大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年05月27日 | 植物

<1976> 大和の花 (229) ウツギ (空木)                                           ユキノシタ 科 ウツギ属

             

 ウツギ(空木)というよりウノハナ(卯の花)といった方が一般的には通りがよいかも知れない。古来より知られる落葉低木で、『万葉集』にはウノハナで24首に見える。所謂、万葉植物である。花期は5月から7月ごろで、歌には夏を告げる花として、同時期に渡って来るホトトギスと抱き合わせに読まれている歌が多く、季節の到来に敏感な日本人の感性に受け入れられ、雑木ながらも現代に至るまで夏を告げる花として親しまれて来た。

    卯の花の散らまく惜しみほとゝぎす野に出(で)山に入り来鳴きとよもす                      巻10 (1957)  詠人未詳

 これは『万葉集』のウツギを詠んだ24首中の1首で、ウツギの花とホトトギスの鳴き声に夏の到来を感じている歌であるのがわかる。ウツギは全国的に分布する日本の固有種で、山野に生える。高さは株立ちして、多数の枝木を分け、大きいもので3メートルほどになる。その伸ばした枝に円錐花序を出し、鐘形の白い花を下向きに多数つける。長楕円形の花弁は5個で、雄しべは10個、花柱は2、3個。ウツギ属の仲間はこのウツギをはじめ、幹に髄があり、この髄が失われて幹が中空になるのでこの名がある。

 また、干支の4番目に当たる卯とする卯月(旧暦4月)のころ花を咲かせるのでウノハナの別名があると一説にある。これに対し、卯の花が咲く月で卯月になったとも言われる。どちらが正しいのか。卯の花の語源にはほかにも説が見える。「卯の花腐し」というのはこの花の時期に降る雨をいうもので、五月雨を指す。なお、葉は長楕円形または倒披針形で互生する。

 昨今ではほとんど見られなくなったが、枝木に溢れんばかり白い花が咲き、刈り込みが容易に出来るため、生け垣によく用いられ、明治時代の唱歌「夏は来ぬ」には「うの花のにおう垣根に 時鳥早もきなきて 忍音もらす 夏は来ぬ」と見える。また、沢山の花に沢山の実が出来ることから、これを豊作の縁起として5月5日に行なわれる宇陀市の野依白山神社では御田植祭りでこのウツギにあやかり神事の所作事に稲の若苗代わりにウツギの若枝を用いる風習がある。若松を用いるところが多いが、これは人々が古来よりウツギに親しく接して来た例として見ることが出来る。

 なお、ウツギにはウノハナのほか、ユキミソウ、ナツユキソウ、ツユバナなど梅雨の時期に咲く白い花に雪を連想した名など別名、地方名が多く、これも暮らしの近くに見られ親しまれて来た証である。写真はウツギの花。   空木咲く曇天もよし花の滝

<1977> 大和の花 (230) コウツギ (小空木)                                         ユキノシタ 科 ウツギ属

                

  ウツギ(空木)の変種で、ウツギに比べ花も果実も小振りなのでこの名がある。葉は卵形から楕円形で、先は尖り、鋸歯があって対生する。花期は6月から8月ごろと他種より遅く、枝先に円錐花序を出して多数の白い花をつける。花弁は5個で、長さは数ミリ。林縁の岩場や登山道脇でときおり見かける。

  本州の紀伊半島以西と四国、九州に分布を限る日本の固有種で、襲速紀要素系の植物と見られる。大和(奈良県)では金剛山を除くと南東部に限られ、個体数が比較的少ないことから希少種にあげられている。山地に見られるウツギで、石灰岩地に多いと言われる。 写真はコウツギ。左は川上村の石灰岩地での撮影。次は大台ケ原ドライブウエイ沿いの個体。右はウツギの花と比較したもの。左がコウツギの花でウツギの花の3分の1ほどの大きさであるのがわかる。  空木咲く昨日の時は今日にあり

<1978> 大和の花 (231) マルバウツギ (丸葉空木)                                 ユキノシタ 科 ウツギ属

                                                    

  山野に見られるウツギの一種の落葉低木で、卵形から楕円形の葉は縁に鋸歯があり、対生する。花序のすぐ下の葉、つまり、枝先の葉には柄がなく、茎を抱く特徴があり、他種との判別点になる。花期はウツギよりも早く、4月から6月ごろで、枝先の円錐花序に白い5弁花を上向きに咲かせる。花弁は長さが1センチ前後の長楕円形で、平開する。

  花が平開して上向きになるので、花の基部に当たる橙色の花盤の部分も見え、黄色い雄しべの葯とともに白い花のアクセントになってよく目につき、この点も判別点になる。本州の関東地方以西の太平洋側、四国、九州に分布する日本の固有種として知られ、大和(奈良県)においては、北西部の一部を除いて、ほぼ全域に見られ、山足や林縁などでよく出会う。マルバウツギが花を見せると、暫くして、この花を追いかけるようにウツギが咲き出して来る。こうなると季節はいよいよ夏で、そこここで田植えの準備が始まる。           空木咲く真っ先に蝶やって来て

<1979> 大和の花 (232) ヒメウツギ (姫空木)                                      ユキノシタ 科 ウツギ属

                                                   

  渓谷の岩場や林縁の崖地などで見かける落葉低木で、株立ちして1.5メートルほどの高さになる。葉は大きいもので長さが8センチほどになり、縁には細かい鋸歯が見られ、先は細長く尖る。葉は他種と同じく対生する。花期はマルバウツギと同じく、4月から5月ごろで、ウツギよりも一足早く開花する

  枝先に円錐花序を出し白い5個の花弁からなる花を多数つける。ウツギより小振りな花は純白で、清楚。で、ウツギにヒメ(姫)が冠せられた。本州の福島県、新潟県以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では紀伊半島を主に、東南部の襲速紀要素系植物の分布域に見られる。 写真はヒメウツギ(川上村)。他種に比べ花の純白度が高い。  空木咲くまた一年の巡りかな

<1980> 大和の花 (233) ウラジロウツギ (裏白空木)                           ユキノシタ 科 ウツギ属

          

  他種に比べて葉裏が白色を帯びるのでこの葉裏が判別点になるウツギで、これによって容易に見分けることが出来る。私が観察したところでは、概して谷筋の半日陰になる少し湿り気のあるようなところに生える印象がある。

  高さは大きいもので、2メートルほどになる落葉低木で枝を分ける。葉は長楕円状披針形から狭卵形で、細かい鋸歯が見られ、葉裏が白いのは星状毛が密生しているから。花期は5月ごろで、谷筋の同じところに見られるマルバウツギよりも花は早く、前後してマルバウツギが咲き出す。枝先に円錐花序を出し、白い花をやや下向きに咲かせる。花弁は他種と同じく5個で、雄しべは10個、花柱は3、4個。花はほとんどが平開しない。

  本州の長野県南部または静岡県北西部以西(近畿まで)と四国に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)においては東南部一帯でよく見られる。北西部には自生していないようである。 とにかく、ウラジロウツギはその名の通り、葉の裏側をうかがえばわかる。 写真はウラジロウツギの花。右2枚の写真は左が葉の表面(上)、右が裏面(下)側から撮ったもの。空木咲く大和は概ねつつがなし

 

 


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