断章、特に経済的なテーマ

暇つぶしに、徒然思うこと。
あと、書き癖をつけようということで。
とりあえず、日銀で公表されている資料を題材に。

超高齢化社会の話

2018-09-17 20:32:56 | MMT & SFC
MMTの枠組みで物事を考えることで、
従来、財政の問題と思われていたようなものが
実はもっと別の根本的問題となって現れてくる――
要するに、財政「問題」を「解決」したところで
もともとの問題の解決には全くつながらず
問題が別の形をとって現れてくるに過ぎない――
ことがある。高齢化の問題なども
その一つかもしれない。

MMTにとって、租税や国債発行は
民間で生産された所得を
政府に移転するための手続きではない。
民間が生産した生産物(所得)あるいは
サービス(これから所得になる)は
政府が支出をしてそれらを購入した段階で
民間から政府に移転される(あるいは
「そうでなければ民間で雇用されたはずの
労働力」を政府が雇う)のであって、
徴税や国債発行は
その時に発行されたベースマネーを回収するための
役割しか果たしていない。
(租税では政府の負債が粗で減少するのに対し
国債発行では、ベースマネーという負債が
国債という負債に置き換えられるだけという
違いがある。)
「国債発行によって所得が政府に
移るわけではない(国債の新規発行のために
民間の貯蓄が必要ではない)」というのは
その程度の意味しかない。これに対して
「いや、国債が新規発行されるとき
民間の貯蓄がなければ云々」というのは
単にMMTの枠組みがわかっていないだけであって
それでは批判にも何にもならない。へえ、実物貯蓄がなければ
新規発行国債が消化できない?
銀行が国債を購入するときには、
パンや鉄やコメを政府に差し出しているんですか?
という話である。

当然のことながら、この国債を購入するための貯蓄は
すでに生産されている。
民間で消費される以上の所得が政府部門で作り出されるとき、
政府貯蓄は形成されてしまっている。
「支出が先、貯蓄が後」である。

単純化して考えよう。
民間の支出がP(消費と投資)であり、
政府支出がGである。
政府支出Gは、租税と国債新規発行-償還額の合計額と
一致するとしよう。つまりT+⊿Dgである。但し
めんどくさいからここでは償還額はゼロにしよう。
そうすると、国内の総支出=総生産は
P + G = Y
となる。これにさらに「新規発行の国債が
売りさばけるためには、その分の貯蓄が必要だ」となると、
P + G + ⊿Dg = Y
= P + T + 2⊿Bg
となってしまう。何だこりゃ、というわけ。相手の話を
普段から真面目に聴くように心掛けている人なら、
こんなバカな勘違いをするわけない。何も難しい話ではない。

従って当然のことながら
政府の支出が大きすぎ、⊿Bg分の国内所得を形成できないとなると
当然インフレ圧力がかかるだろう。
こうした場合、Tを増加させることでPを減少させることができれば
インフレは抑制できるかもしれない。この場合、つまり増税は、
将来のインフレを回避するためではなく現在のインフレを
回避するために必要とされるわけだ。

さて、そういうと「それなら結果は主流派経済学と
同じじゃないか、MMTは主流派と同じことを
めんどくさい言い方をしているだけにすぎない」と言い出す人も
いるかもしれない。

なに、結果?お前たちはこんな感動的な話を聞いた後でも
まだ結果を気にするのか?いいだろう、教えてやろう。
あの色男はご自慢の金髪を真っ赤に染めて
包帯でぐるぐる巻きになってタクシーで
病院に駆け付けたとよ。これが俺様の言う結果だ

というのは、ブッチャー(のゴーストライター)著の
『プロレスを10倍(20倍だったかもしれない)楽しく見る本』の
一節だが(ちなみに色男とはH.ホーガン)、まあなんだっていい。
MMTによるなら
国債残高の増加が起こるのは政府支出の「前」ではなく
「後」である。つまり先に必要な貯蓄は形成されるわけで、
それによって金利が目標水準を超えて
「低下」することを避けるために、国債が発行される。
まあ、これが順序の問題で同じ結果に見えるかどうかは
人それぞれだろう。
まあ、それはそれとして。。。

そして国債の償還に関しても
銀行が保有している国債に関する限り、
それは単に銀行保有の国債がベースマネーに置き換えられるだけに
すぎない。ここで新たな所得が必要なわけでも
貯蓄が増えるわけでもない。
再びインターバンク市場の金利が目標水準を下回れば
政府なり中央銀行なりが有利子負債を発行し
それで過剰なベースマネーを回収するだろう。
銀行は不要なベースマネーで国債を購入するだろう。
50年代のアメリカであったように、
政府が黒字でありながら国債を発行する、ということも
ないとは言えない。

