孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  米軍のタリバン最高指導者殺害で予想されるタリバン側の対応硬化 パキスタンは?

2016-05-23 23:09:09 | アフガン・パキスタン

【5月23日 AFP】

米軍無人機、タリバン最高指導者を殺害 「アフガン政府との和平の妨げになっていた」】
アフガニスタン情勢については、5月5日ブログ「アフガニスタン 戦乱の中で子供たちは 報復殺害、少年兵、脅迫、自爆犯、難民生活・・・奪われる教育機会」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160505で、アフガニスタン政府やアメリカの和平交渉への呼びかけに対してタリバン側は交渉を拒否していること、タリバンの春季攻勢が始まったこと、そうした状況で、特に子供たちが厳しい現実を強いられていることなどを取り上げました。

状況が改善するかどうかは、タリバンとの和平交渉実現にかかっていると見られていましたが、そのタリバンの最高指導者マンスール師がアメリカの無人機攻撃で殺害されました。

****米軍、タリバーン指導者殺害か アフガン和平交渉、困難に****
米国防総省は21日、アフガニスタンの反政府勢力タリバーン最高指導者のマンスール幹部を標的に空爆をしたと発表した。米国防当局者によると、死亡したとみられる。死亡が確認されれば、タリバーン側の反発は必至で、アフガン政府とタリバーンの紛争の交渉による解決は遠のく。

米当局者によると、空爆はオバマ米大統領が承認し、複数の無人機で実施された。アフガン国境に近いパキスタン領内を車で移動しているところを攻撃した。一緒にいた戦闘員1人も死亡したとみられる。
 
アフガン政府のアブドラ行政長官と情報機関はそれぞれツイッターでマンスール幹部が「死亡した」と述べ、死亡情報が確認されたとの見方を示した。タリバーンは22日午後までに公式な声明を出していない。
 
タリバーンは昨年7月、組織の創始者だったオマール最高幹部が約2年前に死亡していたと発表。組織内の抗争の末、マンスール幹部が後継の座に就いたばかりだった。
 
米国防総省のクック報道官はマンスール幹部について「カブールやアフガン全土での攻撃計画に活発に関わっていた。市民や治安部隊に脅威だった」と指摘。「和平交渉に参加するのを阻み、アフガン政府との和平の妨げになっていた」と殺害の意図を強調した。
 
死亡が確認された場合、タリバーンには大きな打撃だが、報復テロを起こす恐れがある。タリバーン内部で後継をめぐる混乱が起き、和平交渉は当面、困難になるとみられる。【5月23日 朝日】
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マンスール師の死や後継者について、タリバンからの公式発表はまだありませんが、アフガニスタンの情報機関「国家保安局(NDS)」とアブドラ・アブドラ行政長官はともに、マンスール師の死亡を確認したと発表しています。

また、ベトナム訪問中のアメリカ・オバマ大統領も、「米国と同盟国の部隊に対する攻撃を繰り返し計画・実行し、アフガニスタンの人々に戦争を仕掛け、国際テロ組織アルカイダなどの過激派組織と協調していた組織の指導者を、われわれは排除した」とする声明を発表していますので、マンスール師殺害は間違いありません。(無人機攻撃ですから、その殺害の映像はホワイトハウスへ送られます。TVドラマでは大統領や軍トップがその瞬間を見守る・・・といった場面ですが、実際はどうでしょうか?)

しかし、単に最高指導者を殺害しただけでは事態は改善しません。別の人物がその地位を引き継ぐだけです。
むしろアメリカへの反発から、攻撃的姿勢が強まることが懸念されます。

マンスール師への「和平交渉に参加するのを阻み、アフガン政府との和平の妨げになっていた」という評価は、同師がオマル師死後の後継者になった昨年夏頃の評価・期待とは大きく異なります。

マンスール師は当時は穏健派とみなされ、実際にも和平交渉に携わってきた人物です。

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パキスタン情報筋によると、タリバン内部ではマンスール師が近年、オマル師に代わって実権を握っていたことに不満が高まっていた。

