黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

弁護士会に「派閥」は必要か?

2010-02-25 21:21:23 | 弁護士業務
 日弁連会長選挙の再投票は、どうやら3月10日に行われるようです(弁護士会の掲示板で確認してきたので、今度は間違いないでしょう)。今回の選挙は、これまで政府の方針に追随してきた日弁連の政策が変わるかどうかという問題のほかに、これまで派閥間の人事で会長が決まってきた日弁連の組織構造が変わるかどうかという問題も含まれており、再投票の結果は(少なくとも弁護士業界にとっては)注目されるところです。

 派閥といえば、昨年野党に転落した自民党でも、現在「派閥」のあり方が問われており、派閥不要論も取り沙汰されているようですが、自民党の派閥と弁護士会の派閥は、全く同じようなものとまでは言えないとしても、その機能にはある程度共通したところがあり、人事や意思決定のプロセスに透明性を欠くといった問題点や、最近若手を中心に派閥離れの傾向が進んでいるといった問題点にも似たところがあります。
 黒猫自身は、もともと(自民党のそれと、弁護士会のそれとを問わず)派閥には批判的な立場を取っている人間ですが、今回は少し冷静に、できるだけ中立的な立場から、弁護士会における「派閥」の必要性について検討してみようと思います。

 「中立的な立場」というからには、派閥の必要性を積極的に捉えている人たちの意見も紹介する必要があると思いますが、ちょうど東弁のある有力会派がまとめたある提言書では、派閥(提言書中では「会派」という用語が用いられている)の有用性について次のように述べられています(公表して良いか分からない資料なので、直接的な引用は避けます)。

・会派は、いわば弁護士の世代を超えた集合体であり、これによって先輩弁護士や後輩弁護士との縦のつながりをもつことが可能となる。
・会派を通じて、先輩弁護士から業務上必要な知識・経験を得たり、弁護士会務についての諸情報を得ることは有用である。
・弁護士会の運営が、会派の協力を得て成り立っていることは否定しがたいことであり、会派に属することが出来なかった新入会員のため、弁護士会は会派から要請があった場合には可能な限りこれに対応し、新入会員の会派加入へ協力すべきであり、会派にはその魅力を語らせることが必要である。

 これだけの説明では、弁護士以外の方には何のことだか分からないと思いますので、ある程度補足説明をします。
 弁護士会の組織には、会長・副会長(東弁では6名、日弁連ではたしか13名ほど)によって組織される執行部(東弁ではこれを「理事者会」と呼んでいます)の下に、各種の会務を掌る「委員会」があります。東弁では、1つの委員会の委員として年4回以上出席すれば会務活動の義務を果たしたことになりますが、会員たる弁護士が少ない地方の弁護士会では、会員のほぼ全員が複数の委員会の委員を掛け持ちしないと組織として成り立たないようなところもあると聞いています。
 黒猫が属している委員会は「法制委員会」で、平たく言えば法改正などの度に官公署に意見を言っていくことを役割としている委員会ですが、それ以外にも弁護士の懲戒を掌る綱紀委員会や懲戒委員会、広報活動を掌る広報委員会、司法修習の事務等を掌る司法修習委員会、特定の専門的な問題を検討する「消費者問題特別委員会」「労働問題特別委員会」その他諸々の委員会があります。
 その他、委員会以外の組織として、法律研究部と呼ばれるものもあります。東弁には倒産法部会、知的財産法部会など様々な部会がありますが、これらは文字通りそれらの分野の法律について研究等を行ったり、それらを通じて会員同士の親睦を深めたりするもので、大学の「サークル」に近いものといってもよいかも知れません。
 ここまでが会公認の組織ですが、弁護士会にはこれ以外に非公式の組織として、いわゆる派閥(会派)と呼ばれる、法的には非公式のものというしかない組織が存在し、会の運営に少なからず影響を与えてきました。
 司法修習を終えた新人弁護士がどこかの法律事務所に就職すると、何となくその事務所のボスが所属している会派に所属するのが通例となっており(黒猫の場合、いつの間にか「期成会」という会派に所属していることになっていました)、弁護士会で要職を務められるかどうかは、その会派の勢力やその会派内でどれだけの地位を占められるかによって決まっているようです(もっとも黒猫の場合、名前だけは期成会という会派に入っていることになっているようですが、その会派の会議等に参加したことはなく、事実上「無派閥」に等しい状態なので、詳しいことは分かりません)。

