モグ
ヮヮヮワワ ―――
――――
樹冠が大きくゆれる・・・
森の上は風が強く、西から東に流れてる。
薄っすら空はみえる。
パク
荷台の上で、朝ご飯をたべてる。
日の出は遅く、日没も遅い。
起きたらごはんができていて、トレイにのせて持ってきた。
「・・・」
シロネコが足に前足をのせたから、一緒に連れて来た。
煮魚。
大根も一緒に煮てあって、おいしい。
味噌汁や豆腐にライスも。
シャワーの後で髪はまだ乾いてないから、風でひんやりする。
モグ
ゥゥゥウウ ・・・・・・
地球の生物は、みな基本的に同じ材料で構成されている。
自己複製をする能力を持っていて、生きるのに必要な遺伝情報はDNAに収めている。
細胞はそれ1つで、とても複雑な化学反応を連鎖させている。
こうした連鎖反応を通じて、細胞はほぼ同じ細胞を複製する。
地球に住む生命は、数でもバイオマスでもそうした単細胞のものが最も多い。
みな同じ最後の共通祖先から、異なる生活環を持つ様々な種に分化していった。
生物は大きく3つのドメインに分類されていて、私たちは真核生物というグループで、他に古細菌と細菌がある。
真核生物にもアメーバなど単細胞の生物はいるけど、細菌と古細菌はすべて単細胞生物。
地球表面に住む多くの生物は、太陽のエネルギーによって光合成生物が生み出したエネルギーと分子に依存している。
そうではない細胞もあって、深海底や地底で自活している――太陽の酸化力によって地球が平衡状態にないために活動が可能で、太陽には依存している。
それをたべる生物もいて、地球表面の様な食物連鎖もある。
地殻のした数km岩石にも生物はいて、鉱物をたべて生きている――世代交代に100万年近くかかっているかもしれないけど、死んでもいないし仮死状態でも休眠してもいない。
地底で生きている生物の総バイオマスは、表面に住む細菌の全量に近いだろうと推定されている。
他にも、高い放射線のなかでも生きたりゴムを溶かすほどの酸やアルカリに耐えたり、永久凍土で何百万年も凍って耐えたりするような、私たちからみると極限環境でも生きる生物もいる。
多細胞生物は同じDNAを持つ複数の細胞が、それぞれ特殊化…分化して役割を変えて生きる。
人も多細胞生物で、赤血球をのぞけば10兆個くらいの細胞でできている――すべて合わせればおよそ30兆個。
多細胞生物を進化せたのは、真核生物のみ。
細菌はそれぞれ小さな細胞で、数マイクロ…μmを超えるものは少ない――μm=0.001mmで、電子顕微鏡でもその構造は分かりにくい。
多くは球か棒状の形で、丈夫で浸透性の低くない細胞壁と、その内側の厚さが数ナノ…nmの浸透性の低い細胞膜に囲まれている――nm=0.001μm。
糸状のやらせん状の細菌もいて、三角や四角のも見つかっている。
どんな細胞の中にも粘性のある細胞質があり、様々な生体分子が含まれている――とても小さな分子が多く、100万倍に拡大して何とか見えるようなものもある。
細胞質で目立つのは、長くクネクネしたような線。
遺伝情報をのせたDNAで、クネクネしているけどほとんどは端っこがつながったループになっている。
他にある程度見えるのは大型のタンパク質で、数百万個の原子がつながって構成されている――その分子構造は、X線回折で調べられている。
細菌のDNAは保護するタンパク質を持たず、専用の部屋…核ももたない。
古細菌もほぼ同じ様な構造で、核をもつ真核生物に対して細菌と古細菌は原核生物と呼ばれる――原核は、核以前という意味。
見た目も似ていてとても小さいので、何十年も古細菌は細菌と同じものだと思われていた――専門家でなければ、見分けるのは難しい。
古細菌は細胞壁を持たないのがいるという差の他に、遺伝的にも細菌とは異なっていることが分かっている――古細菌の違いを発見したカール・ウースとジョージ・フォックスらが丹念に調べた。
膜も違い、このためそれを生成する酵素も違い、その遺伝子コードも違う。
真核生物の細胞は原核生物よりもずっと大きく、人の細胞は平均して細菌の10万倍の体積を持つ――細菌サイズのもいる。
中身も多く、枝のように伸びた繊維の細胞骨格や小さな袋の小胞などが見える――物質を運ぶモータータンパク質もある。
小胞は様々な小部屋を形成する――管状のものや平たく伸びたものに層状になってものもあるけど、ただの泡もある。
真核生物は、原核生物に比べてずっと複雑な細胞骨格を持っている――細菌の構造は細胞壁ではなく細胞骨格で維持されており、細胞骨格に変異が起こるとただの球体になる。
アクチンフィラメントという繊維や、チューブリンフィラメントと呼ばれる中空の管などで骨格はできている――平たい細胞から、ニューロンの様に細長い細胞までその構造を維持できる。
アクチンやチューブリンは繊維の片方の端っこで合成され、反対の端っこで分解されて平衡をなしている――他の化学反応と同じで、細胞骨格も合成と分解を繰り返す平衡状態にある。
合成と分解のバランスを変化させることで、骨格の形を変えることができる。
真核細胞は細胞壁を持たず、柔軟な膜に囲まれている。
アメーバなどは骨格を変えることで細胞の形を大きく変化させ、偽足という突起を広げてエサを覆って食べる――広がった膜が再び融合して食胞を形成する。
食作用と呼び、膜が流動して溶け合うことができるため偽足は容易に融合することができる――この能力のおかげで、真核生物のみ捕食が可能になっている。
そして細胞核もある――このため真核生物と呼ばれる。
細胞核は平たい小胞がいくつもつながった膜を持っていて、膜が二つ重なった構造になっている。
核にはDNAがあり、基本的な構成要素は原核生物と同じだけどループではなく両端のある線状で、一般的にはそれが複数ある――端っこを保護するフタは、テロメアと言う。
大半の真核生物は同種のDNAを2つずつ持っていて、二倍体と言う――人の場合23種の2倍で、46本のDNAがある。
細菌と違い、真核生物のDNAは主にヒストンと言うタンパク質で保護されている――ヒストンはDNAを化学的な損傷から守り、遺伝子への干渉も阻害する。
染めることができるので、染色体と呼ばれる。
普段は顕微鏡でも見えないけど、細胞分裂の時は同種の染色体が結合してX型に見えるようになる。
ほとんどの細菌は環状のDNAを1つだけ持っていて、細胞壁に結合した部分もあるけど、そうでない部分は細胞内を漂っていてすぐ複製できる状態になっている――ヒストンで包まれていないので。
細菌の細胞内にはプラスミドという小さなDNAのリングもあって、これを使って細菌同士で遺伝子を受け渡すことができる。
古細菌にはDNAをヒストンで保護しているものもいる。
このため遺伝子へのアクセスが困難で、真核生物と同じような複雑な転写因子を利用している――より単純ではあるけど。
タンパク質を合成するリボソームと言う分子は、3つのドメインで似ている。
だけど古細菌と真核生物はより似ている。
ジフテリア毒素は真核生物と古細菌のタンパク合成を阻害するけど、最近では阻害しない。
