ワニなつノート

今年の要望書



                         2019年6月27日

千葉県教育委員会教育長  
    
   澤川和宏様



            千葉「障害児・者」の高校進学を実現させる会


進学を希望するすべての中学校卒業生に無償で学ぶ場を保障することを求める要望書



 貴職におかれましては、日頃より千葉県のすべての子どもの人権と教育の保障に尽力いただいておりますことに敬意を表します。
 
 当会と貴委員会との話し合いは31年前、現行の入試制度に「障害」への配慮がないことの確認から始まりました。「特別配慮申請」の制度が作られるまでは、受検の度に要望書を提出し話し合いを重ねることで、「受検上の配慮」が改善されてきた歴史があります。入学願書すらもらえなかった時代に比べれば、障害児者の高校進学への理解は格段に改善されました。
 

 1990年代の終わりから2000年代にかけて、貴教育委員会は「これからは、県教育委員会・高校・当事者の会の三者が協力して障害への理解を推進していく時代」という考えを示し、「特別配慮申請書」や「自己申告書」の制度を進めて頂きました。


 理解は徐々に進み、当会の受検生だけでも123人の障害のある生徒が入学、そして進級・卒業を実現してきました。これまでの教育の配慮と実績の積み重ねは、普通高校におけるインクルーシブ教育がいわゆる「重度知的障害」のある生徒にも可能であることを証明しています。私たちはその実践に心からの感謝と敬意を表します。


 また小中学校においては、医療的ケア児を含めた障害への理解がよりいっそう広がりつつあります。学校生活や授業を通して、障害のある生徒が社会的協働を学び、コミュニケーションの能力を育て、多様なつながりを育む姿を目の当たりにする先生方にとって、どの子にも学ぶ力があることが自明のことになりつつあります。
 
 それ故「高校で学ぶ」ために必要な内申書等を作成し、「特別配慮申請」を高校と協議し、受検の介助者として担任を派遣するなど、進路保障のために可能な限りの配慮が実現されてきました。浪人して高校を希望するときにも、心配し、応援し続けてくださる先生も多くいます。
 この状況で、高校が「定員内入学拒否」という判断をすることは、「千葉県で生まれた子ども」を9年間育てた「義務教育に関わる全ての教職員への敬意」のなさを示すものとなります。


 高校進学率が99%に近づき、「授業料無償化」「学習指導要領の改定」「子どもの貧困防止法」「障害者差別解消法」」「医療的ケアの推進」など、あらゆる子ども支援の状況が、「後期中等教育の保障」の重要性を指摘し、子どもの孤立化を防ぐことに重点が置かれています。


 千葉県教育委員会が定める公立高校の定員も、中学卒業予定の進学希望者全員の後期中等教育を保障するに足る数として設定されており、「定員遵守」が徹底されれば全ての生徒の高校進学が可能な時代になりました。


 この状況においてなお、定員未充足=定員割れの状況で、「競争」による「選抜」は必要でしょうか。

 「無償化の教育機会を保障される」他の99%の進学者と、「定員内入学拒否」により教育機会を得られない0.2%の少数の子どもへの教育行政の「公平・公正」はどこあるのでしょう。

 また、同じ「義務教育」である「特別支援学校」では、進学を希望する生徒は100%の「後期中等教育の機会」が保障されています。この状況は、同じ「教育行政」のもとにある義務教育学校の進路保障の結果が「公平・公正」でないことを表しています。



 私たちは、7年間27回の不合格の判断をされてもなお高校進学への希望をあきらめないAさんが高校生になれる道があることを信じ、待ち望んでいます。

 令和2年度の受検において「定員遵守」の徹底により、千葉県のすべての子どもの後期中等教育の保障が実現されることを願い、下記質問事項への文書による回答を要望致します。


         記


【1】 《医療的ケアについて》


 「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律及び児童福祉法の一部を改正する法律」(平成28年)により、地方公共団体は、人工呼吸器を装着している障害児その他の日常生活を営むために医療を要する状態にある障害児(医療的ケア児)の支援に関する医療、障害福祉、教育等の連携の一層の推進を図るよう努めることとされました。


