おやじのつぶやき

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「北斎漫画」(古きよき映画シリーズ11)

2012-12-12 20:19:27 | 素晴らしき映画
 『北斎漫画』は、葛飾北斎が絵の手本として発行したスケッチ画集で、300余りの下絵を描いている。

 
 この映画の題名にはなっているが、話の展開と関係の薄いのが、ミソ。
 『富嶽三十六景』などの作品で世界にも名高い浮世絵作家・葛飾北斎とその娘・お栄、友人・滝沢馬琴との交流を描いた作品で、劇作家・矢代静一の同名の戯曲を映画化したものです。「北斎」の「劇画」風の、波瀾万丈で放逸な人生を表したのでしょう。史実とはかなり違うようですが。

《あらすじ》
 鉄蔵と娘のお栄は左七の家の居候。本所の貧しい家に生まれた鉄蔵は、幼い頃に御用鏡磨師・中島伊勢の養子となる。が、家業に励まず、絵師の弟子となるも、なかなかうだつが上がらない。
 一方、元侍の左七は今は下駄の職人だが、読本作家になりたいと志している。左七の女房のお百は、亭主が隠れて黄表紙本などを読んだり、書いたりするのを心よく思っていない。
 ある日、鉄蔵は魔性の女・お直に出くわす。鉄蔵は彼女の裸体を描こうとしたが、うまくいかない。鉄蔵はお直を養父・伊勢に紹介することで、金をせびる。その伊勢も、お直の魔性にとり憑かれたあげく、首をくくって死んでしまう。
 その頃、お百も病で死んでしまう。左七はせきを切ったように書き始め、流行作家となる。
 お栄は左七を訪ね、読物の挿し絵を父に描かせて欲しいと頼んだところ、左七は喜んで引き受ける。北斎の名で描いた挿絵は評判になったが、鉄蔵は一大決心して家を飛び出し、富士をめぐる放浪の旅の中で、傑作「富嶽三十六景」が生まれる。
 いつしか時は流れ、北斎は八十九歳、お栄は七十歳、馬琴は八十二歳となった。ある日、お栄がお直とそっくりの田舎娘を連れてきた。海岸で見かけた蛸と戯れる海女達からヒントを得て、北斎は“お直”を裸にすると、巨大な蛸が、裸女に絡みつく絵を一気に描く。裸のお栄に抱かれながら馬琴も死に、北斎もまた生への執着と絵への未練を残しながら、90の生涯を終える。
 
《脚本・監督》
新藤兼人
《出演》
緒形拳 鉄蔵(葛飾北斎)
西田敏行 佐七(曲亭馬琴)
田中裕子 お栄(鉄蔵の娘)
樋口可南子 お直
乙羽信子 お百(佐七の女房)
宍戸錠 十返舎一九
大村崑 式亭三馬
愛川欽也 歌麿
観世栄夫 狩野融川
大塚国夫 蔦屋重三郎
今井和子 お品ばばあ
フランキー堺 中島伊勢
 
 「北斎漫画」や「富嶽三十六景」にまつわるエピソードはほとんどなく(諸処の富士を背景に旅する北斎の躍動感・充実感は伝わりますが)、老齢の北斎が全裸の「お直」樋口可南子に絡み付く「蛸と海女」の絵を書くシーンがラスト近くで盛り上げる趣向(描いた年齢は実際とは異なっているようです)。
通称「赤富士」。
「神奈川沖浪裏」。この二枚は映画でも登場する。
 樋口可南子は妖艶な雰囲気を醸し出していますが、それにもまして娘役の田中裕子の奔放な裸姿(老婆になってからの裸もあり)が印象的。登場人物たちの年取った姿は、わざとらしくカリカチュアされて、まさに「漫画」。楽しい。
 若い頃から老いるまで、突然降ってくる夕立の中を駆け抜ける「北斎」。心身の奥底から爆発する情念・行動を、緒形拳は見事に演じています。引き立て役の面々も多士済々。猥雑で肉欲的な江戸の文化の雰囲気を伝えています。新藤兼人は、こうした猥雑な雰囲気を映像化するの巧みな監督。観る者にちょっと消化不良を起こさせるのもこの監督ならでは、と。
『蛸と海女』。葛飾北斎による艶本『喜能会之故真通』(きのえのこまつ)の中の木版画の一枚。

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