ストレプトマイシンやカナマイシンの様に細菌のタンパク合成を阻害する抗生物質は、古細菌と真核生物では阻害しない。
古細菌と真核細胞は共通点が多く、真核生物は古細菌から進化したと思われる。
すべての真核生物はミトコンドリアを持つか、かつて持っていた。
植物や藻類は、ミトコンドリアの他にクロロプラスト…葉緑体も持つ。
ミトコンドリアと葉緑体は、それぞれが独立したDNAを持っており、これはヒストンで保護されていない。
かつて、自由生活をしていた細菌に由来していると考えられている。
硫酸塩還元菌という細菌は、硫酸塩を硫化水素に還元する――水素を酸化する。
火山や工場から出る硫黄化合物が酸素と反応すると硫酸塩ができ、これが雨にのって海水中にたまる。
硫酸還元菌がそれを硫化水素にすると、水より重いので沈んでいく。
硫化水素が酸素と反応すると硫酸塩に戻る。
海底では光合成生物が少なく、硫化水素が酸素の生成量を超えていると海に層ができる――成層という。
現代では黒海がそうなっていて、深層がよどんで硫化水素に満ちている――黒海型と呼ばれる。
酸素濃度がある程度高くなると硫酸塩が増えて、硫酸還元菌が増えたと思われる。
20億年前は世界中の海がこの様な状態で、10億年以上続いたと推定されている。
メタン生成菌は古細菌。
水素と二酸化炭素からメタンを生成して生きている――エネルギーも生きるのに必要な有機分子も、すべて自分でつくる。
二酸化炭素は容易に得られるけど、水素は酸素があると水になるので水素ガスはなかなか得られない。
なので無酸素の環境か、火山活動によって水素が勢いよく手に入る場所で生活している。
だけど硫酸塩還元菌がいると、メタン生成菌は資源の奪い合いで負ける。
腸もほぼ無酸素なのでメタン生成菌が住んでいるけど、肉を多く食べると硫黄分が多いので硫酸塩還元菌に負ける――硫化水素は腐った卵のにおいで、肉を多く食べるとより多く発生する。
淡水の湖には硫酸塩が少ないから、硫酸塩還元菌は棲めない。
なのでその底の泥やよどんだ沼の中にも、メタン生成菌がいる――そうした湖や沼ではメタンが発生し、たまに青い炎が水面の上を飛び回る。
天然ガスも、ほぼ彼らの活動によって生産されている。
真核生物は、古細菌にα-プロテオバクテリアという細菌が内部共生したことで進化したと考えられている――このα-プロテオバクテリアが、のちにミトコンドリアになった。
―――生命は、自身の構造を築く際や変化させるとき、エネルギーを使ってエントロピーの増加を抑えている――その過程で宇宙のエントロピーをより速く増やすので、生命をエントロピー発生装置とする研究者もいる。
地球のすべての生命は、ATPをそのエネルギー源としている――エネルギーを一時的に保存する。
ATPを合成するために、地球のすべての生命は酸化還元…レドックス反応を利用する。
そのエネルギーでプロトン…H+を膜の反対側に汲みだして、それが戻るときの勢いでATP合成酵素を動かして合成する――このため、膜も必要になる。
化学反応のエネルギーを直接利用しないのは、エネルギーを少しでも有効に利用することができるからだろう。
ある分子が別の分子と結合する場合、必要なエネルギーの1.4倍とか1.8倍のエネルギーがあっても反応した分子は1つしかできない――分子同士が結合するので、1.4個とか1.8個という状態はない。
私たち真核生物は、細胞内のミトコンドリアでATPを合成する。
ミトコンドリアの内膜に埋まった巨大な酵素間を電子が次々と跳躍し、その過程でH+を内膜の内側から内膜と外膜の間に汲みだす。
ATP合成に必要なエネルギーを得るのに、ミトコンドリアの膜の場合H+が2つ必要だと考えられる――人の場合で、駆動力は別の目的にも利用されているので、種によって必要な数は違う。
ただ膜が完全にはH+を遮蔽しないので、生理条件では3つ必要だと思われる――正確な測定は難しく、ミトコンドリアの場合多くの測定からおよそ3個必要。
例えばある反応でH+を5つ汲みだせたとすると、そのうち3個を使ってATPを1つ合成できる――2個は膜の外側に残る。
次の反応で5つ汲みだされると、合わせて7個になる――そのうち6個を使ってATPが2つ合成できるので合わせて3つになる。
反応のエネルギーを直接合成に使った場合、2回で2つ合成できる。
ほとんどの場合で、H+の濃度勾配を利用するやり方はただの化学反応に勝る。
褐色脂肪細胞などでは、あえてH+の濃度勾配を解消して無駄な熱を発生させて体を温める――身震いなしで発熱でき、小さな子供の頃によく働く。
最終的に電子は酸素に渡されて水になる――酸素を電子受容体として呼吸していて、この一連の流れを電子伝達系とか呼吸鎖と呼ぶ。
人の細胞には平均数百個のミトコンドリアがあり、その内膜には呼吸鎖の酵素が数万個ある――内膜はクネクネしていて表面積が大きく、1人の持つミトコンドリアの膜面積を合わせると少なくとも1辺が120mの正方形はあり、長さは地球数十周分になる。
呼吸鎖に関連する酵素は、生命全体に保存されている――発酵に頼る微生物はのぞいて。
真核生物はすべてミトコンドリアに頼っているけど、細菌と古細菌は様々なレドックス反応を利用する。
エネルギーを得るのであれば、レドックス反応以外にも利用できるものはあっただろう。
だけどレドックス反応なら電池と同じなので、電子供与体と電子受容体を環境に合わせて変えることができる――このセットを、レドックス対という。
私たちは電子供与体として有機物を食べる必要があるけど、細菌や古細菌は別のものを食べて電子供与体とすることができる――硫酸塩還元菌などのように。
呼吸鎖の反対側から電子を引っ張れる酸化剤であれば、なんでもいい――諸酵素は基本的に同じものを使うことができる。
細菌と古細菌の利用するレドックス対をリストにすれば、知られているだけでも数ページになる――真核生物は代謝の多様性はない。
呼吸鎖の末端で働くタンパク質を変えれば、同じシステムを使って様々なレドックス対を利用できる――石も利用できる。
細菌と古細菌は、遺伝子の受け渡しを頻繁に行っていることが分かっている――呼吸に関するタンパク質のコードは、特によく交換している。
それまで利用していたレドックス対が少なくなったら、その細菌は生きていけない。
だけど新しい環境で上手くやっている細菌から、それを利用するための遺伝子群をまとめて受け取れば大丈夫――基本となる呼吸鎖は、そのまま利用できるので。
地球の生命がエネルギー源としてレドックス反応を利用するのは、この柔軟性のためだと思われる――環境の変化に強いので、地球以外の生命もレドックス反応を利用したものが多いのではないかと予想できる。
光合成は光のエネルギーで電子を励起して、電子受容体に渡す。
呼吸はすべての生命が利用するけど、光合成は一部の生命だけが利用する――そして呼吸と同じ諸酵素を利用する。
このため、光合成は呼吸に由来すると思われる―――
パク
細菌と古細菌は小さい。
