孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シエラレオネからジンバブエまで  “TIA”(This is Africa.)

2008-06-26 17:05:42 | 国際情勢

(99年当時シエラレオネ政府の選挙スローガンは "The future is in your hands." でした。反政府勢力RUFは“じゃ、投票なんかできないようにしてやろう。”と住民の腕を切り落としました。冗談ではなく現実です。
もちろん、恐怖心を煽るとか、生産力をそぐといった意味合いもあったでしょうが、RUFも自分達の“悪い冗談”を楽しんでいたのでは・・・と思われます。・・・“TIA”
写真は13歳。アメリカ大使館で撮影されたもの。
“flickr”より By Travlr http://www.flickr.com/photos/travlr/83149636/)

【シエラレオネ ブラッド・ダイヤモンド】
先日、公開から1年以上たっていますが、ディカプリオ主演の“ブラッド・ダイヤモンド”を観ました。
アフリカのシエラレオネを舞台にした巨大ダイヤモンド原石をめぐるストーリーですが、90年代末期のシエラレオネの現実を背景したドラマです。

当時、サンコー(99年逮捕、03年病院で死亡)率いる反政府勢力“統一革命戦線(RUF)”が隣国リベリアのテーラー(97年大統領就任、03年失脚亡命、現在国際戦犯法廷において“人道に対する罪”等で公判中)と協力して“シエラレオネ内戦”を引きおこしていました。

サンコーのRUFはダイヤモンドをリベリアに密輸、見返りにリベリアのテーラーから武器や兵員訓練を受けるという関係があり、その関係を支えていたダイヤモンドは映画のタイトルにもなっている「血のダイヤモンド」、あるいは「紛争ダイヤモンド」「汚れたダイヤモンド」と呼ばれていました。
シエラレオネ内戦については07年8月15日(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070815)で、また、テーラーの裁判については1月30日(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080130)に取り上げたところです。

【手足の切断】
映画の冒頭でRUFが平和な村にトラックで押し寄せ、銃を無差別に乱射して殺戮を行うシーンがありました。
とりわけ強烈なのが、「手があるから投票なんてするんだ。だから投票できないように切り落としてやる。(切り落とす位置は)長手袋がいいか?短い手袋にするか?」と村人の手を刀で切り落とすシーンです。

正視に耐えないシーンですが、シエラレオネ内戦で横行した暴力のひとつで、実際に罪もない何千人もの人々が手足を切り落とされています。
現実は映画のシーンよりもっとむごいものがあります。

アブドル・サンコー(28歳)のケース
マンゴーを探している時に捕らえられた。食料運搬係をすると申し出たが、見覚えのあるゲリラ兵に、教師で裏切り者だと糾弾された。ゲリラは村を焼き払い、彼を告発したゲリラ兵がサンコーの家から斧を持ち出して彼を地面にねじ伏せ、右手を切り落とした。次に左手を切断し、意識を失って倒れておる間に口の周辺を切り、耳の一部を切り取った。そして他の多くの犠牲者に言い捨てたように「(カバー)大統領のところへ行け。大統領がおまえの手を取り返してくれるぞ。」と嘲り笑った。
(佐藤陽介 シエラレオネ―――忘れられた内戦――― 
http://www.jca.apc.org/unicefclub/unitopia/2002/Sierra.htm より)

【少年兵】
映画では、RUFに連れ去られた少年が恐怖と薬物によって“少年兵”に洗脳されていきます。この少年を連れ戻そうと探す父親が、ダイヤ探しと絡み合うひとつの話の流れになっています。
この少年兵も現実でした。RUFだけでなく政府軍も使用していたとも言われます。
シエラレオネだけでなく、スーダンでもウガンダでも見られます。
洗脳しやすい子供は使いやすいのでしょう。
映画の中、10歳ぐらいの子供達が自分の背丈ほどもある自動小銃を構えて無差別に人々を打ちまくるシーンも印象的です。

少年を探す男の妻と娘がいることがわかったギニアの難民キャンプ。
映画ではCGでしょうか。見渡す限り、視界いっぱいにひろがる難民キャンプが圧倒的です。
現実に36万人が国外に避難、このうち24万人がギニアに向かったそうです。

ディカプリオ演じる主人公は極端なアパルトヘイトを行っていたローデシア(現在のジンバブエ)の出身。
革命で母親はレイプされ殺され、父親はかぎで逆さに吊るされた・・・。20歳前後に傭兵としてアンゴラで戦う。
「共産主義と戦っているつもりだったら、資源(石油・ダイヤ)を目当ての戦いだった。」

