明日香の細い道を尋ねて

生きて行くと言うことは考える事である。何をして何を食べて何に笑い何を求めるか、全ては考える事から始まるのだ。

読書の勧め(2)金子勝著「平成経済 衰退の本質」

2019-11-07 21:29:31 | ニュース
これ、「安倍政権の失政」を追求する人が読むことを想定している本である。そうでない人には、読むのはちょっと大変だろうなと思う。幸い私は著者と同じ立場と思っているので、痛快・共感の心地よさで一気に読み進んだ(笑)。最後の提言を書いている所までは、経済が低迷している現状に至った「数々の失敗」を取り上げている。紙数の都合からか「何故失敗と言えるのか」というところの説明が多少端折られているようにも思えたが、どっちみち失敗しているのだから「まあいいか」とサラッと読んだ。この辺りは想定済みである。平成の30年間の経済沈下を、実例を挙げながらなおかつ原因を詳細に書いていったら、この新書の頁数ではとてもとても書き尽くせないのだ。勢い、簡略にならざるを得ないのは仕方ないであろう。こんな失敗があった、あんな間違いがあった、と著者は書き連ねているが、そこは「安倍政権断固解体」を主張する私とすれば、「いいんじゃない?」と大満足である。最初から素人目にはやや一方的過ぎる経済理論の記述が続くので、むしろ「専門家が心して読む」学術的な本と言えるかも知れない。そこを「経済ド素人」の私が果敢に挑んでいくというのだから、著者の意図からすれば予想していない読者と言う事で、ちょっと面白い珍解釈があったかも。という訳で、早速かいつまんで私の理解の及ぶ範囲を書いていこう。ちなみに私はこの本を読んで、安倍首相が一層嫌いになりました。

先ずは本の目次に沿って読んでみる。

第一章 資本主義は変質した
(1)バブルを繰り返す時代へ
(2)1997年で経済社会が変わった
(3)失われた30年の深層
これらの章で金子氏は経済の歴史を軽くレクチュアする。平成は「失われた30年」と言われて、バブルが弾けたまま成長の止まった時代である。元はと言えば1971年の金ドル交換停止に始まる「紙幣本位制」が、実体経済とリンクしない紙幣発行量の増加を生み出し、結果として投機マネーの増大による「バブル循環」の時代へと突入した。不動産バブル・ITバブル・住宅バブル・石油バブルなどなどである。バブルが絶頂に達する頃、同時にアメリカなどの圧力で「85年のプラザ合意・86年の日米半導体協定・91年の外国製品輸入2割割当」などが矢継ぎ早に決められた時代でもある。一方、紙幣が自由に発行できるようになると、色々な金融商品なるものが発明され、キャピタルゲインを求める「カジノ資本主義」が出現した。2000年代に入って金融自由化・レバレッジ・ヘッジファンドなどが世間を賑わせ、そしてついに2008年9月のリーマンショックに突入するのである。これに対処するためにFRBは投資銀行やファイナンス会社に銀行持株会社を作らせ、「不良債権」の住宅ローン担保証券を大量に買い込み、「政策金利ゼロ」にして、「大量の国債を買う」という「非伝統的な金融緩和政策」を実行したのである。日欧中央銀行に至っては、「マイナス金利」を導入するという、歴史始まって以来の事態に陥ったのである・・・。とまあ、余りにもあっさりと30年を振り返るので、素人には「そうなんだろうなぁ」という感想しか無い。これが(1)の内容の初めの方に過ぎないから、まだ7頁しか進んでない「序の口」である。この後、中央銀行によるバブル創出・グローバリズムによる情報独占と刺激的な題名が続いて、(2)でその後の経過を辿っていく。著者は図表を交えて分かりやすく説明してゆくが、要するに「日本産業の衰退」を詳しく論述していくのだ。著者の書きっぷりは「快刀乱麻を断つ」ごとき爽快さでどんどん進んでいくが、中身を批判する能力は私には全く無いので「ここでも仰る通り」で読み進む。結局、産業の衰退と共に「中流が没落」し、「格差社会」が生まれて「家族の解体」に至った経緯が書かれているわけだ。そこで満を辞して(3)の「失われた30年の深層」にたどり着く。ここで、やっと期待した「戦後自民党政治の行き詰まり」が滔々と語られるのだ。私としては「待ってました!」とばかりに拍手喝采である。ここから自民党政治の批判が続くわけだが、中身は書き尽くせないので「見出し」を羅列して大凡の流れを紹介したい。