球状なら、表面積は半径の2乗に比例するのに対して体積は3乗に比例する。
大きくなると表面積よりも体積が速く増えるので、細菌のような単純な細胞だと反応の維持が難しくなる――合成物や老廃物を輸送する仕組みがない。
多くの細菌は棒状の形をしていて、これだと体積に対して表面積の割合は大きくなる――だけどどんどん大きくしようとすれば、体積の急増をある程度軽減する程度の効果しかない。
呼吸鎖に関連する酵素は、膜を貫通している――H+を汲みだしたりするので。
酵素は、DNAからコードを写されたRNAと材料となるアミノ酸がリボソームで対応することで合成される。
大きく広がった膜の表面にそれらを運ぶのは大変である。
膜の拡大のために新たな脂質の生産も必要で、同じ合成速度ではとても間に合わない。
ただ、巨大な細菌は種類は少ないけどいくらか知られている。
平均的な細菌に比べて単細胞の真核生物はおよそ1.5万倍の体積を持っているけど、巨大細菌はそれより大きい。
エプロピスキウムは細長い形をしていて、長さは約0.5mmで細菌としてはとても巨大である――肉眼でも見える。
チオマルガリータはさらに大きく、直径が1mm近い球状をしていて大部分を液胞が占めている――この大きさで細胞ひとつ。
こうした巨大細菌は、DNAを何セットも細胞内に持っている――超倍数性といい、エプロピスキウムは多くて20万セット、チオマルガリータは約1.8万セット。
たくさんあるDNAで同時にタンパク質を合成することができるので、材料が十分にあれば合成速度はその分速い。
どちらも細胞の内部は不活性で、DNAは細胞膜の近くにある――内部に余分なものを持たなくていいので、タンパク質の合成コストが節約できる。
ゲノム解析もされていて、1つの遺伝子が利用できるエネルギーは平均的な小さい細菌と変わらない――平均的な真核細胞は、平均的な細菌に比べて1つの遺伝子が利用できるエネルギーは1000倍以上になる。
DNAは小さい方が速く増殖できる――DNAの複製には時間がかかる。
真核生物はふつう複数の染色体にDNAがあって、その複製も並列で行われる。
原核生物の染色体はふつう環状で、レプリコンという一点から複製が始まる――複数の染色体を持っている原核生物も一部いて、並列で複製する。
細菌は1日で50世代以上のペースで増殖する――何の制約もなく1つの細菌が増殖を繰り返せば、2.5日で地球の質量を超える。
増殖速度がわずかでも早くなれば、数日で他の細菌を圧倒する数に増える。
なので細菌はDNAが小さい。
不要になった遺伝子を失った細菌が現れると、増殖速度が増してそれ以前の細菌を数で圧倒してしまうので――その遺伝子が後々必要になることがあったとしても、その時点で遺伝子を失ったものが数を増やす。
エネルギーのメリットがないのなら、増殖が大変な巨大細菌の数が少ないのは不思議ではない。
細菌同士はプラスミドで遺伝子を水平に移動させることができるので、ある細菌の集団で見れば、個々の細菌は自身が持っているよりもより多くの遺伝子を利用できる。
このため、個々の細菌のDNAは可能な限り小さくなって安定するだろう――そうならなかったものは駆逐される。
細菌は1つの細胞が平均して4000個の遺伝子をもち、ある細菌集団がもつ遺伝子の総数は、およそ1.8万個になる――細菌の株は、リボソームRNAによって決められている。
真核生物だと約2万個で私たち人は約2.3万個――ゾウリムシは4万個。
DNAの大きさだと、さらに桁違いに差が出る。
平均的な細菌が500万塩基…文字なのに対して、私たち人の場合は30億文字のDNAを持っている――サンショウウオの中には、人よりも40倍大きいものもいる。
人のDNAの内タンパク質をコードしているのは2%未満で、それよりも多くの割合がその調節を行っている。
コード以外のどのくらいが、調節機能を持っているのかははっきりしていない。
ただ、大半は役に立っていないと思われる――大野乾がジャンクDNAと名付けた。
非コードDNAのほとんどが有用なのではないかと考える研究者もかなりいて、ジャンクDNAと呼ぶのはやめた方がいいと主張している。
だけどタマネギの非コードDNAは、人の5倍ある。
かりにそのほとんどが調整機能を持っているとして、タマネギが人に比べてすごく複雑な様には思えない。
ジャンクはゴミではなく、別の機会に役に立つこともあるかもしれないと期待されているものを指している。
環境は変化していくので、ジャンクをため込んでおくことのメリットもあるだろう――ジャンク部分も含めたすべての遺伝情報をゲノムと呼ぶ。
真核生物の遺伝子はかなりゴチャゴチャに並んでいる――それに比べると、細菌のDNAは無駄が少なく整理されている。
通常、ひとつのタンパク質をコードするDNA配列を1遺伝子と定義する。
私たち真核生物の遺伝子は、タンパク質の欠けらをコードする短い配列があって、欠けらの間にイントロンという非コード部分が挟まっていて、それがかなり長い――コード部分はエキソンという。
1遺伝子でそれが数個あるのが一般的で、コード自体よりかなり長い場合が多い。
タンパク質を合成するときイントロンもRNAにコピーされるけど、その後リボソームでタンパク質合成を行う前にイントロンは切り離される。
リボソームはすべての生命が持っているナノマシンで、DNAに記録してあるコードからタンパク質を合成する――小さな細菌にも2万個くらい入ってる。
複雑な2つのサブユニットからなる巨大な分子で、構造と機能は3つのドメインで似ているけど細部が大きく異なる。
まだ理解されていない機構も多いけど、リボソームは非常に正確に遺伝情報を翻訳する――校正機能もあり、抗生物質ストレプトマイシンは翻訳エラーを頻発させることで効果を発揮する。
イントロンの切り出しはスプライソソームという別のナノマシンが行う。
真核生物が遺伝子をバラバラにして記録しているのは、それにメリットがあるためだと思われる。
選択的に情報を切り出すことで、同じ遺伝子から異なる断片を繋ぎ合わせることが可能になる。
こうした切り替えで、数十億種もの抗体をつくることができる。
それだけの種類があれば、ほとんどの細菌やウイルスにどれかを結合させることができる――そして免疫が働く。
イントロンの中には可動性のものがあり、これは細菌にもみられる――4000個の遺伝子の中に30くらいで、真核生物には数万個ある。
自己スプライシング型イントロンと呼ばれ、通常のやりかたでRNAに転写された後、自らがハサミとなって切り出される。
グループIIと呼ばれる自己スプライシング型イントロンは、RNAからDNAに変換する逆転写酵素をコードしており、それが翻訳されて出来たタンパク質は自己スプライシングを促進してそのまま複合体になる。
この複合体は、DNAを切断してイントロンを逆転写してDNAに入り込む。
原核生物もグループIIのイントロンを持っており、これが真核生物のイントロンのもとになったのかもしれない。
