断章、特に経済的なテーマ

暇つぶしに、徒然思うこと。
あと、書き癖をつけようということで。
とりあえず、日銀で公表されている資料を題材に。

国債はインフレ圧力を抑制しているのか

2021-07-04 14:24:29 | MMT & SFC
雨が続いているので、今日もブログを書く。。。
雨関係ないけど。


MMTを論難する主張の一つとして、
「確かに国債は不履行にならない、という意味では破綻しないかもしれないが、
しかしそれをすればハイパーインフレーションに陥る」というやつがある。
「債務不履行」と「ハイパーインフレーション」といった現象も原因も異なるものを
「破綻」という一言で一括りにして「同じこと」とする議論の雑さは
もうこの際、言っても仕方がないのでやめておくが、
まあ、なんだろうねえ。。。。。

で、これに対しては、まあ、よくある反論というのが、
「なにもハイパーインフレになるまで支出なんかしなけりゃいいじゃない」というやつだ。
まあ、これはそれはそれでその通りなんだろうけれど(まあもっとも、
単に支出を増やすだけでは、ハイパーインフレーションが起こるまで
支出しても、必ずしも目標とする完全雇用を達成することはできない、
というのがMMTの論点でもあるわけだけれど、この話も今日はやめとく)、
実はちょっと議論がかみ合っていないところがある。
「国債は償還不履行になることはないけれど、その結果、ハイパーインフレになる」という批判のは、
どちらかというと貨幣数量説をベースにしている、つまり、ストックの話ではないのか。それに対して
「政府はハイパーインフレになるまで支出をしなければいい」というのは、
あくまでフローの話である。政府支出+民間支出+純輸出が供給力を超えるとインフレになる、
ということだから、民間支出+純輸出を所与としたとき、政府支出が大きすぎると
インフレになる。だから政府支出をそこまで増やさなければよい、という話。
ところが、批判する側が問題としているのはそういうことではなく、
国債が償還時期を迎え、政府が「札を刷る」ことで償還してしまうと、
民間の手中の「貨幣」が増える。民間は増えた貨幣を支出に向けるから
インフレになる。つまり政府支出+民間支出+純輸出のうち、増えるのは
民間支出であり、政府支出ではない。ある時突然100兆円の貨幣残高の
増加があれば(なんですべての国債がある日突然全部償還されるのか、
その辺はよくわからないが)、その所有者が消費を増やすだろうから、
ハイパーインフレになる、、、、と、そう言っているようである。
あとまあ、為替レートへの影響に言及する人もいるみたいだけれど、
その話も今日は割愛(割愛ばっかだな)。

言い方を変えると、「インフレになるまで政府支出を増やさなければいい」と
言っている人たちがしているのは、価格を一定としたとき
Dを総需要とし、Sを完全雇用または国内資本完全稼働時の供給能力とすると
D=10000xS
ぐらいなら、ハイパーインフレになるかもしれないけれど、何だって政府は
DがSの1000倍になるような支出をするんかいな?という話だ。まあ、
何も1000でなくたって、2や1.5でも十分かも知れないけれど、それじゃあ
ハイパーインフレというにはちょっと迫力不足だかんね。実際、中には
「政府は2%程度のインフレになるようにD>Sとなる支出を続けるべきだ」
といっている人たちもいるしね。んでSを「自然失業率水準」と
考えればNAIRUになっちゃうわけだけれど、その話はまあいいや(また割愛)。
まあいずれにせよ、D>Sになりゃインフレになる、と言っているわけだ。
それに対して、「国債は償還不能ではないかもしれないが、
札を刷って償還したらハイパーインフレになる」というのは
B(国債)を札を刷って償還し(Mと取り換え)たら
TP=MVに従って、(Vが一定で、Tは、まあ一定とは言わずともその伸びに
限りがある以上)Pが無限に大きくなってしまい、ハイパーインフレになる、
というような話ではないだろうか。(と、ここまでくると
「札を刷って償還すればハイパーインフレーションになる」といっている人に対して
「ハイパーインフレーションになるまで支出しなければいい」と返している人たちは
実は問題の論点をずらしているだけで、実は両者とも同じ地盤に立っているんじゃあるまいか、、、、
という疑問も浮かび上がってくるが、それも今日は割愛するけど、
でも、かつて「リフレ派」だった人が「MMT派(日本版であれ何であれ)」に
鞍替えする際には、「『現に』すでに中央銀子がこれだけ国債を買い取っても
インフレになんかなっていないじゃないか」と、きちんと言えなきゃだめだと思う。。。。)

さて、ここで今更、貨幣数量説批判の話をしてもしょうがない(割愛)し、
「リフレ政策」の話もまあどうでもいい(割愛)。あれはあれでまた、
まあ、なんというのか、だが。。。ティモワーニュなんかは、
んじゃあ、Bが全部Mになったとして、あんたらみんなそれでM(=紙幣)になった
自分の資産を手に持って、百貨店に買い物にでも行くんかい?
というような言い方をしているが、まあ、それはそれとして、

MMTからしてこうした議論がどれほど的を外しているのか、と言えば、
MMT派が「インフレ対策」として「(一般的な)国債発行」を挙げていないことを
指摘すればいいだろう。国債が償還される前はインフレにならずとも
札を刷って償還されたらインフレになる、というのは、
裏を返せば、国債にはインフレ抑制機能がある、ということだ。
政府が公共支出をしすぎ、インフレになったとき、増税などに頼らず
国債を発行すれば、償還までの間、当面はそれで十分だということになる。。。。
ホンマかいな。
MMT派はそうは言っていない。MMT派によれば、国債は単にインターバンク市場で過剰になった
準備預金を排出する機能しかない。中央銀行はその際、任意の水準に市場金利を
設定することはできるとしているけれど、他方で金利操作のインフレに対する影響については
不可知としている。MMTがインフレ抑制のための国債、と言うのは、あくまでも
「戦時公債型国債の発行」だ。現在アメリカや日本で発行されている国債は
インフレ抑制の機能など持っていない、しかしアメリカで第二次戦争中発行された
「愛国国債」にはその機能があった、というわけだ。両者の違いは何か。

