット前に握手を交わすモディ印首相(右)とカナダのトルドー首相【9月22日 CNN】)

【カナダでのシーク教指導者殺害にインド政府工作員関与? 高まる両国の緊張】
シーク教指導者のカナダ国籍の男性が6月18日にカナダ西部ブリティッシュコロンビア州で銃殺された事件に関して、カナダのトルドー首相は18日にインド政府の工作員が関与した可能性があると述べ、これを否定するインドとの間で外交官追放、ビザ発給停止などの緊張が高まっています。

****カナダとインド、対立激化 両国が外交官追放 シーク教指導者殺害で****
カナダのトルドー首相は18日、シーク教指導者のカナダ国籍の男性が6月に殺害された事件に、インド政府の工作員が関与した可能性があると述べた。インド外務省は「根拠のない主張だ」と全面的に否定。

カナダ政府がインド人外交官を追放すると発表したのに対し、インド政府も19日にカナダ人の上級外交官を追放すると表明し、両国関係の悪化が懸念されている。

ロイター通信によると、男性は6月18日にカナダ西部ブリティッシュコロンビア州で銃殺された。男性はインド北部パンジャブ州でシーク教徒の国家設立を目指す運動を支持。インド政府は2020年、テロリストに指定していた。

トルドー氏は今月18日の議会で、インド政府の工作員が男性の殺害に関与したとの「信用できる」情報をカナダ治安当局が入手し、捜査していると述べ、「許しがたい主権の侵害だ」と主張。9、10日の主要20カ国・地域(G20)首脳会議で訪印した際、モディ首相にも直接、懸念を伝えたという。

これに対してインド外務省は19日、「インド政府がカナダで暴力行為に関与したとする主張はばかげている」と反論する声明を発表。インドは民主国家であり、法の支配に基づいていると主張した。また、カナダ人外交官の追放については「反インド活動に関わっている」と指摘した。

カナダには多くのインド系カナダ人のシーク教徒が暮らしている。シーク教徒による独立国家を支持するデモが開催され、当局は神経をとがらせていた。

両国は貿易協定の締結に向けた交渉を進めていたが、カナダ側は今月に入って、交渉を一時停止したと発表。今回の問題で両国間の緊張がさらに高まる恐れがある。【ニューデリー川上珠実】
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インド政府は20日、インド人へのヘイトクライム(憎悪犯罪)が増えているとして、カナダ渡航を控えるよう注意喚起し、21日にはカナダ国民向けのビザ申請手続きを「追って通知があるまで」停止しました。

今回事件の背景には“カナダに居住するシーク教徒は約77万人。インドを除けば国別で最も多く、政治に対し一定の影響力を持つ。インドはかねて国の分裂につながりかねない動きに神経をとがらせてきた。”【9月21日 時事】という事情があります。

カナダにおけるシーク教徒の影響力ということでは、トルドー政権と閣外協力関係にある新民主党(NDP)のシン党首もシーク教徒です。

この事件で緊張が高まっているさなか、カナダでインドにおけるシーク教徒独立運動に関わっていた別の男性が殺害されるという事件も報じられており、影響が懸念されています。

****別のシーク教徒男性殺害か カナダで、インド報道****
インドメディアは21日、カナダでインドにおけるシーク教徒独立運動に関わっていた男性が同日までに「ギャング間の抗争」で殺害されたと報じた。

カナダ政府は同国国籍の別のシーク教徒男性が6月に殺害された事件にインド政府が関与した可能性があると主張し、両国間で外交問題に発展した。今回の事件が事実なら、さらなる火種となる恐れもある。

殺害された男性はシーク教徒が多く暮らすインド北部パンジャブ州出身。同国の捜査当局から指名手配を受け、2017年に偽造旅券でカナダに逃亡したという。インド当局は今年6月に殺害された男性もテロ事件に関与した疑いで指名手配していた。【9月21日 共同】
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後述のように、これから国際社会で重きをなそうとするインド政府の直接的な関与は考えにくいところもありますが、インド政府の工作員が関与ということであれば・・・。

【アメリカなど西側諸国は沈黙 存在感を増すインドへの配慮】
事件そのもの以上に注目されるのは、事件に対する西側諸国の反応です。

同種の事件としては、2018年3月にロシアの元二重スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏とその娘がイギリス・ソールズベリーでロシア情報機関関係者と思われる人物に神経ガスによって襲われた事件、同じく2018年10月にトルコ・イスタンブールのサウジアラビア大使館内でサウジアラビア人ジャーナリスト・カショギ氏が殺害された事件が思い出されます。

