「おいおい、そりゃ考えすぎじゃねぇか。襲われたって言ったって、せいぜい間抜けなトカゲの王様と、石っころの鳥だけじゃねぇか。おれ達がいつも監視されてるんなら、もっとおっかねぇやつが出てきたって、いいはずだぜ――」ハッハッハッ、とガッチが笑いました。
「そうだといいんだけど……」と、サトルは頭の中で、ヒゲの生えた不思議な子供のことを考えていました。そして、あの青い服、おびえたような瞳。またなによりも、サトル自身をこの世界へ引っ張りこんだドア。
サトルは、まだそのことごとくを、どこか夢の中の出来事として片づけていました。朝が来て、鳥のさえずりが聞こえ出すまでの、やけに現実感のある話だと――。
けれど、また別の心の中では、ドリーブランドという聞いたこともない土地でおこった、不思議な、正体のわからない子供を中心とする事件は、なによりも現実の出来事のように感じられるのでした。
できることなら、こんな珍奇な悪夢など、すっかり忘れて目を覚ましたかったのです。しかし、ドアの向こうに消えたたくさんの町の住民や、特にあの不思議な子供のことなど、どうにも理解できない現実感が、サトルをこの世界にとどまらせておこうとしているようでした。
ガシャッ、ガシャッ……
サトルがぼんやりと考え事をしていると、なにやら鉄が打ち合うような重たい音が響いてきました。はっと我に返って辺りを見回すと、ガッチも気がついたのか、そろって自分達の回りを見回し始めました。すると、ヒヒーンという馬のいななきが聞こえました。こうなると、二人も何事かと立ち上がって、まだ乾ききっていない服を急いで身につけ、なにかに襲われても、すぐに逃げ出せる準備をしました。
ガシャッ、ガシャッ……と、鉄の打ち合う音は、どうやらサトル達の前にある、大きな岩の影から聞こえてくるようでした。
なにかしら、妙な緊張感が二人の間に漂っていました。どちらかが生唾を飲む音が、しんとした空間に大げさに聞こえました。
ガシャッ、ガシャッ……ゆっくりと、その音の主が姿を現しました。
それは、全身氷のように青い鎧を身につけた騎士でした。騎士は、まるで実体のない幽霊のような馬に跨がっていました。
なんとも言いがたい腐臭を放つ馬が、1歩ずつ足を進めるたび、青い鎧が、ガシャッ、ガシャッ……と音を立てるのでした。
青い鎧の騎士は、手に長い槍を持っていました。とがっている先端は黒く、血の跡のように見えました。もう片方の腕には、頑丈そうな楯を着け、その手に握った手綱で、器用に馬を操っているのでした。
見ているだけで胸が悪くなりそうな騎士の顔は、兜についている面がいの奥に隠れ、うかがい知ることができませんでした。
青騎士は、じりじりと後ろへ下がる二人に、ゆっくりと近づきながら、息を飲むほどの早さで、槍を突き出しました。二人は、全身の自由を奪っていた鎖が一瞬で解けたように、そろって回れ右をすると、一目散に逃げ出しました。
「そうだといいんだけど……」と、サトルは頭の中で、ヒゲの生えた不思議な子供のことを考えていました。そして、あの青い服、おびえたような瞳。またなによりも、サトル自身をこの世界へ引っ張りこんだドア。
サトルは、まだそのことごとくを、どこか夢の中の出来事として片づけていました。朝が来て、鳥のさえずりが聞こえ出すまでの、やけに現実感のある話だと――。
けれど、また別の心の中では、ドリーブランドという聞いたこともない土地でおこった、不思議な、正体のわからない子供を中心とする事件は、なによりも現実の出来事のように感じられるのでした。
できることなら、こんな珍奇な悪夢など、すっかり忘れて目を覚ましたかったのです。しかし、ドアの向こうに消えたたくさんの町の住民や、特にあの不思議な子供のことなど、どうにも理解できない現実感が、サトルをこの世界にとどまらせておこうとしているようでした。
ガシャッ、ガシャッ……
サトルがぼんやりと考え事をしていると、なにやら鉄が打ち合うような重たい音が響いてきました。はっと我に返って辺りを見回すと、ガッチも気がついたのか、そろって自分達の回りを見回し始めました。すると、ヒヒーンという馬のいななきが聞こえました。こうなると、二人も何事かと立ち上がって、まだ乾ききっていない服を急いで身につけ、なにかに襲われても、すぐに逃げ出せる準備をしました。
ガシャッ、ガシャッ……と、鉄の打ち合う音は、どうやらサトル達の前にある、大きな岩の影から聞こえてくるようでした。
なにかしら、妙な緊張感が二人の間に漂っていました。どちらかが生唾を飲む音が、しんとした空間に大げさに聞こえました。
ガシャッ、ガシャッ……ゆっくりと、その音の主が姿を現しました。
それは、全身氷のように青い鎧を身につけた騎士でした。騎士は、まるで実体のない幽霊のような馬に跨がっていました。
なんとも言いがたい腐臭を放つ馬が、1歩ずつ足を進めるたび、青い鎧が、ガシャッ、ガシャッ……と音を立てるのでした。
青い鎧の騎士は、手に長い槍を持っていました。とがっている先端は黒く、血の跡のように見えました。もう片方の腕には、頑丈そうな楯を着け、その手に握った手綱で、器用に馬を操っているのでした。
見ているだけで胸が悪くなりそうな騎士の顔は、兜についている面がいの奥に隠れ、うかがい知ることができませんでした。
青騎士は、じりじりと後ろへ下がる二人に、ゆっくりと近づきながら、息を飲むほどの早さで、槍を突き出しました。二人は、全身の自由を奪っていた鎖が一瞬で解けたように、そろって回れ右をすると、一目散に逃げ出しました。