etceterakoの勝手にエトセトラ

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花組「MIND TRAVELLER -記憶の旅人-」日本青年館

2006年12月08日 | 宝塚歌劇

 遅くなりましたが「マインド・トラベラー」の話です。もうとっくに千秋楽も終えてますが、いまごろ書きまーす!

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●小池作品の弱点
 今回、こうやって「小池テイストばりばり!」の大劇場じゃない作品を見てみて、「ああ、小池作品ってのは難しいなぁ」と思ってしまいました。ストーリーが難しい、芝居が難しい、演目の解釈が難しい、じゃなくて、「宝塚として好かれる要素が難しい」と思ったのね。

 小池先生の欠点っていうのは・・・。まあ、目に見えるところでは、まずは「ストーリーテラーじゃない」こと。たしかに今回もミステリー仕立てとはいえ、ミステリーをたいして読み込んでいないわたしでも、簡単にオチがわかっちゃう。「ストーリーになってない」ということはないんだけど、ストーリーテリングは単純で、脚本力は小池先生の「ウリ」ではないんですね。
 まあ、わたしなんかは、あのぐらい書ければ、及第じゃないかと思ってますけど。そりゃ、ストーリーが面白いにこしたことはないけど、宝塚の演出家は、あくまで「脚本も書く演出家」であって、エンタメ作家みたいに、ひねったストーリーをつくることが必ずしも第一義ではない部分がありますからねえ。そこは難しいですわねえ。ストーリーさえ凝っていればいいのかっていうと・・・ねえ?それもなんか違う気がするし。

 いろんな面で、すべて100点でなくても、ほかの「ウリ」の要素が100点以上なら、それでイイんじゃないかと思うんですね、わたしは。タカラジェンヌの舞台についてもそう思ってます。100点+100点よりは、50点+150点のほうがイイ、と、わたしはそう思うんですよ。クリエ~ティブはソコソコはイカンと思うのね。「そこそこイイ」よりは「思い切った駄作」のほうがわたしは評価できますね。

 あー、なんか話が脱線しとる・・・。
 えーと、で、わたしは小池先生が劇団から「ココ一番!」を任される信頼あつい演出家で、外部ネームバリューも相当持ちながら、それでもなお、宝塚ファンからの視線がそれほど熱くない(と、わたし思うんだがね)のは、小池先生の脚本が「秀逸じゃない」(悪くはないけど)・・・ストーリーの面で評価されないからじゃなくて、もっと根本的な小池カラーに原因がある気がする、と思うのですよ。

●小池作品の夢
 宝塚に観客が何を求めるのかってコトだけど・・・。けっきょく宝塚って「愛と夢」なんですよ。大昔はどうかしらんが、すくなくともベルばら以降はそうなんじゃないですか。

 この大事な二大要素が、小池作品の場合、どうも世間の「愛」「夢」の概念とズレている気がする・・・。そこが小池作品の個性であり、また弱点でもあるんじゃないのかね。

 まずは「夢」から見ていきましょう。
 よくよく考えてみてくださいよ。マインド・トラベラーにせよ、ネバーセイグッバイにせよ、夢ってありますかぁ?そりゃぁ、リクツをこねれば、「平和という夢」とか「自分を取り戻す(自分探しの)夢」とか、言いようはあるけど、言葉あそびのレベルになってきません??
 なんていうか・・・夢っていうと、あまりにも包括的で、いろんなニュアンスが入ってきちゃうから(だから愛とか夢ってコトバはあまり使いたくないんだが・・・)アレだけど、たとえば「夢想」にコトバを変えてみてください。
 ベルばらには「夢想」があります。男装という夢想、革命の悲劇という夢想。
 荻田レビュー・・・たとえばタランテラ!にも夢想はあります。現実からの逃避を夢想してるんですよ。
 小池作品とおなじように孤独を好む正塚作品でさえ、「孤独(なオレ)という夢想」があります。

 小池作品は、まったく「夢想的じゃない」と思うのですよ。
 孤独だからと孤独に逃げ込まないし、現実がつらいからと「逃避」する感覚もない。
 孤独だ幻想だいっても、正塚先生や荻田先生とは、ちょっとちがうんですね。
 小池先生の感覚だと、「時には闇を見ても、その場に踏みとどまってじっと苦境を受け止める」・・・いってみれば、まことに地に足がついて現実的なんだと思うのよ。