真核生物のスプライソソームも、中心には可動性イントロンと同じハサミを持ってる。
人も木もアメーバも、同じ遺伝子の同じ場所にイントロンがある場合が多い。
その他いくつかの研究から、おそらく真核生物の共通祖先がそれを持っていたからだと思われる。
このため、真核生物が現れた初期にこれらのイントロンが侵入したのだと思われる――可動性のイントロンが入り込み、その後可動性が失われたと考えられる。
真核生物の細胞は細菌よりもずっと大きく、利用できるエネルギーもずっと大きい。
古細菌の中に細菌が入り込むという、内部共生がそれを可能にした。
このため、細菌と違い真核生物は余計なDNAを持つことのエネルギー利用に対する耐性を持っていたと思われる――イントロンは大きな負担になる。
内部共生した細菌はミトコンドリアになり、今ではミトコンドリアのDNAはほとんどが宿主である細胞の核に移動している――今でもたまにそうしたことが起こり、遺伝病の原因となることもある。
やがて可動性を失ったイントロンは、そのままだと意味のないタンパク質を合成することになる。
自然選択は、スプライソソームをつくる――おそらく可動性イントロンに由来する。
これは巧みなナノマシンなのだけど、作業が遅い――現在のものでも、1つのイントロンを切り離すのに数分かかる。
リボソームは最大で1秒にアミノ酸を10個つなげるすごい速さで合成をするので、いくつものリボソームに覆われたRNAにスプライソソームがたどり着いてもあまり役に立たない――細菌のもつ標準的なタンパク質なら30秒もあれば合成する。
このままなら、可動性を失ったイントロンは致死的だったと思われる。
この選択圧が核膜の発達を促したのではないかと思われる。
リボソームとDNAの間に障壁をつくることで、RNAがリボソームに接近する前に切り出すことができる――現在の核膜は内側に伸縮性のある編み目のタンパク質の薄膜…ラミナが覆っており、DNAをせん断応力から守っている。
真核生物のもととなった内部共生細胞の宿主は、古細菌だったとわかっている。
なので最初は古細菌の膜を使っていたと思われるけど、現在の真核生物は細菌の膜を使っている。
内部共生した細菌の可動性イントロンが宿主に移動する時、脂質合成に関するものもあったのだろうと思われる。
移動したばかりの脂質合成は制御されておらず、それが小さな膜の袋になってばら撒かれたのかもしれない。
小さな袋はペタンコになって漂い、RNAの動きを妨げて初期のイントロンの切り出しを有利にしたのかもしれない――完全な膜だとRNAが移動できないので、不完全である必要がある。
やがて現在のような、精巧な細孔だらけの膜になった――細孔には核膜孔複合体がはまっている。
核膜は二重膜になっており、初期の膜がつぶれた袋であったという仮説に合う――細胞分裂の際、核膜はバラバラの小袋になり、やがて成長して娘細胞の2つの核膜になる。
核の構造をコードする遺伝子は、細菌由来のものと古細菌由来のものがある。
さらに真核生物だけが持つ遺伝子も入っており、内部共生の後に無秩序な遺伝子移動によって核膜が獲得されたのでなければ説明しにくい。
利用できるエネルギーの多さから巨大なDNAを持つことができるようになった真核生物は、大きく複雑な形態を持つことも可能になったのだろう。
・・・
ヌクレオチドと、それが変化した誘導体は生体内の反応のほとんどに関与している。
炭水化物…糖は、炭素と水が結合した化合物――主に(CH2O)nで表される分子で、nは3以上。
3つ以上の炭素を持ち、それ以上簡単な糖に加水分解されない糖を単糖と呼ぶ。
単糖にはそのカルボニル基がアルデヒドのものとケトンのものがあり、それぞれアルドースとケトースと言う――天然に多く存在するアルドースは、D-グルコースだけ。
炭素の数が3つだとトリオ―ス…三炭糖で、4つならテトロース、5つならペントース、6つならヘキソース…と続いて行く――グルコースは炭素6個のアルドースなので、アルドヘキソースと呼ぶ。
カルボニル基が結合した炭素…Cから順番に、C1、C2と番号をつける。
五炭糖…ペントースの最初の炭素…C1´に窒素塩基がグリコシド結合したものを、ヌクレオシドと呼ぶ――塩基と糖の原子を区別するために、糖の方に´…プライムをつける。
ヌクレオシドにリン酸基がエステル結合したものをヌクレオチドと呼ぶ――生理的pHでは、ヌクレオチドは中程度の強酸。
C3´にリン酸基がつけば3´-ヌクレオチドで、C5´にリン酸基がつけば5´-ヌクレオチド――2´、3´、5´の-OH基がエステル化することができるけど、普通は5´で、5´-ヌクレオチドとヌクレオシド5´-リン酸は同じ意味になる。
C1´に結合する塩基は、ほぼプリンかピリミジンの誘導体。
プリン塩基は主にアデニンとグアニンで、ピリミジン塩基は主にシトシンとウラシルとチミン。
糖はD-リボースか2-デオキシ-D-リボースで、デオキシリボースは、リボースの2つめの炭素の-OHがHに置き換わったもの――酸素…オキシゲン…Oがとれているので、デオキシという。
リボースにアデニンが結合したものをアデノシン、グアニンならグアノシン、シトシンならシチジン、ウラシルならウリジン、チミンならデオキシチミジンと呼ぶ――塩基一般では、塩基リボヌクレオシド。
2つの-OH基に、それぞれ単独にリン酸が結合したものをビスリン酸という。
だけど、リン酸基が2つまたは3つつながって5´に結合する場合があり、ヌクレオシドニリン酸、三リン酸という――リン酸が2つであっても、ビスリン酸ではなくてニリン酸。
アデノシン三リン酸…ATPは、アデノシンの5´に3つリン酸基が連なって結合したヌクレオチドで、2つならADP、1つならAMP――ATP、ADP、AMPの濃度は、各種代謝経路の調節を行う。
アデノシンの3´と5´にひとつのリン酸が結合して環状になったアデノシン3´,5´-環状リン酸を、サイクリックAMP…cAMPと呼ぶ――ホルモンシグナルの仲介をする。
ヌクレオチドがいくつも結合したものを、核酸という。
核酸には、リボ核酸…RNAとデオキシリボ核酸…DNAの2種類がある――糖がリボースならRNAで、デオキシリボースならDNA。
DNAの役割は私たちの遺伝情報を記録し、細胞分裂の際に自身を複製し、必要に応じてRNAを転写する。
RNAの役割は多い。
メッセンジャーRNA…mRNAは、DNAに記録された情報を転写してリボソームに運ぶ――タンパク質とRNAが結合したものをリボヌクレオタンパクと呼び、リボソームは2/3がRNA、1/3がタンパク。
トランスファーRNA…転移RNA…tRNAは、リボソームにタンパクの材料となるアミノ酸を運ぶ。
ある種のリボヌクレオタンパクは、他のRNAが転写された後の加工に関わる――触媒能を持つこともある。
多くの短いRNAは遺伝子発現の調整やウイルスに対する保護に関わり、RNA干渉…RNAiという――ウイルスの多くは、DNAではなくてRNAが遺伝情報を運ぶ。