マンスール師は政府との和平路線を推進。オマル師の名を使って和平交渉の正当性を訴える声明を出していたとされ、一部の強硬派が反発していた。
 
マンスール師率いる新指導部は(2014年7月)30日、「イスラム教の教義に基づいた統治が行われるなどの条件が満たされれば、和平に応じる用意がある」との内容の声明を発表。引き続き和平プロセスに参加する姿勢を明らかにした。【2015年7月30日 時事】
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しかし、タリバン内部には強硬派による和平交渉への反発が強く、最高指導者承継にあたって内部対立が激化。
そうした対立を収めて最高指導者としての地位をタリバン内部に認知させるために、マンスール師は敢えて強硬な姿勢をアピールする形ともなりました。(韓国で親日批判を防ぐために、政権がことさらに対日強硬姿勢をアピールするようなものでしょう)

実際、彼が権力を引き継いでから、テロ活動はむしろ激化したように見えます。

和平交渉からの方針転換 予想されるタリバンの対応硬化
そうした流れで激化するタリバンの攻勢、進まない和平交渉に対し、アフガニスタン政府・アメリカもマンスール師への期待を捨てたようです。

****米、強硬策に転換 トップ殺害か、タリバーン硬化へ****
アフガニスタン政府との間で14年余り、泥沼の戦闘を続けるタリバーンのトップを米軍無人機が空爆し、殺害したとみられる。交渉による解決の試みが行き詰まる中での方針転換だが、力ずくの紛争終結に見通しが立つ状況ではない。(中略)
 
マンスール幹部は昨年7月に最高指導者オマール幹部の死亡が明らかになる数年前から、事実上、組織を取り仕切ってきた。中東カタールにある政治部門を通じて水面下で対米交渉に乗り出すなど、現実路線派と目されていた。
 
米政府も、タリバーン内では、強硬派で大規模テロを手がけるハッカーニ派をテロ組織と認定して無人機攻撃の対象としてきたが、マンスール幹部らタリバーン指導部への直接攻撃は、これまで控えてきた。
 
今年1月には、アフガン政府と、タリバーンに影響力を持つパキスタン、中国とともに和平を後押しする4カ国協議を立ち上げ、交渉の場に着くよう呼びかけた。だが、マンスール幹部の指導部はハッカーニ派の首領を副官に据え、3月には和平拒否を宣言。4月には「大攻勢を始める」と発表し、カブールで64人が死亡するテロを起こした。
 
アフガンのガニ大統領は「もはやタリバーンを交渉の席に連れてきてほしいとは思わない」と反発。収監中のタリバーン6人の処刑を命じた。米政府は最高指導者殺害作戦で、交渉よりも力による解決へ足並みをそろえたことになる。
 
トップ不在となれば、タリバーンの結束は乱れるとみられる。アフガン大統領府は22日の声明で「和平に加わる好機だ」とし、穏健派の離反を呼びかけた。

ただ、昨年のトップ交代では和平機運はむしろ遠のき、マンスール指導部に反対する一派が中東の過激派組織「イスラム国」(IS)に共鳴する動きさえ見せた。今後、組織内で強硬派が主導権を握る恐れもある。
 
2001年の米同時多発テロを機に始まったアフガン戦争は出口が見えない。
オバマ政権は14年5月、駐留米軍について14年末で戦闘任務を終了後、16年末までに完全撤退させると正式表明した。

だが、タリバーンが農村部を中心に攻勢を強め、15年10月に計画の撤回を余儀なくされた。米兵約5500人が、17年1月以降も駐留して訓練や対テロ作戦を継続。撤退は次期政権に持ち越された。
 
野党共和党を中心にアフガンへの関与を強めるように求める声もくすぶり、11月の大統領選でも争点になるとみられる。【5月23日 朝日】
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“16年末までに完全撤退させる・・・・” そんな話もあったね・・・と思えるほどに、アフガニスタンの現状は厳しくなっています。

