障害のある子どもが、もっとも成長し「教育効果」をあげる経験は、「授業」や「教育」そのものではないところで起こる。それが、私の実感です。普通学級か特別支援学級かと、二者択一の選択のように言われていることとは、全く別の、子どもの生活の豊かさとして考えなければいけないことです。
「障害」と、それに対する私たちの反応や理解は、(障害者差別満杯の)この社会の人間関係を考えに入れずに理解することはできません。生まれながらの障害がある場合でも、事故や病気による障害の場合でも、一番の問題は、その「障害」が子どもの人間関係、愛する家族や仲間との関係にどのような影響を及ぼすかということです。それは、障害故の「できないこと、限界」や「困難」という問題と同時に、この社会が「障害」とセットにして押しつける「関係障害」の影響です。
※【事故や災害であれ虐待や病気であれ、あらゆる不幸な出来事において最大のトラウマにつながる部分は、人間関係の崩壊である。子どもの場合はそれが特に顕著に表われる。】
親切に教えてくれ守ってくれるはずの担任の先生からじゃまにされたり、「他の学級、学校に行きなさい」と見捨てられる経験。安全で大切にされていると感じ、思いやりの気持ちを育ててくれる、みんなと同じクラスの一員としての実感と人間関係を奪われる経験。そうした経験は、「障害があるから」起こるのではなく、障害のある子どもとの「関係をつくれない」人たちが原因で起こります。
できないことがあっても、それは人として恥ずかしいことではないと、それを言葉や知識としてでなく、クラスの仲間との生活のなかで繰り返される体験。
「障害児だから」ではなく、子どもにはみんな「風変わりな特権」があり、すべての子どもに共通する特徴は依存することであると、毎日の繰り返しの中でなじむこと。
子どもは誰もが、手を借りるように知恵を借りて成長していくのだと。
学校とは、知識や技術、漢字や計算を学ぶことが「主」ではなく、そうした授業や教育という学校生活体験を通して、大人が子どもに「手をかすように知恵をかしている」場所。
その場所を学校と言う。
だから、子どもは、最初は手をかりるように知恵をかりながら、自分を大事にし自分を助ける体験を繰り返す。そして、周りに自分の手を必要としている友だちがいたら手をかし、知恵をかりたい友だちがいたら、知恵をかしながら成長し、大人になっていく。
そうした学校の一員として、障害のある子どもが、できなさを恥ずかしいこととして受け止めるのではなく、自分だけがみんなとは違うと自信をなくすのではなく、手をかりるように知恵をかりながら、堂々と自分の生き方を見つけていく。
※【人間は逃れがたく社会的な生き物であるので、我々に降りかかる可能性のある最悪の悲劇は、当然、人間関係を失うことにある。】
だから、「障害」があること、「障害」のためにできないことや苦労からの回復と、「自分を助ける手立て」は、すべて人間関係に関わる問題なのです。一対一の関係や場面が大事なことはもちろんあります。でも、人と人とのつながりのなかで必要な自信は、「個別」の場ではなく、「集団」のなかでしか手に入れることができないのです。
そのためには、子どもが小さなうちに一緒に、その「世界」を「共通体験」しながら育つことが一番効果的です。そこで信頼を築き、自信を取り戻し、安心感を得て、自分の居場所と人生を手に入れるのです。子どもたちがいつも一番に必要としているのは、豊かな人間関係のある環境であり、自分自身が属し、大切にされる場所です。障害のある子どもたちにもっとも必要なのは、健全なコミュニティ=仲間たちといっしょに所属しあえる場所と、豊かな人間関係です。
※【薬は症状を緩和するのに効果があるときがあるし、治療者と話すことが驚くほどの効果を生むこともある。しかし、たとえ世界一の薬と治療があろうと、思いやりに満ち安定した人間的つながりがなければ、治癒し回復することは不可能だ。
実際、治療が効果をあげるのは、根本的には、治療者の手法や知識によるものではなく、治療者と患者の人間関係のおかげだ。我々が治療した後にめざましい成長を見せた子どもたちは、例外なく、強力な人間関係のネットワークに囲まれ支えられていた。】
(※)引用は『犬として育てられた少年』紀伊國屋書店・から。
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