この子が生まれた日に

この子が生まれた日に



「会えてよかったね。
こうして一緒にいられて本当にうれしいね」

私の生きてきた日々の一番深いところから
あなたに会えてよかったという思いが
湧きあがる瞬間がある

あなたがここに生きていてくれることの嬉しさが
私が生きている喜びに重なる瞬間があり
あなたがこの地上、この時代、この星に
なにより私に巡り合うために連ねてきた命の流れに
感謝して目を閉じる瞬間がある

神様なんか信じたことのない私が
あなたに出会えたことだけは誰かに感謝してる
この星にはじめてのいのちが生まれてから
どれくらいの時間が過ぎたのかなんて知らないけれど
あなたが私のもとにたどり着くために必要だった
果てしない時間
あなたに繋がるすべての命を愛しく思う

あなたが私の子どもでいてくれること
私の子どもであるあなたに出会えたこと
ここに　こうしていっしょにいられること
あなたがこの世で初めて出会う日々を
あなたのまなざしを通していっしょに感じられること
そんな奇跡が、私の身に起きるなんて

たとえ、あなたが歩けなくても、何もしゃべらなくても
私はあなたに、ありのままのあなたに感謝しつづける
あなたがそこにいるだけで、
こんなにも生きている喜びを体中に感じる
自分とは違う、もう一つの命を、ともに生きることが
こんなふうに喜びをもたらすものだと、
あなたが教えてくれた


「こんな子は預かれません」と
いくつ幼稚園を断わられただろう
「人手が足りないから」と
なんど保育園を追い返されただろう
病院でも、公園でも、
私に刺さる視線には慣れたつもりでいた
足早に遠ざかる気配にも、
気づかないふりがうまくなった

だけど、子どもの笑顔に生きがいを感じるという人たちに
我が子を拒まれるのはつらい

私の子どもに生まれてきたことを
この子に謝らなければと思ってしまう夜
子どもの寝顔を見ながら、いつも思った
どうして、ただみんなと一緒にいられないのか

ひとり、遊び疲れ、眠っている子どもの顔を見ながら、
どうして　　どうして　　どうして　　どうして‥‥と
繰り返した日々

誰を恨む気持ちもなかったけれど
繰り返すつぶやきは止まず
そして、つらい、つらいと唇をかみながらこぼれる涙が
いつしか、この子に会えたことの喜びの涙に変わるまで
いくつ夜を過ごしただろう


あなたがここにいるのがうれしい
あなたが眠っているのがうれしい
あなたが目を覚ましてくれるのがうれしい
眠そうな目をこすりながら
目が合うと、思い切り笑ってくれるのがうれしい

この子が学校に行くようになっても
この子は毎日何をしているのか、
何をしてきたのか、
何も話してはくれない

でも、洗濯をしながら、ズボンやシャツの汚れを見ると
何をして遊んできたのだろうと、
自分の子どものころが目に浮かぶ
真っ黒な靴下は、
上履きを履かずに学校を歩き回った証拠‥
ズボンの汚れは、
滑り台を繰り返した跡‥
シャツの裾が湿っているのは
水道で遊んでいたから‥
そんなふうに、私は探偵のような楽しみを見つける

この子がいきいきと暮らしていることを
この子のことばで聞けなくても
はずむ声、初めての世界をみる目、
うれしそうな笑顔を感じることができる

そう、あなたが字を書くようになるから
あなたの誕生を泣きながら喜んだのではなかった
ミルクをのむのが下手で、夜泣きする日々に迷いながら
でも、あなたのぬくもりが何より幸せだったのは
あなたが将来１００点をとるからではなかった

そんな当たり前のことを忘れていたのはどうしてだったのか
小学校に入るのに何をあんなに迷っていたのか
いま、あなたの笑顔を見ていると
あのころ、悩んでいた自分がおかしくなる
いまなら、あのころの私にやさしく声をかけてあげられる
そんなに心配しなくてもだいじょうぶ
うまくしゃべれなくたって
字が書けなくたって
この子はそのときどきの、
その季節ごとの子どものときを楽しんでいる
だいじょうぶ、心配しなくていいよ
そう言いながら、笑いかけてあげられる


あなたに出会えた日、
私はあなたに出会えたそのことに
そのことだけに喜びを感じた
だから、そのことを私は忘れない

あなたに出会えてよかったと
こんなふうに素直に喜べる自分になれたことに
一番驚いているのは私かもしれないね