しかし、償還されるすべての国債が
こうして銀行保有のベースマネーになるわけではない。
日本に関して言えば家計の保有する国債残高は
微々たるものであるが、しかし
生命保険は大きな規模の国債を保有している。
その大きな部分は(粗で言えば)将来、
確実に家計の支出につながるものに間違いない。
しかしながらこれも、
償還が支出に結び付くのとほぼ同額の生命保険の
積立が行われている限り、大したインフレ圧力にはならない。
(こうした意味では年金制度の「賦課方式」と「積立方式」の間には
経済的には見た目ほどの違いはない。集金方法がどうあろうと、
実物的には「積立方式」の年金などありえないのであって、
高齢者が支出をするときには、現役世代が生み出す財・サービスを
消費するしかない。それが現役世代によって消費可能な財・サービスを
減らすことになるのか、あるいは現役世代の雇用と所得を増やすことになるのかは
また別問題である。)
粗でどれほど巨額の国債償還――まあ、国債じゃなくたって
民間の負債だって同じだけれど――が生命保険の年金払いしを通じて
高齢者の消費支出を形成しようと
現役世代がそれに相当する貯蓄を行う(生命保険を
掛けることも含めて)のであれば、純額では
消費支出に大きな変化はない。となると
問題は、生命保険会社の債権(国債に
限らない)が多いか少ないかではなくて、
一方で償還される額がほぼすべて消費支出されるにもかかわらず、
現役世代による積み立てがそれよりはるかに少ない、という
ことが生じる事情であろう。通常の成長モデルであれば
そのようなことを想定する合理的理由があるようには
思えない。あるとすれば急激な高齢化が進んで
現役世代の人口成長率に比べ
退職世代の人口成長率が著しく大きい場合であろう。
したがって問題は生命保険会社が保有している国債(その他債権)の残高の
多い少ないではなく、人口構成なのである。そのことが理解できていないと、
「国債償還によってインフレが発生したらどうする」という
話になるが、
もし人口構成が極端に高齢者に偏ってしまい
高齢者の生活を支えるだけの貯蓄(余剰労働力)を
現役世代が生み出すことができず、
それゆえインフレーションになるとすれば、
これは財政「問題」を「解決」することで、
つまり、国債残高を減らすことによっては
解決することはできない。インフレーションは発生しないかもしれないが
それは高齢者の生活破綻によって賄われるにすぎない。
これを「MMTは高齢化社会によって
インフレが発生する可能性を無視している」というのは
これまた単に論難(というほどのものでもないが)している側の無知を
さらけ出しているだけ、ということになってしまう。

中には、「いや、インフレーションと高齢者の生活破綻の間には
大きな幅があるのであって、
国債残高を減らすことで高齢者の生活は多少は
悪くなっても破綻にまでは至らず、
同時にインフレーションも引き落とさない点があり、
政府が介入せず民間に任せれば
自動的にその点に向かって経済が進むのだ」という人も
いるかもしれない(本人が自覚するとしないとにかかわらず
そう考えている人は多そうだ)。

一部の(ごく一部と信じているが)エコノミストといわれる
人たちの主張はいささか常軌を逸している。
例えば生命保険会社の保有する資産(あるいは現役世代が
退職後に備えて保有している金融資産)が国債でなく
民間企業の発行する金融債であればインフレになることはない、
というのである。
政府が国債を発行して無駄な赤字を出すことをしなければ
民間がその資源を活用して
まさに将来の高齢化社会に備えて
必要な消費財を生み出せる投資を行うことで
インフレは発生しない、というわけだ。
高齢者の生活は、今想定されているより悪くなるかもしれないが
それは現在想定されている資源配分が
政府によってゆがめられた非効率的な支出の結果、
本来あるべき水準より高い消費生活が実現しているのであって、
結果的に国民の生活水準を全体として落とすものなのだ、云々。。。
政府が支出しなければ、民間はそれだけの投資ができるであろう。
政府が雇用を減らし(そしてできれば最低賃金法を取り除いて
賃金がいくらでも下がれば)、雇用は増え、所得が増え
それによって一方で老後の生活を支えるだけの貯蓄ストックが
形成され、投資によってそれにちょうどマッチする消費税が
いつとも知らぬ将来に形成されるであろう。

