なんとなく、ジャンル分けしてみました。歌舞伎とひと口に言ってもいろいろあるので、整理してみるとわかりやすいかもしれません。
以前BBSで質問された内容を整理したものです。
一応、
・時代物 ・時代世話 ・世話物 ・所作 ・新作 ・松葉目物
というかんじに分けてみました。
以下項目別に書きます。
=時代物=
江戸時代における「時代劇」ですから、江戸より前の歴史の、主に戦乱な時代が舞台です。
「仮名手本忠臣蔵」なんかは「時代物」ではありません。
戦乱の時代が舞台といっても戦闘シーンがあるわけではなく、戦を背景にした武将たちの重厚な人間ドラマが題材です。
・「平家物語」ベース
「一谷嫩軍記」(いちのたに ふたばぐんき)
「義経千本桜」(よしつね せんぼんざくら)
「ひらかな盛衰記」(ひらかなせいすいき)
・「太平記」ベース
「神霊矢口渡」(しんれい やぐちのわたし)
・「戦国」ベース
「絵本太功記」(えほんたいこうき)
「本朝廿四孝」(ほんちょう にじゅっしこう)
あたりが有名かと思います。
ほかに平安時代を題材に取った「菅原伝授手習鑑」」(すがわらでんじゅ てならいかがみ)も有名です。
あと、「曽我もの」もここに入ります。
で、これとは別に、
=「時代世話」=
というジャンルがありますよ。
「仮名手本忠臣蔵」が代表ですが、
いわゆる「お家騒動もの」と「敵討ちもの」を、ここに入れるのが妥当だと思います。「忠臣蔵」も敵討ち物っちゃあ、敵討ち物です。
これらは、当時のお武家さまを主人公にした作品群で、実際の事件をモチーフにしたものも多いのですが、幕府の政策で「実際の事件を舞台にしてはいけない」「実在の人物っぽいの(とくにお侍)を出してはいけない」というタブーがあったので、
そのへんのチェックをかいくぐるために、「これは鎌倉時代の話です、南北朝の話です」というようにムリクリ時代設定をこじつけ、実際の風俗は江戸のものでお芝居にしたのです。
なので、実際のジャンルは「武家物」ということになります。が、
ビミョウな時代色を加えることで、作品に独特の重厚な雰囲気が出ていることは確かですので、これはこれでいい工夫だなと思います。
今は殆ど出ない「武者もの」もここに入るでしょう。宮本武蔵を主人公にした作品などです。江戸時代はよく出ていたようですが、今はまったく出ないです。新国劇→映画→テレビ というように移行していったのだと思います。
=世話物=
上方世話物と江戸世話物に分かれます。これは一緒にはできません。
・上方世話物
上方の代表は、かの近松門左衛門です。
基本的に、京阪の町の中のお店(おたな)が舞台の作品が多く、遊郭の場面も多いです。
若い男女の悲恋と心中、そこにいたるまでの周囲の大人たちのさまざまな事情や人間模様を描いたリアルな話が多いです。
浄瑠璃原作のものが多いのですが、歌舞伎に移入する際に多少、人間関係や心理描写を単純にしているkとがあります。
「曾根崎心中」そねざきしんじゅう
「心中天網島」(しんじゅうてんのあみしま)
「恋飛脚大和往来」(こいびきゃくやまとのおうらい)
あたりからおさえればいいかと。
・江戸世話物
上方世話物の全盛期が江戸前半期→中期なのに対し、江戸世話物は、後期から末期がピークです。
なので細かく言うと、風俗描写に100年ちょっとの時代の差があることになります。
江戸世話物は、貧乏な長屋が舞台の、犯罪が絡んだ話が多いです。
いわゆる「白波もの(しらなみもの)」とと呼ばれる作品群は、殆どここに入ります。
あと、一連の怪談ものも、殆どが「世話物」です。「東海道四谷怪談」とかです。
「東海道四谷怪談」(四世鶴屋南北)
「世話情浮名横櫛」(よはなさけ うきなのよこぐし)(瀬川如皐)
↑お富さんの話ですよ。
「弁天娘女男白波」(べんてんむすめ めおのしらなみ)(河竹黙阿弥)
あたりだと現代でもなんとなくパロディーになっていたりして知られているのではないでしょうか。
