Yokusia の問はず語り

写真担当: Olympus E-400 / Panasonic FZ5

田舎コンサート

2008-02-01 | Weblog

先月の29日、フランス・クリダのピアノコンサートがありました。
開演は夜8時半。場所は、地元で唯一の映画館兼コンサートホール(もどき)です。

フランス・クリダは、ブダペストで行われるフランツ・リストコンクールで、1956年、優勝したことから、
リスト弾きとして一躍有名になったヴィルトゥオーゾ型の女性ピアニスト。日本でも有名で、私がまだ
子供だった頃から、彼女のアルバムをよく見かけました。オードリー・ヘップバーンを思わせる細い
ラインのドレスを着た彼女の写真がレコードジャケットに印刷されていたのを、今でも覚えています。

すでに70歳を超え、かなり貫禄がつきましたが、往年のテクニックはそのまま。
プログラムには、一番きれいだった頃の写真が載せられていて、やっぱり女性だなあと思いました。

いくら田舎でも、これはないんじゃないかと思うくらい杜撰なオーガナイゼーションだったのですが、
大物ピアニストだけあって、慌てず騒がず。



最初の問題は椅子。高さが合わなかったらしく、よこのつまみを回して調整しようとしたのですが、
このつまみが固まっていたらしく、いくら頑張っても回らない。しまいには、最前列に座っていた
おじさん(係員の一人?)がステージに出て手伝ったのですが、ぜんぜん駄目。

係りの人は、のんびりした口調で、「予備がございますので、少々、お待ちを・・・。」
こういうのって、普通は、開演前にチェックしておくものじゃないでしょうか。

クリダは、「じゃあ、新しい椅子が来るまで、今日のプログラムの説明でもしましょうか」と余裕綽々。
その日のプログラムの主役、ショパンとリストが愛用したピアノブランド(ショパンはプレイエル、リスト
はエラール)の話を始め、ショパンの祖国へのノスタルジーの話になった時、椅子が到着。

十八番のリストについて聞くことができなかったのがちょっと残念でしたが、その落ち着いた口ぶり
を聞く限りでは、演奏家としてのみではなく、教師としても有能な人という印象を受けました。
パリのエコール・ド・ノルマルで教鞭をとっているようです。



椅子の問題は解決したものの、これで一件落着・・・と言うわけには行きませんでした。最初の曲を
弾き終えてすぐ、今度は、「悪いけど、上のライト、真上のだけでいいから消してもらえないかしら。
手元が陰になって、弾き辛いったらありゃしない。」

さっきと同じ係員がゆったりと立ち上がり、「照明係に合図を送ります。彼、上にいるので、今しばらく
お待ちを・・・。」「困ったわね・・・」とクリダさんも呆れ顔。

「この体たらくじゃぁ、ここで演奏してくれるのも最初で最後だな・・・」なんて想像していたのですが、
2度のトラブルにもめげず、一部、二部と見事に弾き通したのはさすがでした。アンコールも四曲、と
これまた大盤振る舞い。



プログラムの第一部はショパン、第二部はリストで、超絶技巧の難曲ばかり。
ショパンに至っては、「マズルカ」四曲、五番の「ポロネーズ」「葬送行進曲つきソナタ」とポーランド的
な曲が勢揃いでした。外国のピアニストは、ノクターン、ワルツ、即興曲など、フランス的なものを選ぶ
ことが多いのに。ポロネーズの5番は、表題つきの「英雄」や「軍隊」ほどポピュラーではないけれど、
すごく評価の高い曲。ポロネーズの中間部にマズルカが入るという二重にポーランド的な曲で、技術
的にもかなりの難曲です。

リストはもともと自らの技巧を宣伝するために作ったような曲が多いのですが、クリダはその中でも
特に難易度の高い曲を選んだという感じでした。十八番だけあって、ただ技術をひけらかすだけでは
なく、音楽的にも程度の高い演奏だったけど、ショパンの後にリストを聴くと野暮ったさは否めません。
「オレ、こんなに難しいのが弾けるんだぞ」というのが、パッセージの間から見え見えなんですよね。

コンサート以上にびっくりさせられたのがアンコール曲。
あれだけ難曲が続いたにもかかわらず、ファリャの「火祭りの踊り」、リストの「巡礼の年」から一曲、
ショパンのマズルカを一曲、メンデルスゾーン(だと思う)の小品を、どこにこれほどの力があるのか
不思議に思うほどのエネルギーで弾ききりました。



演奏会後の親善パーティーに来ていた日本人の知り合いが面白いことを教えてくれました。
以前、同じ場所で、近日完成予定のメディアテックを記念したパーティーがあったそうなのですが、
お開きの後、貫禄のある女性がおもむろに出てきて、ステージにあったピアノを弾き始めたそうです。

素人にしてはあまりにうまいので、思わず聴き入ってしまったそうですが、その時は誰だかわからな
かったそう。今回、クリダの名前すら知らないまま、このコンサートに来たら、その時の女性が舞台に
上がってくるのでびっくりしたとか・・・。「あの時はきっと、お忍びでパーティーに来てたのね」というの
が彼女の弁。ちなみに、この時もコンサートがあったらしいのですが、アマチュアに毛が生えた程度
で、クリダの演奏の足元にも及ばなかったそうです。

性懲りもなく、また長々と書いてしまいました。