 「(つらいから)ああ、こうだったら」「あんなふうだったら」っていう、憧れを書き込む、という部分が非常にすくないように見えます。小池先生は現状を黙って受け入れ、見えている「現実」を切り取って書き込んでいるんですよ。男性演出家の描く「理想の男役(ヒーロー像)」は、ある程度「こうだったらカッコイイのに」っていう願望こみになるんじゃないんですかね。ところが小池先生には、「こんなオレだったらなぁー」っていう浮ついた夢想がまったくない。あるのは、小池先生を通して見える「(ヒトの世の)痛み」と、「それを乗り越え、耐えて行くのが人生だ」っていう諦観なんですね。

 「あきらめた人」に対して、「夢を持たなきゃダメだ」という説教が出てくること、ありませんか?? 諦念は夢の対極にある感性じゃないですかね。

 まあ、いってみれば小池先生のモノの考え方は(世間一般の感覚からすると)「夢がない!」んですね。

小池作品の「愛」
 次に「愛」です。
 マインド・トラベラー、ネバーセイグッバイに共通する、ヒーロー&ヒロインの恋愛のカタチ・・・それは「ふたり寄り添って歩いて行こう」ですね。

 これねえ・・・どうなんですか、実際。
 「恋愛」とひと口に言っても、まあいろいろタイプがあるワケで、たしかに世の中には、「似たもの同士」が「傷をなめあうように」「寄り添って生きるための」恋愛っていうものも存在するでしょう。
 しかし、それって・・・世間の人々が「恋愛」といわれてパッと思い浮かべる恋愛・・・世間で「憧れの対象となる恋愛」とは、ちょっと違いませんか~??

 ロマンティックじゃないんですよ。これまた夢がないというか、えらい現実的。

 パートナー的恋愛ってことでしょう。
 それがロマンティック・ラブのファンタジーを買いに来るお客さんの嗜好に合うのかどうだか・・・。
 「うたかたの恋」みたいに、目と目が合っただけで盛り上がる!っていう、架空のロマンスじゃないですからねえ。

 小池先生の感覚は正しい、とは思います。
 「うたかた」の記事にも書いたけど、容姿を気に入って互いしか見えない恋に溺れ、心中するほど愛し合う・・・そんなの、現実にはほとんどないよ。それこそ夢想です。
 でも、人間には現実をガス抜きするための夢想が必要なんですよ。
 「ああ、あんな恋愛わたしにもあったらなぁ(絶対ないけど)」
 っていう想像、脳内疑似体験ですね。それだけでストレス解消になるところがあって、それがつまり、ディズニーランドだの宝塚だのが言われる「夢の世界」の存在意義なんでしょう。
 正しいものなんか、わざわざ舞台で(特に宝塚で)見なくてもいい、という部分があるんですよねえ。

 もう少しいうと、小池ヒーローがヒロインに求めるモノって、たぶん正塚先生だと「(男同士の)友情」に求めてるモノなんじゃないですか。銀の狼だと、シルバ&レイですよね。そっちだと、どういうワケか、「夢想」がはたらくんですよねえ。男性はどうだかわかりませんけど、女性は(わたしも含めて)そーゆー「男同士の関係」にファンタジー的な憧れを見るところ、ありますよねえ。

 わたしはオトコになったことがないから、ようわかりませんが、現実主義の小池先生が男同士を積極的に書き込まず、正塚先生の夢想が男同士をファンタジーとして描いて成功(正塚作品、男性にも人気あるのよね?)するということは、じつは男同士って、実際には女同士ほどの深い心理的な結束は結びにくい性質があるんですかねえ。(邪推)

 とにかく、小池作品は「悪くないけど、アドレナリンが出ない」って方も多いんじゃないかと、わたしは推測してるんですよ。

  小池作品ねえ、主人公が「いっしょに歩んでほしい」「キミの助けが必要だ」を言う相手を、(相手役の娘役じゃなくて)二番手男役に設定したら、「トップ、二番手がガッツリ組んだ芝居だ!」と言われて、人気爆発するよーな気がいたします(笑)