 松戸市教育委員会は平成30年4月に「医療的ケアガイドライン」を発行しました。現在、千葉県内の小中学校には多くの「医療的ケア児」が在籍しており、当会からも二人が受検します。


 しかし、千葉県立高等学校における「医療的ケア」の実施についてのガイドラインは全くありません。また、受検に際しても、「医療的ケア」を必要とする受検生が、どのようにして医療的ケア等の合理的配慮の提供を求めればよいかも示されていません。

(2015年度の要望=「千葉県公立高等学校入学者選抜検査当日、痰の吸引等医療的ケアが必要な受検者がいる場合、県教育委員会として受検者に不利益のないよう医療的ケアを保障してください」の回答は「千葉県公立高等学校入学者選抜検査当日に、痰の吸引等医療的ケアが必要な受検者の受検に際しての医療的ケア等については、受検する側の負担においてお願いしたいと思います」でした。)


【1‐1】
 千葉県教育委員会として把握している、小中学校に在籍している「医療的ケア児」の人数を示してください。


【1‐2】
 過去に千葉県の公立高等学校で「医療的ケア」を必要とする生徒が入学・卒業した数、並びに千葉県の公立高等学校で「医療的ケア」を実施した事例数と配慮事項を示して下さい。


【1‐3】
 千葉県の公立高校における「医療的ケアガイドライン」作成して下さい。また「医療的ケア児」が受検する際の、医療的ケアに係る合理的配慮の提供の手順等を、各高校、中学校に通知するとともに、実施要項に明記して下さい。




【2】 《Aさんの高校進学について》

 Aさんは、平成25年度から平成31年度まで7年間、27回の受検に臨みましたが不合格という結果でした。そのうち「定員内入学拒否」は25回です。


 「定員内」で入学を拒否されることは、子どもにとってどういう意味を持つのか。

 たとえば「定員内入学拒否」とは、空腹の子どもに食べ物を与えることを拒否することです。

 あふれるほどの食べ物を手にした栄養十分な子どもと、お腹をすかせた子どもがいる状況と同じです。

 定員は空いている、食べ物はすでに他の子どもすべてに行きわたり、余っているのです。

 その余った食べ物を捨ててまで、15歳の子の「教育を拒否する」判断が「公平・公正」と言えるでしょうか。

 食べ物に手を伸ばす「手段」としてなら「合理的配慮」を提供するが、「食べ物」は与えない。これが「高校の公平・公正」だと、全ての中学生に示すことが教育行政の役割でしょうか。



 東京、神奈川、大阪、兵庫、北海道では、「食べ物=高校生」を得られない生徒は一人もいません。しかし千葉県には、定員内入学拒否される15歳の子が160名もいます。そしてそれが「公平・公正」と語られるのです。この実態こそが、すべての県民にとっての「千葉県に生まれた不幸」です。


【2‐1】
 Aさんが7年間受検し続け、すべての受検が「成立」していたにもかかわらず、後期中等教育の機会を得らないことについて、千葉県教育委員会の見解をご説明下さい。


【2‐2】
 この7年で「受検上の合理的配慮」があることは理解できましたが、Aさんが「高校で学ぶための合理的配慮」は実現されていません。

合理的配慮とは、
(a)「障害のある人が障害を理由として一般教育制度から排除されない」ため、
(b)「障害のある子どもが障害を理由として無償のかつ義務的な中等教育から排除されない」ため、
(c)「障害のある人が、他の者との平等を基礎として、その生活する地域社会において、インクルーシブで質の高い無償の初等教育及び中等教育にアクセスすることができる》ために実施されるものです。(「障害のある人の権利に関する条約」の第24条「教育」) 

 Aさんの「後期中等教育の機会」を保障するための「合理的配慮」について、千葉県教育委員会の基本な考えをご説明下さい。




【3】 《定員遵守の数値目標について》



 子どもの貧困対策法において、「子どもの貧困率、生活保護家庭に属する子どもの高等学校等進学率等子どもの貧困に関する指標及び当該指標の改善に向けた施策」が求められました。

