ガッチは血眼になって探しましたが、サトルは川の底深く沈んでしまって、もはやガッチにはどうすることもできませんでした。ガッチはがっくりと肩を落として、板切れにぽつり、としずくのような涙を落としました。けれど、どうしてもあきらめがつかず、涙を流しながら、しばらくサトルの沈んでいったあたりに浮いていました。ノコギリ魚が切った丸太舟の破片は、もうとっくに流れ去っていました。
ガッチは、たった一人になってしまった、とあらためて感じていました。
(――しかたない。先に進むか)と、ガッチは再びやる気を奮い起こし、川の流れに逆らって、向こう岸を目指して泳ぎ出しました。
と、ガッチがいくらも進まないうち、サトルが沈んだあたりから、ぶくぶくと泡が吹き出してきました。気がついたガッチが振り返ると、次第に水面が盛り上がり、ぶわっと大きなしぶきを立てて、浮き輪を体にはめたサトルが現れました。
「……?」と、ガッチは大急ぎで浮き輪に飛び乗りました。「サトル。おい、サトル!」
ガッチはサトルの頬を叩いたり、大声で叫んだりして、目を覚まさせようとしました。
「う……う、ううん。ガッチ――」
と、サトルは気がつきました。
けれどおぼれていたせいでしょうか、水の混じったげっぷを繰り返し、目はぼんやりとうつろでした。
それでも、サトルが助かったことにほっとして、ガッチは大声で笑い出しました。
二人を乗せた浮き輪は、サトルが正気づく.まで、ゆるゆるとそのまま川を下って行きました。しばらくして、サトルが元気を取り戻すと、二人で浮き輪を前にして、バシャバシャとバタ足で水を蹴りながら、再び向こう岸を目指して進み始めました。
辺りの景色をすべて白く変えてしまう靄が、また辺りに立ちこめました。風はまったく吹かず、手元も見にくいほどの靄は、まるで晴れる気配がありませんでした。おぼろげに見えるお日様も暮れ始め、サトルとガッチは、明るい時よりも不安な航海を強いられました。それでも、かろうじて救われたのは、厚い靄のカーテンを通して、ぼんやりとした月明かりが、川面を照らしていることでした。
やがて、どんどんと夜がふけていき、二人が交代して浮き輪を進めていると、前方の靄の中に、人が灯したような明かりを認めました。明かりに近づいていくと、視界を白く覆っていた靄のカーテンが、ぱっと開け、目の前に大きな帆船が現れました。明かりは、その帆船の甲板に灯されているランプの火が、見えていたのでした。
二人は、無人島に置いてけぼりにされていたように、目の前に現れた帆船に向かって、大声で叫びました。
「おーい、助けてくれぇ!」
二人が叫んでいると、手に手にグラスを持った船乗り達が、甲板から次々と顔をのぞかせました。そして、人々はなにやら相談しあっていましたが、その中の一人で立派な制服を着た男が、サトル達に向かって言いました。
ガッチは、たった一人になってしまった、とあらためて感じていました。
(――しかたない。先に進むか)と、ガッチは再びやる気を奮い起こし、川の流れに逆らって、向こう岸を目指して泳ぎ出しました。
と、ガッチがいくらも進まないうち、サトルが沈んだあたりから、ぶくぶくと泡が吹き出してきました。気がついたガッチが振り返ると、次第に水面が盛り上がり、ぶわっと大きなしぶきを立てて、浮き輪を体にはめたサトルが現れました。
「……?」と、ガッチは大急ぎで浮き輪に飛び乗りました。「サトル。おい、サトル!」
ガッチはサトルの頬を叩いたり、大声で叫んだりして、目を覚まさせようとしました。
「う……う、ううん。ガッチ――」
と、サトルは気がつきました。
けれどおぼれていたせいでしょうか、水の混じったげっぷを繰り返し、目はぼんやりとうつろでした。
それでも、サトルが助かったことにほっとして、ガッチは大声で笑い出しました。
二人を乗せた浮き輪は、サトルが正気づく.まで、ゆるゆるとそのまま川を下って行きました。しばらくして、サトルが元気を取り戻すと、二人で浮き輪を前にして、バシャバシャとバタ足で水を蹴りながら、再び向こう岸を目指して進み始めました。
辺りの景色をすべて白く変えてしまう靄が、また辺りに立ちこめました。風はまったく吹かず、手元も見にくいほどの靄は、まるで晴れる気配がありませんでした。おぼろげに見えるお日様も暮れ始め、サトルとガッチは、明るい時よりも不安な航海を強いられました。それでも、かろうじて救われたのは、厚い靄のカーテンを通して、ぼんやりとした月明かりが、川面を照らしていることでした。
やがて、どんどんと夜がふけていき、二人が交代して浮き輪を進めていると、前方の靄の中に、人が灯したような明かりを認めました。明かりに近づいていくと、視界を白く覆っていた靄のカーテンが、ぱっと開け、目の前に大きな帆船が現れました。明かりは、その帆船の甲板に灯されているランプの火が、見えていたのでした。
二人は、無人島に置いてけぼりにされていたように、目の前に現れた帆船に向かって、大声で叫びました。
「おーい、助けてくれぇ!」
二人が叫んでいると、手に手にグラスを持った船乗り達が、甲板から次々と顔をのぞかせました。そして、人々はなにやら相談しあっていましたが、その中の一人で立派な制服を着た男が、サトル達に向かって言いました。