懐炉ネコ

2013年11月24日 12時50分17秒 | マーロックの雑記

                        ・・・・     ァァァァァァァ    ・・・・・

    ――

瞼を動かす・・・

つめたい。

寝袋の中は温かい。

足元に、黒猫がいる。

             ―― カチ

暗いので、手探りでランタンライトをつける。

・・・まぶしい。

カバンの裏にライトを置いて、光を抑える。

近くに置いておいた、ネコ時計を見る。

これは、黒猫がネコレースで優勝した時にもらった賞品。

ネコの肉球の形をしたデジタル時計で、ニャンタッチデジタルという。

シャープさんは、これを2つ持っている。

   ――

5時過ぎ。

よく寝た。

8時を過ぎないと太陽は出てこない。

             ・・・・    ァァァァァァァァァ    ・・・・・・・・

                                   ・・・・   ァァァァァァ    ・・・・・・

雨音がする。

「ニャー」

仰向けに戻ると、下から黒猫が頭を出した。

「おはよう」

辺りを伺っているけど、外に出ない。

寒いからだろう。

    パサ

・・・そう思ったら、外に出た。

シッポが、目にあたる。

     ・・・・・             ――

                                 ・・・・   ザァァァァァ   ・・・・・・・

は私たちの主なエネルギー源で、動物の主な糖源は光合成で作られた穀物デンプン…植物性多糖である。

植物は糖がたくさんできるとデンプンとして蓄えて、必要な時に使う。

セルロースも植物が生産する構造多糖だけど、私たちの小腸にはこれを加水分解する酵素がないので、糖源にはならない。

動物はエネルギー源としてグリコーゲンを持ち、2/3は筋肉にあって急に運動するときに使う――量は少なく、動物が大量にエネルギーを蓄えるのは脂肪として。

残りのグリコーゲンは肝臓に多くあり、血糖…血中のグルコース濃度を調節する。

嫌気生物と好気生物は、グルコースを代謝してエネルギー源としている。

最初に嫌気性の生物が現れ、後に好気性の生物が出てくる。

どちらもグルコースを分解…解糖と発酵するけど、嫌気性物は酸素を消費せず、生成物はそれ以上利用せずに細胞内にためるか排泄する。

好気生物は発酵したのち、生成物を酸素…O2で二酸化炭素…CO2と水…H2Oに酸化分解する。

嫌気代謝では、グルコースの分解は不完全で利用できるエネルギーも小さい。

好気代謝では、分解は完全で利用できるエネルギーもずっと大きい。

いずれも、そのエネルギーでアデノシン三リン酸…ATPを合成する。

ATPはあらゆる生化学反応の直接のエネルギー源で、タンパク質を作るときも、何かを考える時も、食物の代謝も、その原動力を直接与えている――地球の生命はすべてATPと共にある。

1molのATPから得られるエネルギーは7.3kcalで、細胞内では反応物質の濃度が標準状態から外れているためこれに4kcalほどが加わる――mol…モルはその分子約6.022×1023個分を意味する単位で、この数はアボガドロ数という。

これは、4.7トンのものを1m持ち上げられる力。

筋肉はATPをゆっくり燃やすことで、最大60%を力学的なエネルギーとして利用できる――ガソリンエンジンの場合、理想的な条件で燃やしても25~30%くらい。

ATPは、端っこに3つのリン酸基が連なった構造をしている――手前からα、β、γと呼ばれていて、最初のリン酸基はエステル結合で、残りはリン酸無水物結合。

酵素の働きで末端のγリン酸が切り離され、そのエネルギーで化学反応を進める――電気的な反発力でリン酸が飛びだして、それが周囲のものにあたって熱エネルギーに変わる。

エネルギーを放出したATPは、アデノシン二リン酸…ADPになる――ADPはグルコースを代謝したエネルギーでATPに戻る。

―――細胞は1秒で約1000万個のATPを消費する。

腸内の微生物は豊富な栄養と適度な温度の環境下にあり、20分くらいで分裂できる――もっと速いのもいる。

それに必要なエネルギーを得るために、私たちの細胞の4倍近い速度でATPを合成する――1度の分裂でATP500億個くらい必要。

人は1gあたり2mWのエネルギーが必要で、60kgの人なら120Wいる。

単位量当たりでは太陽の10000倍のエネルギーで、でも太陽は圧倒的に大きいので地球中の生命を支えても有り余るほどのエネルギーを地球に届けている――太陽は中心の一部だけが核融合を起こしている―――

                                   ―――

解糖…グリコリシスは、1分子のグルコースから2分子の乳酸を生成する過程で、アルコール発酵ではグルコース1分子からエタノールとCO2を2分子ずつ生成する。

解糖は10段階の連続した化学反応で、最初の4つまではエネルギーを消費するけど、ピルビン酸に酸化される際にエネルギーを出す――エネルギーが必要な場合は吸エルゴン反応といい、エネルギーが得られる場合は発エルゴン反応という。

グルコース以外の糖も解糖の中間体に変えて、この反応に乗る。

アルコール発酵も、グルコースから2つのピルビン酸が生じるまでは解糖と同じで、ピルビン酸はエタノールとCO2に分解される。

解糖とアルコール発酵でもその過程で酸化は起きるけど、O2は使わない。

私たちの筋肉でも、酸素不足になると解糖で乳酸が生じる――酸素供給が十分なら、ピルビン酸は直接酸化されて好気的に代謝される。

この乳酸はそれ以上利用できないので、ピルビン酸に再酸化されて分解されるか、グルコースやグリコーゲンに合成される。

私たちは心臓に優先的に酸素を送るため、骨格筋では酸素不足になりやすく解糖に必要な酵素が多く、激しく動くとすぐに乳酸ができて、血液で肝臓に運ばれる――心臓では酸素供給がよくミトコンドリアが多いので、乳酸はほとんどできない。

肝臓では乳酸の80%がグルコースに戻され、筋肉に戻ってグリコーゲンに合成される。

残りの20%は好気性のTCAサイクルで酸化されて、グリコーゲン合成に必要なエネルギー源となる。

ピルビン酸やTCAサイクルの中間体であるオキサロ酢酸などからも、グルコースは合成される。

ある種のアミノ酸もピルビン酸やオキサロ酢酸になるのでグルコースになるけど、アミノ酸からグルコースを合成するのは飢餓の時や、急にグルコースが必要でタンパク質以外の炭素源がない場合に限られる――乳酸からの逆行反応は、ミトコンドリアの中でしか起きない。

