映画に 乾杯! / 知の彷徨者(さまよいびと)

名作映画に描かれている人物、物語、事件、時代背景などについて思いをめぐらせ、社会史的な視点で考察します。

映画作品 おススメ短信 2

2010-12-31 16:13:34 | Weblog
◆現代文明滅亡のシナリオ Ⅱ◆
■ターミネーター3(2003年)■
原題 The Terminator 3 Rise of the Machine(ターミネイター(殺戮者)3 機械兵器の反乱)

 2001年9月のアメリカへのテロ攻撃から2001年10月のアフガニスタン戦争、さらに2003年春のアメリカのイラク侵攻という流れで人類の無謀な破壊行為と憎悪の連鎖反応を眺めるとき、〈ターミネイター3〉が人類文明の滅亡という悲劇的な出来事を描こうとした社会心理的背景を理解できるだろう。
 人類はいまのところ、理性による自己抑制よりも、目先の利益の追求衝動の方がまさっていて、それは狂気ともいえるほどの憎悪の自己増殖を招きかねない…。

 この作品では、未来のスカイネットが現代に送り込んだターミネイターT‐Xの残酷な殺戮行動と並んで、いやそれ以上に、USペンタゴンの兵器研究開発のメカニズムがスカイネットという兵器体系管理システムを生み出し、やがて人類を全面的な核戦争に駆り立てていくという流れを描き切っている。
 無坊で愚かなブッシュ政権がテロリズムへの報復としてアフガンやイラクに攻め込んでいる最中に、この一連の戦争を指揮するペンタゴンの愚かさを描く作品を制作していたアメリカ映画人の冷めた知性には感心せざるをえない。

 映画の物語に入る前に述べておきたいことがある。
 アフガン戦争とイラク侵攻の初期段階、いや湾岸戦争のときから、アメリカ軍がメディアを利用して世界中に流した戦争シーンに関する報道の決定的に重要な部分が、卑劣な虚偽と欺瞞に満ちていたことを。それは、高度な情報システムによって解析された敵の所在地にピンポイントの攻撃を仕かけて、(一般住民や非戦闘員への被害を極力抑えて)正確に敵側武装人員を殲滅するという戦術に関することである。
 この「ピンポイント攻撃(爆撃)」なるものは、現在では、戦闘行為の実態としては、大半が偽りであることが、アメリカ人自身の現地での取材報道活動と情報のウェブ配信によって暴露されている。
 ピンポイント攻撃のの標的設定の大半は誤っているか、さして効果のないメディア用のカムフラージュでしかなかったという。
 敵の殲滅のために、アメリカ軍と連合軍は、一般住民が居住生活する地区への無差別絨毯爆撃、砲撃を加えることで、敵側戦力の撃滅をはかったというのが実態だった。したがって、アルカイダやあタリバン兵よりも一般住民の方がはるかに多数死傷してしまったというのが、実際の戦場の現実だった。
 この事実の方は、いまだにほとんど(あるいはごくわずかしか)報道されない。戦争の実態は、虚偽の情報の氾濫のために、多くが闇のなかである。
 ピンポイント攻撃についての華々しい報道(情報誘導)は、ハイテク最先端兵器の効果がいかにすばらしいかを宣伝するコマーシャル・メッセイジにすぎなかった。US政府とペンタゴンが巨費を投じて開発してきた最先端兵器体系を世界中に売り込み、こうした軍需喚起政策の正統性をアピールするための。
 宇宙衛星とか無人偵察機による索敵活動、インターネットでペンタゴン本部と前線の兵士や戦車・戦闘車両とを直結する情報交換・判断システムの成果なるものは、じつにいかがわしいものだったのだ。

 さて、こうした虚偽報道・情報誘導によって賛美称揚されたペンタゴンの最新兵器開発戦略の行く手にあるのが、スカイネットと見まがうばかりの、無人のロボット兵器やコンピュータ自動制御型の索敵・殺戮兵器である。それらは、これまでも、これからも巨額の国家財政資金を注ぎ込んで研究開発され、洗練されているのだ。