 わたしは好きなんですけどね。まあ、ありていにいえば、小池ヒーローみたいなタイプの男性が単純に好みなのでね。あと、わたしも夢想的じゃない性格だから、小池先生みたいな現実感のある作風は、癒されます。ヘソの曲がったわたしには、「がんばれば夢がかなう」とか、「ひと目で恋に落ちる」とかの夢想は、現実社会でさんざん言われて、でも内心「ウソだろう(すべてウソくさいとは思わんが、まあ、場合と内容によるでしょ)」と思ってることだもんで、舞台でいまさら言われても疲れる(笑)んだぁね。
 それよか、「うまくいかないこともある」「つらくても耐えるしかない」というメッセージのほうが、わたしにはよっぽど現実的に前向きに、やさしくこころに響きます。

 まあしかし・・・この辺は受け手の性格だものねえ。

 やっぱり、明らかな「夢(夢想)」「愛(ロマンティック・ラブ)」の要素は、小池作品には少ないんじゃないですか。それが個性でもあり弱点でもあり・・・諸刃の剣だね。

●ネタですが・・・
 今回の「脳内の記憶を映像化して事件を解決」って、アレと同じだよね。清水玲子の「秘密」。一巻が出たときには、ずいぶんと話題になりましたものねえ。

 「秘密」(清水玲子/白泉社)→ココ(ヤフーブックス)

 清水玲子といえば、海外文学やSF文学、映画、サイエンスの領域にずいぶん精通した漫画家ですけど、この「脳内記憶を映像化」ってネタ、もとはドコなのかな。SFではわりと普通の発想だったりするの??
 
 いやまあ、真似をしたんじゃないか!って言いたいわけじゃなくて、「あ、アレと同じだ!」と思ったという、それだけの話なんですよ。使っている発想は同じだけど、描いているものはずいぶんちがうし。

 余談になるけど、「秘密」は第一話がいちばんスゴイよね。衝撃的でした。
 脳内記憶を映像化して大統領の暗殺犯を捕まえるんだけど、同時に大統領がひそかに抱えていた禁断の恋心までもが暴露されてしまい、見た捜査官は「これでよかったのか」と罪悪感を得る、っていう。読んだときは、ビックリした・・・。SFってスゴイですねえ。

●小池演出
 小池先生のウリは、やはり「演出」だよね。演出はイイよね、やっぱり。天下の小池修一郎ってかんじで(笑)
 ネタがもともと「(脳内の)映像」だけに、小池先生お得意の映像演出がよく合いましたね。てゆーか、じつは逆?映像演出がふさわしい題材として、記憶の映像化ってネタを選んだんだったりして(笑)
 過去語りのときの再現シーンで、舞台後方に組んだ鉄骨(?)の四角いワクを過去映像に見立てて芝居するところなんか、よかったよね。

 サービス精神もあるしね。ココで一曲欲しい!ってところで、かならずちゃんと歌ってくれるし、シリアスな会話が続くと、息抜きの明るい場面が差し込まれるし。

 小池先生の演出っていうのは、「緊張と弛緩」ですよね。緊張と弛緩の切り替え、使い分けが非常に魅力的。今回でいうと、回想シーンと現実場面が切り替わる瞬間ですよね。回想はものすごい緊張感をみなぎらせておいて、フッと現実場面に戻る瞬間。登場人物も観客も「ハッと我に返る」あの瞬間ね。あれは小池先生独自のものだなぁー。

キャスト雑感
 小池作品って、何組で見ようが、主演者が誰であろうが、「あー!小池作品だぁっ!」っていう、演出家の色が強い作風ですけど、それでもちゃんと「アテ書き」にはなってるのよね。

 今回の小池ヒーローは、ゆうくん仕様で「ちょっとぶっきらぼう」な男性。いやぁ、似合いましたねえ、ゆうくんに。すげーかっこよかったです。病院を抜け出して、ナルちゃんと出かけちゃうんだけど、その様子がね。ちょっと強引なんだけど、外に出ちゃうとたいへん無邪気な男性になるところが(笑) うーん、ああいう男性はモテますよねえっ。キスシーンも、強引さがあるのに、冷酷なかんじがぜんぜんなくて、むしろ強引さが魅力的なんですね。あと、フィナーレのカーテンコールで、舞台を端から端まで駆け回って、「やんちゃ」な笑顔をひらめかせるのが・・・たまらーーんっ(笑)オトコらしいのに、少年みたいな表情するのよね。ええ、ああいう男性はモテますよ(笑)
 芝居もよかったです。歌も堪能だし。男役としてどんどん充実していく時期だし。
 一作一作楽しみだね。

