大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年07月21日 | 植物

<2395> 大和の花 (563) ヒツジグサ (未草)                                        スイレン科 スイレン属

          

 池や沼などに生える多年生水草で、水底の根茎から長い葉柄を出し、葉は水中に開く沈水葉と水面に開く浮葉とからなる。浮葉は長さが5センチから30センチの広楕円形で、基部は深く切れ込み、裏面は紫赤色を帯び、秋になると紅葉する。

 花期は6月から10月ごろで、根茎から長い花柄を水面に伸ばし、柄の先に白色の1花を開く。花は直径5センチ前後で、萼片は4個、花弁は8個から15個。雄しべは多数で、雌しべは8個。ともに黄色で、3日ほど開閉を繰り返す就眠運動を行なう。雌しべが先熟し、その後、雄しべが熟す。花が終わると水中に没し、実を結ぶ。実は液果で、液果は包まれた萼片が水にほぐれ、現れた袋果が水面に浮き上って移動する。

 スイレン属の仲間は熱帯性の昼咲きと夜咲き、温帯性の昼咲きが見られ、花の大きさによって分けられる。ヒツジグサ(未草)は温帯性の昼咲きで、小さい花のグループに属する。その名は花の就眠運動に因むもので、未の刻(午後2時)に花が旺盛に開いていることによるという。勾玉池で観察を試みたところ、午前9時から10時の間開き始め、正午ごろにはほぼ開き切り、午後2時ごろ花は旺盛に咲き切った状態になった。しかし、個体や生育場所によって違いがあるようで、開閉は一定しないという指摘もある。

 北海道、本州、四国、九州に分布する在来のスイレンで、国外では東アジア、インド、ヨーロッパにも広く見られるという。溜池の多い大和(奈良県)ではよく見られていたが、農薬に弱く、アメリカザリガニやコイなどの食害、繁殖力の強い外来スイレンの圧迫などの要因によって消滅する例も報告されている。

 宇陀市の鳥見山公園の勾玉池は、2000年ころまでヒツジグサが繁茂し、池面に広く花を見せていたが、その後、徐々にその数を減らし、2009年から2010年ごろにかけて姿を消し、今は外来のスイレンとジュンサイが見られるが、これらも徐々に乏しくなる状況にある。

  原因は何なのだろうか。除草剤のような農薬か、コイの放流か、はたまた、外来スイレンの投入か、いずれにせよ、勾玉池のヒツジグサの消滅は人為によるものと考えられる。とにかく、大和(奈良県)では自生種が減少し、奈良県のレッドデータブックには絶滅危惧種としてあげられている。 写真はヒツジグサ。左から旺盛に花を咲かせる1994年の勾玉池の花、2003年の花、2008年の矢田丘陵・頂池の花(傍に黄色いタヌキモの花が見える)、花のアップ。   未草池の辺りの自然かな

<2396> 大和の花 (564) ジュンサイ (蓴菜)                                       スイレン科 ジュンサイ属

          

 池や沼に生える多年生水草で、水底の泥中を横に這う根茎から長い茎を伸ばし、裏面が紫色を帯びる長さが5センチから10センチほどの楕円形の葉が盾状について水面に開く。このような葉を浮葉といい、浮葉がしばしば水面を被い尽くすほど群生することがある。茎や葉柄、若葉(若芽)などが寒天状の透明な粘膜に被われる特徴があり、その若葉(若芽)は汁の実や酢の物、てんぷらなどに用いられ、食材として珍重されている。また、全草を利尿、解熱、腫れ物などの薬用としても利用される。

 漢名は蓴(ちゅん)で、ちゅんがじゅんに転じ、食用の意である菜をつけこの名が生まれたという。『古事記』や『万葉集』にはヌナハで登場し、平安時代の『倭名類聚鉦』には「蓴 水菜也 和名沼奈波」とある。所謂、万葉植物で、古名はヌナハであった。ヌナハは、沼に生え、水中に伸びる茎が縄のように長いことによる沼縄(ぬなわ)の意とか、ぬるぬるした長い茎を乾かし縄に用いたことによるとかの説がある。池にたらいや箱舟を浮かべ、これに乗ってこの沼縄の茎を手繰りながら若芽の採取が行われ、今にある。

 花期は6月から8月ごろで、根生するヒツジグサと異なり、水中の葉腋から花柄を伸ばし、その先に暗紅紫色の花をつけ、水面の葉の間に1花を開く。花は紫褐色の花弁状の花被片が普通6個(萼片を含む)。開いて反り、紫紅色の雄しべ多数が真ん中の雌しべを囲んでつき、よく目につく。花後、実の液果は水中に没して成熟する。

 日本全土に分布し、東南アジア、中国、インド、アフリカ、アメリカ、オーストラリアなどに広く見られるようであるが、食用にするのは日本と中国くらいだと言われる。中国では故郷を思う情の例えとして蓴羹鱸膾(じゅんこうろかい)という言葉がある。ジュンサイの羹(あつもの)とスズキの膾(なます)で、中国では故郷の味とさて来た。日本ではヌナハの名が示すようにジュンサイは古くから食材として利用されていたことが察せられる。