 このシリーズは、各編ごとに未来からスカイネットによって送り込まれるターミネイターの型が進化し、ターミネイターが狙う対象も変わっていく。
 第1編では、ターミネイター初期型がサラー・コナーを抹殺しに送り込まれ、
 第2編では、ターミネイター1000型がジョン・コナーを狙い、T-100型はジョンを防御することになり、
 第3編では、ジョン・コナーの妻になり、彼の死後に人類側反乱軍を指揮するケイト・ブリュウスターを狙ってT‐Xが送り込まれる(T‐100型)はジョンとケイトを守る)。
 こうして、時系的因果連鎖を組み換えるために抹殺兵器アンドロイドが未来から過去に送り込まれ、過去と未来の双方の側で因果連鎖が相互に変化するというタイムパラドクスの物語となる。未来のスカイネットとしては、人類側反乱軍を指揮する人物を殺して、人類の殲滅戦での阻害要因を取り除こうとするわけだ。
 第3編では、結局スカイネットがアメリカの全軍事システムを乗っ取り核戦争を全地球的規模で展開させ、人類文明を破壊してしまうカタストロフまでが描かれる。
 T‐Xは、旧型ターミナネイターの反撃を受けてケイト(とジョン)を抹殺するという任務に失敗するが、他方では、スカイネットがペンタゴンの戦争指揮および兵器管理体系の情報システムを乗っ取って、核戦争で現代文明を破滅させることには成功する。
 というよりも、スカイネットによる征服支配は、ペンタゴンが自身が進めていたサイバーテロ対策システムならびに先端兵器研究開発の結果、必然的にもたらされた。つまりは、アメリカの国家装置=人類自身が自らを滅ぼす道を推し進めた結果が、スカイネットの支配ということになる。
 そして、アメリカ軍の研究所に侵入したT‐Xの操作で起動したターミネイターのプロトタイプ(T‐0型)こそが、人類の抹殺を始めたのだった。

 第2編までのように、未来からターミネイターのコンピュータ素子部品を試料として現代人類が研究開発して生み出したサイバーダイン社の情報システムではなく、第3編では、ペンタゴン自身が自発的に進めた研究開発の結果としてスカイネットが支配的地位を獲得する。いわば人類の内発的な動きの結果として、自らの破滅を呼び寄せるという状況設定になっている。
 見方によっては、ニヒリズムというかシニシズムの極限ともいえる。

 ところで、このスカイネット・システム開発を指揮したのは、皮肉にもケイト・ブリュウスターの父親、ブリュウスター少将だった。スカイネットは、世界的規模での情報システムの麻痺に対抗するためのシステムとして開発されたものだったが、このシステムはいったん起動すると、それ以後はいっさいの人類による情報制御を拒絶する(完全自動のAI)だという。
 要するに、ペンタゴンは世界でのアメリカの軍事的最優位を固守するために、コンピュータシステムに人類の運命を全面的に委ねるという方針を採用したわけだ。その時点で、人類の未来はスカイネットの意思に隷属するという意思決定を選択したことになる。

 ペンタゴンの命令でスカイネットを起動させたブリュウスター将軍は、T‐Xの侵入で、この意思決定が人類にとって致命的な誤りであったことを悟る。そこで、ケイトとジョンを、迫りくる核戦争から「とりあえず」生き延びさせるために、ネヴァダ砂漠の旧い軍用核シェルターに避難させようとする。
 こうして、ジョンとケイトは生き延びることになる。
 だが、世界中の主要都市と戦略的地域に核弾頭の雨が降り注ぐことになったのちに、核の灰が降りしきり、核戦争後の長い寒冷期が訪れるとすれば、「とりあえずの生き残り」に果たして意味があるのか。このシリーズの第4編では、スカイネット軍は、わずかに生き残った人類を収監するための作戦(人類狩り)を展開する。
 だが、全地球的規模で生態系が破壊されたのちには、生物としての人類がわずかに生き延びても、スカイネットのような地球的規模で組織化されたネットワーク兵器体系にとって、もはや何ほどの痛痒にもなるまい。

◆「国家と国家の法」の隙間の落とし穴◆
■ターミナル(2004年)■
原題 The Terminal(エアターミナル/国際空港)
 「ターミナル」については語ることがたくさん出てきそうなので、ブログの本格的な記事として取り上げることにします。

◆未来予知は破滅を招く◆
■ペイチェック(2003年)■
原題 Paycheck(報酬小切手)
原作 Philip K. Dick, Paycheck, 1952

 ある天才プログラマーが、ある大企業からの依頼で、重力レンズを利用して光を加速し未来の光景を少しだけ早く覗くコンピュータ・ディスプレイ・システムを開発した。その男は、このシステムが逆に国家間の先制攻撃の発想を増幅して世界核戦争に導く危険性をもたらすことを知り、自分が開発したシステムを破壊しようとする冒険を描いた作品。