「髪結新三」(かみゆいしんざ)(河竹黙阿弥)あたりは、江戸の生活感が出ていていいカンジです。
=所作=
細かく言うと「長唄で、所作台(舞台の上に10センチくらいの台を一面にしく)敷いて踊る」ものだけを「所作」というらしいですが、
一般に歌舞伎の踊りはひっくるめて「所作」で通ります。
チナミに現代、我が国には「日舞」という芸能ジャンルがありますが、これは戦前くらいまでは存在しなかったジャンルです。
舞台の上で金取って踊りを見せていたプロは、もともとは歌舞伎役者だけでした。
お芝居の興行の一環として「所作」が入っていたのです。「踊りだけを見せる興行」というのはありませんでした。
女性のプロの踊り手もいたのですが、これはお座敷で踊る芸者さんと、踊りの先生です。
教養として「踊り」を習って「おさらい「吉野山」(よしのやま)(義経千本桜)
「道行旅路花婿」(みちゆき たびじのはなむこ)(仮名手本忠臣蔵)
などが代表的です。
明治以降の新作舞踊にもいいのはありますが、割愛です。
あとは能由来のもので
「鑑獅子」
「連獅子」あたりもはずせません。毛を振るやつです。
=新作=
史劇、文芸もの、落語の翻案、松葉目もの、くらいに大別できます。
台詞が現代語に近く、聞き取りやすい物が多いです。
あと、江戸歌舞伎は全10段くらいの長い話をまる一日かけて上演したのです。
なのでたいへんストーリーが冗長でいりくんでおります。
現行上演は、その中の人気がある1~2段だけを抜き出して出しているので、お話の前後関係がわからず、
ご見物は混乱するのです。
とくに「時代物」の歌舞伎は事前に何らかの方法でで設定と大筋を把握しておかない限り、
内容を理解するのはほぼ不可能です。
古典文法でしゃべっていますし、聞き慣れないムズカシイ単語がとびかいますからますますです。
で、新作歌舞伎ははじめから二時間程度の作品としてまとめてありますので、
無理なく始めから終わりまで出せます。
そういう意味でも初心者なかたがたには敷居が低いだろうなと思います。
もちろん、「歌舞伎らしさ」という点では少々水っぽいですが。
・史劇
「不如帰孤城楽月」(ほととぎすこじょうのらくげつ)
坪内逍遙作、 大阪冬の陣が舞台の、淀君の物語です。淀君のリアルな狂乱っぷりが新作っぽいです。
明治初期の物なので台詞はまだまだわかりにくいです。
「将軍頼家」(しょうぐん よりいえ)
「伊井大老」
真山青菓作 タイトルのかたがたが主人公です。骨太の歴史ドラマでかっこいいです。
明治以降の「史劇」の特徴は、まず「歴史上の人物名が全て実名」が特徴です。
あと「衣装や細かい時代設定の考証に凝りまくり」なものが多いです。
「活歴運動」というのが明治時代に流行り、とにかく学問的に考証するのが高尚だ(←シャレ)だということで、明治時代の作品には学者がいろいろ口を出し、役者さんもそれを喜ぶ風潮があったのです。
昭和に入ったころには、逆に江戸歌舞伎らしい派手な演出で新作物を出すような傾向が、すでにあったかと思います。戦後になって三島由紀夫あたりがその傾向に拍車をかけました。
この時期になると、「歴史上の風俗を正確に考証する」よりも「江戸時代の歌舞伎演出を正確に考証する」ことのほうが難しくなってきます。なくしそうになって初めて、なくしつつあるものの価値に気付くのはよくある話です。
・「文芸物」
当時の文学者なかたがたは殆どが歌舞伎オタクだったので、競って歌舞伎に作品を書き下ろしました。
歌舞伎界も、そういう「芸術作品」を舞台に乗せることをよろこびました。
今思えば近松や黙阿弥のほうがよっぽど芸術なわけですが。
「籐十郎の恋」 菊池寛
「ぢいさんばあさん」森鴎外
「天守物語」泉鏡花
などが有名です。
あと「源氏物語」も歌舞伎化されています。ダイジェストですが。セリフ現代語だし。