アルコール発酵の最後は、アルコールデヒドロゲナーゼでアセトアルデヒトがNADHによって還元され、エタノールになる――NADHはビタミンB群を材料とするニコチンアミド-アデニンジヌクレオチドの還元型で、細胞内での電子の運び手で、還元剤は電子を与えて自身は酸化されやすい物質のこと。

アルコールデヒドロゲナーゼは動物の肝臓、網膜、血清、植物の種子、葉、酵母などの微生物にも分布していて、アルコールを多く生成する組織には限らない。

―――酵素には、国際生化学・分子生物学連合の酵素命名委員会が与えた系統名と酵素番号がある。

ただ、それだと長すぎて不便なこともあるので、ふつう常用名が使われる。

酵素命名委員会が推奨した常用名を推奨名という。

アルコールデヒドロゲナーゼは推奨名で、系統名と酵素番号はalcohol: NAD+ oxidoreductase (EC 1.1.1.1)―――

解糖でもアルコール発酵でも、グルコース1分子から2つのATPができる。

                                        ・・・・    ァァァァァァ    ・・・・・・

―――酸化のもっとも単純なものは燃焼。

燃焼で、物質は酸素と反応する。

この反応は2段階で考えることができる。

ひとつは燃やされる物質から電子が放出される反応で、もう一つはその電子を酸素が受け取る反応――全体としては同じことだけど、実際に反応がこの2段階で起きるわけではない。

この考えから、酸化の概念はより一般化された。

酸化とは、ある化学種から電子が取り除かれるという意味で使われる。

このように酸化の概念を拡張したことで、もともとの酸化の意味も含んでおり、さらに酸素が関係しない反応も含めることができるようになった。

2価の鉄イオン…Fe2+が、電子を1つ放出して3価の鉄イオン…Fe3++e-に変わるのは、一般的な意味での酸化のひとつである――e-は電子。

還元は、もともと水素との反応を意味した。

熱した酸化銅(Ⅱ)…CuOに水素…Hを通すと、銅…Cuと水…H2Oができる。

この反応も2段階で考えることができ、ひとつは水素が電子を放出し、もう一つは銅が電子を受け取る――この反応に続いて、電子を失った水素が電子を多く持っている酸素と結合して水ができると考えることができる。

この考え方も、還元の意味を一般化した。

還元とは、ある化学種に電子を与えることである。

こう考えてももともとの還元の意味は含んでおり、さらに水素が関与しない反応もまとめて考えることができる。

3価の鉄イオンが電子を受け取って2価の鉄イオンになるのは、還元である――酸化の逆反応は、すべて還元である。

ある物質が酸化して電子を放出し、その電子を別の物質が受け取って還元されれば、形の上では対になったものとみなせる。

なので、これを酸化還元反応という。

電子を受け取って自分自身が還元される物質を酸化剤、電子を放出して自分自身が酸化される物質を還元剤という。

生体は、ほとんどのエネルギーを酸化還元反応で得ている。

光合成は、二酸化炭素に電子を与えて…還元して糖を、水から電子を奪って…酸化して酸素を作る――これは、光のエネルギーがなければ進行しない吸エルゴン反応。

私たち真核生物と多くの原核生物は、光合成で作られた糖やその他の化合物を酸化して、そのエネルギーでATPを作る。

細胞内での酸化には3通りある。

ひとつは脱水素で、これはH-+H+の除去または2H++2e-の除去。

あとは電子の除去と酸素原子の取り込み―――

                                             ァァァァァァ    ・・・・・・

TCAサイクル…トリカルボン酸サイクルは、クレブスサイクルとかクエン酸サイクルとも呼ばれる。

この代謝経路を明らかにしたクレブスが、TCAサイクルという名称を与えた――TCAサイクルはクレブスが確立したけど、経路が完成するのはその後の多くの研究者の努力により、現在も研究は続いている。

このサイクルは私たちが好気的に糖を代謝する経路で、脂肪酸、アミノ酸の代謝経路でもあり、各種の生合成に必要な原料を提供する経路でもある。

糖は、解糖系でピルビン酸に酸化される。

嫌気代謝では、これがNADHで還元されて乳酸になる。

好気代謝では、ピルビン酸はミトコンドリアに入ってアセチルCoAに酸化される――TCAサイクルに必要な諸酵素は、私たち真核生物ではミトコンドリアにある。

サイクルの中間体が酸化されることで基質を離れた電子対…還元当量は、ミトコンドリアの電子伝達系に入って酸素の還元に使われる。

多くの電子伝達体が還元と酸化を繰り返して、酸素に電子を運ぶ――好気的代謝と呼ばれるけど、酸素によって直接酸化するのではない。

直接の酸化剤はNAD+とフラビン…FADとFMNで、細胞内の量は限られているのですべて還元されれば反応は止まる――NAD+とフラビンの還元型はNADHと還元型フラビン…FADH2とFMNH2

したがって反応を続けるためには、NADHと還元型フラビンが再酸化されなければいけない。

真核細胞では、NAD+とフラビンはミトコンドリアマトリックスで還元され、それに接する内膜で酸素によって再酸化される。

この過程で、マトリックスからミトコンドリアの内膜と外膜の間に、プロトン…H+が移動する――プロトンとは陽子の事で、陽子ひとつに電子ひとつが水素なので、水素から電子が離れると陽子だけになる。

この結果、マトリックスと膜間スペースとでプロトンの濃度勾配ができて、そのエネルギーでATPを合成する――このことを酸化的リン酸化と呼び、オクス・フォスとも略される。

―――ミトコンドリアは外膜と内膜があり、内膜の内側をミトコンドリアマトリックスという。

外膜は、分子量10000位までの分子は自由に通過できる。

内膜は限られた物質しか通過できず、NADHとNAD+も通過できない――内膜の両側にあるのだけど、互いに移動はできない。

それでシャトル機構という反応で電子だけが運ばれる―――

ミトコンドリアの内膜には、巨大なタンパク複合体が貫通している。

膜の内側のNADHから2つの電子が複合体I…NADH:CoQ オキシドレダクターゼに渡される――45種のタンパクサブユニットからなる巨大な構造で、NADH デヒドロゲナーゼとも呼ばれる。

複合体Iはその電子を内部で跳躍させながら補酵素Q…CoQに渡す――この過程で、4つのH+を膜間に移動させる。

CoQはユビキノンとも呼ばれ、疎水側鎖を持つため内膜の脂質二分子膜に溶けることができる――この側鎖はイソプレン単位でできており、哺乳類はそれが10個なのでQ10と呼ぶ…ほかの生物はQ6ないしQ8

