このBlogでも紹介した(まだの方は先にお読みください)「ど根性大根 大ちゃん」が危篤に陥っている。
今年の正月には元気一杯だったのだ。上の写真のように1月1,2日相生市役所で開かれた大ちゃん展には本人も出席してのべ600人の来場者を出迎えていたのだ。
容体が急変したのは1月末、これまでの水耕栽培から土に植え替えたことがきっかけだ。相生市の「大ちゃんのここだけのはなし」を見ると、大ちゃんの「肉声」の最後は1月23日、「さぁ~て、たくさん花を咲かせるため、しっかりと休養しょっと・・・」で終わっている。恐らく次の日に土に移動させられて急速に体力が落ちたのだ。28日には、「ジャンボ大根作り名人小林貞雄さん(64)=岡山県備前市=が“重体”と診断した。」(神戸新聞1月29日)。
大ちゃんは今は「面会謝絶」になり、”集中治療室”に入れられて治療を受けているという。<小林さんはギネスブック登録の経験もある名人だが、「根の養分だけで生きている状態」と厳しい見方を示した。>(同上)「しっかりと休養しょっと・・・」と語った大ちゃんが永遠の「休養」の危機にある。
まったく何をやっているんだか。なぜ土に移そうとしとしたかというと、水耕栽培では葉は育つが種をつけないという「専門家」のアドバイスがあったからだ。相生市としては、大ちゃんの「お世継ぎ」を残してその種を配りたかったのだ。水耕栽培で大往生できたはずの大ちゃんが、「人為」によって危篤に陥ってしまったのだ。
この相生市の失態で思い出したのが、中国の哲人荘子の言行録にある不思議な物語だ。
南海の帝を(しゅくー漢字JISになし)といい、北海の帝を忽(こつ)といい、
中央の帝を渾沌(こんとん)といった。(しゅく)と忽とは、その渾沌の恩に報
いようと相談し、「人間にはだれにも〔目と耳と鼻と口との〕七つの穴があって、
それで見たり聞いたり食べたり息をしたりしているが、この渾沌だけにはそれが
ない。ためしにその穴をあけてあげよう」ということになった。そこで一日に一
つずつ穴をあけていったが、七日たつと渾沌は死んでしまった。(金谷治訳)
-『荘子 応帝王篇』
親切心から自分たちと同じように「穴」をあけてやったので、「渾沌」(この名前も興味深い)は死んでしまった。人知や「常識」の愚かさ、限界を語る荘子哲学だ。
一部で「税金の無駄使いだ」という浅薄な批判のあった相生市の大ちゃん救出作戦だが、投入した税金とは比較にならない経済効果があった。とりわけ霊験を得たのは相生の市長さんだろう。
市長は相生市のWebで「よっちゃんのここだけのはなし」というエッセイを連載しておられる。最近はそこで大ちゃんの比重は大変なものだ。
“大ちゃん”死んだらあかんぞ、オレがついてるぜ!
オマエはたいしたやっちゃ。折られても、抜かれても、ボロボロになっても、まだ生きてる。本当に根性のあるやっちゃ、誉めたるで。
ボクも、厳しい財政状況など先の暗いトンネルの中にいたのだが、一つの光を見つけた。
という文章と共に、大ちゃんを見守る「よっちゃん」の大きな写真が。「よっちゃん」が大ちゃんを励ましているというよりは、大ちゃんが「よっちゃん」を支えていたわけ。しかしその恩人の大ちゃんは「よっちゃん」の判断ミスによって命が脅かされている。「よっちゃん」が好きな話は、山中鹿之介が「我に七難八苦を与え給え」と月に唱えたというエピソードなのです(この言葉は”はなし”の中でイヤと言うほど繰り返されています)が、市民や大根に「七難八苦を与え」てはいけません。
そうなのです。相生市も日本のほとんどの自治体と同じように大変な財政危機の中にあり、当然のごとく市民税のアップによって切り抜けようと(まあ誰でも考えつく「解決法」ですが)市長は考えていて、それを納得させる?スローガンが「七難八苦」であり、そのシンボルとして大ちゃんが活用されたという分かりやすくも情けない話です。
「渾沌」に穴を開けて殺してしまったように、日本の財政にも愚かな「人為」から穴を開けてしまった人たちがいるのです。『荘子 応帝王篇』では話はあれで終わっており、責任者のしゅくと忽の二人の帝がどうしたかは分からない。しかし今の日本も同じことだ。穴を開けた責任者やその末裔は国民に「七難八苦」を説くばかりで、自分たちは利益は得たが犠牲は転嫁しようということだ。
「“大ちゃん”死んだらあかんぞ」と叫んで死の床に追いやった市長の姿が、増税という「人為」によって日本を「救おう」としている指導者と重なってしまう。”大ちゃん”は日本の庶民を象徴している。
【訃報】2006.2.3
ど根性大根大ちゃんにおかれましては、相生市が生命維持装置による延命を続
けてきましたが、2月2日自力再生を断念するとの声明を出しました(毎日新聞)。
ここに生前のご厚誼を深謝し謹んでご通知申し上げます。
大ちゃんの亡骸は宝塚市の医農薬研究支援サービス会社「住化テクノサービス」
研究所に移され、茎と葉の分かれ目部分を切り取り、ゼリー状の培養液につけて
芽が伸びるのを待つことになります。大ちゃんのコピー大根登場のおりには、す
ぐに風呂吹き大根にして食するのでなく、変わらぬご支援・ご愛顧を賜りますよう