RNAは2´-OH基があるために、塩基触媒で加水分解される。
DNAはそれがないために加水分解されにくく、RNAよりもずっと化学的に安定している――私たちが遺伝情報をDNAに記録するようになったのは、この安定性のためだと思われる。
DNAに存在する塩基は、主にアデニン…A、チミン…T、グアニン…G、シトシン…Cの4つ――A、T、G、Cの4つの文字が、遺伝情報をコードする。
他の誘導体も特殊な核酸のなかにあるけど、量はすくない――ある種の植物には、5-メチルシトシンがDNA塩基の7%に達する。
これらの塩基は、植物だけでなく動物でも簡単な分子から合成する――プリンとピリミジンには、それぞれ窒素…Nが4つと2つある。
NH3かグルタミン、CO2かカルバモイルリン酸、ギ酸、グリシン、アスパラギン酸などから合成され、多くの生物で生合成経路はほぼ同じ。
この合成にはATPを多く消費するので、DNAやRNAの分解で生じるプリンやピリミジン塩基は再利用される――細胞がプリンやピリミジンを合成できないときは、再利用経路のみに依存することになる。
モグ
ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックは、63年前にDNAが二重らせん構造であることを発見する――2本の鎖が結合してらせん構造になってる。
塩基の形の制約から、AはTと水素結合し、CはGと水素結合する――片方の鎖のAには、もう片方の鎖のTが結合する。
この二重らせんがほどけると、それぞれの鎖の塩基は対をなさない状態になる――水素結合は共有結合よりも弱いので、鎖がほどけても鎖自体は分解されない。
そのままほっとくとまた自然と結合するけど、離れたままにしておくと新しい塩基がまた対をつくる。
2つの鎖がそれぞれ新たな対を得るので、元の二重らせんと同じ構造のものが2つできる――そして、2つに分裂する細胞は同じDNAのセットをそれぞれ持ち去る。
人のDNAは約30億文字で、体を構成する10兆以上の細胞がそれぞれ同じコピーを持っている。
細胞が分裂するときは数時間ですべての文字を高い精度で複製するけど、1~100億字に1字くらいの割合で間違える――こうしたエラーは、突然変異という。
何度も分裂を繰り返すと、エラーも蓄積される。
受精卵が女性になる場合30回ほど分裂してから卵細胞をつくり、誕生後は生産しない。
男性の場合は精子ができるまで100回も分裂を繰り返し、誕生後も生産を続けるので変異は蓄積されていく。
父親が若い場合でも、子供のDNAは親に比べると平均200個ほど変異を起こしている――父親が高齢になれば変異は増える。
世代間の変異は多くがこのような1文字ずつの変異だけど、たまに、染色体が丸ごと多くなったり、広い領域が欠損したり、ウイルスが新しい文字列を挿入したり、文字列の一部が逆さまになるような大きな変化も起こす――あまりにも変化が大きいと、生存することができない。
生存を困難にするような変化は次の世代には受け継がれる可能性は低くなるので、自然選択はDNAの変化を抑える――その環境で有益な変化であれば、保たれる。
1文字の違いをスニップス…1塩基多型と呼び、人はそれぞれの個人で1000文字に1文字くらいの割合で差異がある――ゲノム全体では、600~1000万字になる。
ある領域に注目して調べることで、親子であるかどうかの判定もできる。
チンパンジーとボノボは私たち人に最も近縁な種で、700万年前頃に共通の祖先から分かれたと思われる。
それ以来1世代に200字ずつ変異が蓄積されたとして、変化は約1.1%になる。
チンパンジーたちも同じ割合で変化をしているので、合わせて約2.2%ほどの変異だと推測できる。
だけど実際の差異は1.4%で、これは自然選択によって有害な変異が抑えられたためだと思われる――この差異はDNAの並び方の共通性を比べたもので、欠損などの大きな変化がそれぞれに起きているので、ゲノム全体でみると共通性は95%になる。
人同士は、99.9%が同じ配列になる。
重要な遺伝子はずっと昔から機能を保っていて、多くの種が同じ遺伝子を持っている。
その変異を調べることで、どのくらい昔に共通の祖先を持っているかの推定が可能になる。
文字は4種なので、どんなにランダムに変化させても25%は一致する――なのでそれぞれの共通性は、25~100%の範囲になる。
タンパク質は、基本的に20種類のアミノ酸で構成されている。
最初、DNAに遺伝子が保存されているとしてどのようにそれを指定するのかは不明だった。
ただ、20種類のアミノ酸を指定しなければならないので、それぞれの文字が1つのアミノ酸を指定する可能性はすぐに排除された――4文字しかないので。
2文字…ダブレットでは4×4=16なので、これでも足りない。
3文字…トリプレットなら4×4×4=64なので、20種類を指定できる――後にトリプレットコードが正しい事が分かり、コドンと呼ばれる。
ただ、64の組み合わせがあるのに20種のアミノ酸しか指定しない理由が分からなかった――必要以上のコードがあっていいのなら、4文字…256通りもあり得ることになる。
最初にこの暗号のそれらしい答えを出したのは、物理学者のジョージ・ガモフだった――ビッグバンの提案者。
ワトソンとクリックは、二重らせんの構造を発表してすぐ、ガモフから手紙をもらうようになる。
ガモフは3文字のコード…コドンが、互いに重なりあっているという提案をした。
TAGTCCという配列があったとして、最初のコドンはTAGになる。
次は1文字ずらしてAGT、次はGTC…という事になる。
そして最初のTAGが1つのアミノ酸を指定するなら、別のアミノ酸はAGを最初に持ったコドンで指定されなければならない――別のアミノ酸は最初がCになる。
丹念にすべて調べれば、不可能なトリプレットがいくつも見つかる。
そして残ったコードの数は、20になる。
ガモフがこれを提案してほどなく、フレッド・サンガーがどんなアミノ酸同士でも隣り合うことができることを見出した。
そしてガモフの案だと、1文字変異があるといくつものアミノ酸に影響を与えてしまう――実験から、アミノ酸が1つしか違わない場合があることが分かっていた。
ワトソンとガモフは暗号解読のクラブをつくる――クリックもメンバーに加わった。
20種のアミノ酸にちなんで会員は20人限定で、それぞれアミノ酸の会員名を持っていた――ワトソンに誘われてリチャード・ファインマンも会員になり、グリシンの会員名を与えられた。
次のアイデアはクリックが出した。
会員向けの手紙の中で、クリックは各アミノ酸ごとに特定のアダプターの様な分子があると予想した――あるコドンに対応するコドンをアンチコドンと呼ぶ。
ワトソンはこの考えには賛成していなかったようだけど、ポール・ザメチニックがそれに該当する分子を発見する。
ザメチニックは細胞の細かな区画を単純化したものを試験管内で再現して、放射性元素を取り込んだアミノ酸がタンパク質になっていく様子を追跡した――そして、リボソームがタンパク質合成の場所であることを明らかにした。