Wray & Tymoigne の'The rise and fall of Money Manager Capitalism'
では年金ファンドの問題について一節が割かれている。
年金ファンドは最も大きなファンドグループの一つである。
その存在は、そのわずか5%程度が特定の資産グループ(例えば
あるコモディティ)に投資されれば、それで実物商品の価格が
大幅に左右されてしまう、という。その一方で、
それだけの大きな資金を吸収し、期待されている年金配当を実現し
かつファンドマネージャーたちに大きな報酬を支払うことができるだけの
実物生産部門は存在しない。投資が行われる直前まで相関関係がなかった
複数のコモディティの間でも、年金ファンドによる投資が行われると同時に
相関関係が生じる。年金ファンドほど巨額でなくても
例えばハント・ブラザーズ(わからん人は
”ピザ”じゃなくて”銀ショック”で検索してくれ)が銀価格の急落が生じた時
その穴埋めのため牛を売却したことで銀投資の間に相関関係が
生じた。コモディティ市場の規模に比べファンドが動かせる資金ははるかに
巨額になるため、ほんのわずかを特定の市場に移せばそれによって
その商品価格が上昇し、それが他の資金を惹きつけ
ますますその価格が上昇する。2004年にはインデックス投資の85%が年金ファンドに
よるものであり、その原油への投資額はそれに続く5年間の中国の
原油実需の伸びに等しかった。また
下院がバイオ燃料の利用を義務付ける法案を通した結果、
多額の年金(だけではないが)資金が穀物市場に流入し
これがいくつかの穀物生産国を大いに潤わせた一方で
世界的な食糧不足にも拍車をかけた。そして2008年の金融ショックで
こうして潤わされた国々が次には窮地に立たされることとなった。


…実際の問題は、ファンド資金(manageged money)が、全体としてみると、
ただただあまりにも巨額過ぎて、一国の生産物および所得を生み出す能力によっては、
金融危機直後に存在していた金融資産および負債にですら根拠を与えることが
出来ないことである。つまり生産(所得)活動への融資では
報酬を得ることは出来ない。むしろこうした報酬は、ただ「金融化」あるいは
存在する生産・所得活動をレイヤー化しレバレッジをかけ、
同時に価格変化の向きを対象に博打を打つことによってのみ
生み出すことができる。(P213)


現実には、むしろ確定拠出型年金制度によって
蓄積された年金資金は、すでに現時点で多くの国にあるいはインフレ、
あるいは飢餓を引き起こし、そしてその結果、
ファンドマネージャーの報酬を別にすれば、
年金を拠出している労務者たちの将来の生計を保証するものなどではない。
コモディティの価格が上昇し続けるのは
そこに資金が流入し続ける限りのことであって
サブプライムローン危機のように原資産の瑕疵が明らかになることがあれば
たちまちに何十分の一・何百分の一に収縮する。

年金ファンドは平均より少しでもいい返戻を求めて
右往左往するが、しかし、もちろんすべての年金ファンドが
平均を上回るということはあり得ないし、
そしてその平均が国債の金利を大きく上回ることも
考えにくい。それであれば、直接、国債へ投資できるようにした方がいい、
というのがWray & Tymoigne の見解である――ただし、
彼らは急いで付け加える。そもそもそのような老後のための貯蓄を行うことは
(現時点におけるアメリカの)現役世代にとって必要なのだろうか。

退職後の生活のための貯蓄は、それが
自発的なものであろうと強制的なものであろうと、
現在の所得から購買力を控除することに変わりはない。
これはデフレギャップを広げる効果を持つであろう。
現在のアメリカの(日本でなくてごめんよ)労働者階級の
年金問題の中心がどこにあるか、といえば
労働者の平均所得が低すぎることなのである。

そして、労働者の退職後の生活の実物面での問題は
結局のところ、「依存率dependancy ratio」による。つまり
高齢者が享受する消費財・サービスと、
実際に生み出すことが可能な消費財・サービスの比率である。
この問題を解決するためには
分子を小さくすることよりは分母を大きくすることを
考えることの方が重要だろう。
分母は結局のところ、生産技術や教育政策、移民政策その他の
方法で維持拡大することが必要となってくる。

さて、最後の実物的な解決に向けての政策については
異論もいろいろあることだろう。
ここでは詳細に立ち入ることを避ける。言いたいことはこうだ。

MMTは、国債がいくら増えても、
世の中に何一つ問題が生じない、などと言ってはいない。
少なくとも、人口比率のアンバランスが原因で生じる問題については
国債の残高が多かろうと少なかろうと
解決にはならない。一部には何か
まるで政府の赤字支出が少なければ、
超高齢化社会の問題がなくなる、と考えていたり
超高齢化問題の本質は国債の償還問題だ、
などと考えている向きもいるようだが、
MMTの立場からすれば、国債や貨幣をいくらいじくったところで
将来の超高齢化社会に対する回答が出せるわけではない。
ただ政府の財政破たんを恐れ、
年金ファンドの博打に委ねる方がましであり、
そうすることによってインフレが回避できる、と
考えている人たちに対しては
それはむしろ金融不安定化を推し進めるものであり、
決して解決にはならない、と言うことを主張しているとは言えるだろう。

ひとつ確かなことを言うと、
年金の実物側面の問題については
貨幣を「貯金箱」に入れておくとか、財政黒字に努めることによっては
何一つ解決されない

というわけだ。


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