複合体II…コハク酸:CoQ オキシドレダクターゼは、複合体Iとは別ルートでCoQに電子を渡す――コハク酸デヒドロゲナーゼとも呼ばれ、4つのサブユニットで構成される。

この過程ではATP合成に必要なエネルギーは得られないけど、比較的高電位の電子も電子伝達系に送れる――人の複合体IIは活性酸素種…ROSの発生を抑える調整をしている様で、この遺伝子変異があると腫瘍生成、神経欠陥、早老などの障害が起こる…ROSが原因と思われる。

複合体III…CoQ:シトクロムc オキシドレダクターゼは還元されたCoQから電子を受け取りそれをシトクロムc に渡す。

シトクロムは電子を1つしか受け取れないので、CoQは2回複合体IIIと2回反応する――その過程でH+を2つ、2回で計4つ膜間に移動させる。

複合体IV…シトクロムc オキシダーゼは電子伝達系の最後の酵素で、シトクロムから電子を酸素に渡す――シアン化物を飲むと、ここがダメになってしまう。

その過程でH+が2つ膜間に移動する――実際にはO2を4電子還元して水…H2Oにするので、4回続けて1電子酸化を行うのでH+は4つ移動する。

この様な複合体がひとつのミトコンドリアに数万個あり、ひとつの細胞にはミトコンドリアが数百から数千ある――ミトコンドリアひとつの大きさは小さいけど、1人の体のミトコンドリアをすべてつなげれば、地球を数十周くらいする長さになる。

複合体はそれぞれ自由に動くと思われていたけど、IIをのぞく複合体IとIIIとIVが超複合体を形成することが明らかになった――電子伝達速度が上がる。

この過程で膜間とマトリックスでH+の濃度勾配ができ、電荷も偏る――膜間に移動したH+は、水に結合してH3O+になる。

内膜には複合体V…H+輸送 ATP シンターゼも貫通していて、H+の濃度勾配を利用してATPを合成する。

この仕組みは完全には理解されていない――モデルはある。

が膜間からマトリックスに戻る際、複合体Vの一部がモーターのの様に回転してATPを合成する――最大で1秒に100回以上まで回転速度は上がる様。

ATP合成にはH+2個が移動する必要があるけど、H+の一部は内膜からもれてマトリックスに戻ろうとする――水があると簡単に移動するので、膜で遮蔽するのは大変。

なので正確な数値を知るのは難しいのだけど、多くの測定結果からはおよそ3個のH+が移動すると、ひとつのATPが合成される――10個くらいで回転部が1回転し、ATPが3個できる。

                                             ァァァァァ    ・・・・・・

TCAサイクルで、アセチルCoAが二酸化炭素と水に酸化されるとき、ATPは12分子できる。

ピルビン酸がアセチルCoAに酸化される際のNADHからも、3つATPができるので、合わせて15。

グルコースが解糖系でピルビン酸2分子になる際にも、ATPが2つできる。

さらに、解糖系でピルビン酸が乳酸に還元されない場合、NADHが2つ残る。

このNADHは、別の酵素で再酸化されることもあるけど、グルコースが完全燃焼している場合は電子伝達系で酸素によって酸化され、ATPを4か6分子生成する。

という訳で、グルコース1つが好気代謝で完全分解されれば、15×2+2+(4か6)で、36か38分子のATPができる。

1モルのグルコースが酸素で二酸化炭素と水を生じる際に得られるエネルギーは、燃焼実験でのデータで686kcalと算出されている――pHは7。

ATPの加水分解で得られるのは7.3kcalなので、38倍で約277kcal。

277/686=0.404で、私たちが酸素を使ってグルコースを分解する場合、40%のエネルギーを保存していることになる。

解糖とTCAサイクルの両機能を備えた組織では、酸素の量で代謝が変わる。

一定のATPを必要とする場合、酸素が少ない方がグルコースの消費が早い。

グルコースを好気的に代謝する方が、ずっと多くのATPが得られるので、好気条件ではグルコースの消費は少ない――酸素によってグルコース消費が減ることを、パスツール効果という。

ただ、酸化的リン酸化に比べ、嫌気的な代謝の方がATPの生産速度が100倍も速い。

それで、筋肉などで急速にATPを消費する場合は、ほとんど解糖でATPを再生産する――解糖で生じた乳酸は、肝臓で8割はグルコースに戻るので、グルコースの無駄遣いにはならない。

筋肉は、大きく速筋と遅筋の2つの繊維がある――それぞれに何種類もの繊維があり、その組成によって筋肉の性能は異なる。

急激な運動の際に使われる速筋には、ミトコンドリアはほとんどなく、ATPをほぼ解糖で生産する。

ゆっくり長時間動く遅筋は、ミトコンドリアが多く、ほぼ酸化的リン酸化でATPをつくる。

速筋の多い動物の肉は白く、遅筋の多い動物の肉は赤い――遅筋はミトコンドリアが多く、ヘムを含むシトクロムで赤い。

人だと、短距離走者は速筋が多く長距離ランナーには遅筋が多いけど、筋肉の色は変わらない――人間は持久走に適した体を持っている。

世界的な活躍をするマラソン選手などの場合、好気的な代謝の能力が際立っている――トレーニングなしの前腕運動をPNMRで連続測定した結果、彼らの能力は遺伝的なものの様。

ヘモグロビンは効率よく酸素を運ぶためにとても重要な分子で、複雑な形をしている。

血液の液体成分はもともと薄黄色だけど、ヘモグロビンに含まれる鉄によって赤くなる。

酸素が結合すると鮮赤色、離脱すると暗赤色になる――なので鮮赤色の血液が拍動とともに出血する場合、それは動脈性であり、急いで止血する必要がある。

私たちの体には、ヘモグロビンが6700000000000000000000個くらいある――女性の方が数が少なく、女性ホルモンのエストロゲンに造血抑制作用があるため。

古いものは壊されて、大雑把に毎秒640000000000000個の割合で新しく生産されている――男性ホルモンのアンドロゲンには造血刺激作用があるため、再生不良性貧血の治療にはアンドロゲンが使われる。

ヘモグロビンは赤血球に含まれていて、わたし達哺乳類は、酸素の運搬効率を高めるために赤血球から核を失っている――それ以外の脊椎動物は核を持つ楕円形の赤血球。

無脊椎動物は赤血球を持たない代わりに、ヘモグロビンに似た分子が血漿に溶けて酸素を運ぶ。

軟体動物は、鉄の代わりに銅を含んだヘモシアニンで酸素を運んでいる――このため血液が青く見える。

私たちの赤血球は円盤状で、中央がへこんでいる――このため中心部から表面までの距離が短く、酸素の結合にも供給にも、便利な形になっている。

そして変形能が高く、細い血管でも通過することができる――核やミトコンドリアがない、ヘモグロビンを入れた袋の様なものなので、変形が邪魔されることがない。

形の変わりやすさは、1分あたり5Lの血液を流し続ける心臓の負担を軽減する――心臓から押しだされる際かなりの力が加わるけど、容易に形を変えるので抵抗を少なくできる。