 天才的なコンピュータ・システム・アーキテクトのマイケル・ジェニングズ。彼は、完成したシステムという結果から逆工程手順で分析して、システムの設計プログラミングをおこなう。この方法を「逆行設計(reverse engeneering)」プログラミングと呼ぶ。
 ところで、彼に設計プログラミングを委託発注する企業としては、この開発をめぐる知的財産権を完全に保護し、開発者のマイケルが設計に関する知識を悪用しないように、システムの完成・納品後にマイケルの開発をめぐる記憶を全部消去することになっている。それが発注契約と報酬支払いの条件となっている。
 AI・ITテクノロジーが飛躍的に発達した未来社会では、人間の脳の記憶のある部分だけを、ハードディスクのファイルメモリーを消去するように、消去できるようになっているのだ。スキャナーと生化学的処理による処置だという。
 しかし、物語の進行のなかで、消去できるのは、ディレクトリなどにあたる、ある記憶の再生・呼び起こしの手順や経路に関する知覚・記憶であって、記憶そのものは脳内に封じ込められたまま残るらしい。それもまた、ハードディスクと同じみたいだ。

 いずれにしても、企業秘密としてのシステム開発手順についての情報の安全性は、開発完成・契約完了後の記憶消去によって固く守られる。
 通常、マイケル、依頼企業の研究開発施設に2~3か月のあいだ閉じこもりきりになって(企業側の秘密厳守のための監視を受けながら)システムの設計・プログラミングをおこなう。そして、システムの完成後に正常な起動運用のクォリティを確認検査したのちに、記憶を消去され、それと引き換えに莫大な報酬(ペイチェック)を受け取ることになっている。

 あるときマイケルは、大学時代の同窓生だったジェイムズ・レスリック(今は「オールコム」という巨大システム会社のCEO)からシステム設計の依頼を受けた。ところが、非常に大規模で複合的なシステムなので、研究開発・設計に2~3年はかかるだろうという。そうなると、研究施設での暮らしは長くなり、完成後に消去される記憶量もかなりのものになる。
 脳の機能の障害が発生するリスクも高いので、いささか躊躇したが、巨額の報酬(9000万ドル+ボウナスで約1億ドル)に魅せられて引き受けることになった。
 マイケルと研究所でいっしょに作業することになったのは、生物学者(生化学)、レイチェル・ポーター博士で、彼女はマイケルの記憶消去のための生化学的処置をも担当するらしい。
 こうして研究開発が始まった。そして3年後、システムは完成した。検査も終わってマイケルの記憶も消去され、ようやく報酬を受け取ることになった。
 その1週間前に、マイケルはオールコムからの報酬受け取りを管理する法律事務所でペイチェック(電子化された小切手だろうが)の処理方法(換金方法)を指示した書面にサインした。報酬は現金とオールコムの株券で支払われるはずだった。
 そして翌週、マイケルはローファームの会計課に報酬を受け取りにいった。

 ところが、マイケルはそこで、思いもかけない事態に直面した。
 何と、1週間前、マイケルは自ら元金と株券の所有権(受け取り)を放棄して、代わりにコインやサングラス、IDカード、銃弾1個、紙巻きたばこ1本など、価値のない小物20点ばかりを封筒に詰めて、自分宛てに保管し、期限後自分の住所宛てに郵送する手続きを取ったのだという。
「そんなばかな!」とは思ったが、自分のサインが残されていた。

 なぜ、記憶を消去される前の自分が、なぜ1億ドルの有価証券を捨ててガラクタ同然の小物を受け取るように手配したのか。
 困惑のうちに事務所を出たマイケルは、FBIに追いかけられて逮捕された。罪状は、国家機密と国有財産の強奪、すなわち反逆罪だという。
 FBIのオフィスでマイケルは、最先端の生化学ポリグラフにかけられた。スキャナーが脳に内蔵されているあらゆる記憶を読み出すのだ。ところが、マイケルには、この3年間の記憶が残っていなかった。FBIの担当者は、マイケルの脳を破壊しても記憶の総浚いをしようとして、装置の電圧を目いっぱいに上げようとした。
 マイケルの抹殺を謀ったというべきか。
 だが、「処刑の前の休憩」のときにマイケルは紙巻きたばこをふかして煙を火災感知・消火装置のセンサーに送り込んで、混乱を起こし施設の電源を一時的に麻痺させた。暗闇のなかで、あのゴーグルが役立った。暗視ゴーグルだった。マイケルは、混乱する捜査官たちを出し抜き、逃走路を見つけてFBIから逃亡した。
 そして、バスターミナルまで逃げると、封筒にあったバス便のティケットを使って、FBIの追尾の手を振り切った。
 ところが、FBIビルの外で、オールコムが雇った殺し屋がマイケルを追跡していた。地下鉄に逃げ込んだマイケルを追いかけてきた。そして、地下鉄の線路上で襲いかかってきた。マイケルは線路の上に追い込まれ、そこに電車が迫ってきた。しかし、そのときも封筒にあった金属製クリップを地下鉄電源の配電盤に押し込んで停電させ、マイケルは逃げ出すことができた。

