ワニなつノート

ドイツの「子供計画」と、現代の「出生前診断」はどこが違うか



ドイツの「子供計画」と、
現代の「出生前診断」はどこが違うか


       ◇


《T4計画と子供計画》

ヒトラーは1939年に安楽死の問題に関心を寄せた。
ナチス党員からの陳情を受けたのである。
父親が障害をもつ娘の殺人を求めていた。

ヒトラーは自ら、自分の侍医であるブラントに調査させた。
「子供は盲人として生まれ、白痴であり片足と片腕がない」と報告。

ヒトラーは家庭医に安楽死を施すべく伝えるようブラントに命じた。
ヒトラーは両親が罪の意識を持たないよう望んだ。

この「安楽死」の初めてのケースで、パターンが形成された。
その子どもが実際に知的障害なのかどうか、関係者の誰も知らない。
あやふやな観察に頼るだけでは、幼い盲目の子どもが知的障害なのか判断するのは無理である。
子供が何を希望しているのか、教育や補装具の利用で、どういった生活スタイルや生産性を持てる可能性があるのか、誰も尋ねたり、考えたりしなかった。

この事例が医学関係者間で知られるにしたがって、同様の依頼が他の家族から舞い込むようになった。

ヒトラーは、家族が犠牲者の死の責任を追及されることがない形で計画を進めるよう強く主張した。
ヒトラーは「親」の気持ちを考え、「親」の見方をした。
なぜなら、責任から解放されるという条件があれば、この計画を支持する者が多かったから。


ヒトラーの「発明」「発案」ではない。

ヒトラーが首相になる10年以上前。
1920年の世論調査(重度の障害児の親もしくは保護者200名)で、回答者162名中119名が、「医者に障害者の声明を絶つ許可が与えられるべきであるという提案に賛成していた。

1920年には「無価値の生命を抹殺する許可」という本が、ドイツで著名な二人の教授(医師と弁護士)によって出版されている。

こうして20年代の終わりまでに、障害を持つことは恥であるとの認識がドイツでは広まっていて、障害者の生は生きるに値しないとみなされていた。


そして、「子供計画」はドイツの小児科医に奇形や知的障害の新生児を殺すのを許可した。

「……子供が家族に引き起こす厄介さや他の理由から、(安楽死が)望ましい子供については成長を止めるのが求められた。目的は奇形児を手に入れ、生後可能な限りすぐに片づけることだった。」(ブラント)

「親はたいてい問題ではなかった。」

「親はたいてい問題ではなかった。」



              ◇


《灰色のバス》

1943年4月15日、ハダマーは子供の殺人施設として機能し始めた。
幼児だけではない。子供、ティーンエイジャーも殺された。身体障害者、知的障害者だけではない。孤児院や青少年療養施設の入所者が判定の対象となり、トラブルメーカーとみなされた多くの健康な子供が死を迎えた。混血児、にきびだらけの少年、職員を困らせた子供も同様である。

ハダマーから州内すべての青少年療養施設に送られた手紙。
そこには、新しい治療法の恩恵をうけるためにハダマーへ移送されるべき子供の基準が示されていた。
若い患者たちが健康的な活動と「十分で優れた教育」に加え、「彼らの福利にとって適切な治療」が得られるともあった。

患者は「公共患者輸送会社」の大きな灰色のバスによって病院に移送された。
…まもなくバスは有名になった。バスの乗客の目的地がどこなのか知られるのに時間はかからなかった。
灰色のバスが通り過ぎると、子供たちは「人殺しの箱」とはやし立てた。

患者は精神病院から集められた。
知的障害、結核、うつ病、小人症、マヒ、てんかん、時には非行、性的倒錯、反社会的行動も含まれた。

「……ハダマーの市民は煙突から煙が上がるのを見つめ、気の毒な犠牲者のことが頭から離れなくなっている。風向きによって吐き気を催す臭いが鼻に来るときは特にそうである。
子供たちが口喧嘩をすると「頭がおかしいんじゃないか。ハダマーの火葬場行きだぞ」と言っているのが現実である。」


……これはナチス計画ではなかった。
この計画の生みの親は医者であり、実行者も医者だった。

ヒトラーは諸手をあげて同意した。
ヒトラーは繰り返す。

新帝国は障害者にとってなまやさしいものではない。
しかし、彼らの犠牲は社会全体の利益となる。

人類を計り知れない不幸から解放することになる。

ドイツに毎年百万人の子供が生まれ、70万から80万の最弱者を取り除けば、結果として(国)力は増大するだろう」


(※ 上記引用と要約は、『ナチスドイツと障害者「安楽死」計画』《現代書館》から)




          ◇


ヒトラーは墓の下で喜んでいるだろうと思います。
T4計画や子ども計画を進めた医師たちが今生きていたら、いまの出生前診断をめぐる状況を喜ぶだろうなと思います。
自分たちの理想はやはり正しかった。
それを歴史が証明してくれている。
障害のある子どもが生まれてくることを人類は望まない。
障害のある子どもが、ふつうの子どもたちの《団欒(まどい)の中に入ること》を、人類は拒絶する。
やっぱり、ヒトラーは喜んでいると思う。
自分が手を下さなくても、自分の計画は思い通りに進んでいる。
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「ワニなつ」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事