タリバン内部では後継者選びの動きもあるようですが、更に強硬・攻撃的な指導部となりそうです。
アメリカとしても、それも承知のうえでのマンスール師殺害でしょうが。

****<タリバン指導者>後継者選び本格化か マンスール師死去で****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバンは22日、米国が無人機攻撃での殺害を発表した最高指導者マンスール師の後継者選びを始めた。ロイター通信がタリバン幹部の話として伝えた。

候補にはタリバンを創設した故オマル師の息子や過激な武装組織を率いる幹部らがあがっている。武闘派が引き継げば、アフガン政府が目指す和平交渉入りはさらに難しくなりそうだ。
 
タリバンはマンスール師の死亡を公式には発表していないが、後継者の発表と同時に認める可能性がある。
 
パキスタン紙などによると、後継者の有力候補はマンスール師に次ぐ副指導者で、武装組織ハッカーニ・ネットワークを率いるシラジュディン・ハッカーニ師。この組織は2011年の在カブール米大使館襲撃事件や首都カブールで先月64人が死亡した大規模自爆テロに関与したとみられ、米国は「海外テロ組織」に指定している。
 
このほか、和平に反対する強硬派の支持が厚いオマル師の息子ヤクーブ師や、ハッカーニ師と並ぶもう一人の副指導者ハイバトゥラ師などの名前も挙がっているという。
 
米国やアフガンは和平による紛争終結を目指しているが、後継候補の多くは武装闘争を支持する強硬派だ。マンスール師殺害の報復として戦闘を激化させる可能性がある。【5月23日 毎日】
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パキスタンのアフガニスタン鎮静化への本気度は?】
外国勢力へのテロ活動を行ってきた武装組織ハッカーニ・ネットワークのシラジュディン・ハッカーニ師がタリバンを率いるということになれば、和平交渉などありえない話にもなります。

もっとも、パキスタン、特にパキスタン国軍中枢である3軍統合情報部(ISI)の対応によっては・・・という部分もありますが。

アフガニスタンのタリバンにしても、パキスタン・連邦直轄部族地域(FATA)北ワジリスタン地区を拠点とするハッカーニ・ネットワークにしても、その創設から、活動支援に至るまでパキスタンが関与していることは公然の秘密です。

****ムシャラフ元大統領「パキスタンは対ロシア戦のためにタリバンを養成****
パキスタンは、13以上のテログループを支援し、そのメンバーをインドに対抗させ、又タリバンを対ロシア戦に派遣した。2001年から2008年までパキスタン大統領を務めたムシャラフ氏は、このように証言した。

ムシャラフ元大統領は、次のように指摘した―
「我々は、イスラム運動体『タリバン』を養成し、そのメンバーをロシアとの戦いに向かわせた。タリバン、ハッカニ、ウサマビン・ラディン、ザワヒリは皆、当時の我々の英雄だった。彼らが、悪魔となったのは後の事である。

1979年パキスタンは「戦闘的宗教過激派」への支援に着手した。「宗教的好戦性」なる専門用語は、我がパキスタンで生まれたものだ。

1990年代、インドとの間で領有権を争っているカシミールの解放を目指す戦いが始まった。その当時『タシカル-エ-タイバ』など11から12のグループが現れた。

我々は、そのメンバーを支援し、養成した。なぜなら彼らは、自分の命を懸けてカシミール解放のために戦ったからだ。」

このように述べたムシャラフ元大統領は「現在戦闘員らは、パキスタン国内で、自国民に対する戦いをしており、これを止めさせなければならない」と認めた。

ムシャラフ氏は、1999年国家クーデターで政権の座につき、1999年から2002年まで、まず首相を務めた。【2015年10月28日 Sputnik】
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ソ連撤退後もタリバンなどの過激派をパキスタンが支援してきたのは、カシミールでの対インド活動に投入しようとしたことに加え、アフガニスタンにあっては、インドの影響力が強いアフガニスタン政府に対抗してパキスタンの影響力を保持するためとも言われています。

