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ALSの国会議員、舩後靖彦さんに聞く 定員内不合格問題



ALSの国会議員、舩後靖彦さんに聞く 定員内不合格問題


2022年1月20日教育新聞


           
 障害のある受験生が、定員割れを起こしている高校を受験したのに、入学が認められない「定員内不合格」。2年前、この問題を参院文教科学委員会で取り上げたれいわ新選組の舩後靖彦議員は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)により、車いすで移動したり、文字盤を通して意思表示をし、スタッフが代読する形で質問をしたりしている。定員内不合格をテーマにした「共に学ぶ」の取材にあたり、舩後議員に取材を申し込んだところ、事前に送った質問への文書による回答と、それを踏まえたインタビューを行うこととなった。それらを再構成し、定員内不合格の問題に取り組む舩後議員の思いを探る。



【定員内不合格は少しずつ減っているが、世の中の考え方は変わっていない】


――国会で「定員内不合格」の問題を取り上げてから、2年が経過しました。この間の変化をどのように感じていますか。


 一言で総括するのは難しい質問です。2019年11月26日の文教科学委員会で、沖縄で初めて知的障害のある仲村伊織さんが高校を目指し、定員内不合格にされたことを質問しました。この生徒さんは2年目の受験の際、沖縄県教育庁から「知的障害のある生徒には高校での学びを保障できない」と言われ、受験する前から門前払いの扱いだったことに対して、地元紙が問題提起を続け、応援してくれました。沖縄では、障害のある生徒だけでなく、貧困や虐待などにより、学ぶ環境が保障されなかった生徒が、毎年100人以上、ピーク時には155人も、点数不足や内申点という線引きで、定員内不合格にされてきた実態があります。定員が1000人以上も余っていたのにもかかわらずです。

 それが、20年の高校受験では、沖縄県の定員内不合格者は過去最少の53人と、前年から半減しました。また、北海道、愛知県でも、障害のある生徒の受験を巡り、定員内不合格を出さないよう、大きな運動がありました。教育委員会が積極的に定員内不合格を出さないように各高校に指導することで、定員内不合格者の数は減らせるという結果を残せたと考えています。

 このように、各地で高校進学を目指す取り組みがあり、障害当事者の国会議員である私がそれを文教科学委員会の質問で取り上げたり、各地の交渉に関わったりすることで、教育委員会に多少のプレッシャーを与えられたのではないかとは思えます。

 ただ、これは障害児の高校進学に取り組む一部の動きと教育行政との間に起きた小さな変化でしかなく、世の中全体の高校受験に対する考え方、つまり、障害の有無にかかわらず、その高校に見合う学力を持った受験生が、受験を勝ち抜いて入学するところであり、見合う学力のない受験生は、定員内であっても不合格は仕方ないという考え方は変わっていないと感じています。


【高校入試の合理的配慮のガイドラインが必要】


――定員内不合格を巡っては、都道府県によって対応が異なっています。


 文科省も明確に「障害を理由として入学が拒否されることは絶対にあってはならない」と回答しています。しかし、知的障害ゆえに点数が取れない場合、あるいは中学校の内申点が悪い場合、高校に入っても勉強についていけないのだから、学校長が総合的判断で合否を決めることは障害差別ではないとしています。

 つまり、受験時に目の見えない人に活字のテスト用紙を渡して点字受験をさせないことや、耳の聞こえない人に英語のリスニング試験をすること、さらには、手が使えなくて字が書けない受験生に、代筆やパソコン使用を認めないこと、あるいは、私が委員会で質問した熊本県の受験生の例のように、受験の公平性を担保するためとして、本人にとって慣れていない教育委員会の職員が意思疎通支援者として入ることは、合理的配慮の提供とは言えず、差別です。

 本人や保護者の申し入れに沿って合理的配慮をきちんとすることで、受験生が不利なく安心して障害のない受験生と同じスタートラインに立って受験に臨めるようにすることは、最低限の条件です。

 高校入試における受験時の配慮は、都道府県ごとにばらばらです。大学入試センターが、大学入学共通テストの受験上の配慮案内を示しているように、国として高校受験についてもガイドラインを定める必要があるのではないかと委員会で質問をし、作成するという答弁をいただけました。

 しかし、どんなに合理的配慮を尽くしても学力検査で一定以上の点数が取れなければ、あるいは面接でコミュニケーションが取れなければ、定員内であっても不合格は仕方ないというのが受験の常識となっています。

 高校は義務教育ではなく、単位が取れなければ留年も退学もあるのだから、その高校の教育課程を履修できるだけの学力がなければ、そもそも入れるべきではないという「適格者主義」の考え方を変えていかなければ、定員内不合格はなくならないと考えます。


 日本ではほぼ全員が行く高校に、席は空いているのに入れてもらえないということは、15歳にして地域社会での居場所を失い、同世代とのつながりをそこで断たれるということであり、その不利益を考えると、国や教育委員会による強い指導が必要ではないでしょうか。

 また、定員内不合格を出す府県と出さない都道府県の地域格差があることは、受験生にとって大きな不利益です。私も文教科学委員会で、定員内不合格者の実態調査を国として行うことを求めましたが、定員内不合格の人数が都道府県ごとの多寡のみで単純に比較されてしまうことや、校長の公正な合否判断に少なからず影響を与えてしまう可能性があるなどの理由により、調査は控えるという回答でした。