古典を味わう上でも歌舞伎を楽しむ上でもたいへん中途半端ですが、
若いキレイな役者さんがやるとそれなりに評判にはなります。
最近またリメイクされたあれとはまた違うものですよ。最近のについてはコメントしない方向で進みます。
・落語の翻案
これがもっともとっつきやすいでしょう。落語だし。
「芝浜」「らくだ」「文七元結」(ぶんしち もっとい)など、いろいろあります。
チナミに、江戸時代の「寄席」や「落語」は、今のものとは少し方向性が違います。江戸時代の落語でそのまま残っているものは、少なくとも今高座にかかる演目の中では、ないと思います。
今我々が聞く落語は、古いものでも明治中期、殆どが昭和くらいにつくられたものです。
我々が「江戸弁」だと思っている落語家の独特の口調、あれは、江戸市井の言葉というよりは、むしろ明治以降の花柳界の、幇間(たいこ持ち)の口調だと思います。
そして落語の時代描写はかなりてきとうですので、江戸時代が舞台の作品でも、そこで描かれた風俗描写や豆知識を信用してはいけません(笑)。
あれは「江戸時代のものではない」という事は、覚えておいたほうがいいと思います。
・「ざん斬りもの」
明治以降の風俗を描いた作品群で、今の新派がその雰囲気を受け継いでいます。
今、歌舞伎に求められているものとは違うためか、上演頻度はあまり高くありません。
「水天宮利生深川」(すいてんぐう めぐみのふかがわ)
あたりがたまに出ます。
=松葉目もの=
新作の中にカテゴライズしてもいいのですが、一応分けます。
能や狂言からの翻案です。
江戸時代には能の歌舞伎化はやっちゃいけなかったので、明治以降に盛んになりました。
「勧進帳」だけ例外で江戸末期の作ですが、能の演出に近い現行演出は、明治以降に完成しました。
他には「船弁慶」、「土蜘蛛」などが有名です。
最近では、吉右衛門さんが「藤戸」を新作として上演しました。すばらしかったです。
じっさいには上記のいろいろな要素が殆どの作品の中で「ないまぜ」になっていますよ。
以前BBSで質問された内容を整理したものです。
一応、
・時代物 ・時代世話 ・世話物 ・所作 ・新作 ・松葉目物
というかんじに分けてみました。
以下項目別に書きます。
=時代物=
江戸時代における「時代劇」ですから、江戸より前の歴史の、主に戦乱な時代が舞台です。
「仮名手本忠臣蔵」なんかは「時代物」ではありません。
戦乱の時代が舞台といっても戦闘シーンがあるわけではなく、戦を背景にした武将たちの重厚な人間ドラマが題材です。
・「平家物語」ベース
「一谷嫩軍記」(いちのたに ふたばぐんき)
「義経千本桜」(よしつね せんぼんざくら)
「ひらかな盛衰記」(ひらかなせいすいき)
・「太平記」ベース
「神霊矢口渡」(しんれい やぐちのわたし)
・「戦国」ベース
「絵本太功記」(えほんたいこうき)
「本朝廿四孝」(ほんちょう にじゅっしこう)
あたりが有名かと思います。
ほかに平安時代を題材に取った「菅原伝授手習鑑」」(すがわらでんじゅ てならいかがみ)も有名です。
あと、「曽我もの」もここに入ります。
で、これとは別に、
=「時代世話」=
というジャンルがありますよ。
「仮名手本忠臣蔵」が代表ですが、
いわゆる「お家騒動もの」と「敵討ちもの」を、ここに入れるのが妥当だと思います。「忠臣蔵」も敵討ち物っちゃあ、敵討ち物です。
これらは、当時のお武家さまを主人公にした作品群で、実際の事件をモチーフにしたものも多いのですが、幕府の政策で「実際の事件を舞台にしてはいけない」「実在の人物っぽいの(とくにお侍)を出してはいけない」というタブーがあったので、
そのへんのチェックをかいくぐるために、「これは鎌倉時代の話です、南北朝の話です」というようにムリクリ時代設定をこじつけ、実際の風俗は江戸のものでお芝居にしたのです。
なので、実際のジャンルは「武家物」ということになります。が、