簡単に言ってしまえば、
まず、現在の国債は中央銀行の準備預金で取引されている。
これを民間預金通貨による取引にしなければならない。つまり
国債=政府の借金、という考え方からするなら、政府は
民間銀行の発行した貨幣を借り入れなければならない。
そして、現在の国債は最も流動性の高い資産であるけれど、
これを一定期間中、価値は保蔵されるが流動性はほぼゼロ(保有者が
死亡したときに名義を変更できる程度)に制限しなければならない。
要するに、解約できず、担保に入れることもできず、売却も譲渡も、
名義を変更することも出来ないようにしなければならない。そうでなく
ベースマネーを一時的に有利子資産に変えることができるというだけの国債では
インフレを抑制する機能などない、ということだ。追加的な政府支出が
真正インフレを引き起こすような状況下で
政府に追加資源調達の余地を与えるには、単に民間の貯蓄手段を
増やすだけではだめで、そうして増えた貯蓄手段(金融資産)が
実際に支出を抑制できなければ意味がない。MMTの立場からすれば、
金融資産の増加自体は、実物的な貯蓄フローの増加(消費の減少)とは何の関係もない。
金融資産が譲渡可能であり担保になり売却できる限り、一定期間解約ができない場合ですら
金融資産の増加が貯蓄フローの増加と結びつく理由は何もない。現在の国債には
そのような機能は全くないし、それゆえ、国債がある日突然すべて
準備預金と取り換えられたからと言って、それが直接の引き金になって
ハイパーインフレーションが発生するというのも
まったくナンセンスであるわけだ。「すべて払い戻しされたら、
行き場を失った滞留貨幣は、、、」などと言う言い方をする人がいるが
まったく無意味だ。行き場を失った貨幣は行き場を失った貨幣である。
国債になろうと準備預金であろうと変わりはしない。コモディティーへの
投機が進みインフレになる、という人もいるが、いくらでも譲渡可能で
担保にもなる国債によってコモディティーへの投機が実質的に抑制されている、というのは
やや子供じみた考え方であろう。

勿論、こうした政府のあらたな「借金」は、政府の財源とは何の関係もない。
政府は支出するための財源としては、民間銀行の負債である預金通貨を全く必要としていない。
政府がこうした民間預金通貨を回収するための国債を発行するのは、
民間の支出を抑制するためだけであり、政府の支出を助けるためではない。
だからこうした預金は、単に民間銀行の預金口座に留め置かれ、
支出には一切使われることなく、ただ政府が公共目的の支出を減らすことができる目標の日(期日)まで、
そこにとどまり続ける。そして政府にとってこの「期日」が問題になるのは
「お金を返さなければならない日」だからではない。返すことなら今すぐできる(使ってないんだから)。
そうではなく、政府はその日までに、政府に巨額の公共支出を強いている実際の問題を
解決しなければならないのだ。その日までにはそうした公的支出を減らすことができるような状況にまで
実際の問題の方を改善できていなければ(あるいは総供給力が
増えていなければ)、解放された民間預金通貨は再び民間支出へと向かうだろう。
これは「カネを払う」ことなどと比べ、はるかに重要で、しかも場合によっては
難しい課題となるだろう。

あんまりイヤミな言い方はしたくないが、「国債を『札を刷って』償還したら
ハイパーインフレになる」というような言い方は、それ自体、
インフレや国債について何も考えていない証拠ではないか、という気がしてしまう。
MMT派は、自分たちの政策がともかくもインフレを引き起こす可能性があることを
知っており、そしてインフレを回避するための実際的手段として
増税が必ずしも適切でないケースがあることも承知しているので
(例えば、日本では「インフレになったら増税すればいい」という考え方の
アイコンに使われているS.ケルトン氏ですら、著書を読めば、
政府がおこなう公共目的の支出のため、インフレになることが予見される場合
増税によって物価上昇率を引き下げようとするやり方は
あまり適切ではないと指摘している)、それに代わる手段を
模索しているが、そうしたものの一つとして
上記の「戦時公債型国債」の発行が挙げられている。実際にこうした国債に
中産層の消費繰延機能を期待できるかどうかについては異論の余地が
あるとは言えるが(第二次世界大戦中のアメリカの経験では
これには十分な効果があるというが、しかし現在こうした国債が
効果を発揮するには、同時に民間による貨幣の発行を
抑制する法的枠組みも必要になるだろう)、
少なくとも既存の国債がインフレ発生を食い止めているというような
やや子供じみた発想とは無縁であることを示すものだ。
金融資産負債と実物の消費貯蓄とは分かちがたく結びついているが、
しかしそれは、「貨幣は消費、その他の金融資産はみんな貯蓄」というような
簡単なものではないし、現在の負債発行は「現在の所得と将来の所得の
交換」などではない、というのも、そうしたことである。

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1 コメント

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質問です (とんとん)
2021-12-10 21:04:31
太平洋戦争中に日本政府が発行していた戦時国債も、アメリカの戦時公債のように、ベースマネーではなく民間預金通貨で取引されるものだったのでしょうか?
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