赤血球にはミトコンドリアがないので、解糖によってATPを生産して膜構造を維持する。

哺乳類の赤血球は核も持たないので、このための酵素も新しく合成することが出来ず、時間とともに活性が低下する。

ATPが不足して膜構造を維持する力が落ちると、円盤状の形を保てなくなって、球状に変形して小さくなる――膜が弱くなって変形する力が落ちる。

そうなると脾臓で破壊される――およそ120日。

               バシ

動植物は、脂質として大量のエネルギーを蓄える。

必要な時に、それを分解してエネルギー源にする。

たとえばパルミチン酸が1モル完全に分解されると、2340kcalのエネルギーが出る。

食品では、長鎖脂肪酸が最も高いカロリー値を持っている――脂質は9.3kcal/g、糖類とタンパク質は4.1kcal/g。

また、脂質は神経細胞や形質膜、ミトコンドリア、細胞核などの組織境界膜として必須で、ミトコンドリアの電子伝達系などの複雑な構造の基本成分でもある。

私たち動物は、エネルギーをトリアシルグリセロールとして貯めておく――カロリー摂取が消費量を上回ると、脂肪として蓄える。

糖類もグリコーゲンとして蓄えるけどその量は少なく、血中グルコース濃度も病気の時以外は大きく変化しない。

エネルギー貯蔵物質としての糖類の役割は小さく、私たちが大量にエネルギーを蓄えるのは脂肪だけである――一般的な人で、40日の絶食に耐える。

蓄えた脂肪は沈着したままではなく、絶えず溶出と沈着を繰り返している。

空腹や長い運動、恐怖などのストレスによって、遊離脂肪酸が血液に入る――アドレナリンが反応を引き起こす。

脂肪酸は水に不溶の溶血毒だけど、血清アルブミンによって安全に肝臓に運ばれる――血清アルブミンは血漿タンパクの50%を占める可溶性タンパクで、主に血液の浸透圧を調整する。

アルブミンは1つで7~8分子の脂肪酸と結合し、肝臓では速やかに脂肪酸が離れてアルブミンだけが血液に戻る――回転が速いので、血漿中の遊離脂肪酸濃度は非常に低く保たれている。

脂肪酸はミトコンドリアでアセチルCoAに分解され、TCAサイクルに入る。

1分子の脂肪酸をアセチルCoAに分解するのには、最初に1つATPを使うだけでいい。

炭素が4つのものでも16個のものでも、活性化にはATP1分子でいいので、脂肪酸の酸化はとても経済的である。

―――脂肪酸は、パルミチン酸〔16:0〕、オレイン酸〔18:1(9)〕、リノール酸〔18:2(9,12)〕、のような表記が用いられることがある。

意味は、〔炭素の数:二重結合の数(二重結合の位置で、カルボキシル基から数えて近い方の数)〕。

つまりリノール酸の場合、炭素18個の鎖を持った脂肪酸で、二重結合は2つあって、それぞれカルボキシル基から9と12個目の位置に二重結合がある、という意味になる。

特に表記がなければ二重結合はシス形で、もしトランス形がある場合は、〔18:3(6t,9t,12c)〕のように表記される―――

                  ―――

コレステロール分子は平板状で、膜構造を安定化する効果がある――人の持つコレステロールの85%ほどは、細胞膜にある。

端っこに-OH基を持っており、ある意味アルコールなので、名前にオールが付いている。

性徴や糖代謝を調整するステロイドホルモンの前駆体でもあり、胆汁化合物のもとにもなる――胆汁化合物は、腸に詰まった脂肪酸を洗剤分子の作用で分散液にする。

脂質とタンパクが、共有結合ではなくて水素結合などで集まったものをリポタンパクといい、血漿中でトリアシルグリセロールやコレステロールの運搬をする。

リポタンパクには、大きく5つの種類がある。

キロミクロンは、食事で摂取したトリアシルグリセロールとコレステロールを、小腸から組織に運ぶ。

超低密度リポタンパク…VLDLと中間密度リポタンパク…IDLと低密度リポタンパク…LDLは、体内で合成されたトリアシルグリセロールやコレステロールを、肝臓から組織に運ぶ――VLDLからIDLができて、IDLがLDLになる。

高密度リポタンパク…HDLは、体内のコレステロールを組織から肝臓に運ぶ。

リポタンパクは常に代謝されているので、その性質や組成は変わりやすい。

どの種類のリポタンパクにも、表面を覆う高密度のコートがあるため、粒子が小さいほど密度が高くなる――HDLが最も密度が大きく、最も粒子質量が小さい。

LDLはコレステロールを肝臓から組織に運び、HDLは反対に組織から肝臓にコレステロールを運ぶ。

LDLは悪玉コレステロールと呼ばれていて、HDLは善玉コレステロールと呼ばれている。

疫学調査によると、HDL濃度が高いと心血管疾患が少ない――心臓病のリスクを減らす因子は、HDL濃度を高める傾向がある。

女性は男性よりもHDL濃度が高いので、心臓病が少ない。

十分に運動し、体重を減らし、適度なアルコールやエストロゲン…女性ホルモンの摂取で、HDL濃度が高まる。

喫煙は、HDL濃度を下げる。

ただ、冠動脈病が少ない地域ではHDLとLDLの濃度がともに低く、理由はよく分かっていない。

家族性高コレステロール血症…FHの人は、遺伝的にLDL受容体がないので分解が遅く、血中のコレステロール濃度が高く、心筋梗塞になりやすい――この遺伝子のホモ接合体は100万人に1人くらいで、5歳で心筋梗塞を起こすこともあり、ヘテロ接合体の場合500人に1人くらいの割合で、それほどひどくはないけど30歳くらいから心筋に異常が出る。

長い間、高コレステロールの食事を続けると、キロミクロンが組織にコレステロールを運ぶためLDL受容体の合成が抑制され、血中のLDL濃度が上がって、FHほどではないけどよく似た影響が出る。

             パサ

補酵素A…CoAは、アデノシン3'-リン酸…3'-ホスホアデノシンに、ピロリン酸、パントテン酸と結合し、2-メルカプトエチルアミンがアミド結合した化合物――Coはコエンザイム…補酵素の意味で、Aはアセチル化の意味。

