近所のスーパーのレジからクワタ君(仮名)が消えたのは去年の夏のことだった。
アルバイトだからきっと近くの大学の学生だろうと思った。
私が彼に注目し、彼のところにばかり並んでいたのは、彼がイケメンだったからではない。
レジが超絶的に速かったのだ。
それはもう、目にも止まらぬ速さで商品を右から左に動かし次々とカゴに入れていく。
とにかくレジに全力をかけている様子が分かった。
てきとうに手を抜いてバイトして給料をもらおうなんていう気は一切ない。
僕はどんなことであろうと一生懸命やって向上を目指しますという精神が見てとれた。
両隣のプロパー社員らしきおばさんたちと比べると2倍ぐらいの速さはある。
そこに並ぶと早くレジを売ってもらえるからということよりも
その仕事ぶりのすがすがしさに魅かれていたのだと思う。
ずっとその調子でがんばれ、とこっそり彼を応援していた。
もちろんじっと見つめたり話しかけたりはしない。あくまでも、こっそりとである。
そんなふうに一生懸命仕事する心を持ち続けたらきっと将来大物になれるだろうと思った。
そんなクワタ君でもときどき少し遅いこともあった。きっと長時間一生懸命やりすぎて疲れたんだろうと思う。
少し遅くても、ほかの人よりは早い。
それが7月になって、クワタ君がお店に見られなくなった。
きっと夏休みだから帰省でもしてるんだろうと思った。
しかし。秋になってもクワタ君は戻ってこなかった。
ずっと待っていたけれど、全然戻ってこなかった。
プロパー社員のトミタ君(仮名)によほど「クワタ君やめたの?」と聞こうかと思った。
トミタ君はクワタ君の次にレジが速い人である。
でもトミタ君とも知り合いなわけでもないので聞けずにいた。
とにかく、もう何カ月もいないのだから、やめて卒業してどっか行っちゃったのだと思って、今ではすっかりあきらめていた。
それがきのうの夜、お店に行くと、クワタ君がいたのである。
一瞬まばたきして、まちがいでないか見てしまった。
なんとまあ、うれしいではないか!
いつも188円の豆乳が155円だったことよりもずっと、うれしいことではないか!
本当に驚いた。
わたしはクワタ君のレジに行って、どうしてもうれしさを抑えられずに言ってしまった。
「久しぶりですね」
するとクワタ君は特に驚きもせず
「そうですね。お久しぶりです」
とほのかに微笑みながら言う。
彼が私のことなど覚えているわけない。なのにそのようなことを言うとはなかなか手練れなヤツである。
どうしてたの、とかもっといろいろ聞きたい気がしたが、聞きませんよ。
静かにお金を払って帰りました。
なんと何カ月ぶりかで帰って来たんだ、と思ったけれど
よく考えてみると、夜の部で、ずっとお店にいたのかもしれないのだ。
私はそんな夜遅くスーパーには行かない。
いやいやたまには行くわよ。でもいなかった。
などとイロイロ考える。
クワタ君の名札には「アルバイト」と書いてなかった。
もしかしてプロパー社員になったのだろうか。
もしそうならこの同じ店に配属されるのも変な気がするけど。
そしてもしそうならそれは私が去年の今頃入口の「ご意見箱」に「クワタ君はこの店の宝です」と書いて投げ込んだことと関係あるのだろうか。
ないよね。
山里とはあまり関係のない話題で失礼しました。
アルバイトだからきっと近くの大学の学生だろうと思った。
私が彼に注目し、彼のところにばかり並んでいたのは、彼がイケメンだったからではない。
レジが超絶的に速かったのだ。
それはもう、目にも止まらぬ速さで商品を右から左に動かし次々とカゴに入れていく。
とにかくレジに全力をかけている様子が分かった。
てきとうに手を抜いてバイトして給料をもらおうなんていう気は一切ない。
僕はどんなことであろうと一生懸命やって向上を目指しますという精神が見てとれた。
両隣のプロパー社員らしきおばさんたちと比べると2倍ぐらいの速さはある。
そこに並ぶと早くレジを売ってもらえるからということよりも
その仕事ぶりのすがすがしさに魅かれていたのだと思う。
ずっとその調子でがんばれ、とこっそり彼を応援していた。
もちろんじっと見つめたり話しかけたりはしない。あくまでも、こっそりとである。
そんなふうに一生懸命仕事する心を持ち続けたらきっと将来大物になれるだろうと思った。
そんなクワタ君でもときどき少し遅いこともあった。きっと長時間一生懸命やりすぎて疲れたんだろうと思う。
少し遅くても、ほかの人よりは早い。
それが7月になって、クワタ君がお店に見られなくなった。
きっと夏休みだから帰省でもしてるんだろうと思った。
しかし。秋になってもクワタ君は戻ってこなかった。
ずっと待っていたけれど、全然戻ってこなかった。
プロパー社員のトミタ君(仮名)によほど「クワタ君やめたの?」と聞こうかと思った。
トミタ君はクワタ君の次にレジが速い人である。
でもトミタ君とも知り合いなわけでもないので聞けずにいた。
とにかく、もう何カ月もいないのだから、やめて卒業してどっか行っちゃったのだと思って、今ではすっかりあきらめていた。
それがきのうの夜、お店に行くと、クワタ君がいたのである。
一瞬まばたきして、まちがいでないか見てしまった。
なんとまあ、うれしいではないか!
いつも188円の豆乳が155円だったことよりもずっと、うれしいことではないか!
本当に驚いた。
わたしはクワタ君のレジに行って、どうしてもうれしさを抑えられずに言ってしまった。
「久しぶりですね」
するとクワタ君は特に驚きもせず
「そうですね。お久しぶりです」
とほのかに微笑みながら言う。
彼が私のことなど覚えているわけない。なのにそのようなことを言うとはなかなか手練れなヤツである。
どうしてたの、とかもっといろいろ聞きたい気がしたが、聞きませんよ。
静かにお金を払って帰りました。
なんと何カ月ぶりかで帰って来たんだ、と思ったけれど
よく考えてみると、夜の部で、ずっとお店にいたのかもしれないのだ。
私はそんな夜遅くスーパーには行かない。
いやいやたまには行くわよ。でもいなかった。
などとイロイロ考える。
クワタ君の名札には「アルバイト」と書いてなかった。
もしかしてプロパー社員になったのだろうか。
もしそうならこの同じ店に配属されるのも変な気がするけど。
そしてもしそうならそれは私が去年の今頃入口の「ご意見箱」に「クワタ君はこの店の宝です」と書いて投げ込んだことと関係あるのだろうか。
ないよね。
山里とはあまり関係のない話題で失礼しました。