ローデシアからジンバブエへの移行は、(今ではムガベ大統領が人種対立を煽っていますが、当時は)白人地主を温存する形で比較的融和的に行われ、国際的にも高く評価されたものでした。
しかし、現地では映画のような話“ぐらい”はあったことは想像に難くありません。
特に、ムガベ大統領が白人農園を強制的に接収し始めてからは、ごく普通の光景になったことでしょう。

アンゴラも東西冷戦下でのアメリカ・ソ連・中国の代理戦争、冷戦終結後は石油とダイヤモンドに支えられた資源戦争が、いつ果てるともなく続きました。

【傭兵】
映画では、このアンゴラ、シエラレオネで活躍(RUFにダイヤと引き換えに武器を売り渡す一方で、政府軍に雇われてRUF鎮圧を行う)する傭兵隊長“コッツィー大佐”という人物が登場します。
現実世界では最近、04年に赤道ギニアで発生したクーデター未遂事件の首謀者とされる英国人雇兵、サイモン・マンが話題になっています。
この事件はイギリス元首相サッチャーの不肖の息子もからんだ事件ですが、マン被告は18日、“南アフリカ、スペイン、米国の各国政府がこの赤道ギニア大統領転覆計画を承認していた”と証言しました。
南アフリカの秘密情報局の長官から、クーデターを実行せよという内容のメッセージを受け取っていたと話していますが、南ア外務省は翌19日夜「荒唐無稽でこっけいな証言。繰り返し言うが、被告は自らの行為の結果を受け止めなければならない」との声明を発表しました。

【TIA】
映画には他にも多々、印象に残るシーンがありますが、一番頭にこびりつくのは、話のあちこちで、ときに自嘲的に口にされる言葉“TIA”(This is Africa)でした。
手足の切断、少年兵、レイプ、利益に目のくらんだ政府軍、裏切り、貧困・・・人命の重さなど全く感じられない世界・・・TIA。

「全て白人たちの植民地のせいだ。外国人をみんな殺せ!」・・・そんな理性のひとかけらもない言葉であっても、現実の圧倒的な貧困、格差のなかでは、そこから這い上がれずにもがき苦しむなかにあっては一抹の共感も否定しきれない世界・・・TIA。

「このアフリカの赤土を見ろ。俺達の血を吸った色だ。」(コッツィー大佐)、「こんなアフリカなんか誰も関心はない。RUFだってこんな国を治めるつもりはない。ダイヤを手にしてこの国を出るんだ」(RUFの部隊長)・・・TIA。

内戦に苦しむアフリカ、TVの画面に映される国際ニュースはクリントン大統領の不倫騒動。
“紛争ダイヤモンド”取引を否定する欧米各国、独占ダイヤ取引企業。
先進国女性の手を飾る“ブラッド・ダイヤ”・・・TIA。

【ジンバブエ】
最近でもスーダン、和平交渉の行き詰るウガンダなど、TIAの現実はいくらでもありますが、ローデシアの生まれ変わりジンバブエでは、与党・ムガベ大統領の暴力によって、ついに大統領選挙の決選投票から野党候補が離脱する事態に。

欧米はもちろん、周辺国も非難を強めており、国連安全保障理事会は23日、ジンバブエ政府を非難する議長声明を中国、ロシア、南アフリカも含む全会一致で採択しました。
また、ネルソン・マンデラ前南アフリカ大統領は、英ロンドンで開催された同氏の90歳の誕生を祝う夕食会で、「隣国ジンバブエの指導者らによる悲劇的な失敗」について「人類の進歩を振り返ってみると、残念ながら同じような失敗がくり返されている」と指摘しています。

ツァンギライ議長は「これは全面戦争であり、選挙ではない」と、国際社会の平和維持部隊による解決を呼びかけています。
しかし、「米英がいかに批判を強めようとも、最後に決めるのはジンバブエ国民だ」と居直るムガベ政権に対し、非難する以上の手立てがないのも現実。
軍事介入となると実現は難しい情勢です。南部アフリカ開発共同体(SADC)も25日、スワジランドで会合を開きましたが、ジンバブエに影響力を持つ南アのムベキ大統領は欠席しました。

また、4月に周辺国での荷揚げ拒否というかたちで、ジンバブエ向け武器売却を米国などの国際圧力で阻止されている中国は、「大統領選を行って、国の安定を取り戻すよう期待する」(劉建超・中国外務省報道官)など、内政不干渉をたてにムガベ政権を支持する構えをみせているとか。

This is Africa. ・・・と言うより、 This is World.か?


コメント
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