大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2016年12月12日 | 植物

<1809>大和の花 (101) ギンリョウソウ (銀竜草)              イチヤクソウ科 ギンリョウソウ属

                                          

 ギンリョウソウ(銀竜草)は、有機栄養分を取り込む光合成を行なう葉緑素を持たず、代わりに根に共生する菌根菌を通して腐食した生物またはその分解物からその養分を取り込んで成長する腐生植物である。茎の高さは約10センチ。その茎の先に斜め下向きの一花をつける。全体的に半透明な純白で、茎にささくれ立った鱗片葉が出来、その全体の姿を竜に見立てたことによりこの名がある。ユウレイタケ(幽霊茸)の別名でも知られるが、これは木陰などの陰湿地に生える特性による。

 花は5月から8月ごろで、日本全土に分布し、朝鮮半島、中国、カラフト、台湾、インドシナ、ビルマ、ヒマラヤなどで広く見られるという。大和(奈良県)では低山帯から深山帯まで広く生え出し、夏山を歩いていると必ずと言っていいほどどこかでその姿に出会う。近隣では三輪山が御神体の大神神社の境内地に生え、よく新聞等に紹介される。また、奈良市の春日山遊歩道でも見られる。

  一方、秋に姿を見せるのはシャクジョウソウ属のギンリョウソウモドキ(銀竜草擬)で、アキノギンリョウソウ(秋の銀竜草)の別名でも知られるが、ギンリョウソウによく似た腐生植物で、ギンリョウソウが液果をつけ、この液果は下向きのまま裂けることなく熟すのに対し、ギンリョウソウモドキはシャクジョウソウ(錫杖草)と同じく蒴果をつけ、果期には花の部分が上向きになり、熟すと裂ける違いがある。 

  写真右は群生するギンリョウソウ。東吉野村の雲ヶ瀬山(1075メートル)の尾根筋で。写真左はギンリョウソウモドキ。東吉野村の明神岳登山道の標高800メートル付近で。ギンリョウソウモドキは9月8日で、つぼみだったのでギンリョウソウモドキと判断した。  麓まで紅葉下り秋終はる

<1810>大和の花 (102) ツチアケビ (土木通・土通草)                             ラン科 ツチアケビ属

                  

 山地や丘陵、もしくは笹薮のようなところに生える葉緑素を持たない多年草で、キノコのナラタケ(楢茸)と共生する菌根植物として知られる腐生ランの一種である。横に這う太い根茎を有し、この根茎においてナラタケの菌根菌の助けを得て栄養分を取り込む。黄褐色の太い茎が大きいもので1メートルほどに立ち上がり、よく分枝する。その分枝した枝々に花序を出し、6、7月ごろ黄褐色の花を多数咲かせる。花柄は3センチから6センチで、その先に2センチほどの花をつける。花の唇弁は黄色く肉質で、内側に突起が見られる。

 実はベンガラのような色をした10センチ前後のバナナ形で、鈴生りに垂れ下がる。ツチアケビの名はこの実からアケビの実をイメージし、土に生えるアケビと見たことによる。ヤマノカミノシャクジョウ(山の神の錫杖)とかキツネノシャクジョウ(狐の錫杖)という別名を持つが、これは太い茎の周りに垂れ下る実のころの姿を錫杖に見立てたことによる。また、ヤマトウガラシ(山唐辛子)の名もあるが、これは実の形と色によるという。

 北海道から沖縄まで全国的に分布し、国外では中国に見られるという。大和(奈良県)では低山帯から丘陵地においてときおり見かけるが、里山の荒廃による自生地の失われる傾向にあり、レッドリストの希少種にあげられている。なお、漢名は土通草(どつうそう)で、薬用植物としても知られ、漢方では実を煎じて利尿、強壮に用いる。 写真左はツチアケビの花(天川村北角)。写真右は実を鈴生りに垂れ下げるツチアケビ(明日香村)。  あの日とは心に残るつまりその忘れ難かる日の言ひならむ

<1811> 大和の花 (103) ショウキラン (鐘馗蘭)                                   ラン科 ショウキラン属

                         

  ショウキラン(鐘馗蘭)の鐘馗は、玄宗皇帝の夢に現れ、皇帝の病魔を追い払った中国古来の守り神で、日本にも伝来し、端午の節句の五月人形に登場したり、厄除けのため人家の塀や屋根などにあげられたりして来た。官人の装束を纏い、髭を蓄えた偉丈夫な姿が印象的であるが、花を開いたショウキランの姿に、帽子を被った鐘馗を連想したようで、この名がある。

  葉緑素を持たず、光合成を行なわない多年生の腐生植物で、ツチアケビと同じく、菌根菌の助けを得て生育する腐生ランの一種である。乳白色乃至は淡褐色を帯びる茎は直立し、高さは大きいもので30センチほどになる。葉は鱗片状に退化し、目立たない。花期は7、8月ごろ。この茎から長い花柄を伸ばしてその先に淡紅色の一花を開く。花は直径3センチほどで、開花すると、花弁に包まれた中央の花を外側の大きい3個の萼片が美しく引き立てる。この大きい萼片を鐘馗の帽子に見立てたらしい。美しい腐生ランである。

  ショウキランは中国に所縁の名がついているけれども、日本の特産種で、北海道西南部から九州までほぼ全国的に分布している。ツチアケビとは生育場所を異にし、大和(奈良県)では標高800メートルより高い深山でしか私は見ていない。夏の山歩きでときおり出会うが、花どきにしか姿を見せないので、なかなか出会えず、姿のいい花に出会えればラッキーと言える。この状況により、奈良県では絶滅危惧種にあげられている。

  写真左は登山道の真ん中に生え出し、誰の心づかいか、登山者に踏まれないように枯れ木で囲ったショウキランが見られた。この写真の一角にショウキランが写っている。おわかりだろうか。(大台ヶ原の西大台で)。写真右は花を咲かせるショウキラン(大峯奥駈道の標高1600メートル付近で)。こういう花に出会うと、花との出会いが縁に思えて来る。

  みなすべて出会ひは縁(ゑにし)あの日あのときの出会ひも思へば縁

 

   

 

 

 


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