同じ地域に住む82歳の女性、Fさん。
長年、地域のために尽力してきた人。
水商売で生きてきた女性特有の嗄れた声。カラッとした性格はみんなから親しまれていたが、ここ数年は認知症も出て、僕の勤める病院にも何度も入院しては、誰もが知る患者の一人となった。
今回も入院し、介護服を着せられていた。腰骨を骨折したと言い、これまでのようにベッドから降りるということは出来なくなっていた。
しかし、あと数日で退院という夜に、事態は急変したのだ。
その夜、僕は深夜業務のため0時に出勤すると、前日に僕が書いた患者のリストから名前が消えてきた。
亡くなったのだ。
地域では有名な人。うちのお袋もそうだし、皆、なんであの人が?と口々に言っている。僕は毎日顔を会わせていたが、実際、元気だった。
人は、明日どうなるかなんて、本当に分からない。
僕が苦しんでいるのは、彼女が亡くなったという悲しみだけではない。
病院という所には、守秘義務が存在する。僕が聞いた話しと家族への説明に、違和感を感じたからだ。
本当のところは分からないんだけど…
僕にはメンタルケアが必要なんだと思う。誤解がないように言うけど、彼女が亡くなったことは必然であったということ。
Fさん、ありがとうございました。
病室でお話しした思い出は、忘れないように此処にメモしておきます。
好きな一文を話せたこと。
住所を普通に言えたこと。
看護師と揉めたが僕に話せて良かったということ。
旦那さんに様々な思いがあったこと。
家に帰りたかったこと。
ご冥福をお祈りします。