ビミョウな時代色を加えることで、作品に独特の重厚な雰囲気が出ていることは確かですので、これはこれでいい工夫だなと思います。
今は殆ど出ない「武者もの」もここに入るでしょう。宮本武蔵を主人公にした作品などです。江戸時代はよく出ていたようですが、今はまったく出ないです。新国劇→映画→テレビ というように移行していったのだと思います。
=世話物=
上方世話物と江戸世話物に分かれます。これは一緒にはできません。
・上方世話物
上方の代表は、かの近松門左衛門です。
基本的に、京阪の町の中のお店(おたな)が舞台の作品が多く、遊郭の場面も多いです。
若い男女の悲恋と心中、そこにいたるまでの周囲の大人たちのさまざまな事情や人間模様を描いたリアルな話が多いです。
浄瑠璃原作のものが多いのですが、歌舞伎に移入する際に多少、人間関係や心理描写を単純にしているkとがあります。
「曾根崎心中」そねざきしんじゅう
「心中天網島」(しんじゅうてんのあみしま)
「恋飛脚大和往来」(こいびきゃくやまとのおうらい)
あたりからおさえればいいかと。
・江戸世話物
上方世話物の全盛期が江戸前半期→中期なのに対し、江戸世話物は、後期から末期がピークです。
なので細かく言うと、風俗描写に100年ちょっとの時代の差があることになります。
江戸世話物は、貧乏な長屋が舞台の、犯罪が絡んだ話が多いです。
いわゆる「白波もの(しらなみもの)」とと呼ばれる作品群は、殆どここに入ります。
あと、一連の怪談ものも、殆どが「世話物」です。「東海道四谷怪談」とかです。
「東海道四谷怪談」(四世鶴屋南北)
「世話情浮名横櫛」(よはなさけ うきなのよこぐし)(瀬川如皐)
↑お富さんの話ですよ。
「弁天娘女男白波」(べんてんむすめ めおのしらなみ)(河竹黙阿弥)
あたりだと現代でもなんとなくパロディーになっていたりして知られているのではないでしょうか。
「髪結新三」(かみゆいしんざ)(河竹黙阿弥)あたりは、江戸の生活感が出ていていいカンジです。
=所作=
細かく言うと「長唄で、所作台(舞台の上に10センチくらいの台を一面にしく)敷いて踊る」ものだけを「所作」というらしいですが、
一般に歌舞伎の踊りはひっくるめて「所作」で通ります。
チナミに現代、我が国には「日舞」という芸能ジャンルがありますが、これは戦前くらいまでは存在しなかったジャンルです。
舞台の上で金取って踊りを見せていたプロは、もともとは歌舞伎役者だけでした。
お芝居の興行の一環として「所作」が入っていたのです。「踊りだけを見せる興行」というのはありませんでした。
女性のプロの踊り手もいたのですが、これはお座敷で踊る芸者さんと、踊りの先生です。
教養として「踊り」を習って「おさらい「吉野山」(よしのやま)(義経千本桜)
「道行旅路花婿」(みちゆき たびじのはなむこ)(仮名手本忠臣蔵)
などが代表的です。
明治以降の新作舞踊にもいいのはありますが、割愛です。
あとは能由来のもので
「鑑獅子」
「連獅子」あたりもはずせません。毛を振るやつです。
=新作=
史劇、文芸もの、落語の翻案、松葉目もの、くらいに大別できます。
台詞が現代語に近く、聞き取りやすい物が多いです。
あと、江戸歌舞伎は全10段くらいの長い話をまる一日かけて上演したのです。
なのでたいへんストーリーが冗長でいりくんでおります。
現行上演は、その中の人気がある1~2段だけを抜き出して出しているので、お話の前後関係がわからず、
ご見物は混乱するのです。
とくに「時代物」の歌舞伎は事前に何らかの方法でで設定と大筋を把握しておかない限り、
内容を理解するのはほぼ不可能です。
古典文法でしゃべっていますし、聞き慣れないムズカシイ単語がとびかいますからますますです。
で、新作歌舞伎ははじめから二時間程度の作品としてまとめてありますので、
無理なく始めから終わりまで出せます。