CoAは、アセチル基などアシル基を運ぶキャリア…担体として働く。

アセチルCoAでは、アセチル基は2-メルカプトエチルアミンのSH基にチオエステル結合する。

アセチルCoAの形で、アセチル基がTCAサイクル入る――TCAサイクルでは、このアセチル基を2つの二酸化炭素に酸化する。

解糖系でできたピルビン酸は、ピルベートデヒドロゲナーゼでアセチルCoAになる。

脂肪酸もミトコンドリアでβ酸化されて、アセチルCoAに分解される。

逆に、細胞が高エネルギーの状態で余裕があるときは、アセチルCoAからパルミチン酸〔16:0〕が合成される――この合成には、ATP23分子を使う。

このパルミチン酸が、酵素でステアリン酸〔18:0〕、オレイン酸〔18:1(9)〕、リノール酸〔18:2(9,12)〕、α-リノレン酸〔18:3(9,12,15)〕に延長される――リノール酸は動物には作れないので、植物から得る必要がある。

動物でコレステロールの炭素源は酢酸に由来し、直鎖脂肪酸とは異なる――酢酸…C2H4O2は、炭素2つの短い脂肪酸

        ―――

肝臓で、脂肪酸はいくつかの反応に分かれる。

1つはエステル化でトリアシルグリセロールを生じ、肝臓に貯蔵しきれないものは脂肪組織に運ばれる。

2つ目はTCAサイクルで代謝さるか、ぺルオキシソームで二酸化炭素と水と酢酸になる――ミトコンドリアもぺルオキシソームも細胞小器官…オルガネラで、ぺルオキシソームでは炭素数が22以上の超長鎖脂肪酸や分枝脂肪酸を分解してミトコンドリアに送る。

3つめは過剰に生産されたアセチルCoAが、ミトコンドリアでD-3-ヒドロキシ酪酸とアセト酢酸に変わる。

D-3-ヒドロキシ酪酸とアセト酢酸にアセトンを含めて、ケトン体と総称される。

ケトン体は主に肝臓のミトコンドリアで生成され、心筋や骨格筋などで代謝され、マラソンなどの長時間運動の重要なエネルギー源となる――肝臓には3-オキソアシル-CoAトランスフェラーゼという酵素がないので、肝臓ではケトン体は代謝されずに他の臓器に供給できる。

脂肪酸は高濃度だと有毒で溶解度に限界があるため、血漿アルブミンの結合容量にすぐ達する。

ケトン体は可溶で、高濃度でも毒性が弱く膜を通って拡散する。

通常の空腹時の血糖濃度は(90mg/100ml血液)で、飢餓などでこの70%にまで落ちると、貯めていた脂肪が次々に分解されて、脂肪酸が肝臓や腎臓に流れ込む。

でもミトコンドリアのオキサロ酢酸量に限りがあるので、代謝には限界がある――TCAサイクルの最初の反応で、アセチルCoAとオキサロ酢酸が縮合し、8つめ…サイクルの最後で、L-リンゴ酸がNAD+で還元されてオキサロ酢酸に再生される。

このため大量のケトン体が生産される――D-3-ヒドロキシ酪酸はふつう1日20mgほど排泄されるけど、飢餓時には50~500倍になる。

D-3-ヒドロキシ酪酸がアセト酢酸になって、これがアセトアセチルCoAになってアセチルCoAに戻る――アセト酢酸は、3-ヒドロキシブチレートデヒドロゲナーゼの作用でD-3-ヒドロキシ酪酸に還元されることもある。

ケトン体は脳にも入れるので、飢餓時の脳でのエネルギー源にもなる。

糖尿病の人はグルコース代謝ができずに脂肪酸に依存するので、血中のケトン体濃度は上がる――D-3-ヒドロキシ酪酸の血中正常値は3mg/100ml。

アセト酢酸の代謝速度を生成速度が上回ると、非酵素的にアセトンと二酸化炭素を生じやすくなる――ケトーシスといい、糖尿病の患者の吸気はアセトンの特有な甘いにおいがする。

運動不足の人が急に激しく動いても、血中のケトン体濃度は上がる。

日常的に運動をする人の場合、筋肉のケトン体代謝の酵素活性が強くケトーシスは起こさない。

            ニャ・・・

糖の多い食事をすると、TCAサイクルで酸化されなかったピルビン酸は、諸反応を経てリポタンパクで脂肪組織に運ばれる――ケトン体は生じない。

高脂肪食や飢餓の時は、グルコースの供給が限定されているのでクエン酸濃度が低く、脂肪酸合成系が働かない。

このため3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA…HMG-CoAサイクルを経てアセト酢酸になり、3-ヒドロキシブチレートデヒドロゲナーゼの作用でD-3-ヒドロキシ酪酸になる。