それからまもなく、マーロン・ホーグランドとともに、アミノ酸が先に小さなRNAと結合してからタンパク質になるという発見をする――最初このRNAが何をしているのか分からなかったけど、ワトソンからクリックのアダプター分子説を聞いてそれを証明した。
このRNAはtRNAと呼ばれるようになる。
RNAは、タンパク質合成に欠かせないマシンに不可欠の様だった――RNAはチミン…Tの代わりにウラシル…Uを使う。
57年前にmRNAが発見され、新設されたばかりのワトソンの研究室はリボソームがタンパク合成の工場であることを示した――マット・メセルソン、フランソワ・ジャコブ、シドニー・ブレナーらも同様の結論を出した。
核内にあるDNAは動かず、タンパク質が必要になるとその一部をコピーしてmRNAをつくり、核の外にあるリボソームのもとに運ぶ。
翌年、クリックとブレナーはDNAの暗号がトリプレットコードであることを示した――塩基対を1つだけ取ったり外したりするとその後のアミノ酸配置が乱れるけど、並んだ3つを変えた場合は必ずしもそうはならない。
クリックはtRNAがランダムにやってきて、ジッとしているmRNAに結合して、アミノ酸がつながってタンパク質ができるというイメージを持っていた――これは間違いだった。
この考えの場合、始まりと終わりを決める方法がない――TAGTCCという配列ならTAGの次にTCCが結合する必要があるけど、別のtRNAがGTCに結合してコードを乱すのを防ぐ方法がない。
TTTTTTのような配列だと、正しい場所を特定するすべがない。
クリックのアイデアは、巡回置換を禁じているというものだった――TAGが暗号として機能するなら、一文字ずつずらしたAGTとGTAは機能しない。
TTTやCCCは除外されるので、まず4つ減って60になる。
そして3文字の巡回置換を禁じる場合は60/3で20となる。
これなら、1文字の突然変異でも複数のアミノ酸を変えてしまう事がない。
このアイデアはよくできていたので、当初多くの研究者に受け入れられた。
だけどコード解読の努力はその後も続けられ、技術の洗練と研究者たちの努力によって、本当のコードが明かされていった――およそ半世紀前。
3つのアミノ酸は指定するコドンがそれぞれ6つあり、5つのアミノ酸はコドンが4つあり、1つのアミノ酸は3つコドンがあり、9つのアミノ酸は2つコドンがあり、2つのアミノ酸はコドンが1つしかなく、3つのコドンは終了を意味している――複数のコドンが同じ暗号をコードしていることを縮重していると言う。
64すべてのトリプレットコードが意味を持っていた。
クリックの疑問だった読み始めの場所がずれると意味が変わってしまうという問題は、単純に端っこから読み始めるという方法で回避されていた――mRNAの5´から3´の方に読み込むようにできていて、最初に現れるメチオニンを指定するAUGコドンが開始コドンとなっている。
mRNAはテープのようなもので、リボソームはそれを読み込むマシンで、同時に複数のリボソームが張り付いてタンパク質の合成ができる――それぞれのリボソームが、それぞれ新しいタンパク質をつくる。
UAA、UAG、UGAは終止コドンで、リボソームに合成をやめて翻訳物を放すように指示する――RNAではTの代わりにUが使われる。
同じアミノ酸を指定するコードは、同義コドンと呼ぶ。
なぜこのような暗号になっているのかさらに研究され、理由が明かされた。
前駆体がピルビン酸であるアミノ酸は、コドンの最初の文字がUになる――DNAではT。
前駆体がα-ケトグルタル酸なら最初の文字がCで、前駆体がオキサロ酢酸ならAで始まる。
それ以外の単純な前駆体から合成されるアミノ酸は、Gで始まる。
こうしたアミノ酸の前駆体は、どれもTCAサイクルの中に存在する。
熱水孔で生命が誕生したのなら、コドンの最初の文字との間に関係があるのかもしれない。
2文字目は、水に溶けにくいかどうかが関係している。
水によく溶ける親水性のアミノ酸は2文字目がAになり、疎水性が高いアミノ酸6個のうち5個がTになる――中間のものは、CかGになる。
3文字目は、一部のアミノ酸をのぞいて意味を持っていない。
多くのアミノ酸が、2文字で指定できるのである――プロリンを指定するCCCは、CCUでもCCAでもCCGでも同じ意味になる。
また、1文字目がGか2文字目がUになっているコドンは、ほとんどが非極性のアミノ酸を指定する。
もしかしたら、最初の生命は2文字…ダブレットコードで情報を記録していたのかもしれない。
そして最初から使われていたアミノ酸が、現在のコドンの中で多くを占めているのかもしれない――その場合、コドンの少ないアミノ酸は後から使われるようになったと思われる。
最初の2文字でアミノ酸の性質を指定できる3文字のコードの場合、1文字だけ変わる点突然変異に強くなる。
私たちの遺伝コードは、点突然変異が起きても同じアミノ酸で維持されることが多く、変化が起きても似たものに置き換わる場合が多い――遺伝子の変化が表現型に影響を与えない場合中立進化と呼び、木村資生が提唱した。
また、多くの非コード部分が変化しても影響はほぼない。
パク
重要な機能を持つたんぱく質をコードする遺伝子は、多くの種に共通してみられる。
機能を変化させるような変異が、自然選択によって抑えられているのだろう――このため長い年月を経ても、それが維持されている。
ただ遺伝子に含まれる塩基の内、重要な部分をのぞけば変異してもそれほど影響がない。
そうした変異は自然選択に排除されないので、長い時間が経つあいだに変化が積もって種による遺伝子配列の差が大きくなる。
チンパンジーと人なら、共通の祖先が比較的近いので多くの遺伝子配列が共通している。
みかんや人の様に、ずっと昔に共通の祖先から分かれた種の間では、共通する配列が少なくなる。
一般的なタンパク質は数百のアミノ酸がつながってできていて、ひとつのアミノ酸を3文字で指定する。
イントロンも合わせて、1つの遺伝子は数千文字の配列のものが多い。
あらゆるタンパク質を分析した結果、タンパク質は20種の標準アミノ酸で出来ている――タンパク質は合成された後に化学修飾を受ける場合があり、それを加水分解すると標準アミノ酸以外のアミノ酸も見つかる場合がある。
アミノ酸は、アミノ基…-NH2とカルボキシ基…-COOHの両方を持っている小さな分子。
-COOH基と-NH2基が結合したCO-NH結合をペプチド結合と呼び、この過程でOHとHが余るので水…H2Oができる――この様に水を失っての結合を脱水縮合と呼び、逆反応は加水分解と呼ぶ。
2つのアミノ酸が結合しても、できた分子の両端にはそれぞれアミノ基とカルボキシ基があるので、別のアミノ酸と結合できる――できた分子もさらにペプチド結合できるので、どんどん長くすることができる。
結合部をのぞいた部分を残基と呼ぶ。
