孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  四中全会が「法治」を議題に開催  まずは司法改革に着手

2014-10-21 22:37:20 | 中国

(「法治」を求め、官僚の腐敗を糾弾する「新公民運動」は、腐敗摘発を進め、「法治」を掲げる習近平政権によって厳しく弾圧されています。【1月27日 Record China】)

【「制度の前では誰もが平等で、例外はない」】
中国共産党の中央委員会の任期は5年ですが、党機関や中央・地方の政府、軍の幹部らが務める中央委員約200人及び候補委員約170人が参加する全体会議がほぼ年1回開催されます。

2回目の会議(二中全会)では党、政府の幹部人事について、3回目の会議(三中全会)では経済政策について討議されることが多いとされますが、20日から4回目の会議(第18期中央委員会第4回全体会議:四中全会)が開催されています。

今回の四中全会のテーマは「法治」だそうです。

****中国改革、「反腐敗」の次へ 「法治」旗印、庶民にアピール 共産党・4中全会開幕****
中国共産党の重要会議、第18期中央委員会第4回全体会議(4中全会)が20日、北京で開幕した。

「反腐敗」で政権運営の足場を固めた習近平(シーチンピン)指導部は、新たな改革の旗印に「法治」を掲げる。3年目を迎え、庶民の目に見える成果を示し続けられるか。真価が問われる段階に入る。

4中全会で習指導部は「法に基づく国家統治(依法治国)」をテーマに掲げた。中央委員会の全体会議で「法治」が主要議題になるのは初めてのことだ。

会議では胡錦濤(フーチンタオ)体制の最高指導部メンバーだった周永康(チョウヨンカン)氏らの摘発も、「例外なき法治」への決意の表れとして強調されそうだ。

「相当のレベルの指導者らが、党規や法律を犯して失脚したことに心を痛めている」。8日、習主席は中央・地方の主要幹部が一堂に会した会議で演説し、「制度の前では誰もが平等で、例外はない」と力を込めた。

習指導部は11月で3年目に入る。「反腐敗」の取り組みは党内外の予想を上回る規模で展開され、習氏は「期待以上に実行力のある指導者」(現職の中央委員)との評価を高めた。

しかし、周氏摘発でキャンペーンは一つの山場を越えた感がある。高官摘発の新鮮味は薄れ、「反腐敗」が政権の求心力アップにつながる段階は過ぎ去った。

「中国の改革開放は、その成果を具体的に庶民に示し続けることで推進力を得てきた」(中央党校の王長江主任)。現指導部が「法治」に取り組むのは、庶民のニーズが高く、改革が進めば成果を実感させやすい問題だからでもある。

中国では政治が司法に介入し、裁判所も地方政府や警察に生活権を脅かされた庶民を救う防波堤になっていないのが実情。苦境を指導者や外国大使館などに訴えようとする陳情者の波が途絶えないのは、根深い社会の不満と不安の表れだ。

 ■まず地裁から
指導部はすでに上海、広東、吉林などをモデル地区に指定。地元の党幹部が実質的に牛耳っていた中級法院(地裁に相当)以下の裁判官任免権や予算管理を、省の高級法院に委ねる改革に着手している。「地方(幹部)の不当な干渉を防ぐ」(党中央司法体制改革指導弁公室)目的だ。

だが、欧米式の三権分立は「今の政治体制の下ではありえない」(時事雑誌の南風窓)。改革は、党の規約が憲法に優先する中国独自の仕組みの範囲での調整にとどまる見通しだ。

4中全会では、習氏が軍への影響力を強めるための人事に踏み込むか、選挙制度改革を巡って混迷を深める香港情勢について明確な方針を示すかなどにも注目が集まっている。(後略)【10月21日 朝日】
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周永康氏の処分については、“習近平指導部による周氏周辺への粛清はここ1年、休みなく続けられているが、「自身への飛び火」を警戒し、周氏を守ろうとする党長老がいまも複数いるといわれる。共産党筋によれば、周氏は現在、党の規律部門の取り調べを受けているが、4中総会後に発表されるコミュニケで「身柄を司法機関に送る」と明記されれば、「事件が一件落着した」ことを意味し、逆に明記できなければ「反対勢力の抵抗で処理が難航している」とみることができるという。”【10月21日 産経】

党の利害が優先する「中国式法治」】
各紙が指摘しているように「法治」とは言いつつも、あくまでも共産党一党支配の大枠のなかでの話であって、中国の価値観に基づく「中国式法治」(10月20日 毎日)とも評されています。

周永康氏などの粛清について「制度の前では誰もが平等で、例外はない」「権力を制度の籠に閉じ込める」(習総書記)とは言いつつも、こうした粛清が権力闘争として行われており、多くの権力者周辺の問題は不問に付されていることは周知のところです。

また、「法治」と言いつつも、最高規範であるべき憲法に定められた「法治」「人権」を求める穏健な運動(新公民運動)を目指した人権派弁護士が公共秩序騒乱罪に問われて実刑判決を受けるという厳しい弾圧下にあるのが現実です。

