ワニなつノート

普通高校に絶対に入れない子を作り出すための計画(その5)


普通高校に絶対に入れない子を作り出すための計画(その5)


『事故から21年目の2006年4月24日、
提言書を受け、羽田の旧整備地区に、
日航の安全啓発センターができた。

そこには御巣鷹山墜落事故の残骸機体の一部や、
潰れた座席が残されている。

…残存機体の保存と公開を
長期にわたって拒否し続けていた日航が、
短期間のうちに、保存と公開に踏み切ったのだ。

遺族たちの思いが、ようやく叶った。』

『御巣鷹山と生きる』(164)



    □     □     □


520人の人の命が亡くなった事故機の一部、
潰れた座席を、「保存」し「公開」すること。
それは、「忘れないため」でした。
忘れたら、また悲惨な思いをする人がうまれる。
再発防止のためには、忘れないことが
もっとも大事なことの一つです。


『2004年3月、東京の六本木ヒルズの
回転ドアに男の子が挟まれ、亡くなるという
痛ましい事故があった。
「事故の現物がなくなると、事故そのものを忘れてしまう。
事故を起こした回転ドアとダミー人形を動態保存したことが、
事故を生かし、命を生かしている。
また多分野の人が再発防止のための情報を
共有することにも寄与している」と。
そして「記憶は消えていくので、
次世代に伝えていくためには残存機体の保存が
事故の抑止力になる」という。 



この国で、「普通高校に絶対に入れない子を
作り出すための計画」を遂行し続けることができるのは、
毎年、その子どもたちが「忘れられて」きたからでした。

高校は義務教育じゃないから、選抜試験は当たり前。
勉強ができないんだから仕方ない。

そこで「思考停止」し、その先のことを、
ほとんどの人が考えずにきました。

私たちは、20年以上にわたって、
「定員内不合格」の数字および、
定員内不合格を出した理由・根拠と、
その妥当性について、調査公表するよう求めてきました。
しかし、いまだに、県教育委員会は
「定員内不合格」の数字すら調べようとはしません。

「高校」から排除されていた子どもたちとは、
どういった子どもたちか。
毎年、毎年、排除され、忘れられ、
いないことにされてきた子どもたちは
どういった苦労を抱えた子どもたちだったか。

生活保護家庭の子どもや、養護施設の子どもの
「高校進学率」の数字を、ほとんどの人が知りません。
普通学級に通い、普通高校に行きたいと願う
障害児たちがいることを、ほとんどの人が知りません。

「定員内不合格」にされる子ども一人ひとりが、
どういう子どもで、どういう理由で、
定員が空いているのに不合格にされるのか。
誰も知りません。

校長1人が、その圧倒的な権限を行使しながら、
誰からもその理由を聞かれることはありません。
教育委員会も、文部科学省も、
その正確な数字すら調べようとはしません。


そうした状況の下で、「絶対に高校生になれない子ども」を
作り出すために、「進学率を計画する」ということは、
家庭環境や障害等の不利な条件にある子どもたちに、
「選抜」の犠牲という役割を押しつけているだけの制度です。

    □     □     □

「棄民」という言葉があります。
多田富雄さんの「落葉隻語」にこう書かれています。

         

《「棄民」は、誰もが気付くように始められるものではない。
気付かぬうちに、弱いものから捨てられてゆく。
気付いたときはもう遅い。
だから、どんなに微かな棄民の動きでも
敏感に察知して食い止めなければならない。


その初期の徴候と思われる事が最近頻発している。
リハビリの日数制限はその好例である。

私は脳梗塞の後遺症で、右半身の完全な麻痺と
言語障害となり、車椅子生活を余儀なくされている。
私のような重い障害を負った患者は、
残っている機能を維持するため、リハビリを欠かすことはできない。
中止すれば、寝たきりになる。
リハビリがそれを防ぐのだ。

そのリハビリが一昨年から日数で制限されてしまった。

……治療を拒否された患者は、「リハビリ難民」と呼ばれた。
しかし度重なる請願に関わらず、救いの手は差し伸べられなかった。

「難民」は一転して「棄民」になってしまった。
現代の「姨捨(おばすて)」に他ならない。


まず力の弱い、回復の見込めない障害者、
老人、患者が捨てられた。
治らない患者を治療するのは無駄だから、
死ねという乱暴なやり方だ。
「姨捨」とどこが違うのだろう。


国が崩壊すると難民が出る。
同じく国の行政が破綻すると、同じく難民が出る。》


    □     □     □


高校進学率が98~99%のこの国で、
授業料が無償化されたこの国で、
高校生の数が20年で、200万人も減り続けているこの国で、
1000人に1人の子どもに
「高校で学ぶ機会」を与えない「制度」があるのは、
あまりに不思議なことです。

普通高校に絶対に入れない子を作り出すための計画を、
遂行し続ける行政。

教育行政が破綻しているために、
15歳の難民がうまれるのです。
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