HMG-CoAサイクルの酵素は肝臓と腎臓のミトコンドリアにしかないので、ケトン体もそこでしか合成されない。

ケトン体は血液で他の組織に運ばれるけど、そこのオキサロ酢酸濃度が低くてTCAサイクルの回転が悪ければ、利用されずに排泄される。

つまり糖を多くとれば脂肪酸はβ酸化されずに貯蔵され、高脂肪食か飢餓時には脂肪酸合成が止まって大量のケトン体が合成される。

                   ――  ・・・

グルコースは筋肉や脳に必要なエネルギー源となるけど、体の糖貯蔵量は1日の必要量に達しない。

動物は脂肪酸からグルコースを作れない。

飢餓の時は、トリアシルグリセロールの分解で生じるグリセロールからグルコースを作ることができる――グリセロールに脂肪酸が結合している。

けど大部分は、筋タンパクの加水分解で生じるアミノ酸から合成される。

絶食して40時間ほどは、グルコースの96%は肝臓による糖新生に依存する。

だけどそれ以上の絶食で筋肉の分解が続けば、回復不可能になる――食物を得るためにも多くの筋肉が必要なので。

肝臓のオキサロ酢酸は数日の糖新生で使われて、アセチルCoAの代謝能が落ちる。

それで肝臓では、アセチルCoAをケトン体に変えて血液に出す――脂肪酸はアセチルCoAに分解される。

すると脳は必要な酵素を作り出して、しだいにケトン体に適応する。

3日間の絶食では、脳の必要エネルギーに占めるケトン体の割合は1/3ほどで、40日の絶食後には70%までに上がる。

脳は体重の2%ほどだけと、脳の呼吸は速く、人では静止時のO2消費量は20%に達する。

この消費量は寝ていてもほぼ同じで、脳で消費されるエネルギーのほとんどは、神経伝達に必要な電位を維持するのに使われる。

正常時には脳のエネルギー源はグルコースで、常に血液から補給する必要がある――絶食が続くと、徐々にケトン体にかわる。

血液のグルコース濃度が正常値約5mMの半分ほどで脳の正常な機能を保てなくなり、さらに低下すると死に至る――M…モーラーはmol/L。

長期間絶食した場合の筋肉の分解速度は、数日間絶食した場合の25%ほど。

それで、飢餓時に何日生き残れるかは、筋肉量ではなくて貯槽している脂肪量に依存する。

極端な肥満者の場合、1年間の絶食にも耐える――減量のためで、医師の管理下で行われる。

なお、飢餓ほどではないカロリー制限では、寿命が延びる――酵母から霊長類まで、同じ条件で寿命が延びる。

摂取カロリーを通常の30~40%ほど減らして、ビタミンやミネラルなどの微量栄養素は普通に摂る。

齧歯類をこの条件で飼うと通常の50%ほど長生きして、老化による衰弱も少ない。

どうしてそうなるのかについては、生化学的な根拠を調べる研究努力が続いている。

            ――   ・・・

人は、グリコーゲンとタンパク量を狭い範囲で一定に保つ。

だけど貯蔵している脂肪は、極端に増えることもある。

ほとんどの肥満者は体重を減らすことが困難で、減量しても元に戻りやすい。

私たち動物は、一定体重を維持しようとする――自由に食べられる状況であっても、その体重を維持するだけしか食べない。

肥満者では、この設定値が異常に高い。

肥満者が100kg以上の減量で標準的な体重に戻ると、飢餓に近い代謝症状を示す――食妄想、低心拍、非耐寒性で、エネルギー必要量が同じ体格者の75%しかない。

肥満の人も標準体重の人も、トリアシルグリセロールの加水分解で生じる脂肪酸の半分は、脂肪細胞から出ずに再エステル化される。

だけどもともと肥満だった人が減量した場合、再エステル化の割合が35~40%で、標準体重の人が数日間絶食した常態にまで低下している。

標準体重の人と肥満者の脂肪細胞の大きさは、ほぼ同じ――脂肪をためるのは白色脂肪細胞。

肥満者の場合、その数が多い――たとえば平均的な合衆国の人は、平均的な私の祖国の人よりも脂肪細胞が多い。

極端な肥満者の前駆脂肪細胞…脂肪細胞の元となる細胞を培養すると、標準的な人に比べて著しく増殖する。

脂肪細胞は一定の体積を維持しようとする傾向があり、それが代謝や食欲に影響を及ぼす。

     ――  ・・・

過食によって蓄積した余分な脂肪は、脳に信号を送って食べる量を減らして、エネルギーを使わせる。

逆に脂肪が減ると、食欲を出してもとに戻ろうとする。

この脂肪を一定に保とうとする機能の一部は、視床下部にある――動物実験では、視床下部を破壊すると超肥満になる。

齧歯類の実験で、食欲を調整するホルモンもいくつか分かっている。

マウスのレプチンに関する遺伝子が変異すると、肥満になる――obとdb。

正常な働きをする野生型はOBとDBで、この劣性遺伝子のホモ接合体ob/obとdb/dbのマウスは、よく似た超肥満になる――私たちは両親から同じ表現型の遺伝子をひとつずつ受け継ぐけど、それが同じものならホモ接合体で、違うものだとヘテロ接合体。