 なお、ジュンサイは自然のものだけでなく、栽培されており、秋田県が産地として知られる。自生のものは生育場所の環境が悪化し、減少傾向にあると言われ、大和(奈良県)では、各地の溜池で普通に見られていたが、消滅したところが多く、レッドデータブックには絶滅危惧種としてあげられているのが現状になっている。 写真はジュンサイ。左から水面を被う葉の間に咲き出た花、花のアップ、黄葉の葉群、古名のもとになった沼縄の茎に被われた水面(いずれも宇陀市内の池)。

   私の系譜はイエスの系譜よりも長い あなたの系譜も

 

<2397> 大和の花 (565) コウホネ (河骨)                                      スイレン科 コウホネ属

                 

 浅い池沼などに生える多年生の水生植物で、水底の太い根茎が多少曲がりくねってところどころに節があり、外面は灰緑色、内側は多孔質で白く、この形と色から根茎を動物の骨と見なし、川などの水中に生えることから、この名がつけられたという。

 葉は流れのある川などでは細長い膜質の葉を水中に開くが、池や沼など水に流れのないところでは水上に長さが20センチから30センチの長卵形の葉を見せる。水上葉の基部は矢じり形に切れ込み、太く長い葉柄によって水面より突き出て立つものが多く、この種の葉はハスの葉と同じく抽水葉と呼ばれる。

  花期は6月から9月ごろで、太く長い花柄を水面より突き出し、その先に黄色の1花を開く。花は全体的に黄色で、直径4、5センチの椀状。一番外側に花弁状の萼片5個があり、花後は緑色になる。花弁はへら状の長方形で、多数あり、少し外側に曲がる。雄しべも多数で、これも外側に曲がり、真ん中の雌しべ多数の柱頭を囲む。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島にも見られるという。学名にNuphar japonicumとあるように、日本が主産地で、仲間に地域特産のネムロコウホネ、オゼコウホネ、オグラコウホネ、ヒメコウホネ、シモツケコウホネなどが見られる。大和(奈良県)では自生地が極めて少なく、奈良市の磐之媛命陵のお濠はよく知られるが、絶滅が懸念され、絶滅危惧種にあげられている。

  なお、『大切にしたい奈良県の野生動植物』(奈良県版レッドデータブック2016改定版)は、大和(奈良県)に分布するものについて、広義のヒメコウホネからサイコクヒメコウホネに改めているが、『日本の固有植物』(東海大学出版部・加藤雅啓・海老原淳編)によると、ヒメコウホネについて「西日本に広く分布すると考えられてきたが、その多くが交雑由来の個体であり、真のヒメコウホネは東海地方に限られて分布する」とあるので、この説明等により、ここではコウホネとして扱った。

 コウホネはアルカロイドのヌハリジンという物質を含む有毒植物であるが、漢方では川骨(せんこつ)と言われ、根茎を薬用とし、月経不順、強壮、止血などに用いるという。アイヌでは根茎を晒して保存食にした。 写真はコウホネ。左2枚は奈良市佐紀町の磐之媛命陵の外濠、右は宇陀市榛原栗谷の溜池の個体)。   今日の青空 今日の暑さ 今日の鐘の音 今日の命 2018723

<2398> 大和の花 (566) ハス (蓮)                                              スイレン科 ハス属

           

 池沼などに生える多年生の水生植物で、スイレン科に属するともスイレン科から切り離して単独のハス科であるとも言われるが、ここではスイレン科にした。ハス葉の化石などから被子植物双子葉植物中では比較的早い時代に地球上に出現し、中生代白亜紀に当たる約1億年前には存在していたと見られ、インドが原産地とされているが、日本では葉の化石が最も古い記録で、行田ハス(行田市)や大賀ハス(千葉市)のように3000年から2000年前の地層において発見された実が発芽し、今に蘇り、古代ハスとか原始ハスと呼ばれ、各地でその子孫が美しい花を咲かせているところを見聞するに在来とも思える。

 地下茎は先端部分が肥大し、これをレンコン(蓮根)と呼ぶ。レンコンは食材とされることは誰もが知るところ。その根茎から太く長い葉柄が伸び上がり、先端に1葉をつける。葉は抽水して水上に立ち上がって開くものと、水面に止まって浮葉するものとが見られる。立ち上がって開く葉は直径30センチほどの円形で、コウホネのような切れ込みがなく、葉の中央部分に葉柄が盾状につく特徴がある。葉柄には孔が通っており、葉に酒を湛えて長い葉柄で飲む遊びが昔からある。

  花期は6月から8月ごろで、抽水して直立し、伸び上がった花柄の先に大形の1花をつける。花は、普通20個ほどの紅色の花弁が重なるように開きみごとである。花は普通早朝に開花し、午後3時頃まで開き、夜間には閉じる。この開閉を3日ほど繰り返した後、花は中央部の花床(花托)を残し散る。花床(花托)は逆円錐形で、多数の雌しべがハチの巣状につく。花床は果期になると果床となり、広楕円形で堅い痩果が多くの穴に埋まって熟す。この果床の姿がハチの巣に似るので、古名のハチス(蜂巣)からハス(蓮)の名が生まれたという。

