分けること・分けられることの両側で(3)
≪大切な障害ということば≫
何年か前、ふと「大切な障害」という言葉が
頭に浮かびました。
それは、「障害」という言葉にはいつも、
「あってはならないもの」「不幸なこと」
「直さなければならないもの」、
「生まれてこない方がいいもの」、
そして「子どもが親に殺されても、
『でも子どもの将来を考えたらよかったのかも…』
と言われるもの」がつきまといました。
そうした差別の現実ばかりを何十年と聞き続け、
絶対にそうじゃないと言いたい気持ちが、
「大切な障害」という言葉として浮かんだのでした。
私が「大切な障害」という言葉で、
表現したいことは何なのか?
私が「大切な障害」という言葉で、自分の中に、
自分の人生で最も大切な宝物のように
抱いている気持ちは何か?
そのことがちゃんと分からないと、
同級生の女の子の「兄ちゃん」が、
どんなにか「大切な子ども」であったかを分からず、
ただ怖がり、気味悪がり、
近寄らないようにしていた子どものままだから。
私は、同級生のその女の子に近づくことも
避け続けてきました。
当時は、自分の好きな子じゃないから、友だちじゃないから、
別に話もしないのだと、そう思っていました。
でもそうじゃないことは、いまはよく分かります。
あの「正体の分からない」青年のいる家、家族、妹、
それがすべて「障害」という「忌み嫌う」ものという
イメージを通して私に染み込んでいたのでした。
だから、私は知りたい。
確かめたい。
自分に確かめられる表現と言葉を持ちたい。
彼にも自分と同じように父ちゃんがいて、
母ちゃんがいて、妹がいて、
私と同じ子どもだということがなぜ、
子どものころの私はただのひとつも分からなかったのか。
父ちゃんに大切にされている子ども。
母ちゃんに大切にされている子ども。
妹にとって大切な兄ちゃん。
そうしたことを、ひとつも分からないまま、
「コワイ」「キタナイ」「バケモノ」だと信じていたい自分。
本気で怖かった。
夕方、暗くなってから買物を頼まれても、
一人でその家の前を歩くのが本気で怖かった自分。
「脳性マヒ」や「精神薄弱」という言葉すら知らず。
障害者という言葉も周りにはなかった子ども時代。
彼を表現する言葉を、私は知らなかった。
子どもの頭で考えて、いちばん近いものは、
「お化け」「化け物」「妖怪」だった。
その言葉がどういう意味か、深く考えることもなく、
感じていた言葉。
「大切な障害」という言葉で、私が考えたいことを、
自分で表現できなければ、
私は、あの頃の自分と、変わったとは言えない。
そんな思いがずっと、ありました。
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