OB遺伝子が、レプチンをコードしている――レプチンは、ジェフリー・フリードマンが発見した。

これは脂肪組織だけに発現し、体脂肪の蓄積量を脳に知らせている様。

ob/obマウスにレプチンを注射すると、摂食量も体重も減る。

食事制限でも減量するけど、レプチンを与えると50%以上余分に減る。

なので、レプチンは摂食制限の他にエネルギー消費も調整していると思われる。

db/dbマウスは、レプチンを注射しても効果はない。

この野生型DBは、レプチン受容体であるOB-Rタンパクをコードする。

OB-Rは視床下部に多量ある。

db/dbマウスのそれは、細胞質領域が34残基しかなく、レプチンからの信号を伝達できない――正常なものは302残基。

なのでレプチンによる体重制御効果が、視床下部でOB-Rタンパクとの結合によるものなのは、分かっている。

人とマウスのレプチンは、84%同じ配列である。

肥満者でも、レプチンは十分作れる。

ただ、レプチンは血液脳関門を通過できるけど量は飽和しやすく、脳のレプチン濃度には限度がある。

ただ肥満者の高濃度レプチンは、無駄にはならない。

OB-Rは抹消組織でも発現し、レプチンがそこで働く――直接脂肪酸の酸化を促進させ、脂肪組織以外での脂肪の蓄積を防ぐ。

少数だけど、レプチン欠損の肥満者もいる。

ある近親婚家族のいとこ2人はこの欠陥OB遺伝子のホモ接合体で、食欲は旺盛で8歳の子は86kg、2歳の子は29kgだった。

2人の血清レプチン濃度は正常者の10%で、レプチン注射で症状は改善された。

                         ・・・  ザァァァ

インスリンは、筋肉や脂肪組織などにグルコースを取り込ませる。

糖尿病マウスにインスリンを灌流すると、過食を防ぐ。

インスリン受容体は視床下部にもあって、ここを破壊したマウスは肥満になる――高レプチン、高血清トリアシルグリセロール、高血漿インスリン症状になる。

インスリンとレプチンは、視床下部の受容体を介して摂食量を減らす。

グレリンは、食欲を増進する――グレリンは、寒川賢治と児島将康が発見した。

これを齧歯類に注射すると、摂食量が増えて脂肪の消費が減り、肥満になる。

人では、肥満や食べすぎでグレリンが減少し、絶食時には増える。

ペプチドYY3-36…PYY3-36はカロリー摂取に比例して分泌され、摂食を抑制する。

齧歯類でも人でも、これに応答して12時間も摂食量が減る。

人にPYY3-36を90分灌流すると、その後24時間で1500kcalしか食べないけど、それが生理食塩水だった場合、2200kcal食べる。

グレリンとPYY3-36は、食欲の短期調節をする。

肥満防止の仕組みとして、食欲抑制の他に摂食発熱がある。

これは適応発熱の一種――適応発熱は、冬眠動物と新生児が寒さに対応するために発熱する。

寒いとき、私たちは身震いする――ATPを使って筋肉を細かく動かして、発熱している。

褐色細胞はこの身震いなしで発熱する。

この細胞では、酸化的リン酸化の脱共役が起きる。

ATPはH+の濃度勾配を利用して合成されるけど、テルモゲニン…UCP1というプロトンチャネルが開くことで濃度勾配を解消する。

これでATPは合成されず、そのエネルギーは熱になる。

成人でもエネルギー摂取が増えると代謝速度が増して熱が発生するけど、原因は分からない――成人には、褐色脂肪細胞は少ない。

UCP1と相同なUCP2は多くの組織にある。

UCP3は褐色・白色脂肪細胞と筋肉にある。

レプチンはUCP2を増やす。

筋肉UCP3の、摂食による適応発熱への関与は分かっていない。

標準体重の人の場合、レプチンは体重制御に関わっている。

肥満者の場合、レプチン濃度が上がってもあまり効果はないので、レプチンは節約遺伝子として進化したのではないかと考えられている。

狩猟採集生活では、食べものが豊富な時もあれば、飢餓の時もある。

このため食べれるときに脂肪をため込んでおく短期肥満が有利になる。

ただ、脂肪組織以外に脂肪が蓄積すると、冠動脈疾患、インスリン抵抗性、糖尿病のリスクが増す。

レプチンは脂肪酸の酸化を促すことで、脂肪組織以外での脂肪の蓄積を防ぐので、短期肥満の時に疾患を防ぐ効果がある。

ただ、現在の工業先進国では食べ物が豊富にあるためにずっと肥満が続くので不利益になった――抗生物質による共生微生物の多様性の喪失が、近年の肥満の増加に影響を与えている可能性がある。

                                                ァァァァ    ・・・・・

グルコース1分子を酸素を使って好気的に代謝した場合、ATPを33個以上再構成できる。

この再構成の速度をATPの消費量が越えなければ、私たちは動き続けることができる――そうでなければ動けなくなる。

なのでATPが多い方がいいのだけど、実際には運動に直接使われるATPはそれ程なくて一定に保たれている――細胞内のATPには運動以外にも役割があって、それが運動状況に左右されていては細胞内でトラブルが起きるからである。

そのかわり、私たちはATP以外にエネルギーを蓄える仕組みを進化させている。

筋肉には大量のクレアチンという化合物があって、ATPはクレアチンとの間でリン酸基を受け渡しできる。

リン酸基を受け取ったクレアチンはクレアチンリン酸となり、リン酸基を渡したATPはADPになる。

この反応によって、大量のエネルギーをクレアチンリン酸に蓄えておくことができる。

筋肉が全力で動くと、ATPはすぐに使い切ってしまう。

すると、すぐにクレアチンリン酸はリン酸基をADPに供給する――この両方向の反応をローマン反応という。

クレアチンによるエネルギーの備蓄の事を、クレアチンリン酸プールと呼ぶ――人の場合、訓練をつんだ短距離走者が最もクレアチンリン酸プールを発達させている。

さらに緊急でATPの再構成を行う必要がある場合、解糖でグルコースを代謝する――このため血中の乳酸濃度が上がる。

              ゴソ

筋肉疲労は、筋肉が一定の力を出せなくなった状態。

人が全力で運動できるのは8秒ほどで、20秒ほどで筋肉疲労を起こす。

この疲労は、グリコーゲンが消耗するためではない。

解糖で生じる乳酸を発生源とするH+によって、筋肉内のpHが7.0から6.4ほどに酸性化するためである――乳酸の濃度が高くてもpHを7.0に保てば、筋肉は大きな力を出す。

ただ、酸性化による筋肉疲労の機構は分かっていない。

そのほかにも疲労の原因は考えられる。

ATPの分解でリン酸イオン…Piの濃度が上がって、不溶性のリン酸カルシウムが沈殿してカルシウムイオン…Ca2+の濃度が下がる――Ca2+が放出されて、筋収縮が起きる。

筋収縮でカリウムイオン…K+が放出されるけど、それで筋肉の脱分極が進んで収縮できなくなる――神経刺激は一時的な脱分極…活動電位によって伝わる。

いずれの原因でも、疲労は筋細胞がATPを消耗し尽くすのを防ぐためのものだと考えられる――ATPを生産するための経路はATPがないと進めることができないので、使い切ると回復できなくなる。

―――水…H2Oは酸の分子からH+を受け取ってヒドロニウムイオン…H3O+になり、塩基に対してはH+を渡して水酸化物イオン…OH-になる――このようにH+の供与も受容もできる溶媒を両性溶媒という。

電荷0の純水だとH3O+とOH-の濃度は等しく、25℃だとそれぞれ1.0×10-7Mになる。

これはとても少ない数で、H3O+とOH-に解離しているのはH2O分子2.7億個に1つの割合――なので純水は電気伝導性が小さい。

酸が加わってH3O+が増せばOH-が減り、塩基を加えてOH-が増せばH3O+が減る――H3O+とOH-の積はいつも等しく、1.0×10-14

いつも指数をつけた濃度を書くのは面倒なので、ビール会社で働いていた化学者のセーレンセンが考案したpHという尺度が使われる。

これはH3O+の活量を常用対数で表したもので、普通の状況で正値となるように負号をつけてある。

注目している成分のうち、分子間の相互作用などで実際に反応にかかわらない分子もある割合で出てくる。

活量はそれを考慮した量で、希薄な溶液の場合ならモル濃度を代用して近似する――特にイオンの場合、相互作用が長距離に及ぶのでかなり低濃度でないと代用にならない。

H3O+の活量aH3O+をモル濃度で代用して[H3O+]/c°と書き、pH=-log10[H3O+]と定義する――1mol/Lを意味するc°は省略する。

25℃の純水の場合、pH=-log10(1.0×10-7)=7.0となる。

pHは負号をつけた対数なので、H3O+濃度が増すとpHは小さくなる。

H3O+が10倍違うと、pHが1変わる――10-7から10-6に変わると、pHは7から6になる。

ふつう溶液のpHは0~14だけど、0以下や14以上もありえる。

正常な細胞外液はpH7.4くらいで、すい液…消化液はpH8.1、胃液はpH1.0で酸性―――

             ・・・

主に炭酸水素イオンの緩衝作用で、川の水はpH7~9、海の水はpH8.1~8.4になっている。

火山や生物の活動を由来とする二酸化硫黄によって、雨はpHが4.5~5の弱酸性になる――高度成長期、工業先進国では排ガスや金属精錬で生じる二酸化硫黄によって雨の酸性度が上がっていたけど、40年くらい前から排ガスの脱硫が進んで現在は自然な状態に戻っている。

