三か月前に読んだ平野貞夫の『ロッキード事件』の結論にどうも納得がいかなかった。安倍首相を「内乱予備罪」で告発するほどの慧眼の士が「虎の尾を踏んだ角栄というのは、米国のご機嫌とり政治家たちの幻想である」「角栄は日本型エスタブリッシュメントに葬られた」と言った筋書きや結論がどうも腑に落ちなかった。
もう一度、気になるところを読むと、「日本型エスタブリッシュメント」とは、薩長閥、旧支配層の華族、旧帝大閥による官僚、で形成されたとある。
そして、1976年のロッキード国会を正常化した衆議院議長が前尾繁三郎で、平野貞夫は当時その議長秘書だった。彼は、死ぬ直前の前尾議長から国会正常化に執着した理由を聞いた。前尾は「昭和天皇が核拡散防止条約の承認を心配していたため、どうしても国会を正常化して、それを決めたかった」と述懐した。前尾も天皇に内奏をしていたのである。
平野は、前尾が国会を正常化したことによって「首相、自民党実力者、野党、検察、衆議院議長、そして天皇の思惑が複雑に絡んで、角栄は政治生命を絶たれていった」と結論づけた。
九条があっても自衛隊という軍隊がある國、象徴であっても内奏・下問が行われていた國。それは近代西欧型の憲法の重さを感じていないことだ。平野は、この圀のエスタブリッシュメントの宗主の存在をサラッと触れたのかもしれない。
来年、平成31年になる。平成天皇は、その在位30年にわたり、既に人々の脳裏から消えた戦争の場所でも、必ず慰問・慰霊の旅を続けた。そこにこそ、昭和天皇の実像と戦争責任が垣間見える。
ケネディ暗殺の全貌が公開されないアメリカを訝る前に、まずこの國の明治以降の天皇制の実体とそれに連なる権力者たちが隠したことを正確に知ることが、新しい元号を迎える準備になるのではないか。
「錦の御旗」神奈川県公文書館