【多様化しているのに「適格者主義」から抜け出せない高校現場】


――高校現場の意識についてはどう思いますか。


 学力格差が拡大する中、高校に進学する生徒の実態として、その能力、適性、興味・関心、進路希望などは多様化しています。入学段階の実態も卒業後の進路も、抱える課題もさまざまであることは、文科省も認めています。そして、少子化の影響などもあり、多くの公立高校で定員割れが生じています。

 かつての文部省は、1963年の初等中等教育局長通知で高校入試について「高等学校教育を受けるに足る資質と能力を判定して行うものとする」としていました。いわゆる「適格者主義」です。しかし、これは高校進学率が67%、中学卒業者が「金の卵」と呼ばれていた時代の通知です。 

 その後、84年の初等中等教育局長通知では、「一律に高等学校教育を受けるに足る能力・適性を有することを前提とする考え方を採らない」と変わりました。さらに進学率が94%に達した99年の中教審答申では「生徒の多様な能力、適性等を多面的に評価するとともに、いっそう各学校の特色を生かした選抜を行い得るよう、調査書及び学力検査の成績のいずれをも用いず、他の方法によって選抜を行うことを可能にする制度改正を行い」となっています。

 こうした時代の変化を捉えるならば、学力検査の点数や内申点、面接時の高校側の受容力を踏まえないで一方的に判断されてしまう意思疎通能力などだけで、高校の教育課程を履修できないとし、定員が空いているのに高校生になることを拒否されるのは、私には不合理に思えます。


            □

《舩後議員は「定員内不合格」の背景に「適格者主義」があると指摘する》

 例えば、仲村さんは文字を書いたり、話したり、計算したりすることはできません。そのため、高校受験の面接ではタブレットを使って写真で自己紹介し、この高校に行きたいと意思表示しましたが、願いがかなわずに2年間の浪人を経験しました。しかし、彼は多くの同級生や地域の人と豊かな関係をつくり、独自の表現方法で意思を伝え、それを周囲が受け入れてきました。

 私は、高校入学後に仲村さんが運動会のリレーに出ている動画を見たことがあるのですが、彼がリレーのバトンをトップで受けて、アンカーを走る。しかし、彼は走りたがらないので、バトンを渡した走者が一緒に歩く。それを後ろから来た別のチームのアンカーが追い抜いた。けれども、すぐに戻ってきて一緒に歩く。さらに3番目のチームのアンカーが追い付き、その子も一緒に歩く。最後は、ゴール前で3人が仲村さんを空中飛行するように担いで、4人で同時にゴールしました。

 このエピソードは、競争社会にあって、仲村さんが人と人をつなぐ力のある人であることを如実に表しています。その人間力を評価できないのは高校の側の問題ではないでしょうか。


          □


【定員内不合格の解消は今すぐできること】


――「定員内不合格」について、どのように考えてもらいたいですか。


 高校受験では、障害のない生徒が偏差値や校風・通学の便などを考慮して受験校を絞り込むように、車いすユーザーにとっては、高校がバリアフリーであるかどうかは大きな要素となります。ですから、現状では物理的環境を考慮して受験先を選ばざるを得ません。バリアフリー法の改正で通常の小中学校も新設時・大規模改修時にバリアフリー化は義務となり、さらに踏み込んで、5年以内に対象の児童生徒がいる小中学校はエレベーターを100%設置する努力目標が課されました。しかし、高校はこの対象には入っていません。ぜひとも高校も学校バリアフリー化の対象にして、選択肢を広げることが必要だと思います。

 一番大きな障壁は、現場の教職員が高校生としてあるべき姿にとらわれ、最も教育を必要とする落ちこぼれてきた生徒、点数の取れない生徒、コミュニケーションの取りづらい生徒などを、「高校に入る資格がない」として定員が空いているのに受け入れを拒もうとする、意識の壁だと思います。そのことは、地域の学校で共に学びたいという重い障害のある子、医療的ケアの必要な子に対して「あなたにふさわしいのは、特別で丁寧な指導と設備が整った特別支援学校だから、そちらにどうぞ」と体よく地域の学校から排除する意識ともつながっていると思います。
 もちろん、現場の教員の負担感を減らすために正規の教員を増やしたり、教員が本来やるべき仕事以外の、何重もの報告業務や事務作業を減らしたりするなどの働き方改革は必要です。

 その上で、障害のある生徒の評価の在り方、進級の基準などの内規を弾力的に運用することは可能だと思います。こうした検討をすることなく、高校での単位が履修できない、能力、適性がないとして不合格とするのは、障害に応じた合理的配慮の不提供に当たると言えます。

 定員内不合格の解消は今すぐできることです。公立高校の募集定員というのは、設置者が市民に向けて、何人受け入れるという公約であると捉えるならば、せめて定員内は全員合格とするのが、公立高校の責務です。





【プロフィール】

舩後靖彦(ふなご・やすひこ) 1957年、岐阜県生まれ。

42歳のころに筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断され、人工呼吸器や胃ろうを装着して生活するようになる。その後、訪問看護を行っていた看護師の佐塚みさ子さんと知り合い、佐塚さんが社長を務める介護関連事業の企業の副社長に就任。2019年の参院選で、れいわ新選組から立候補し、初当選する。参院では文教科学委員会に所属し、教育問題について質問に立つほか、詩歌や童話などの創作活動、講演活動も積極的に行う。
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