 ハスの歴史は古く、古代エジプトや古代ギリシャではすでにその姿が見られ、生命のシンボルとされたりしている。ヒンズー教など宗教との関りがあり、泥の中に生えながら清らかで美しい花を咲かせる存在が高く評価され、ともにインドを発祥とすることもあって、仏教との関りが深く、仏教にとってなくてはならない聖花として尊ばれ、今に及んでいる。その花は極楽浄土に比され、仏教寺院にはいろいろに象られ見られる。例えば、東大寺の大仏さんの大蓮坐はその例で、極楽浄土の曼荼羅の世界が毛彫りされている。また、中将姫が葉や茎の繊維、蓮糸で織り上げたと言われる當麻曼荼羅のような話もある。

 日本の文献でハスが最初に登場するのは『古事記』で、雄略天皇の条に見え、『万葉集』の歌にも詠まれている万葉植物であるが、仏教との関りで詠まれたハスは見えず、日本で仏教との関りが普及して一般によく知られるようになるのは少し時が経ってからと言われる。今では園芸種の開発も行われ、八重咲きや白花種など50種以上に及び、アメリカ産のキバナハス(黄花蓮)も見られる。仏教伝来の地、大和(奈良県)にはお寺が多く、唐招提寺、喜光寺、薬師寺などハスで知られるお寺では毎夏みごとな花が見られる。

 なお、ハスは地下茎のレンコンから茎葉、花、実すべてが利用され、その花の美しさは他の花のあこがれ的存在で、蓮(はす)の名を借りた名の持ち主も見られるほどである。長くなるので詳しくは述べ得ないが、根茎は主に食用とされ、平安時代の『延喜式』にはレンコンを大和、河内から宮中に納めたという記録がある。また、今では珍しくなったが、葉は仏を迎えるお盆の精霊棚に欠かせないものだった。

  花の部分は観賞のほか、花床や実が食用や薬用にされ、今にある。茎や葉も食用等に利用されて来た。日本では花床や実はあまり食べないが、アジアの国々では普通に売られ、普通に食べられている。薬用としては乾燥した種子を蓮子(れんし)、蓮肉(れんにく)と称し、滋養、強壮、下痢止めなどに用いられて来た。

 写真はハス。ハスは典型的な虫媒花で、よくハチの仲間が姿を見せる。葉の中央に葉柄がつく典型的な盾状の葉で知られる。実が埋もれてつく花床(花托)はハチの巣を思わせ、ハスの名のもとになった。右端の写真は2000年の眠りから覚め、子孫を増やし、各地で花を披露している大賀ハス(斑鳩町ほか)。  楽園を目指す蜜蜂蓮の花

2399> 大和の花 (567) オニバス (鬼蓮)                                              スイレン科 オニバス属

                

 池や沼などに生える1年生の水草で、水底の地下茎から葉柄を伸ばし、水面に円形の葉を浮かべる。葉は直径2メートル超えの記録もあるほどの大きさに及ぶ。花期は8月から10月ごろで、花は地下茎より太い花柄を立ち上げ水面に抽ん出て紫色の1花を咲かせるものと、花柄が水中に止まり、閉鎖花をつけるものとがある。閉鎖花の方が圧倒的に多く、自家受粉で結実する。茎、葉、萼など全体に刺が多く、この特徴によりオニバス(鬼蓮)の名がある。

 本州の新潟県以西、四国、九州に分布する在来種で、中国、インドにも見えるという。日本では、水辺の減少などオニバスの生育環境が損なわれる傾向にあり、北限だった宮城県の自生地は失われ、環境省は絶滅危惧Ⅱ類にあげている。大和(奈良県)では北部に自生地があるものながら、極めて貧弱で、最近姿を見せておらず、絶滅寸前種として見られている。

 私は1999年9月10日、奈良市佐紀町の磐之媛命陵の外濠で見かけて以来、その姿を見ていない。『大切にしたい奈良県の野生動植物』(奈良県版レッドデータブック2016改定版)は「県内では奈良市の北部でのみ知られており、当初は宇和奈辺、小奈辺陵墓参考地の濠に見られたが、平城宮跡内のため池や磐之媛命陵の濠にみることができる年がある。オニバスの復活のためには池沼の保護を図る必要がある」と訴えている。

 なお、オニバスは1属1種で、日本に見られる1年草の中では最も大きいと言われる。人との関りでは食用や薬用にされ、漢方では乾燥した実を芡実(けんじつ)と呼び、リュウマチや強壮などに効能があるという、種子はデンプンを含み、食べられる。  写真はオニバス(磐之媛命陵の外濠)。  そこここに切なさ宿る来し方のありて所産の歌にも見ゆる

 

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