孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エジプト  ガザ地区境界を「緩衝地帯」に 更に進むガザ封鎖

2014-10-30 22:45:28 | パレスチナ

(「緩衝地帯」設置のための家屋爆破作業 “取り壊される家屋は約800棟に上る。イブラヒム・メフレブ首相は29日、中東通信を通じて緩衝地帯設置令を布告。「対象地域の住民が自主的に立ち退かない場合、家財は没収する」と宣言した。【10月30日 AFP】)

ガザ地区からのイスラム武装勢力の侵入を阻止
エジプトでは昨年7月の軍事クーデターでイスラム組織ムスリム同胞団主導のモルシ政権が崩壊した後、ムスリム同胞団を徹底して取り締まる強硬姿勢のシシ政権に対し、イスラム過激派による軍・警察へのテロが頻発しており、特に、シナイ半島では複数のイスラム過激派組織が軍や治安部隊への攻撃を繰り返しています。

****治安部隊33人死亡=武装勢力が攻撃か―エジプト****
エジプト・シナイ半島のエルアリシュ付近で24日、自動車爆弾などによる2件の攻撃があり、治安部隊の兵士33人が死亡した。ロイター通信が伝えた。

治安部隊を狙った攻撃としては、2013年7月にモルシ政権が事実上のクーデターで崩壊後、最悪規模の犠牲者数となる。(中略)

シナイ半島では、イスラム組織ムスリム同胞団出身のモルシ元大統領が失脚して以降、イスラム急進組織「アンサル・アル・シャリア」などの武装勢力の動きが活発化。治安部隊を標的にした攻撃を続けている。【10月25日 時事】 
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シナイ半島で活動するイスラム過激派組織は隣接するパレスチナ・ガザ地区のイスラム過激派組織とのつながりも指摘されており、また、シリアやイラクで活動するイスラム過激派組織「イスラム国」に同調する勢力もあります。

エジプト・シシ政権は、こうしたシナイ半島の治安悪化を防止するため、ガザ
地区との境界地域を「緩衝地帯」とする作業に着手しています。

****ガザ境界に「緩衝地帯」=武装勢力の侵入防止―エジプト****
エジプト治安当局は29日、エジプトのシナイ半島とパレスチナ自治区ガザの境界沿いに、ガザからの武装勢力侵入を防ぐ「緩衝地帯」を設置する作業に着手した。エジプト側の境界隣接地域に暮らす住民に、立ち退きを要求している。

シナイ半島北部のアリーシュ付近では24日、兵士30人以上が死亡する自動車爆弾事件が発生しており、緩衝地帯設置はこれを受けた措置。当局は、シナイ半島を拠点とするイスラム過激派「アンサル・ベイト・アル・マクディス(エルサレムの支援者)」が、ガザの武装勢力の支援を受けて犯行に及んだとみている。

緩衝地帯となるのは、ガザ境界に沿った長さ10キロ前後、エジプト側へ幅約500メートルの細長い地域。当局は監視態勢の強化を図るという。【10月29日 時事】
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ガザ地区との境界地域を「緩衝地帯」として監視態勢を強化することで、ガザ地区からのイスラム武装勢力の侵入と、エジプトからガザ地区への武器密輸を防ごうというものです。

地下トンネルが支えた“密輸”経済
今回措置をパレスチナ・ガザ地区側から見ると、ガザ地区の封鎖が更に強化されたことを意味します。

周知のように、イスラエルはハマスがガザ地区を制圧した2007年以降、ガザの封鎖政策を実施しています。

従来よりイスラエルはエジプト・ガザ国境線に幅数百メートル帯状の非武装地帯を作って占領し、ガザとエジプトが直接国境を接しないようにしていますが、ガザの人々は国境地下にトンネルをいくつも掘り、イスラエルの目を盗んでエジプトからガザに武器や弾薬、食料や日用品などを運び込んできました。

こうした“密輸”が、封鎖されているガザ経済を一定に支えてきたとも言えます。
一方、ハマスはトンネルで武器を運び込むほか、密輸トンネルに「通過税」を設けて資金源としてきました。