第二章 グローバリズムから極右ポピュリズムへ
(1)グローバリズムと第三の道
(2)移民社会の出現と新しい福祉国家
(3)対テロ戦争とリーマンショック
第三章 転換に失敗する日本
(1)振り子時計と失われた30年
(2)周回遅れの新自由主義
(3)転換の失敗がもたらしたもの
第四章 終わりの始まり
(1)出口のないネズミ講
(2)経済・財政危機の発生経路
(3)産業の衰退が止まらない
(4)社会が壊れてゆく

ざっと、こんな感じである。

中身は非常にコンパクトに凝縮されて書いてあるので、いちいち詳細を語っていたら「日が暮れる」どころか「年が明けてしまう」ので止めておく。何れにしてもアベノミクスが、「結果を出せない、スローガンだけの偽物」であるということ。2%の物価上昇を掲げながら「一つも成果を上げていない」安倍政権と日銀黒田総裁の「欺瞞」は、既に「戦後最大の失敗政治家」の烙印を押されているのである(勿論、知る人ぞ知るの話だが)。彼は「数人のお仲間閣僚とお友達による」官邸主導の政治で国を「立ち直れないほどの衰退」に追いやって今や、先進国からも「落っこちようとしている事態」に日本が成り下がっている事を「世間の人は知らない」らしい。覇気のない「バラバラの野党」を良いことに、「政治を私物化して」やりたい放題。憲法改悪を目指す右翼の本性を隠さなくなった最近では、韓国との貿易停滞に相次ぐ閣僚辞任と、「やる事なす事」が政治家としての無能を露呈しているのにも関わらず「国民がバカだから」、支持率が一向に落ちないという「不思議な末期症状」を示している。著者が最後に「第五章 ポスト平成時代を切り拓くために」と題して、日本を「立て直す処方箋」を書いてくれているが、はっきり言って「もう間に合わない」かも知れない。

とにかくこの本を読み切って思ったことは、政治をやる人間は「正直でなければいけない」という一つの理想である。理想ではあるが、出来ないわけではない。政治の実行力が如何ほどあったにしても、その政治を動かす力を使って「どの方向に進むか」という事とは別問題であろう。安倍政権は「野党の無力化による一党独裁」を実現した。その手法は「日銀を使って国債を買わせる」というインチキ経済の偽バブルである。このままでは何れ日本経済が汚泥の中に埋没し、大量の貧困層が行き場を失って路頭に迷うことは間違いないであろう。その頃私は「あの世に行っている」ことを願っているが、そうでない若い人は「そろそろ本気で将来を考えないと」、後悔先に立たずってことになるよね、正味のところ。で、岩波新書で「本体820円+税」。決して安くはないが、「安倍政権の本当の姿」を知るのには、私は読んで見る価値はあると思う。というか「経済の流れ」を知るだけでも、有用な書と言えるだろう。キーワードは「日本人は為政者の奴隷に甘んじている」である。

と、カッコいいことを書いてしまったが私だって、ゴルフのレッスン書ばかり読んでいるわけじゃないのだ。皆さんも本屋で一度手にとって「軽く立ち読みしてみる」ことをお勧めしたい。勿論、気に入ったら買って頂ければ幸いである。頭の訓練にもなって、「たまには」こういう本も読みたいね。久しぶりに「真面目に国のことを考える」気にさせられた一冊であった。

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