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安倍氏殺害事件と右翼のカオス化

2022年07月18日 21時32分05秒 | Weblog
 安倍元首相殺害事件の実行者について、すでに多くの情報が世の中に出てきている。本人の供述、手紙、SNSの書き込み、さらに近親者の証言などが公開され、その半生から動機まで、良く分かってきたと思う。
 一部のテレビ・コメンテーターがしつこく背景に何かの組織が関与しているという陰謀論を展開しているが、話の脈略から、どうやら安倍氏と統一教会の関係が無かったことにしたいらしい。別の元政治家のコメンテーターは統一教会の支援を受けた可能性を指摘され、政界やマスコミの中に根深く統一教会が食い込んでいる様子が透けて見える。
 特にNHKは、組織的に統一教会と政治の関わりについて触れないよう指示していると言われ、反統一教会の立場を取るジャーナリストの発言を無視し続けたそうだ。
 また、政府の子ども庁の名称が多くの反対にもかかわらず子ども家庭庁に変更されたのも統一教会の働きかけによるものだったとする教会=勝共連合のホームページが話題となっている。
 さらに動画サイトでは、かつて警察が統一教会摘発に動いた際に、それを阻止したのが安倍晋三氏だったという暴露も行われている。
 こうした統一教会と政治、とりわけ安倍氏を頂点とする極右系政治家との癒着は、いかに政治とマスコミが隠蔽しようとしても、今後ますます明らかになっていくだろう。
 殺害実行者の目論み通りになったとも言える。

 さて、こうした報道の中で、実行者がいわゆる確信的なネット右翼(ネトウヨ)であることが分かってきた。これは当初多くの人々が考えていた、左派による政治テロという図式とは真逆の展開である。
 以前、ぼくはツイッター上で某氏と議論したときに、日本の右翼界に危険とも言えるような価値観の崩壊が起きていることを感じた。今回の事件もそうした日本の右翼の混乱とカオス化の影響を受けているのではないかという気がする。

 我々の常識的感覚で言えば、ネトウヨも旧来型右翼と同じ価値観の延長線上にいて、つまりそれは日本近代史上の経緯が生んだものに見える。
 明治維新政府は西欧型絶対主義を日本に導入することで、日本を欧米と匹敵する国家にしようとした。当然、西欧型絶対主義にはその基盤の存在が前提となる。キリスト一神教的価値観である。
 そこで仕組まれたのが、キリスト教的価値観と秩序の密輸入としての天皇制、皇国史観、国家神道の創作であった。これらはそれまでの日本に(少なくとも主流的には)無かった思想と制度であり、全体像を見れば西欧の絶対王制、キリスト教、教会制度の形と瓜二つであることがすぐにわかる。

 日本右翼の系譜は、この明治期に創作された非論理的、神話的ニセ歴史観を基底にすることがスタンダードであり、またそうしなければ、自らの正当性を担保することが出来ない。それを代々受け継いでいくことが彼等のアイデンティティーだった。
 不幸にも米国が敗戦国日本を利用するために戦争責任をあいまいにし、右翼の系譜を断ち切らせなかったことで、戦後、そして今日までも、これが延々と続くことになってしまった。それは現在的には岸信介~安倍晋三の戦後極右政治家を中心軸とするラインとして認知されている。
 我々がこれまで見てきた政治シーンの中では、秋葉原で安倍氏や自民党政治家がアイドルのように大声援を受けることもあり、ネトウヨもまたそうした価値観を共有しているかのように見受けられた。

 しかし、かの某氏は安倍氏を共産主義者と呼び、今回の実行者は現実的に安倍氏を殺害してしまった。
 右派の中に、これまでの日本右翼とは全く価値観を異にする流れが生まれていることを感じさせる。
 もちろん、これまでも右翼のテロが保守派政治家に向かったことはある。しかしそれは何らかの政治的妥協や融和を批判し、より原理主義的方向へ向かうことを主張してのものだ。安倍氏のように(本音はともかく表面的には)まさに原理主義者の先鋒、主導者を敵対視するというのは、全く意味が違う。
 また逆に崇拝の念が強すぎて殺してしまう「神殺し」「犠牲」というケースもあるが、今回はこれでもない。
 確かにテレビ・コメンテーターが「理解できない」と発言するのも無理ないところはある。

