男は追い詰められていた。家賃滞納で立ち退きの期日が迫っていた。途方にくれつつ、夕食の「単品メニュー」、コンビニで買ったスパゲティを袋ごと電子レンジにかけた。「レンジで温めるときは袋に必ず穴を開けてください」という注意書きには気がつかなかった。スパゲッティの袋が加熱で膨らんでいくのを見ていると、男の心の中にもある野望が膨らんで来た。しかし・・そこまでは・・・・その時、パン!と袋がハジケた。その音に背中を押された。いや!これしかない、やるぞオレは!
この60歳の恐喝男、毎日新聞では「(同社製品の)スパゲティを見て恐喝しようと思った」としか記述がなく、スパゲティと動機の結びつきがぼんやりしていた。ところがTBSの報道で、「家にあるスパゲティーをレンジにかける時に袋を見て」という供述を聞いた瞬間に、小生の脳裏には、この男の犯罪の発端から逮捕の瞬間が、あたかも「超能力捜査官」の「4次元透視」のようにハッキリと展開された。これに間違いない!
ここでは報道とその「透視」を基に、貧小ではあるが、ある種の哀愁を帯びたこの事件をビビッドに再現してみよう。ただし「透視」の外れた部分に関しては、高い出演料で海外から呼び寄せた「超能力捜査官」たちも「A子さんはもう死んでいます」、「A子さんは生きています」と「透視結果」が食い違い、"人の命で遊ぶな"状態をスタジオに作り出したりするくらいの有様なので、無料だから免責とさせてください。
男はやおらレンジを開けると、破れたスパゲティの袋を取り出し、中味には目もくれず、袋に記載された会社の住所を書き写した。手紙などここ30年書いたことがなく、「はいけい」と書き出したが漢字が分からず結局いきなり”用件”を書いた。「500万円用意してください。用意しないと貴社の製品に毒を入れます」。
大手メーカーへの脅迫にしては少額なのと、「敬体」で書いている(読売)ところにこの男の気の弱さと素人性が見える。メーカーから通報を受けた警察もすぐにそれに気づいたはず。与し易し、逮捕は時間の問題とほくそ笑んでいた。
警察の取ったのはじらし作戦。犯人はカネが早く欲しくてしょうがないはず。果たせるかな男は1週間後に「金は200万円でいいから京都駅まで現金で持ってこい」と電話をかけてきた(読売)。
だからね~、恐喝や詐欺はテレビショッピングじゃないんだから、ディスカウントしたら必ず失敗するの!(この事件もそうでした)
「そろそろパクりますか。受ける電話を固定してください。それからできるだけ話を引き伸ばしてください。何でもいいんです」
京都に住む男だったが、電話は公衆を使って大阪からかけることにした。「フン、ワシかて伊達に退屈な二時間ドラマ見てへん。逆探知は効かへんで。ワシが大阪の人間や思わせたるんや」と不敵な笑みを浮かべて受話器を取った。「あー、約束の200万用意できたかね。また10分後にかけるから携帯のスイッチ入れときたまえ。」
「それがですね、まことに申し訳ないんですけど、うちの会社今ぁ~ちょっと苦しいんで、10万ずつ20ヶ月払いということで手を打っていただけないかと・・・」
思わぬ申し出にこの小心者はすっかり気が動転してしまった。「オオ・・オマエ、アホか!そんな分割なんてできるわけないやろ。なな・・・何とかせんかい、毒入れられてもかまへんのか!ワレ」
「はあそうですか、ちょっとこのままお待ちください。社長と相談してきますんで」
もう男の念頭からは逆探知への警戒心などどこかへ飛んで行ってしまった。
「はいお待たせしました。社長のOK出ましたんで、これから京都駅へ200万耳を揃えてお届けします。それでですね、私京都駅初めてなんですよ。待ち合わせ場所、細かく教えてもらいますぅ?」
「おーそうか、いや解ってくれたらええねん、ほな、場所これからくわしゅう言うさかいな、・・・・・」もう嬉しさのあまりコインが切れても「ゴメンゴメン、ちょっと両替してくるし」、と近くのコンビニに走ることも厭わなかった。逆探知で目標地点を絞り込んだ捜査員たちの前を男がスキップしながら通り抜け、件の電話ボックスに飛び込んだ。
「おおきに、おおきに」と恐喝犯は何度もお辞儀をしながら受話器をおいた。「ついにやったで。200万や!明日からワシの新しい人生やで!行こか、京都駅!」。還暦を迎える今の今まで経験したことのない達成感と希望で胸をパンパンに膨らませて電話ボックスを出た瞬間、捜査員たちがグルリと男を取り囲んだ。「おっちゃん、どこ電話してたん?ちょっと話し聞かせてくれるか。」その瞬間、あの時、始まりのあの時のスパゲティの袋のように、男の希望も音を立ててハジケてしまった。
この60歳の恐喝男、毎日新聞では「(同社製品の)スパゲティを見て恐喝しようと思った」としか記述がなく、スパゲティと動機の結びつきがぼんやりしていた。ところがTBSの報道で、「家にあるスパゲティーをレンジにかける時に袋を見て」という供述を聞いた瞬間に、小生の脳裏には、この男の犯罪の発端から逮捕の瞬間が、あたかも「超能力捜査官」の「4次元透視」のようにハッキリと展開された。これに間違いない!