そういう意味でも初心者なかたがたには敷居が低いだろうなと思います。
もちろん、「歌舞伎らしさ」という点では少々水っぽいですが。
・史劇
「不如帰孤城楽月」(ほととぎすこじょうのらくげつ)
坪内逍遙作、 大阪冬の陣が舞台の、淀君の物語です。淀君のリアルな狂乱っぷりが新作っぽいです。
明治初期の物なので台詞はまだまだわかりにくいです。
「将軍頼家」(しょうぐん よりいえ)
「伊井大老」
真山青菓作 タイトルのかたがたが主人公です。骨太の歴史ドラマでかっこいいです。
明治以降の「史劇」の特徴は、まず「歴史上の人物名が全て実名」が特徴です。
あと「衣装や細かい時代設定の考証に凝りまくり」なものが多いです。
「活歴運動」というのが明治時代に流行り、とにかく学問的に考証するのが高尚だ(←シャレ)だということで、明治時代の作品には学者がいろいろ口を出し、役者さんもそれを喜ぶ風潮があったのです。
昭和に入ったころには、逆に江戸歌舞伎らしい派手な演出で新作物を出すような傾向が、すでにあったかと思います。戦後になって三島由紀夫あたりがその傾向に拍車をかけました。
この時期になると、「歴史上の風俗を正確に考証する」よりも「江戸時代の歌舞伎演出を正確に考証する」ことのほうが難しくなってきます。なくしそうになって初めて、なくしつつあるものの価値に気付くのはよくある話です。
・「文芸物」
当時の文学者なかたがたは殆どが歌舞伎オタクだったので、競って歌舞伎に作品を書き下ろしました。
歌舞伎界も、そういう「芸術作品」を舞台に乗せることをよろこびました。
今思えば近松や黙阿弥のほうがよっぽど芸術なわけですが。
「籐十郎の恋」 菊池寛
「ぢいさんばあさん」森鴎外
「天守物語」泉鏡花
などが有名です。
あと「源氏物語」も歌舞伎化されています。ダイジェストですが。セリフ現代語だし。
古典を味わう上でも歌舞伎を楽しむ上でもたいへん中途半端ですが、
若いキレイな役者さんがやるとそれなりに評判にはなります。
最近またリメイクされたあれとはまた違うものですよ。最近のについてはコメントしない方向で進みます。
・落語の翻案
これがもっともとっつきやすいでしょう。落語だし。
「芝浜」「らくだ」「文七元結」(ぶんしち もっとい)など、いろいろあります。
チナミに、江戸時代の「寄席」や「落語」は、今のものとは少し方向性が違います。江戸時代の落語でそのまま残っているものは、少なくとも今高座にかかる演目の中では、ないと思います。
今我々が聞く落語は、古いものでも明治中期、殆どが昭和くらいにつくられたものです。
我々が「江戸弁」だと思っている落語家の独特の口調、あれは、江戸市井の言葉というよりは、むしろ明治以降の花柳界の、幇間(たいこ持ち)の口調だと思います。
そして落語の時代描写はかなりてきとうですので、江戸時代が舞台の作品でも、そこで描かれた風俗描写や豆知識を信用してはいけません(笑)。
あれは「江戸時代のものではない」という事は、覚えておいたほうがいいと思います。
・「ざん斬りもの」
明治以降の風俗を描いた作品群で、今の新派がその雰囲気を受け継いでいます。
今、歌舞伎に求められているものとは違うためか、上演頻度はあまり高くありません。
「水天宮利生深川」(すいてんぐう めぐみのふかがわ)
あたりがたまに出ます。
=松葉目もの=
新作の中にカテゴライズしてもいいのですが、一応分けます。
能や狂言からの翻案です。
江戸時代には能の歌舞伎化はやっちゃいけなかったので、明治以降に盛んになりました。
「勧進帳」だけ例外で江戸末期の作ですが、能の演出に近い現行演出は、明治以降に完成しました。
他には「船弁慶」、「土蜘蛛」などが有名です。
最近では、吉右衛門さんが「藤戸」を新作として上演しました。すばらしかったです。
じっさいには上記のいろいろな要素が殆どの作品の中で「ないまぜ」になっていますよ。
ありがとうございました