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デザインクラス通信11 「パウル・クレーを訪ねて」

2012-01-19 10:14:48 | デザインクラス
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みなさん、パウル・クレーという絵描きをご存知でしょうか。
1900年代初頭にドイツで活躍したスイス人の画家で、以前バウハウスの話をしたときにちらっと紹介しました。日本でも割と親しまれている画家なので、その作品を目にしたことのある人も多いかもしれません。去年の夏頃には東京都近代美術館で展覧会も開催されていました。
今回は久しぶりに雑談がてら、僕の大好きな画家のひとり、クレーの話をしようと思います。好きなあまり長文になりそうですので、どうかお茶でも飲みながら、のんびり読んで頂ければと思います。

ある特定の絵描きの絵を好きになる瞬間というのがあ ります。展覧会で たまたま見かけて、おお、なんだこれは!すごい絵描きがいるぞ!という具合に、とても印象に残るケースがあります。また 逆に、いつからかははっきりしないが、なんとなくその絵やその絵描きのことを知っていて、知らず知らずのうちに気にするようになる。すると、行く先行く先の展示でその作品に出会い、そのうちに「ああ、僕この人の絵、好きだなあ」という具合に、じわじわと好きになるケースもあります。

僕がクレーのことを意識し始めたのは確か大学に入ったばかりの頃で、予備校時代から集めていた作品資料(色々な画集の中で、好きな作品を図書館でコピーをしてファイリングをしたもの)の中に、たまたまクレーの「パルナッソスへ」(一番上の絵)という作品が入っていて、あれ、こんなのいつコピーしたっけな、と見返した記憶があります。僕はその頃デザインの勉強を始めたばかりで、ちょうど バウハウス を知り、そこでクレーが先生として活躍していたことを知りました。デザインと絵画にうまく境をつけられずにいた当時の僕にとっては、絵描きがデザイン学校の先生として教鞭をとっていたことに興味を覚え、知らず知らずのうちに彼の作品やその美術理論に引き込まれていきました。

彼が活躍していた20世紀初頭は、ドイツ、その中でもベルリンとミュンヘンで「Expressionism」日本語で「表現主義」というとても大きな芸術運動が起こっていました。どういった運動かを簡単に説明すると、それまで主流だったパリの印象派(セザンヌやモネ等)が物事の外面的な特徴を描写するのに対し、表現主義は人の内にある感情を作品に反映させることに重きを置きました。表現主義者達、彼らが参考にしたのはみなさんご存知あのファン・ゴッホで、彼の作品のように、絵描きのほとばしる感情がそのまま色や形として画面にむき出しになることこそが、彼らにとっての芸術そのものでした。
クレーの作品も同様、エモーショナルで情感溢れるものだったことと、また同じ時代を駆け抜けた一人の画家として表現主義者として名前を挙げられることも少なくありませんが、しかし実際のところ、彼の作品は表現主義やその他のどのジャンルにも属さないとても独特で、唯一無二の作風をもっていました。

彼の作品の特徴のひとつに、その画風が変わり続けることにあります。
モチーフは生涯を通して、人物や動植物、自然を描くことを好みましたが、それを描き出す画材や技法は本当に数えきれぬ程に変わります。柔らかいもの、暗いもの、メランコリックなもの、愛嬌にとんだもの、そういった作品のイメージに合わせるかのように
絵の具のタッチを大きく変化させ、更には様々な種類の画材を使うことにも飽き足らず、自然の土や砂なども一つの画材として取り込んでしまう。そんな彼の絵には、作品毎に見出した彼の発見や驚きがそのまま伝わってくるような印象があります。
僕が彼の作品に対して最初意識が薄かったのも、この多様なスタイルのせいで、クレーはこういう絵、というのがはっきりとしなかったせいかもしれません。
しかし彼の作品を長く見続けていると、その多様な作風に一貫して感じられる、「クレーらしさ」といったものを感じることができます。これを具体的に説明することはできません。要するに、なんか、クレーらしいな、という雰囲気なのです。一枚一枚の絵を見るだけでなく、いろいろな作品を通してみることによって、そのクレーという人物自体が浮かび上がってくる。その印象がなんとも魅力的で、作品だけでなく、その絵描き自身に興味をもったのは、このパウルクレーが初めてでした。

もう一つ、彼の作品の特徴として有名なのは、色です。彼のその瑞々しい色使いは、先ほど書いたクレーらしさというものを感じさせるのに一役も二役も買っています。作品を発表し始めた当初、彼の作品はモノトーンの版画などが多く、あまり色がありませんでした。そんなあるとき、彼は友人の画家と一緒に北アフリカの国、チュニジアにスケッチ旅行に出かけます。そこで彼が目にしたのは、山や自然が紡ぐ鮮やかな色たち。そこからまるで啓示を受けたかのように、彼はこう日記に記しました。「色彩は、私を永遠に捉えたのだ。」
この旅行を機に彼の作品は一変、豊かな色彩が花開き、形態もよりいっそう研ぎすまされ、抽象的な物に近づいていきました。
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スイスの首都で、彼の故郷のベルンという町にパウル・クレー・センターという彼の美術館があります。大学3年の夏、好きが高じて僕はこの美術館を訪れ、それはとてもとても素晴らしい体験をしました。まるで彼の息づかいやその想いのなかを巡っているような、言葉では言い現せない幸福な時間でした。
そしてドイツ滞在中、満を持して、今度はチュニジアを訪れました。クレーが目にし、その色彩に感銘を受けたというその国を、どうしても自分も見てみたかったのです。
きっと彼が目にしたチュニジアとはもうだいぶ違っているはずですが、その風景を見ながら彼の作品に想いを馳せました。
そして今、僕は彼の日記を本で読んでいます。芸術に対する想い、葛藤。同じものを志した偉大な先生として、彼の手記は僕に創作のエネルギーを与えてくれます。
100年後、遥か遠く、東洋の島国に住む一人の青年に、自分の作品とその生涯がこんなにも感銘を与えているなんて、きっと考えもしなかったでしょう。
もしできることなら、昔のドイツにタイムスリップして、バウハウスで彼の授業を受けれたらどんなに素晴らしいだろうと思ったりもします。

やはり長くなってしまいました。書き足らないこともありますが、今回はこのへんで終わりにします。お付き合い頂き有り難うございました。
これを読んで、少しでも彼の作品に興味を持って頂けたら嬉しく思います。
だいぶデザインからは脱線しましたが、たまにはこういうものも書いていこうかと思います。それでは、また。
(アベカイタ)
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