ムスリム同胞団出身のモルシ元大統領の頃までは、こうしたハマス・ガザ地区の地下トンネルを使った“密輸”はある程度黙認されてもおり、ガザ地区ではケンタッキー・フライド・チキンをエジプトから取り寄せる配達サービスは人気を集めていたそうです。

****トンネルを通ってフライドチキン配達、ガザ地区で人気の新サービス****
国際的なファストフード店が存在しないパレスチナ自治区ガザ地区では今、ジャンクフードに飢えた人々のためにケンタッキー・フライド・チキン(KFC)をエジプトから密輸するサービスが、人気を集めている。

だが、配達まで数時間を要するため、これを「ファスト(速い)フード」と呼ぶのは難しい。さらに、エジプトからの輸送費やガソリン代が上乗せされるため、価格は約2倍と割高だ。

このサービスを行っているのは、ガザ市内にオフィスを構える配送会社「ヤママ」。交流サイトのフェイスブック)に作られた公式ページには、「木曜午後6時の配達をご希望の方は、水曜夜までにご注文を」と書かれている。

ヤママは1回当たり30人前ほどの注文を、ガザ地区から約40キロ離れたエジプト北部の街アリシュにあるKFC店舗に発注する。

商品は車でガザ地区との国境まで運送された後、ガザ地区南部のラファに通じる地下トンネルを通って運ばれ、そこから再び車に乗せられてガザ市内の本社に届けられる。その後、オートバイで注文客に配達するため、所要時間は3、4時間かかる。

2007年にイスラエルがガザ地区を封鎖して以降、同地区では入手困難な品物の密輸が横行しており、ファストフードの密輸はその流れの一環だ。

ヤママが販売する20ピース入りのフライドチキンの料金は、130シケル(約3500円)と、エジプト・アリシュの料金の2倍だが、3週間前のサービス開始以来、注文は順調に増え続けているという。【2013年5月17日 AFP】
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“イスラエルによるガザ地区封鎖”という言葉からは想像が難しい現実です。

しかし、このような“密輸”をめぐる状況は、昨年夏のエジプト政変で急変しました。
ムスリム同胞団主体でハマスと協調関係にあったモルシ政権に代わった現在のシシ政権は反ハマス路線に転換。ガザ側からエジプトに向けて掘削された数百本の密輸用トンネルを破壊し、境界のラファ検問所も封鎖しました。

今年夏のイスラエルとハマスの戦闘は、エジプトからの“密輸”を断たれて財政的に追い詰められたハマスの選択でもありました。

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ハマス側では危機感が高まっていた。ガザで働く4万人超の公務員に給料を支払えず、イスラエル政府とエジプト政府により、徐々に息の根を止められつつあった。

しかも、6月にハマスがパレスチナ自治政府との間で成立させた統一政府は、何の役にも立たなかった。

失うものは何もない状況に追い込まれたハマスは、再度イスラエルと戦うことが、現状打破の唯一の手段と判断した。【10月12日 東洋経済online】
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ハマスが得たもの、ガザ地区住民が失ったもの
結果的に、ハマスは秘密トンネル網だけでなく多数の軍事部門幹部を失い、軍事力の要であるロケット弾の保有数も大きく減らしたものの、地下トンネルを使ったイスラエルへの侵入攻撃、イスラエル人口密集地域を狙った長距離ミサイルを発射などにより50日間も持ちこたえ、政治的には一定の成果を得たとも言えます。

****パレスチナ ハマス支持広がる****
50日間にわたったイスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの戦闘について、パレスチナ人の間ではハマスが勝ったと考える人が79%に上ることが住民の聞き取り調査で分かり、ハマスの武力闘争が支持されている実態が明らかになりました。(中略)