いずれの事件も、犯行を疑われるロシア、サウジアラビアは国際的に激しい批判にさらされ、その影響は未だに完全に消えた訳でもありません。

今回のカナダの事件でも、カナダ側の主張どおりならインドは国際的に苦しい立場に立たされる・・・・と思いきや、今のところ人権問題に敏感な欧米も“静観”、あるいは“黙殺”の構えです。

G20でとりあげるように求めたカナダ・トルドー首相の要請はアメリカなどによって拒否されたとの報道も。ホワイトハウスは否定していますが。

“中国を抑える対抗勢力として熱視線を送られている”インドを敵に回したくないという極めて現実的な国際事情によるものです。

*****シーク教指導者殺害でインドと対立するカナダ 西側同盟国が沈黙する理由は?*****
カナダ政府は今週、同国籍のシーク教徒殺害にインド政府が関与した可能性があると公表した。通常、この種の情報が出ると、カナダと友好関係にある民主主義諸国は大騒ぎになる。ところが、今回は違う。

インドは今、米国をはじめとする西側諸国から、中国を抑える対抗勢力として熱視線を送られている。そうした中、ニューデリーで20カ国・地域(G20)首脳会議が開催された数日後にカナダのトルドー首相がインドを珍しく攻撃したことで、各国は気まずい立場に立たされた。

オタワのカールトン大学のステファニー・カービン教授(国際関係論)は「西側諸国の計算上、インドは中国とのバランスをとるために重要だが、カナダはそうではない」と説明。「カナダは西側諸国の中で唯一、あらぬ方向にそれてしまった」と語る。

トルドー氏は18日、6月に起きたシーク教徒殺害にインドの諜報員が関与した可能性があるという「信じるに足る疑惑を積極的に追求している」と発表した。

その時点でカナダはすでに、米国、英国、オーストラリア、ニュージーランドを含む機密情報共有同盟「ファイブ・アイズ」などと、この問題について話し合っていた。

しかし、これまでの反応は静かだ。英国は公にインド批判を控え、同国との貿易協議は予定通り継続すると表明した。この件に関するクレバリー外相の声明は、インドの国名にも言及していない。

英王立国際問題研究所(チャタムハウス)のインド専門家、チエティジ・バジペー氏によると、英国はカナダを支持することと、貿易相手国であり中国に対抗するのに必要な国・インドを敵に回すことの狭間で難しい立場に立たされている。

「インドが関与しているという決定的な証拠がない限り、英国の反応は鈍いままだろう」とバジペー氏は予想。自由貿易協定を結べば、インドと英国の双方にとって「大きな政治的勝利」となるだろうと語った。

待ちの戦術
米国家安全保障会議のカービー戦略広報調整官は、米国が「深く懸念している」と述べ、インド政府関係者に捜査への協力を促した。インドは殺人事件への関与を否定している。

米ワシントン・ポスト紙によると、トルドー首相は先週のG20首脳会議でインドを非難する共同声明を出すよう求めたが、米国やその他の国々から拒否されたという。

これに関してカービー氏は「われわれが、どのような形にせよカナダを拒絶したという報道は間違いだ。この件についてカナダとの協力と対話を続けていく」と述べた。

2018年にロシアの二重スパイとその娘が英国で神経ガスによって殺害された後の騒動と比較すると、トルドー氏の発表に対する反応の鈍さは際立っている。

当時、英米、カナダなどの国々は、懲罰として合計100人以上のロシア人外交官を追放した。ロシアは殺害への関与を否定している。

対中国にらみインドとの関係強める各国
オンタリオ州のシンクタンク、インターナショナル・ガバナンス・イノベーション・センターのウェスリー・ウォーク氏は「中国との緊張関係を踏まえてインドと関係を強化することに皆の関心が集中していることを考えれば、ファイブ・アイズ諸国がこの問題に本格的に踏み込むのに消極的なのは無理もない」と言う。

「ちょっとした待ちの戦術だ。殺害にインド国家が深く関与しているという非常に確かな証拠をカナダが提出すれば、同盟国からもっと支持の声が上がるだろう」とウォーク氏は予想した。