「中国式法治」とは、公正さと予測可能な法の適用を含意している「rule of law」ではなく、権力者・共産党の恣意的な法の運用・解釈が許された「rule by law(法による支配)」であり、権力者・共産党自身が法に制約されるという概念はないように見受けられます。

そうした意味で、日本や欧米での「法治」とは異質なものではありますが、地裁を地元の党幹部が実質的に牛耳ってきた現状、裁判所も地方政府や警察に生活権を脅かされた庶民を救う防波堤になっていない実情が「中国式法治」によって改善されるのであれば、それはそれで有意義なこととも思われます。(欧米的な人権の面での改善は期待できませんが)

【「官場病(官界病)」と「疑心病」】
習近平政権は腐敗官僚摘発・綱紀粛正運動は今後とも継続していく方針のようで、その追及の手は海外へ逃亡した腐敗官僚にも及んでいます。

****中国系「腐敗官僚」摘発へ=豪政府が習政権に協力****
オーストラリア政府は、腐敗撲滅キャンペーンを展開する中国の習近平指導部に協力し、不正蓄財した資産を持って豪州に移住した中国系の元「腐敗官僚」の摘発に乗り出す方針を決めた。

連邦警察幹部は20日付の豪紙シドニー・モーニング・ヘラルドに対し、数週間以内に摘発に乗り出すと明らかにした。

中国政府は7月、国外逃亡を図った経済犯罪容疑者の摘発作戦「キツネ狩り」を開始した。豪州は米国やカナダと並び、賄賂や詐欺で不正蓄財した中国人富豪の逃亡先になっているという。【10月20日 時事】 
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ただ、腐敗しているのは官僚だけでなく、社会全体の問題でもあります。

****賄賂禁止されたら仕事やりにくい・・・汚職事件を捜査したら、企業側の本音がポロポロ=中国・安徽****
安徽省で、汚職事件に絡んで取り調べを受けた企業78社の関係者が、「賄賂禁止をされたのでは、仕事がやりにくい」と供述していたことが分かった。新華社は、役人に対して、見返りを渡さないと何もやってもらえないという「疑心病」が企業側に発生していると、同問題を深刻に受け止めた。

安徽省省農業委員会で農業産業指導処元処長で、収賄の疑いで起訴された金樹芳被告について、贈賄したとみられる農業関連の企業78社の関係者を取り調べたところ、多くの関係者が「賄賂禁止をされたのでは、仕事がやりにくい」との考えを示したという。

記者が改めて取材したところ企業関係者は一様に、「収賄の効果はあまりない」と述べて、「仕事がぶち壊しにならなければ、それでよい」との言い方をしたという。

新華社は、「仕事を進めるにあたり、何かをもらってもおかしくない」と思う「官場病(官界病)」が、企業人の考え方に影響を与えていると指摘。企業側が行政に対して許認可や手続きを求めた場合、「役人に見返りを与えなかったのでは、肝心のところで物事を進めてもらえない。面倒なことになる」との疑心暗鬼を発生させていると分析。

言い方を変えれば、企業側に「賄賂を渡して作り笑いをして、“通行料”を置いておく。大金を損したが、災いを取り除く“お祓い”」との意識が発生しているとして、「賄賂禁止をされたのでは、仕事がやりにくい」という風潮の危険性を強調。

「官」と「財」が阿吽の呼吸の「物言わぬスパイラル」に陥り、遠からぬ将来に不正な金品の授受が「権力全体の生態環境」になってしまうと指摘した。【10月20日 Searchina】
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こうした社会全体に蔓延する腐敗の構造にメスをいれることができれば、習近平政権の功績は大きく、経済的に飛躍した中国社会の次のステップを可能にするとも言えます。

逆に言えば、一部の役人・党指導者や金持ちが好き放題にやれる現状へ社会的不満が高まっており、一部腐敗官僚の摘発によるガス抜きにとどまらず、社会全体の規範を改革できないと共産党一党支配体制の維持も危うくなるということでしょう。そのひとつが「法治」の徹底ということでしょう。

安倍首相:「法の支配」で中国をけん制
一方、安倍首相も「法の支配」を最近しきりに強調したそうで、領海侵犯を繰り返す中国を念頭に置いた発言とも。

****安倍首相:「法の支配」強調10分で15回…中国けん制か**** 
安倍晋三首相は19日、東京都内で開催された国際法曹協会東京大会であいさつし、「あまねく法の支配が確立されることを目指して、リーダーシップを発揮していきたい」と述べ、国際法など法秩序の重要性を強調した。

首相は約10分間のスピーチで「法の支配」という言葉を15回にわたって使用。沖縄県・尖閣諸島周辺などで領海侵犯を繰り返す中国へのけん制も念頭に置いたとみられる。

一方で、中国の儒学者・孟子の言葉を引用したうえで「1000年以上の歴史を持つ国が多いアジア諸国の精神的伝統に古くから法の支配と同じ考えが根付いている」とも指摘し、一定の配慮も見せた。【10月19日 毎日】
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