山川草一郎ブログ

保守系無党派・山川草一郎の時事評論です。主に日本外交論、二大政党制論、メディア論などを扱ってます。

2大政党化とメディア

2004年07月25日 | 政治のかたち
先の参院選では、自民党によるメディア批判が際立った。公式抗議では安倍幹事長が中心的役割を果たしているようだったが、小泉首相も街頭演説で「一部の反米マスコミが―」といった表現で噛み付いた。

政権党が選挙中にマスコミ批判を打ち出すことは、それ自体、55年体制下ではあり得なかったことで、それだけ自民党が弱体化した(言いかえれば、磐石の「体制」から、下野もあり得る普通の「政党」に変質した)証左だろう。

また、メディアの方もかつては、ほぼ全ての新聞が「反体制」を基調にしており、体制寄りは産経新聞ぐらいだった。読売新聞が右旋回を切ったのは、政治部出身の渡邉恒雄氏が頭角を現した80年代半ば以降のことで、それ以前は大阪社会部の発言力の強い「人情派リベラル」な新聞だった。

メディアが世論や現実政治に与える影響が大きくなるに従って、メディア自身も無責任な立場ではいられなくなる。その意味で、かつてのように新聞が「反体制」で一枚岩だった時代には、もはや後戻りはできないだろう。

90年代に入り、言論界の2極化は、より鮮明になった。体制批判の姿勢を頑なに守る朝日と毎日に対し、読売と産経は「保守」の立場を強固にしたのだ。部数の大きい朝日、読売の傾向を比較すると、朝日の論調が「護憲・平和」に重点を置くのに対し、読売は「改憲・国際貢献」を掲げる。

朝日の読者に高学歴者や教員など「進歩的知識人」が多いのに対し、読売は「親米保守派」の支持を得ている。政党では、朝日が「旧社会党」の主張に近く、読売が「自民党」に共感しているのも特徴的だ。

また、米国の政治勢力では朝日が民主党に、読売が共和党に、より親しみを感じているようだ。その意味で小泉首相が「反米マスコミ」批判の念頭に置いているであろう朝日新聞は(反ブッシュであっても)「反米」とは言えないのだ。

ところで、読売が「自民党」に親近感を感じているのに対し、朝日の論調が「民主党」でなく、いまだに「旧社会党」の主張に近いのはどうしたものだろうか。

社民党の議席が著しく減少を続ける中、日本を代表する2大紙の論調が、55年体制を引きずっていることは問題である。朝日が「読売改憲試案」に明確な対立軸を打ち出せないでいることが、この10年の無党派層の拡大に少なからぬ影響を与えている気がする。

もちろん、コミュニケーション手段が多様化した現代日本で、メディアの論調が国民に与える影響は、大したものではないかも知れない。それでも、これだけ自民・民主の2大政党化がはっきりしてきた今日において、その片翼たる民主党を明確に支持する大新聞がないことは、あまり健全とは言えないだろう。

英米のような、主要紙が紙面で支持政党を宣言するような風習は、「言論」より「報道」の機能を優先する日本の新聞社にはなじまないかも知れない。しかし、いまだ700万部を売っている朝日新聞が、消滅寸前の社民党と同様の「護憲」論を主張しているのは、奇異としか言いようがない。これでは、いつになっても、日本社会に良識的リベラル層が形成されていかないのではないだろうか。

あるいは、産経が大幅に部数を拡大すれば、全体の対立軸が大きく右にずれることも考えられる。その場合、「改革保守」の立場の読売は、より民主党に近付くかも知れない。 「改憲・国際貢献」を説き、「親米保守派」の支持を受ける読売に対し、産経は「改憲・復古」を前面に出し、時には反米的でさえある「独立保守派」を代表しているからだ。

そもそも、新聞の部数などは時代の流れによって、変化するのが常だ。かつては朝日と毎日が2大紙と呼ばれた時期があった。現在の毎日にその頃の面影はない。時代遅れの論調にしがみついていれば、部数を減らしていく運命にあるのだ。

残念ながら、現在の新聞業界は、宅配と再販の制度で守られ、変動が少ない仕組みに安住している。しかし、これらの制度も、テレビニュースの充実やインターネットの普及で存続の危機にさらされているようだ。

国際情勢の変化に対応し、永田町の勢力図が大きく変わる中、新聞界だけが旧態依然でいられるはずはない。近い将来、民主党の主張に共鳴する新たなメディアが登場することを期待したい。(了)


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2 コメント

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同感です。 (朱雀門)
2004-08-10 01:55:47
興味深く読ませていただきました。



私見を述べさせてもらいます。



政権交代の可能性が見えてきた今こそ、朝日新聞は民主党支持を表明して従来の「ナイーブな体制批判紙」から脱皮する機会だと思います。

ただ、民主党が自民党との対立点をこれからどう明確にしていくか?どういう支持層を確立していくか?という大きな問題はありますけど。
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ありがとうございます (山川草一郎)
2004-08-11 17:25:57
朱雀門さん、ご感想ありがとうございます。新聞やテレビの観点とは異なる、素人の目から見た政治評論を試みています。ご感想を頂けると大変励みになります。今後とも宜しくお願い致します。
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