このため、大理石や石灰岩などの炭酸塩鉱物は雨で溶ける。

血液のpHは7.40で、炭酸と炭酸水素イオンの緩衝作用で±0.05の範囲に保つ――病気などでpHを保てなくなると、点滴や注射で緩衝液を入れる。

7.45よりも大きくなると、アルカリ血症…アルカローシスになる。

7.35よりも下がると酸血症…アシドーシスになる。

どちらも非常に危険なので、応急処置が必要になる。

炭酸は二酸化炭素が水に溶けたもので、呼吸でその濃度が調節される。

正常な状態では、炭酸水素イオンが炭酸の20倍の濃度になっている。

息を吐くと二酸化炭素が肺から出ていくので、血液中の炭酸が減る――pHが上がる。

呼吸が激しいとpHが上がりやすい。

炭酸水素イオンは、尿の排泄で調節されている。

呼吸が弱くなると炭酸が増えてpHが下がり、呼吸性アシドーシスになる。

喘息や肺炎、気腫や煙を吸ったりして呼吸が弱くなると、なりやすい。

人工呼吸器で吸気を増やせば、pHが上がる――喘息の場合、気道拡張薬を使う。

血液に溶けた酸は、炭酸水素イオンを炭酸に変えてpHを下げる。

それで乳酸などの濃度が高まると、代謝性アシドーシスになる。

激しい運動や絶食、糖尿病などが原因になるけど、ひどい火傷もアシドーシスの原因となる――体は、呼吸数を増やして対応しようとする。

火傷したところに血漿が漏れて浮腫をつくるので、血液が減る。

広い範囲でそうなると血流が弱くなって、各組織への酸素供給量が減る。

そのため乳酸が増えて、代謝性アシドーシスを起こす。

炭酸を出してpHを上げるために呼吸回数を増やすけど、血液の量が減ってくると血圧が下がって状態がさらに悪化する。

ショックという状態で、救急治療をしないと助からない――血液と同じ浸透圧の水溶液を静脈に注射して、血液の体積を増やして酸素を組織に届けやすくする。

不安感や高熱などが原因で過呼吸になると、pHが上がって呼吸性アルカローシスになる――過呼吸で陰性電荷が増えるとカルシウムイオンの濃度が下がって、末梢神経が自発発火する頻度が増えて筋肉が収縮する。

こうなると体は、pHを下げるために失神して呼吸を遅くする――失神させないためには、袋などで頭を覆い、吐いた二酸化炭素をまた肺に戻す。

病気や毒物が原因でpHが上がる場合は代謝性アルカローシスで、体は呼吸回数を下げて調節する。

               ・・・

筋肉が動くとATPを消費したり、筋肉に機械的なストレスがかかったり、筋細胞の表面に付着しているサテライト細胞というのにミクロな傷が出来たりする。

これらは筋肉活動のシグナルとなり、それが引き金となって筋細胞が連鎖反応を始める。

生体内にはいくつもの反応が次々と玉突きのように起きる連鎖反応が数多くあり、それらをカスケード反応という――カスケードは階段滝という意味。

筋肉のカスケード反応の目的は、筋肉の活動に応じて次々と新しい部品を作って筋肉に供給することである――この反応は、筋肉の活動が激しいほどさかんになって部品も多く作られる。

反応が強ければ、もともとの筋肉の補充に必要な量を超えて部品が作られる。

この部品…アクチンフィラメントとミオシンフィラメントが滑りあうことで筋肉は動くので、本数が多いほうが力が強く出る。

つまり、余分に作られた分だけ筋肉が発達する――運動すれば力が強くなるのはこのためである。

ミオシンはミオシンフィラメントにくっ付いていて、それがアクチンフィラメントと結合して動くことで筋肉は動く。

ミオシンは、骨格筋の場合10種類ぐらいある事がわかっている。

種類によってアミノ酸の組成が少しずつ異なっていて、全部をまとめてミオシンアイソフォームという――アイソフォームというのは、構造が僅かに違うタンパク質のグループの事。

ミオシンの種類による違いは主にATPポケットで、これは燃料であるATPとの結合部分である。

そこの僅かな違いで、ミオシンの機能が変化する――主な違いは、動くのが速かったり燃費がよかったり、馬力が強かったり。

ミオシンの種類は筋肉の活動によってその比率が変わる――トレーニングの種類によって、それに適した筋肉が発達するようになる。

ミオシンがいくつもあることがわかる前から、大きく2種類の筋肉が知られていた。

速筋あるいは白筋と呼ばれる白っぽい筋肉と、遅筋あるいは赤筋といわれる赤みを帯びた筋肉である。

白筋は収縮速度が速くすばやい動きを起こすけど、繰り返し使うとすぐ疲れる。

赤筋は収縮速度は遅いけど長時間使っても平気で、重力に逆らって姿勢を保たせている抗重力筋は赤筋である。

白筋中のミオシンは速いミオシンといい、アクチンと滑りあう速度やATPの分解速度が大きい。

赤筋中のミオシンは遅いミオシンと呼ばれ、アクチンとすべる速度やATPの分解速度も遅い。

なので長い間力を出す場合、赤筋の方が単位時間当たりのATP消費量が少ないから燃費がよい。

速いミオシンと遅いミオシンは、それぞれ複数のミオシンアイソフォームからなっており、その組成は運動神経から分泌される栄養物質によって決まる。

動物実験で、白筋と赤筋の運動神経をそれぞれ入れ替えると機能が逆転することがわかっている。

だから運動神経から出る分泌物がミオシンアイソフォームを選んでいることはわかっているけど、詳しい仕組みはまだわかってない。

カスケード反応の種類によって、ミオシンアイソフォーム組成が決定されているのだと思われる――同一の筋細胞でも、場所によってアイソフォームの組成が違うことがわかっている。

                                               ァァァァァ    ・・・・・・・

        ―――

雨音が、少し強くなった気がする。

黒猫はがいるとポカポカするけど、狭いテントの中をウロウロしてる。

今日は、川を歩いて遡って湖を目指す。

天気は良く変わるようなので、雨の中を歩くのも想定している。

傘やカッパも用意している。

・・・私の場合、雨の中を歩くのは好きなのでまったく問題ない。

                            ♪ ♪  ――

テントの外から、声。

              ――

体を起こす。

                           ゴソ

横に置いていたブルゾンを着る。

つめたい。

雨でも、たき火はできる。

外に出よう。

                パサ ――

寝袋から出て、靴を履く。

「ニャー」

ランタンを消したら、黒猫が鳴いた。

腕ライトをつけて、外に出る。

「・・・・」

黒猫も一緒に出てきた・・・・

                                                ァァァァ ・・・・・・


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