カナダの選択肢は限られている。
カナダ安全情報局の元局長リチャード・ファデン氏はテレビで「同盟国が公式にせよ非公式にせよ支持してくれなければ、カナダはインドを動かすような大きなことはできないだろう」と語った。

カナダ政府筋によると、トルドー氏は声明の発表を先延ばしにしたがっていたが、国内メディアが今にも報道しようとしていたため、発表せざるを得ないと判断した。

情報筋によると、カナダは現在、殺人捜査の最中であるため、事件に関する具体的な情報を公にしていない。【9月22日 Newsweek】
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国際情勢に限らず、世の中こういうものだ・・・というのはわかりますが、“なんだかなぁ・・・”という感も。

“中国を抑える対抗勢力として熱視線を送られている”インドの国際社会における存在感は急速に大きくなっています。

*****G20からの中国追い出しと西側へ顔向けた議長国・インド****
(中略)
インドがしかけたグローバルサウス主導のG20
今回のG20で最も特徴的だったのは、インドがグローバルサウスの声を世界に届けることを掲げる中、中国の習近平国家主席と、ロシアのプーチン大統領が欠席したことだ。一応、中国からは李強首相、ロシアからはラブロフ外相が出席したから、一定の影響力は残したのだが、これはG20の性質を大きく変えるものとなった。

G20首脳会談は、もともと中国の世界的貢献を宣伝する場であった。08年、リーマン・ショックで打撃を受けた世界において、中国がばらまいた資金は一定の救済となった。その時、G20首脳会談を始めることになった。

目的は、主要7カ国(G7)の先進国と欧州連合(EU)が、中国を含む12の新興国と協力して、世界経済を安定させることであった。中国の貢献がきっかけだから、中国が存在感を存分に発揮する枠組みで、これまで、中国は常に国のトップ、習氏が参加してきたのである。

ところが、今回、中国とロシアのリーダーが欠席した。中露の存在感は落ち、G7と新興国が協力し合う場に変わってしまったのである。

中国とロシアは、今、グローバルサウスと呼ばれる新興国・途上国を合わせた国々、そこにおける影響力をめぐって、西側諸国と争っている。だから、本来であれば、G7だけが出席して、中露が出席しないということは、グローバルサウスでの影響力競争で、中露にとって不利に働くはずだ。なぜ欠席したのだろうか。

中国国内の情勢を見ると、中国の国防相の汚職疑惑が取り上げられていることから、国内情勢によって、中国の国家主席がでられなかった可能性がある。でも、8月に習氏は新興5カ国(BRICS)首脳会談に参加しているから、国防相の汚職問題が、どの時期に深刻だととらえられるようになったのか、G20首脳会談欠席に直結する話だったのか、現時点ではわからない。

プーチン大統領については、国際刑事裁判所から逮捕状が出ており、インドでは身の安全が保障されない。だから、出席するのはリスクが高いという判断があったのかもしれない。

モディ首相が見せた中国への態度
しかし、ここ数年のインドの外交を見れば、習氏の欠席は、自然なことだったともいえる。20年に死傷者100人以上を出して以来、印中国境では、両軍が大規模にハイテク兵器を並べて対峙し、緊張状態が続く。そのため、インドのモディ首相は、習氏とは、対面では会わない方針をとってきた。

当初は、中国が譲歩しない限り、多国間会議で、他の国々も含めた大きなテーブルでも、モディ首相は習氏に対面では会わない姿勢で、その後、若干中国の譲歩もあって、多国間では会うこともあるけれども、依然として、2国間では対面の会談をしない方針に変わっていった。  

それは、今年も続いた。今年、インドはG20だけでなく、上海協力機構の議長国でもあった。そこでは両国の亀裂が表面化した。上海協力機構の国家安全保障局長級の会談では、中国とパキスタンだけオンライン参加となった。上海協力機構の国防相会談では、パキスタンだけオンライン参加で、中国は対面で参加したが、その後の7月の上海協力機構の首脳会談は、首脳会談そのものがオンラインとなり、習氏は訪印しなかったのである。  

8月のBRICS首脳会談が南アフリカで行われた際、インドは少し方針を変えた。この時、モディ首相も、習氏も対面で参加し、印中2国間で会談したのである。  

そこでは印中国境情勢については、解決に努力することになった。しかし、中国はその直後に、自国の領土の主張を描いた地図を公表し、インドが自国領と考える地域が中国領となっており、両国の雪解けムードの兆候とみられた雰囲気は、一瞬で吹き飛んだのである。  