また、戦闘期間中のパレスチナ暫定自治政府のアッバス議長の働きに満足していると回答した人は39%にとどまったのに対し、ハマスの事実上の最高指導者マシャル氏の働きに満足していると回答した人は78%に上りました。(中略)
パレスチナの人々の間でハマスの武力闘争が支持されている背景には、アッバス議長の対話路線に成果を見いだせず、イスラエルとの和平交渉が決裂状態となっていることへの無力感があるものとみられます。【9月4日 NHK】
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しかし、この戦闘により、2100人を超えるパレスチナ人が死亡し、負傷者は1万1000人を超えました。
ガザ地区の多くが廃墟と化しました。

膨大なガザ地区住民の犠牲者が出てても、意に介さず戦闘をやめなかったハマスですが、イスラエル軍によってハマス幹部が殺害されると、停戦を受け入れました。

戦闘中にイスラエル軍はイスラエル国境の地下トンネルを徹底して破壊しましたので、エジプト側のトンネル破壊・「緩衝地帯」の形成と併せて、ガザ封鎖は従来に増して堅固なものになると思われます。

停戦合意では、双方の間で隔たりが大きかったハマス側の武装解除や、包括的なガザ地区の封鎖解除など主要課題については約1カ月をめどに協議を進めると“先送り”されました。

その再交渉は9月末に開かれました。

****ガザ停戦交渉、10月末再開=イスラエルとパレスチナ****
イスラエルとパレスチナは23日、カイロで協議し、パレスチナ自治区ガザでの本格停戦に向けた交渉を10月最終週に再開することで合意した。AFP通信などが伝えた。

エジプトの仲介の下、双方が協議を行ったのは、8月26日に停戦で合意して以降初めて。この時の合意では、1カ月以内に再び交渉を始めることになっていた。【9月24日 時事】 
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“10月最終週に再開”とのことですが、現時点ではその関係のニュースは目にしていないように思うのですが・・・・。

【“54億ドル(約5800億円)の支援策”とは言うものの・・・
一方、家屋6万戸以上が損壊するなどの打撃を受けたガザ地区復興に向けた国際支援の取り組みも始まってはいます。
アッバス・パレスチナ自治政府議長は、復興支援会議で「復興には40億ドル(約4300億円)が必要だ」と主張しています。

****パレスチナ支援54億ドル=半分はガザ再建に―国際会議****
ノルウェーのブレンデ外相は12日、エジプトの首都カイロで行われたパレスチナ自治区ガザ復興に関する国際会議で、参加各国・機関から合計約54億ドル(約5800億円)の支援策が示されたと発表した。AFP通信などが伝えた。

ブレンデ外相は、半分の約27億ドルが、イスラエルとの戦闘で荒廃したガザの再建に、残り半分はパレスチナ自治政府の予算支援やヨルダン川西岸の開発に充てられると説明。アッバス自治政府議長は、ガザ復興に「40億ドルが必要だ」と訴えていた。

会議はエジプトとノルウェーの共催で、日本を含む50以上の国・機関の代表が出席した。

パレスチナのメディアによると、カタールの10億ドルをはじめ、欧州連合(EU)が約5億7000万ドル、サウジアラビアが5億ドル、米国が2億1200万ドルの拠出を約束した。【10月13日 時事】 
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“54億ドル(約5800億円)の支援策”とのことですが、カタール、EU、サウジアラビア、アメリカといった拠出国の数字を足したものとかなり差があります。どういう仕組みになっているのでしょうか?

****水増し? ガザ復興支援で得をするのはだれか****
超豪華ホテルで発表した巨額支援は「見せ掛け」。実際に資金が使われるかどうかは不透明だ

エジプトの首都カイロの郊外にあるJWマリオットは1泊210〜600ドルもする最高級ホテル。普段は静かなロビーが、この日ばかりは大混雑だった。(中略)。

この時、豪華過ぎるこのホテルでは、イスラエル軍の50日間に及んだ猛攻撃で破壊されたパレスチナ自治区ガザの復興費用を調達するため、70以上の国・地域や国際機関が参加する国際会議が開かれていた。