 「千葉県子どもの貧困対策推進計画」が作成され、森田知事も「すべての子どもが、そのおかれた環境に左右されることなく、夢と希望をもって成長して、『千葉で生まれ育ってよかった』と思える社会の実現」を宣言されています。

 また平成26年12月、「定員の遵守」通知の際、千葉県教育委員会は「定員内不合格0を目指す」と明言されました。


【3‐1】
 「定員内不合格0を目指す」とされた平成26年以降の「定員内不合格者数の推移」と、千葉県教育委員会の評価についてご説明下さい。


【3‐2】
 平成26年度の「生活保護を受けている子どもの進学率は91.7%と示されましたが、その後の進学率の推移を示して下さい。


【3‐3】
 平成26年度以降、「定員内不合格」(定員内入学拒否)約160人の中に、「生活保護家庭の子ども」は含まれているかどうか? 調査していないとすればその理由についてご説明下さい。


【3‐4】
 文部科学省は「学校における外国人児童生徒等に対する教育支援の充実方策について(報告)」の中で、都道府県の果たすべき役割として「域内の外国人児童生徒等教育の基本的な方針を示す」よう求めています。千葉県における「基本的な方針」をご説明下さい。


【3‐5】
 千葉県公立高校に在籍している「外国人生徒」の人数を教えて下さい。また、「外国人生徒」への「日本語教員」等の支援・配慮について教えて下さい。


【3‐6】
 日本語教師や通訳を必要とする=(コミュニケーションが難しい)外国人生徒の入学が可能である一方で、高校進学を希望する日本人の中学卒業生の一部は入学を拒否されています。東京、神奈川では、国籍や障害の有無に関わらず、すべての生徒の教育権が保障されています。なぜ千葉県では、定員未充足であるにもかかわらず、日本人の中学卒業生約160名が教育を受けられないのでしょうか。千葉県教育委員会の基本的な考えをご説明下さい。


【3‐7】
 千葉県において「定員内不合格0」達成は令和何年を目指しているかについてご説明下さい。




【4】 《受検生が定員に達しない学校が、受検を真摯に完了した生徒全員に教育の機会を提供することは「公平・公正」に反するか?》


 過去31年の話し合いの中で、「高校は義務教育でない」「公平・公正な選抜をしなければならない」、と説明されてきました。

 しかし中学卒業生の60%や70%しか進学できなかった時代と、約99%が進学する時代では、高校で学ぶ「能力・適性」の内実が変化してきたことは明白です。

 例えば新しい学習指導要領では「通級」での単位認定が認められています。これは教室以外での学びが認められなかった時代から柔軟に変化した「能力・適性」の一例です。当会は通級を求める立場ではありませんが、こうした配慮を必要とする生徒もいます。


 また、出席日数の問題や内申書作成に係る問題で、進学をあきらめていた不登校の生徒に対しても多様な配慮(単位制高校・三部制高校の新設や学習指導要領の改定等)がなされてきました。

 また、3年間の授業料無償化だけでなく、4年以上高校に在籍する生徒のために、「学び直し」(授業料を実質無償)の制度さえ用意されています。

 この状況においてなお、0.2%の子どもにだけ「教育機会」を与えない校長判断は、教育行政の「公平・公正」に反する状況だと私たちは考えます。


 私たちが求めているのは、「競争」における「優遇」ではありません。中学卒業生の約99%が進学する状況において、最終的に教育のセーフティーネットが機能することを求めているにすぎません。

 実際、千葉県公立高等学校の「定員」は、中学卒業生の総数よりも多く設定されています。

 その理由の一つは、一人でも多くの千葉県の中学卒業生に教育の機会を保障するためと説明もされてきました。

 そうであるなら「義務教育修了」は受検の条件を満たすのみならず、後期中等教育を受ける権利を持つ=「能力・適性」があるとみなすのが、義務教育への敬意です。


【4‐1】
 令和元年の社会状況下において、「受検生が定員に達しない学校」が、「受検を真摯に完了した生徒全員に、教育の機会を提供すること」は教育行政の「公平・公正」に反することでしょうか。千葉県教育委員会の見解をご説明下さい。



        以上
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