このような情勢を背景に、インドは、今回のG20でグローバルサウスの声を世界に届けることを掲げた。グローバルサウスの声を届ける先の「世界」とは、国際ルールを定める先進国、つまりG7のことである。つまり、インドは、グローバルサウスとG7のつなぎ役をかってでており、中国にとって面白いわけがなかった。  

このような状況を見れば、もし習氏がG20首脳会談のために訪印すれば、当然、心地よくない会議になる。印中国境については、インド側から激しい抗議がくるだろうし、インドが主導権をとって、G7とグローバルサウスを対中国対策で連携させようとするだろう。  

もはや習氏にとって、G20は、中国の威光を示す、心地よい場所ではなくなった。まさにモディ首相によって、今回、習氏はG20から追い出された、といえる。

グローバルサウスへの影響力拡大
習氏を追い出したインドは、実際に、グローバルサウスで影響力を高めている。いろいろ問題を抱えながらも、努力を続けてきた賜物だ。

例えば、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックでは、当初、ワクチンを各国に配って、貢献しようとした。その後、インド自身で感染者が増大し、提供できなくなったが、そういった貢献する意思と行動を示し始めたことが、インドの影響力の高まりを示している。  

特に、中国に対抗するための安全保障面での支援は、大規模なものになっている。(中略)インドは、非常に大規模な軍事支援を展開するようになっており、海軍も寄港できる港の建設計画や、ミサイルや軍艦などの武器の供給、武器を使う要員の訓練や武器の整備なども行っている。

中露の反西側に抵抗するモディ首相
こういったインドの、特にモディ首相の、中国対策を念頭に置いた、グローバルサウスにおける動きは、反西側諸国という側面が弱いことが特徴だ。

かつて、インドの初代首相ネルーが非同盟諸国会議を開いたとき、そこでは、植民地の宗主国である西側諸国に対する反発が、非常に色濃く反映されていた。

ところが、モディ首相になって、インドは、非同盟諸国会議へ代表を送らなくなったのである。  反西側的色彩が強い上海協力機構についても、モディ首相の姿勢は、一定の距離をとったものといえる。

今年、議長国として首脳会談を開いたモディ首相は、上海協力機構の首脳会談をオンラインにしてしまった。他の会議を対面で開いているのだから、上海協力機構を本当に重視しているのか、疑問が残る対応だ。  

今年のBRICS首脳会談においても、6カ国の新規加盟が認められたのであるが、モディ首相が、それに強く抵抗したようである。そもそも、BRICSは、中露はいるのにG7がおらず、加盟国の選定によっては、反西側の会議になり得る。モディ首相からすれば、そのような反西側連合に巻き込まれるのは嫌がったのである。

西側には入らないが、西側にとって必要なものを提供する
このように、インドは、対中国を念頭に置いたグローバルサウス対策を、かなり大規模に進めている。それは、中国とロシアが目指す、反西側連合の形成を阻止する効果を示している。  

24年1月のインド共和国記念日の軍事パレードに、モディ首相は日米豪の首脳を招待し、日米豪印4か国の枠組みQUADの軍事パレードにすることを決めつつある。西側諸国の植民地だったインドが、西側諸国になることはないとしても、モディ首相としては、中国を念頭に置いた、西側諸国と協力するメッセージを打ち出すようである。【9月19日 WEDGE】
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習近平国家主席のG20欠席の理由については様々な憶測がなされており、”よくわからない”というのが正直な印象ですが、上記のように“モディ首相によって、今回、習氏はG20から追い出された”といった見方が的を射たものかどうかは議論の余地があるでしょう。

そうであるにしても、反西側連合から距離をとり、西側諸国とも協調する姿勢を見せるインドに対し、アメリカなどが“熱視線”を送るというのは、無理からぬ国際事情ではあります。

ただ、“なんだかなぁ・・・”という感じは先述のとおり。モディ政権には、ヒンズー至上主義の問題、もっと言えば、モディ氏自身に関しても1000人以上が犠牲になったとも言われる2002年のイスラム教徒虐殺暴動への関与疑惑があり、首相になるまでアメリカは渡航ビザ発給を拒否していました。

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