 「自分は何かのプログラムに沿って動いている!」 封筒に入れてあったガラクタを利用して危地を逃れ続けてきたことに、マイケルは気がついた。1週間前、マイケルはやがて迫りくるであろう危険を予知して、逃走の手段としてガラクタを封入したのだ。
 マイケルは、裏町の安ホテルに部屋を取り、ベッドの上にガラクタを並べて考えてみた。だが、記憶は戻らない。
 そのとき、なぜかマッチケイスが気になった。カヴァーを洗うと、「カフェ・ドゥ・ミシェル」という店の名前が出てきた。店に電話を入れてみると、マイケルは翌日の昼にマイケル・ジェニングズ名で席を予約してあり、誰かと会うアポイントメントになっていることがわかった。
 翌日、誰と会うのか不明のまま、マイケルは出かけた。

 マイケルが合うはずだったのは、オールコムの研究施設の同僚だったレイチェル・ポーター博士だった。彼女とは恋愛関係にあったのだが、マイケルはその期間の記憶を失っている。レイチェルは、マイケルが残したメッセイジを知った。「カフェ・ドゥ・ミシェルで会おう」という言葉を。
 だが、国家機密を盗み出してシステム開発をやらせたオールコム社のCEO、ジェイムズは、マイケルの追跡・抹殺を狙って、レイチェルにも監視をつけていた。レンチェるの行き先を知ったオールコムは、カフェにレイチェルに扮した女性スパイを送り込んだ。
 オールコムがマイケルをつけ狙うもっと重要な理由があった。マイケルはシステムを起動させるとやがてシステムエラーが起きるようなバグを仕込んでおいたので、そのバグ除去の鍵をマイケルから聞き出そうというのだ。マイケルは、システムがもたらす恐ろしい未来を回避するために、システムエラーを起こすプログラミングにしたのだ。

 カフェでには、女性スパイのあとからレイチェルが現れて、スパイを殴り倒し、殺し屋による狙撃の直前に逃げ出すことができた。成り行きがわからないまま、2人は殺し屋から逃げることになった。封筒からレイチェルが取りだしたのは、自動車の鍵だった。正しくはバイクの鍵だった。
 逃げ道の街路に並べてあったバイクの鍵だった。
 2人はバイクに乗って逃げ回って、かろうじて危地を脱した。

 マイケルはレイチェルから過去3年間の経緯を聞き出し、とくに1週間前のマイケル自身の動きを聞きだした。そうこうするうちに、混乱していた記憶の断片が再生し相互に結びつき、文脈を形成し始めた。
 それによると、こういう文脈らしい。

 ジェイムズは、合衆国政府の研究所で研究を進めたが挫折していた「重力レンズによって光を加速して、時間的に少し先の光景をディスプレイさせるシステム」をマイケルたちに研究開発させたらしい。そのために、研究開発をめぐる国家機密と知的資産を盗み出して、研究資料としていたようだ。
 結局、マイケルはシステム開発に成功した。だが、システムを稼働させて未来を読み取ってみると、企業や国家がライヴァルに先制・先行してリスクを回避する手立てを取り続けるうちに、核ミサイルの撃ち合いという事態を招いてしまうという未来が見えてきた。
 未来を予測できる能力は、かえって危険な意思決定の連鎖をもたらすらしい。
 だから、マイケルはシステムをエラーに陥らせるようにしておいて、やがてシステム全体を破壊しようと計画した。レイチェルを相棒として。
 ただし、マイケルは国家機密と資産の盗用によって利益を受ける結果を避けるために、報酬=有価証券の受け取りを巨費して、将来の訴追(騙されてのことで利益を受けていない結果をもたらす)に備えておいたのだ。

 このあと、IDカードを利用して、オールコムの研究所に忍び込んでシステムを破壊する冒険に2人は挑戦する。オールコム側は、その動きを察知したが、システム全体を解体するために、一度システムを正常に起動させる必要があることを知っているので、マイケルたちを泳がせて最後に抹殺する狙いとした。
 というわけで、2つの立場の知恵比べと闘いが展開する。
  
 





 





最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。