お願い申し上げます。
今年の正月には元気一杯だったのだ。上の写真のように1月1,2日相生市役所で開かれた大ちゃん展には本人も出席してのべ600人の来場者を出迎えていたのだ。
容体が急変したのは1月末、これまでの水耕栽培から土に植え替えたことがきっかけだ。相生市の「大ちゃんのここだけのはなし」を見ると、大ちゃんの「肉声」の最後は1月23日、「さぁ~て、たくさん花を咲かせるため、しっかりと休養しょっと・・・」で終わっている。恐らく次の日に土に移動させられて急速に体力が落ちたのだ。28日には、「ジャンボ大根作り名人小林貞雄さん(64)=岡山県備前市=が“重体”と診断した。」(神戸新聞1月29日)。
大ちゃんは今は「面会謝絶」になり、”集中治療室”に入れられて治療を受けているという。<小林さんはギネスブック登録の経験もある名人だが、「根の養分だけで生きている状態」と厳しい見方を示した。>(同上)「しっかりと休養しょっと・・・」と語った大ちゃんが永遠の「休養」の危機にある。
まったく何をやっているんだか。なぜ土に移そうとしとしたかというと、水耕栽培では葉は育つが種をつけないという「専門家」のアドバイスがあったからだ。相生市としては、大ちゃんの「お世継ぎ」を残してその種を配りたかったのだ。水耕栽培で大往生できたはずの大ちゃんが、「人為」によって危篤に陥ってしまったのだ。
この相生市の失態で思い出したのが、中国の哲人荘子の言行録にある不思議な物語だ。
南海の帝を(しゅくー漢字JISになし)といい、北海の帝を忽(こつ)といい、
中央の帝を渾沌(こんとん)といった。(しゅく)と忽とは、その渾沌の恩に報
いようと相談し、「人間にはだれにも〔目と耳と鼻と口との〕七つの穴があって、
それで見たり聞いたり食べたり息をしたりしているが、この渾沌だけにはそれが
ない。ためしにその穴をあけてあげよう」ということになった。そこで一日に一
つずつ穴をあけていったが、七日たつと渾沌は死んでしまった。(金谷治訳)
-『荘子 応帝王篇』
親切心から自分たちと同じように「穴」をあけてやったので、「渾沌」(この名前も興味深い)は死んでしまった。人知や「常識」の愚かさ、限界を語る荘子哲学だ。
一部で「税金の無駄使いだ」という浅薄な批判のあった相生市の大ちゃん救出作戦だが、投入した税金とは比較にならない経済効果があった。とりわけ霊験を得たのは相生の市長さんだろう。
市長は相生市のWebで「よっちゃんのここだけのはなし」というエッセイを連載しておられる。最近はそこで大ちゃんの比重は大変なものだ。
“大ちゃん”死んだらあかんぞ、オレがついてるぜ!
オマエはたいしたやっちゃ。折られても、抜かれても、ボロボロになっても、まだ生きてる。本当に根性のあるやっちゃ、誉めたるで。
ボクも、厳しい財政状況など先の暗いトンネルの中にいたのだが、一つの光を見つけた。
という文章と共に、大ちゃんを見守る「よっちゃん」の大きな写真が。「よっちゃん」が大ちゃんを励ましているというよりは、大ちゃんが「よっちゃん」を支えていたわけ。しかしその恩人の大ちゃんは「よっちゃん」の判断ミスによって命が脅かされている。「よっちゃん」が好きな話は、山中鹿之介が「我に七難八苦を与え給え」と月に唱えたというエピソードなのです(この言葉は”はなし”の中でイヤと言うほど繰り返されています)が、市民や大根に「七難八苦を与え」てはいけません。
そうなのです。相生市も日本のほとんどの自治体と同じように大変な財政危機の中にあり、当然のごとく市民税のアップによって切り抜けようと(まあ誰でも考えつく「解決法」ですが)市長は考えていて、それを納得させる?スローガンが「七難八苦」であり、そのシンボルとして大ちゃんが活用されたという分かりやすくも情けない話です。
「渾沌」に穴を開けて殺してしまったように、日本の財政にも愚かな「人為」から穴を開けてしまった人たちがいるのです。『荘子 応帝王篇』では話はあれで終わっており、責任者のしゅくと忽の二人の帝がどうしたかは分からない。しかし今の日本も同じことだ。穴を開けた責任者やその末裔は国民に「七難八苦」を説くばかりで、自分たちは利益は得たが犠牲は転嫁しようということだ。
「“大ちゃん”死んだらあかんぞ」と叫んで死の床に追いやった市長の姿が、増税という「人為」によって日本を「救おう」としている指導者と重なってしまう。”大ちゃん”は日本の庶民を象徴している。
【訃報】2006.2.3
ど根性大根大ちゃんにおかれましては、相生市が生命維持装置による延命を続
けてきましたが、2月2日自力再生を断念するとの声明を出しました(毎日新聞)。
ここに生前のご厚誼を深謝し謹んでご通知申し上げます。
大ちゃんの亡骸は宝塚市の医農薬研究支援サービス会社「住化テクノサービス」
研究所に移され、茎と葉の分かれ目部分を切り取り、ゼリー状の培養液につけて
芽が伸びるのを待つことになります。大ちゃんのコピー大根登場のおりには、す
ぐに風呂吹き大根にして食するのでなく、変わらぬご支援・ご愛顧を賜りますよう
お願い申し上げます。