今回、タリバン最高指導者マンスール師が殺害されたのもパキスタン・バルチスタン州アフマドワルの南西を車で移動中のことであり、パキスタンの旅券と身分証を所持していたと発表されています。

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空爆の現場から回収された旅券が正規のものかどうかは定かではないが、同師がパキスタン国内に拠点を構え、他国との間を自由に行き来していた実態が明らかになった形だ。【5月23日 時事】
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そうしたパキスタンの関与が強いタリバンなどの過激派組織の中にあっても、ハッカーニ・ネットワークはより過激であると同時に、パキスタン・ISI直系とも言えるほどパキスタンとの繋がりが強い組織です。

2011年9月、米上院軍事委員会の公聴会で証言した米軍制服組トップのマイケル・マレン統合参謀本部議長(当時)は、パキスタン軍3軍統合情報部(ISI)が武装組織「ハッカーニ・ネットワーク」を積極的に支援しており、同ネットワークはISIの「正真正銘の片腕」として行動していると、また、パキスタン政府は暴力的な過激思想を「代理組織」を通じてアフガニスタンに輸出しているとも名指しで非難しています。
もちろん、パキスタン政府・ISIは公式には「ハッカーニ・ネットワーク」との繋がりを完全に否定しています。

パキスタン政府は、2014年12月にパキスタン北西部ペシャワルの学校がイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」に襲撃されて149人が殺害された事件以来、国内でテロ活動を行うTTPに対しては、それまでの宥和的対応を捨てて、国軍と協力して掃討作戦に転じたとされています。

しかし、国外アフガニスタンで活動する「ハッカーニ・ネットワーク」などは、掃討対象にはなっていないと思われます。

現在のパキスタン・ISIとタリバンや「ハッカーニ・ネットワーク」との関係はよく知りませんが、パキスタンが本気でそうした勢力への圧力をかければ、資金・武器、潜伏場所などの面から、過激派組織は今までのような戦闘継続はできないと思われます。(中国と北朝鮮のような関係でしょうか)

逆に言えば、戦闘が継続しているのはパキスタンが本気で圧力をかけていない証拠とも言えます。

パキスタン側も今年3月に、タリバン指導者がパキスタン国内にいることを認め、和平交渉参加に向けて圧力をかけていくとの姿勢を明らかにしていました。

****タリバン指導部、国内に居住=パキスタン高官初めて認める****
パキスタンのアジズ首相顧問(外交・安全保障担当)は3日までに、アフガニスタンの反政府勢力タリバンの指導者らがパキスタン国内にいると明らかにした。米ワシントンで行われた講演で語った。パキスタン高官がタリバン指導者の国内居住を認めたのは初めて。
 
アジズ氏の講演を主催した米ワシントンのシンクタンクによると、同氏は「タリバン指導者や幹部、その家族はパキスタン国内にいる」と発言。タリバンを保護しているわけではないと強調しつつも、「パキスタン政府は『和平交渉の席に着かなければ、国外に追放する』と圧力をかけることができる」と語った。【3月3日 時事】 
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しかし、現にタリバン最高指導者マンスール師はパキスタン国内で、パキスタンのパスポートを持って活動していました。
パキスタンがどこまで本気でタリバンや「ハッカーニ・ネットワーク」などに圧力をかける考えがあるのか・・・・わかりません。

今回のパキスタン領内におけるマンスール師殺害にあたり、アメリカからパキスタン側への連絡は事後通知だったようです。

シャリフ首相は「無人機攻撃は主権侵害だ」と批判しているそうですが、事前にパキスタン側へ通知すれば、情報は必ずタリバン側へ漏れる・・・というアメリカのパキスタンへの不信感によるものでしょう。

タリバンなどのパトロンでもあるパキスタン側の本音が信用できないなかで、アメリカはタリバン最高指導者殺害後の青写真をどのように描いているのでしょうか?

青写真など描きようもない・・・といったところでしょうが、相手はアフガニスタンのタリバンではなく、パキスタンの国軍、特にISIであるように思えます。タリバンだけを相手にしていてはきりがありません。
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