ここでは報道とその「透視」を基に、貧小ではあるが、ある種の哀愁を帯びたこの事件をビビッドに再現してみよう。ただし「透視」の外れた部分に関しては、高い出演料で海外から呼び寄せた「超能力捜査官」たちも「A子さんはもう死んでいます」、「A子さんは生きています」と「透視結果」が食い違い、"人の命で遊ぶな"状態をスタジオに作り出したりするくらいの有様なので、無料だから免責とさせてください。
男はやおらレンジを開けると、破れたスパゲティの袋を取り出し、中味には目もくれず、袋に記載された会社の住所を書き写した。手紙などここ30年書いたことがなく、「はいけい」と書き出したが漢字が分からず結局いきなり”用件”を書いた。「500万円用意してください。用意しないと貴社の製品に毒を入れます」。
大手メーカーへの脅迫にしては少額なのと、「敬体」で書いている(読売)ところにこの男の気の弱さと素人性が見える。メーカーから通報を受けた警察もすぐにそれに気づいたはず。与し易し、逮捕は時間の問題とほくそ笑んでいた。
警察の取ったのはじらし作戦。犯人はカネが早く欲しくてしょうがないはず。果たせるかな男は1週間後に「金は200万円でいいから京都駅まで現金で持ってこい」と電話をかけてきた(読売)。
だからね~、恐喝や詐欺はテレビショッピングじゃないんだから、ディスカウントしたら必ず失敗するの!(この事件もそうでした)
「そろそろパクりますか。受ける電話を固定してください。それからできるだけ話を引き伸ばしてください。何でもいいんです」
京都に住む男だったが、電話は公衆を使って大阪からかけることにした。「フン、ワシかて伊達に退屈な二時間ドラマ見てへん。逆探知は効かへんで。ワシが大阪の人間や思わせたるんや」と不敵な笑みを浮かべて受話器を取った。「あー、約束の200万用意できたかね。また10分後にかけるから携帯のスイッチ入れときたまえ。」
「それがですね、まことに申し訳ないんですけど、うちの会社今ぁ~ちょっと苦しいんで、10万ずつ20ヶ月払いということで手を打っていただけないかと・・・」
思わぬ申し出にこの小心者はすっかり気が動転してしまった。「オオ・・オマエ、アホか!そんな分割なんてできるわけないやろ。なな・・・何とかせんかい、毒入れられてもかまへんのか!ワレ」
「はあそうですか、ちょっとこのままお待ちください。社長と相談してきますんで」
もう男の念頭からは逆探知への警戒心などどこかへ飛んで行ってしまった。
「はいお待たせしました。社長のOK出ましたんで、これから京都駅へ200万耳を揃えてお届けします。それでですね、私京都駅初めてなんですよ。待ち合わせ場所、細かく教えてもらいますぅ?」
「おーそうか、いや解ってくれたらええねん、ほな、場所これからくわしゅう言うさかいな、・・・・・」もう嬉しさのあまりコインが切れても「ゴメンゴメン、ちょっと両替してくるし」、と近くのコンビニに走ることも厭わなかった。逆探知で目標地点を絞り込んだ捜査員たちの前を男がスキップしながら通り抜け、件の電話ボックスに飛び込んだ。
「おおきに、おおきに」と恐喝犯は何度もお辞儀をしながら受話器をおいた。「ついにやったで。200万や!明日からワシの新しい人生やで!行こか、京都駅!」。還暦を迎える今の今まで経験したことのない達成感と希望で胸をパンパンに膨らませて電話ボックスを出た瞬間、捜査員たちがグルリと男を取り囲んだ。「おっちゃん、どこ電話してたん?ちょっと話し聞かせてくれるか。」その瞬間、あの時、始まりのあの時のスパゲティの袋のように、男の希望も音を立ててハジケてしまった。