アミノ酸残基が2個縮合したものをジペプチド、3個はトリペプチド、3~10くらいはオリゴペプチド、多数縮合したものはポリペプチドと呼ぶ――まとめてペプチドということも多い。
ポリペプチドは枝分かれのない線状ポリマーで、両端にはそれぞれ遊離のアミノ基とカルボキシ基がある――それぞれ、N末端とC末端と呼ぶ。
タンパク質はこれが折りたたまれてできる――1本のものも、それ以上のポリペプチド鎖のものもある。
アミノ酸残基数は知られているもので40~34000で、普通は数百――1500以上のものは少ない。
20種のアミノ酸が2つ結合した場合の組み合わせは、202=400もある。
もうひとつ加わると203=8000種で、小さめのタンパク質でも100残基くらいあるのがふつうなので、20100=1.27×10130種もある――観測可能な範囲の宇宙にあると推定される原子数は、多めに見積もっても1082個くらいなのでそれよりもずっと多い。
生物が利用しているのはそのほんの一部。
最も単純なアミノ酸はグリシンで、1つの炭素にアミノ基とカルボキシ基が結合したもの。
このような、カルボキシ基の隣の炭素にアミノ基がついたアミノ酸をα-アミノ酸と呼ぶ――カルボキシ基から1つずつ離れた炭素にアミノ基がついたものは、β、γ…と呼ばれる。
グリシンの炭素に別の分子が結合するとことで、別のα-アミノ酸ができる――その中で最も単純なのはアラニンで、乳酸の-OH基をアミノ基で置き換えたもの。
標準アミノ酸はみなα-アミノ酸なので、ポリペプチド鎖が無駄に炭素で長くなることが無い――プロリンだけ、第二級アミノ基を持った環状構造で、別扱いする場合もある。
20種の標準アミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、システイン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸で、それ自身が生理作用を持つものも多い――人の場合、12種は体内で合成できる。
グリシン以外のアミノ酸は、鏡に映したように回転させても同じ形にならない2種の立体異性体がある――鏡像異性体とか光学異性体と呼ばれ、このような性質をキラリティーと呼び、そのような構造をキラルと呼ぶ。
L配置…左手型とD配置…右手型があり、グリシン以外の19種の標準アミノ酸はすべて、α炭素をキラル中心としたL-アミノ酸である――α-アミノ酸以外のアミノ酸やD-アミノ酸も生体に存在し、機能も多様だけど量は少ない。
ポリペプチドは一次構造という――タンパク質はポリペプチドなわけだけど、この段階では普通ポリペプチドという。
アミノ酸の側鎖には疎水性のものと親水性のものがあり、疎水性のものは水に触れないように、親水性の側鎖は水和するように力が働く――特定のアミノ酸の間の分子間力によって、自然に立体構造…コンホメーションができる。
部分的な、右巻きらせん…αヘリックス構造やβシート…カクカクした平面構造やターン…折り返しなどの構造を、二次構造という。
そして、それが全体として折りたたまれていく――このフォールディング構造を、タンパク質と呼ぶ。
折りたたまれたものを三次構造とか高次構造という――三次構造をサブユニットとして、いくつかのサブユニットが集まったタンパク質もあり、これは四次構造という。
タンパク質の三次元構造が、私たちの体の中で重要な化学的性質をもたらす――フォールディングの解けたものは変性タンパクと呼ばれ、どのタンパク質もアミノ酸の側鎖がでたらめにならんだ平均的な、よく似た性質を示す。
この構造を解明するには膨大な計算が必要で、グリッドコンピューティングによる解析も行われている――個人のパソコンなどを解析に参加させる方法で、難病の治療法の研究に強い力となる。
―――分子構造の解明は、反応機構の基礎的な理解に役にたつし、薬効の予測などの実用面でも役に立つ。
2つの物体の距離と同じくらいの波長の電磁波を当てると、波が回り込むように回折する。
原子の層の距離はX線の波長に近いので、結晶にX線をあてると回析パターンが得られる――回析した波同士が干渉を起こすと、波長を強めたり弱めたりしてパターン…干渉縞をつくる。
結晶を回転させると、原子層の配置が変わって回析パターンが変化する。
この回析パターンから、原子層どうしの距離と配置を計算する。
タンパク質など生体分子は、結晶を成長させるのが最も難しい――1辺が0.1mmあればいい。
できた結晶を4軸型回折装置の中心に置き、コンピュータ制御で4種の回転をさせながら回折パターンを記録する――複雑な計算で、コンピュータがやってくれる。
その結果、全原子の位置と結合の長さ、結合角がわかる。
このX線回折法は、DNAの構造など人類に様々な知見をもたらした。
第一原理法は、元素の種類と原子のつながりだけから分子構造を計算するもので、信頼性は高いけど計算の手間も時間もかかる――波動関数ではなく電子密度で表す密度汎関数法は、プログラムの手間や計算時間が短くてすむので、第一原理法の代替として使われる。
より多く使われるのは半経験法で、求めにくい値を実測データで代用する方法――扱える原子の数に制限はなく、幅広い分子に使える。
計算結果は画像表示されることが多く、注目している要素を色分けするなどして見やすくできる――このモデル化は、孤立分子にも固体にも使う事ができる。
コンピューターによる測定器の制御やデータ収集、構造解明は、近年の化学研究を一新させた――最低エネルギーの結晶構造や、相転移の予想が可能になる。
溶媒分子に囲まれた溶質分子の計算をすれば、その分子間相互作用や、DNAの一部やタンパク質のように適度にやわらかい分子が溶媒中でとる構造などが予想できる――より自然な環境で生体分子が示す構造や、その反応性の理解するのに役に立つ―――
ミィ
ある生物だけにみられるタンパク質というのは稀で、消化酵素のトリプシンや結合組織の様々なコラーゲンのように機能や構造がつながったものがまとまっている――タンパクファミリーと呼ばれ、同じ分子から進化したものだと思われる。
これらのタンパク質をコードする遺伝子ファミリーは、多くの場合で一つの染色体上で集団…クラスターをつくる。
全生命に共通する遺伝子もあるけど、真核生物だけにみられる遺伝子もある――真核生物の著名…シグネチャー遺伝子と呼ばれる。
真核生物は古細菌と細菌の内部共生によって進化したと思われるのに、真核生物のシグネチャー遺伝子がある。
一部の研究者は、これは真核生物が細菌と古細菌と同じ程度に古い起源をもっているためだと主張する。
また、遺伝子変異の速度が常に一定に保たれているとすると、真核生物の誕生は50億年前で地球よりも古くなる――生命のもとは宇宙から降ったというパンスぺルミア説もある。
変異の速度は、周囲の環境によって大きく変化する。
単純な説明は、シグネチャー遺伝子の進化が原核生物と類似する様な遺伝子に比べて、速く進化したというもの――真核生物は原核生物にない生活環に踏み込んでおり、新しい仕事のためにコードを大きく変化させて適応したというのは、驚くようなことではない。