会議は先々週末、総額54億ドルの拠出を発表。パレスチナ自治政府が要請していた40億ドルを大幅に上回る金額だ。

だが数字にだまされてはいけない。よくあることだが、会議で決まった金額は巧みな算術によって積み上げられた見せ掛けの数字にすぎない。

そもそも、54億ドルのすべてがガザ復興に投じられるわけではない。この金額には、多くの国が毎年拠出しているパレスチナ支援金も含まれている。

「注意深く(会議の)名称を読むといい」とエジプト駐在ノルウェー大使トール・ウェンスランドは言う。「パレスチナに関するカイロ会議・ガザ復興」という包括的な名称は、パレスチナの他の地区のために既に約束済みの資金を紛れ込ませるのに好都合。

発表された54億ドルのうちガザ復興費は24億〜27億ドル程度。しかも、そのうちどれだけが新規の援助かも分からない。

例えば、アメリカが発表したパレスチナへの援助金は4億1400万ドルだが、夏以降で少なくとも1億1800万ドルが既に使われており、ガザ復興に充てる新規の援助は7500万ドルしかない。

国際社会は約束を破る
たとえ拠出が約束されても、それを実行させるのがまたひと苦労だ。例えば10年のハイチ地震の後には53億ドルの援助が約束された。だが半年過ぎても2%しか支払われていなかった。

昨年のシリア人道支援会議もそうだ。4カ月後の時点で拠出実績を調べたら、1億ドルを約束したカタールは270万ドル、7800万ドルを約束したサウジアラビアは2160万ドルだったという。今年1月の時点でも、会議で決まった総額15億ドルの約7割しか実行されていない。

ガザにはほかにも特有の問題がある。09年に同じような復興支援会議があったときは、イスラエル政府が復興事業の承認を2年以上も引き延ばした。

今回は、パレスチナ自治政府のアッバス議長とイスラム原理主義組織ハマスが6月に発足させたパレスチナ暫定統一政府が復興事業を監督することが条件とされている。しかしハマスがガザを実効支配する現状は当分変わりそうにない。

今夏の猛攻撃で、わずか365平方キロのガザに40億トンもの瓦礫が残され、6万5000人以上が住む家もなく冬を迎える。復興が急務であることは明白だし、たとえ金額が半分でも必ず何かの役には立つ。

だが、支援を実際より水増しして見せて得をするのは誰なのだろうか。

ガザの復興に手を貸すことで最も点数を稼げるのはアメリカだ。イスラエルに毎年30億ドルもの軍事援助をし、今回の攻撃に使われた砲弾や手榴弾を提供したことなどへの罪滅ぼしになる。

開催国のエジプトも得をした。ガザへの攻撃を意図的に長引かせ、難民の入国も拒んでいるのに、中東和平への貢献を称賛され、国内の劣悪な人権状況もおとがめなし。

一番救われないのは、支援対象のはずのガザかもしれない。【10月23日 Newsweek】
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仮に資金が集まっても、イスラエルの復興事業の承認に関する対応に加え、米欧など国際社会はハマスのガザ統治を認めておらず、復興資金や資材が軍事拠点再建に利用されることへの警戒もあり、資金が円滑に流れないことも想定されます。

****停戦は「命が脅かされなくなる」だけ “巨大な監獄”ガザに残された人々****
・・・・「普通の親なら、子どもには将来のことを考えさせるだろう。でも占領され、いつも理由なく暮らしを壊されるガザに、一体どんな将来があるのか」

イスラエルによる封鎖でガザでは産業は壊滅、PFLP(パレスチナ解放人民戦線)によると、失業率は実質80%を超える。“巨大な監獄”ガザを出ていく自由も、人々にはない。

「援助とたまの日雇いで食いつなぐだけの暮らし。将来の夢などかなうわけがないガザで、小遣いひとつやれない父親は、子どもたちに何を言ってやればいい?」【10月18日 dot】
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エジプトによる「緩衝地帯」設置により、“巨大な監獄”はより堅固なものになりそうです。
“監獄”内の復興も、急速な進展はあまり期待できません。
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