武弘・Takehiroの部屋

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“少年探偵団”と“ひょっこりひょうたん記者”

2024年07月04日 04時18分26秒 | フジテレビ関係

<以下の記事を復刻します。>

新聞でもテレビでも、記者になったら一日も早く現場で仕事がしたいだろう。私もテレビ局入社後、報道に配属された時にそう思った。ところが、内勤の仕事などが長く続いてなかなか外へ出してくれない。早く記者クラブに出たいと希望を言うのだが、3年半ぐらい内勤の仕事をしていた。
ようやく26歳になった頃、人事異動で「警視庁記者クラブ」への配属が決まった。私は嬉しくなって「よしっ、やるぞ!」と思ったが、初の外勤なので不安も一杯あった。旧国鉄の有楽町駅から徒歩で、初めて警視庁へ行った時のことは忘れられない。旧庁舎は灰色がかった厳めしい建物で、そこに入る時は身が引き締まる思いがした。
すぐにキャップの指示で、殺人・強盗などを担当する捜査1課と、窃盗などを担当する捜査3課を受け持つことになった。それから取材などの仕事が始まったが、なにしろ“駆け出し記者”だから初めは要領を得ないことが多く、キャップや先輩からよく注意された。しかし、だんだん仕事に慣れてきて、私はいっぱしの『事件記者』の気分になったのである。

殺人や火事などの現場へしょっちゅう行くうちに、取材も原稿書きも“お手の物”になったようだ。特に「殺人事件」というのは記者の気持を盛り上げるもので、刑事だけでなく我々も早くホシ(犯人)に到達したいと思うものだ。事件現場では「地どり」と言って「聞き込み」調査を徹底的に行う。記者にとってはそれが基本で、若い我々はいつも現場でウロチョロしていた。聞き込みをする時は必ず社名を言うので、私はまるで“宣伝マン”のように「Fテレビ」「Fテレビ」と言っては、民家などへ少し図々しく入っていった。
その当時の事件取材は、人数が多く伝統のある新聞社が圧倒的に強かったので、民放テレビも自己アピールを出来るだけしようというので、私はことさら聞き込みに力を入れた。 「えっ、テレビ局もそんなことをするの?」と、よく言われたものだ。
他局の若い記者らも大いに聞き込みをするので、我々はいつしかデカ(刑事)さんから“少年探偵団”と呼ばれるようになった。これはもちろん皮肉を込めたものだが、手当たり次第に聞き込みをする我々を、多少は可愛い(?)とでも思ってくれたのだろうか。

さて、テレビ局草創期の取材だから、分厚い陣容を誇る新聞社にはなかなか勝てない。新聞記者は先輩から受け継いで、デカさんを良く知っている。テレビ局の記者(特に民放)なんてその当時、ほとんど刑事に顔が利かないのだ。そういうことで、いくら聞き込みをしても、新聞に歯が立たなかったことが多い。
ある時、東京・三鷹市の麦畑で、幼稚園の男児が首を絞められて殺されるという事件が起きた。それっとばかりに、現場や被害者宅の周辺の聞き込みをした。すると、園児の父であるNさんの隣家の奥さんから、注目すべき話を聞くことができた。それは、Nさんとかつて「共同事業」をしていたS氏の妻が、相当に変な人だったと言うのだ。奥さんはさらに、S氏一家はいま三鷹市を離れているが「あの女なら、隣の坊やを殺しかねない」と言うのだ。S氏夫人の過去の行状などを色々聞いていると、この女なら殺人でも犯しかねない印象を受けた。これは怪しいと思った私は、この情報を刑事にぶつけて質すべきなのだが、担当の刑事を知らない。そこで、この情報をもとに「怨みによる犯行の可能性も出てきた」という記事を書くのが精一杯だった。
ところが翌朝、某新聞が「重要参考人にS氏の妻」という記事を載せた。私はやられたと思ったが、後の祭りである。要するに“抜かれた”のである。その日のうちに、S氏の妻は殺人容疑で逮捕された。この女は、かつての共同事業者であるNさん一家が、その後も事業を順調に発展させて成功しているのに対し、自分の家は仕事が上手くいかず落ちぶれたことに嫉妬し、Nさんの子供を絞め殺したのである。 私は貴重な情報を手に入れたのに、最後のところで某新聞に抜かれたのだ。

その頃だったか、NHKの報道局が発信源だったらしいが、面白い替え歌が一部の記者仲間で流行っていた。それは“ひょっこりひょうたん記者”というもので、これはNHKの代表的な人形劇「ひょっこりひょうたん島」の歌を元にしたものだ。この歌はとても印象的な曲なので知っている人も多いだろう。替え歌の全ては覚えていないが、触りは以下のようなものである。
「・・・ 抜かれることは あるだろさ 抜くことなんか ないだろさ だけど 僕らはくじけない 泣くのはいやだ 笑っちゃお 進め~っ! ひょっこりひょうたん記者 ひょっこりひょうたん記者」
私もこの替え歌には、一時ハマった。“ひょっこりひょうたん記者”か・・・まるで自分のようではないか。ひょこひょこと事件現場をうろついている自分。刑事に“少年探偵団”と揶揄されながらも、駆け出し記者として頑張っている自分。しかし、記者として苦笑を禁じ得ない致命的な歌詞は以下のところだ。
「抜かれることは あるだろさ 抜くことなんか ないだろさ」(笑) (2008年10月22日)

備考→ NHKの人形劇「ひょっこりひょうたん島」・・・https://www.youtube.com/watch?v=lDlh3D7xMPs


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