真核生物のシグネチャー遺伝子も、古細菌や細菌の遺伝子に祖先をもつけど、進化の過程で大きく変化させてかつての類似性を失ったのだと思われる。
標準的な解析では、原核生物に対応する遺伝子がある真核生物の遺伝子の内、3/4が細菌に、1/4が古細菌に祖先をもつと思われる。
古細菌に内部共生したのはα-プロテオバクテリアと呼ばれる細菌のグループと考えられているけど、真核生物にみられる細菌由来の遺伝子はα-プロテオバクテリアに由来しているものばかりではない。
現生の細菌グループでは、25種から遺伝子を受け取っている様に見える――古細菌も同様だけど、グループの数は7~8種。
こうした遺伝子は、真核生物が大きな5つのグループに分かれする前に集中的に獲得している。
何度も内部共生を繰り返したという説明もできるけど、細菌と古細菌は遺伝子の水平移動をする。
古細菌に内部共生し、後にミトコンドリアになる細菌はその集団すべてが内部共生した訳ではないだろう。
自由生活をつづけた仲間が、遺伝子の水平移動によって現在の25のグループにも移動させたと考えれば単純に説明できる――細菌に由来すると思われる真核生物の遺伝子は、すべて最初の細菌が持っていた。
古細菌も同様である。
近年強く支持される系統樹では、古細菌の一部は別の古細菌のグループよりも真核生物に近縁だとされる。
DNAの文字…塩基は4種類しかないので、非常に長い時間を経ると、同じ文字が何度か変異する可能性がある。
そして何度か変異して元の文字に戻る可能性もあるので、とても古い時代のことを知るのが難しくなる。
原核生物は遺伝子の水平移動を頻繁に行うので、さらにぼやける。
このため地球のすべての生命の共通祖先がどのような遺伝子を持っていたかは、正確に知ることはできない。
―――動物の発生を制御する、Hoxという遺伝子がある。
この遺伝子は種類が少なく、脊索動物や節足動物のように遠く離れた動物間でも塩基配列がよく似ている。
DNAにはタンパク質を指定するコードなどが記録されているから、生命の設計図という言い方をされることが多い。
だけど発生に関してはDNAは設計図ではなく、レシピに近い――料理に詳しい人なら完成品を見たり食べてたりしてどんな材料を使ったかは分かるかもしれないけど、それぞれの正確な量や混ぜた順番、焼いた時間などは予想するしかないのに似てる。
DNAには、最終的にどのような体になるかを指定したコードはない。
同じDNAを持った個体であっても、環境が違えばまったく同じようには成長しない――なので完成品を詳細に観察しても、もとのDNAを完全に復元することはできない。
発生の際、ある細胞は別の細胞を引き寄せたり押しのけたりする――形も変わる。
細胞は様々な化合物を分泌し、それは拡散して遠くの細胞まで影響を与えることもある――物質の濃度勾配にも対応して、異なる反応を示す。
ある細胞は自ら死に、彫刻のように体の形をつくっていく。
どの細胞も同じDNAを持っていて、それぞれの役割を区別するものは遺伝子ではない。
個々の細胞が自分の振る舞いを区別できるのは、どの遺伝子のスイッチが入っているかによる――その影響は、通常その生産物であるタンパク質の濃度による。
発生初期の胚は、細胞の前後や上下区別するのに母親由来のタンパク質に依存している。
ハエの場合、母親の遺伝子でつくられたタンパク質の濃度勾配を利用して前後の軸を判断している――それに直交する軸で、お腹と背中を区別する。
最初の数回の分裂は新しい物質は何も加えることなく行われ、その分裂も不完全である。
多数の核があるけど、細胞の膜が完全に隔てていない――複数の核をもつ細胞でシンシチウムと呼ばれる。
その後膜がちゃんと仕切って、多細胞になる。
この過程で最初の物質の細胞間での濃度が変化し、それぞれが異なる遺伝子を働かせることになる。
そして細胞分化が始まり、発生後期には複雑に特殊化していく。
Hox遺伝子は、体のどの部分であるかを細胞に教える――特定の部位の細胞は、特定のHox遺伝子だけスイッチを入れる。
どのHox遺伝子が働いているかに加えその濃度によって細胞のその後の働きを変えるので、少数の遺伝子で全体を制御できる――最初の遺伝子生産物が、その後働く多くの遺伝子の働きに影響を与える。
この働きに誤りがあると、触角の代わりに足が生えているハエのような個体になる。
Hox遺伝子はすべての動物が持っており、それぞれが独自に同じ遺伝子を進化させたとは考えにくい――確率的に。
ハエの8つのHox遺伝子のそれぞれは、自身の別のHox遺伝子よりもマウスのHox遺伝子の中で対応する遺伝子により似ている。
おそらく共通の祖先が持っていた――12億年前頃に進化したと思われる。
線虫は紐のような形で、4つのHox遺伝子を持っている。
私たち哺乳類は4つのクラスターに分かれた38のHox遺伝子を持つ――それぞれのクラスターは別の染色体上にあって互いに似ており、重複によって数を増やしたのだと思われる…ある遺伝子を失ったクラスターもある。
おそらくHox遺伝子が多い方が、細かな体の繰り返し複製が可能で、複雑な構造にできるのだと思われる――金魚は7クラスター48のHox遺伝子を持っているけど。
ヒドラの様な刺胞動物は放射相称形で、前後や背腹の軸を持たない――クラゲなどで、私たちとの共通祖先は7億年前頃だと思われる。
口とその反対側という軸を持っており、Hox遺伝子は2しかない。
ハエの8つのHox遺伝子は同じ染色体上にあって、3つと5つで離れて並んでいる――5つの方が体の前部、3つの方が後部を担当している。
刺胞動物の2つのHox遺伝子は、それぞれハエの前部と後部のHox遺伝子群に似ている――おそらく、それぞれ重複して進化した。
ほとんどの動物がもつ遺伝子の中に、ParaHox遺伝子があり、これはHox遺伝子に似た遺伝子があり、並び順も同じなので親戚だと思われる。
発生に関わる他の遺伝子はこれらとは遠く離れているけど、やはりほとんどの動物で共通している。
Pax6はハエでもマウスでも目をつくらせる――つくられる目は昆虫と哺乳類で異なるけど、Pax6は目をつくるべき場所を示すだけ。
tinmanという遺伝子ファミリーは、心臓の位置を指定する――人のtinmanは人のPax6よりも、ハエのtinmanによく似ている。
こうした遺伝子群は非常に多く、いくつものサブファミリーに分かれている。
そしてより遠い親戚になるけど、植物や菌類なども同様の遺伝子群を持っている―――
ピピ ピ
ゴク
ボトルにいれたりんごジュースを飲む。
「♪」
木箱に座った膝の上に、シロネコが丸まってる。
白いから、煮た大根のかけらが落ちたら目立ちそう。
3つの倒木が切り取った空が、この辺りから別の方向に伸びてる。
雲が流れてる。
速い。
風と同じ向き・・・・
パク
ヮヮヮワワ ・・・・・・
ピピチュ