 これは完全に推測であり予断のそしりを免れないかもしれないが、印象として、いわゆるY世代以降、失われた30年代に育ったネトウヨは、伝統的な右翼の歴史観・世界観、つまり右側から見た日本近代史と切り離され、それまでとは違う経緯から右傾化しているのではないかと言う気がする。
 予断に予断を重ねてしまうことになるが、彼等は思想的と言うより、経済的、生活者的切迫性・必然性から差別的、反平等主義的、自己防衛的に生きざるを得ず(つまり激しい競争社会と社会的に押しつけられた貧困の中で、自分のことを優先するしかなく)、それが政治主張として表層的に似ている旧来型右派と親和したにすぎないのではないだろうか。
 そこに政府自民党による歴史教育の破壊という事態が重なる。「不都合な真実」としての日本近代史を封印したために、逆に右翼の正当性を担保するべき近代史さえ若い世代に伝わらなくなった。残ったのは漠然としたイメージとしての国家神道や皇国史観だけになってしまった。科学的視点は失われた。

 普通の(と言うのも予断だが)若いネトウヨは、単純に中高年のネトウヨ(この層がネトウヨの主流)に感化され疑問を感じないのかもしれないが、それでも自分の頭で考えたいと思う人間はいる。
 彼等は知的であり優秀であるが、いかんせんこうした状況下に置かれたため科学的、客観的知識が無い。そうした中で、自分の頭の中で世界を再構築し、つじつまを合わせていくしかなくなる。実際、某氏も知的で鋭い視点も持っていたし、今回の実行者も冷静で理知的な判断をすることの出来る人物だったようだ。
 しかし、残念なことに当然ながらこうした自分の中だけで完結する思考は歪んだものにならざるを得ない。彼等は右翼的世界から脱出する出口を持たず、その世界の中だけで相矛盾した言説に自分なりの解釈を加えていくしかない。
 そもそも排外主義で「嫌韓」の右翼が、世界制覇を狙い日本を属国と見る韓国の宗教団体とつるむのは、もはや冗談のような話だし、憲法を「押しつけた」米国の安保条約は唯々諾々と受け入れ、周辺国の領域侵犯に怒りつつ、首都圏の航空管制を完全に米国の支配下として奪われているのに何も言わず、「同胞」であるはずの国民の中に激しい差別と格差があるのに、それを排外主義の言説で誤魔化してしまう、まさに右翼の世界は矛盾だらけなのだ。
 こうした矛盾は右翼的世界の外側から見れば、ようするに資本主義社会(というより、ありていに言えば金持ち達)を守るための嘘とペテンなのだということがすぐわかる。そのために歴史を歪曲し、事実を隠蔽し、排外主義を煽っていることも。

 右派勢力は左派を排除するために人々から知性を奪ってきたが、その結果、自らの内部崩壊の危機を孕んでしまったと言える。
 これは左派がざまを見ろと笑っていられるような話では無い。
 右翼が右翼内部を思想的にコントロールすることが出来ず、予想も付かない行動に出るローンウルフへと分解していく危険が生じているのだ。それは今回の事件が示すように社会不安を生み出す原因となっていく。放置していけば社会全体が崩壊する。
 現在の右翼的、ナショナリズム的に偏向した政治、マスコミ、教育を終わらせ、知性的、理性的、科学的な本来的な近代主義を取り戻さねばならない。

 もし今回の事件の実行者が、その右翼的世界から脱することが出来ていたなら、偏見無くもっと広い世界(彼が嫌悪するサヨクがいる世界)と繋がることが出来ていたら、彼と同じ苦しみを持つ者がこの社会と闘い続けていることが分かったら、そしてその苦しみのもっと根本に、現代という時代の矛盾があることに気づけたら、彼の行動はもっと違うものになったかもしれない。

 今朝見たテレビ番組でジャーナリストの有田芳生氏が、統一教会の問題は30年間マスコミから無視されてきた、だから多くの人から記憶が薄れ、被害者は救済されず、政治が蝕まれてしまったという主旨の発言をしていた。
 まさにその30年は、保守政治が経済的、思想的に子供達から奪い続け、追い込み続けた30年でもあった。
 この現在の日本社会は作られるべくして作られた社会であり、穿った言い方をすれば、安倍氏殺害もその結果として起こるべくして起こったと言えるのかもしれない。


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