 もっとも、このような形態で存在している会派(派閥)だと、所属事務所のボスが無派閥だったり、組織内弁護士として就職したり、登録後即独立したりする弁護士は、初めから派閥に入る機会がないことになります。また、一応会派には所属していても、その会派内で積極的に活動するかどうかは、本人の意志とそれを許す経済的余裕の有無にかかっているので、様々な理由で会派の活動に消極的となり、中には正式に会派から脱会してしまう弁護士も最近は少なくないと聞いています。
 そして、無派閥の弁護士にとってみれば、派閥なるものは、弁護士会内部の意思決定プロセスを不透明にし、派閥に属していない者を弁護士会の意思決定プロセスから排除するものであり、その存在自体怪しからんという意見も出てくるわけです。
 会派擁護論者の弁護士にこういう話をすると、怒るか、あるいは前述のように「会派はいいものだからみんな入ればいいじゃないか」と言われるのでしょうが、会派に限らず、弁護士が親睦を深める場はその多くが高級料亭等での談笑であり、食べていくのが精一杯の新人弁護士等にとっては「そんな経済的余裕はない」「仕事が忙しいので、そんな所に出席している時間はない」という人も多いでしょう。
 また、最近の若者には人間関係にドライな人が多いので、仮に出席できる経済的余裕などはあっても、そんな会合に出席するよりは自分の趣味や勉強に費やした方がいいと考える人も多くなっていると思います(これは会派に限らず、倒産法部会などでも、正式な勉強会・研究会などには参加するが、その後の二次会には出ないという弁護士が多くなっていると聞いています)。

 黒猫個人としては、会派といった縦のつながりで弁護士としての知恵やノウハウが伝えられたり、親睦を深めたりするメリットを否定するつもりはありませんが、昔のように、会員のほとんど全員がどこかの会派に属しているといった状態に戻すことは、時代の流れに照らしてもはや不可能事であり、弁護士会の運営においても、会派に属していない会員の意見にも声を傾けるようにし、会派(派閥)に依存した会務運営は改める必要があると考えています。
 最近騒がれている自民党の「派閥」も、あるいは弁護士会の「派閥」と似たようなものかもしれませんが、政権与党ならともかく野党の間で徒党を組んで権力争いをし、その力関係で党としての政策が決まるようでは、時代の流れに合致した組織とはいえないでしょう。

・・・「できるだけ中立的な立場から」と言っておきながら、結局は「派閥叩き」の結論になってしまいました。これでまた東弁の上層部から、黒猫みたいな弁護士はけしからんというような非難が出てくるのかなあ。まあ、それならそれで別に構いませんけど。 

5 コメント

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Unknown (@)
2010-02-25 22:44:13
派閥ってもんは初め必要だから生まれ、生まれた後は派閥それ自体のために存続するものであるから、必要無くなれば勝手に消えるだろうし、そうでなければ建前上解消しても存続し続けるものでしょうね。
自民党の派閥はとっくの昔に機能停止して形式上存続してるだけだから、派閥解消を謳ってる時点で笑止だけども。
必要だから存在する (南太平洋)
2010-02-26 09:41:28
不要なものが存在する道理はない。存在しているのは必要だからといえる。もっとも不要であっても邪魔でないから生き残っているものもあるだろうが。

派閥が不要なら誰も派閥には入らないわけで、現に入って活動している人たちがいるという事実は重い。無派閥はつまるところ会務すらあまり積極的に参加しないだろう。自身の勉強になり、対外的にアピールできるような専門的な実務委員会ならいざ知らず、それ以外の委員になるメリットはないだろう。人気のない委員会は派閥に御願いして人を集めてもらうのが実情であろう。
会議すらも定足数があれば、一定数以上の参加者がいなければ開くことすらできない。
派閥がつまらない?人間関係でどうにかこうにか拝み倒して人材を集めているとしたら、派閥をなくしたら一体どうやって弁護士会は会務の人材を得られるのであろうか?

それに野外から好き勝手に言っているだけでは物事を成就できない。本来は、会員の意見は弁護士会が吸い上げるべきであり、派閥が派閥外の意見を吸い上げる義理はない。派閥は派閥の意見を会に言うべきであり、何が悲しくて派閥外の意見をわざわざ吸い上げなければならないのだろうか。無論、選挙のときに票が欲しいと思えば、派閥外から積極的に声を拾おうとするだろうが。
Unknown (Unknown)
2010-02-27 18:31:38
怪文書や裁判員制度反対声明をFAXで
送ってくるのが派閥なのでしょうか?
高山弁がどうなったのか、その後を知りたいです。
どうでもいいことだけど。
八百長裁判 (安淳徳)
2012-05-01 18:23:54
色々勉強になりありがとうございます。

弁護士会にも派閥があることを、
最近知って、やっぱりと。。。

普通なら、弁護士会にも派閥があると言われたら、
え?と思い、意外に思うはずですが、

私の場合は、2007年から、
訳わからずに公権力の悪用・犯罪の被害を受けて訴えてる中、

沢山の法律相談をしたり、
霞ヶ関にある弁護士会館を訪ね助けを求めたり、
日弁連主催の各種シンポジウム、講演会、集会などに参加し、
沢山の弁護士に訴え、助けを求めてるにも関わらず、
みんな避けたり、沈黙ばかりで。。。

私の事件を取り組むにも弁護士が独断に決められない様子をなんとなく分かるようになったので。。。

何のための派閥なのか分からないですが、
政策のためと言われてますが、
本当の所は利権派閥のようで、
弁護士会も利権団体化してるのではと思ってるところ出る。

話し変わりますが、
まっすぐで社会的な使命感を忘れてない弁護士さんは沢山いると信じてるので、

あきらめずに、
http://blogs.yahoo.co.jp/ansund59 の事件依頼を引き受けてくださる弁護士を探してます。

どうか、、、
Unknown (Unknown)
2012-05-01 21:18:18
ただで?