 ナルちゃん。
 声きれーい。でもって、女医の役がすばらしく似合うっ!ちょっと知的な雰囲気が、ぴったりでしたね。芝居も歌もイケるじゃんっ。なんか、ゆうくんとお似合いだった!病院からの無断外出の時は、ゆうくんの強引さに負けるんだけど、最終的には、主人公が弱ってる時に、ちゃんとわかってなぐさめてあげる聡明さっていうの??クールに振舞ってるけど、でもワタシわかってるのよ!みたいな賢いカンジが。少年ぽさのある、ゆうくんを導くのがツボだったな~。白衣も似合ーう。

 まっつ。
 おおー!かっこいい!
 まっつは(男役として)隙がないなぁー!ビシッと髪の毛の先からつま先まで男役っ。
 いわゆる「マッド・サイエンティスト」(?)っていうの?まぁ、科学者がネガティヴに描かれる時の典型というか・・・悪役なんだけど、悪の美学が隙のない男役ぶりによく映えてました。
 芝居は特に後半の、だんだん悪事?が暴かれて追い詰められていくのに、平然としてる冷淡さの芝居が大変ツボでした。温度がないっ(笑)それがエラいカッコイイ(笑)

 めおちゃん。
 花組デビューだったね。おめでとー!
 立ち居振舞いに月組らしいストイックさがのぞきます。や、ほんっとスタイルいいのよねー。スラッとして、ハンサム。花組でどんなスターさんになっていくのか楽しみです。今回は元上司の娘に手を焼く、ちょっとワルい・・・ちょいワル?(笑)ちょいワル組織人でしたけど、ワルさがニクいよね。ワルい役特有の色気がある!

 まなとくん。
 まなとくん、あれでまだ研4だか5だかですよね!?なんて将来有望・・・。あの学年であれだけデキれば上等じゃないですか。立ち姿にも華があるし。
 まなとくんを筆頭にストリートダンサー、みんなちゃんと「それっぽく」見えたよ!ストリートなのに、ちゃんと品はあるのがいいね!

 刑事役の紫峰さんの芝居がよかったです。刑事くさいコートを着た背中が!「苦楽を乗り越えてきたんだゼ」っていう、古だぬきっぽさがある!

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 あ、そういえばフィナーレよかったですね。シンプルですけど、「そうそう、宝塚ではこーゆーのが見たいのよっ!」とヒザを打ちたくなる王道フィナーレ。男役は黒一色、娘役は赤いロングスカートドレスで。
 話は理系題材だしミステリー仕立てだし、登場人物の人間関係を追っていかなきゃいけないから、アタマ使うんだけど(ぼーっとしとると追いてかれます・・・)、フィナーレで洗い流されましたわ~。


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2 コメント

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トラバさせていただきました (midori)
2006-12-11 10:34:59
こんにちは!
カキコは、ちょっとお久しぶりです。
(^^;
私も、東京公演を拝見しました。

小池作品の解析も興味深かったです。
最初、“Kさんは、イマイチという評価なのかなぁ…”
と読み進むうち、意外とお気に入りだったと解釈したの
ですが、違ってましたでしょうか?
(^^;;

フィナーレまで含めて、私は好きな作品でした。
物語も、甘々じゃないところが私には“ツボ”でした。
(^m^)
感想アップしたので、トラバさせていただきました。
(*^^*)
midoriさまへ♪ (なまいきむすめK)
2006-12-11 22:12:43
 こんにちわー。ブログはいつも拝見してます☆

>意外とお気に入りだったと解釈したのですが

 ええ、ええ。そのとおりですー。
 てゆーか、もともと小池美学と小池ストーリーは大変ツボに来る性格なので、小池作品は基本的に好きなんです。小池作品の主人公を見るたび、「あーいう陰があってカッコイイ男性、どっかにいないかなー」とか思ったりしてます(笑)
 
 フィナーレもシンプルでとても良かったですよね~。満足して帰れる公演でした!

 トラバ、いつもありがとうございます!

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