ワニなつノート

『NO PITY』 (哀れみはいらない)


『NO PITY』 (哀れみはいらない)


昨日の新聞の、何がそんなに気持ち悪かったのか。
よく分からないまま、仕事をしているとき、
ふと、一枚の写真が頭の中に浮かびました。
松葉杖を持った小さな女の子の写真。

それが何の写真か、すぐに思い出しました。
シンディ・ジョーンズという名前の5歳の女の子。

かわいいドレスを着て、笑顔で移っている写真。
『NO PITY』という本の
第1章の扉に載っている「写真」でした。

第1章の初めを紹介します。

   □    □    □


第1章
【ちっぽけなティム、
超がんばりやのかたわ
そして哀れみが終わるとき】



《シンデレラと思ったのに》

「哀れみが人を抑圧するのです」
全米で広範な流通規模を誇る障害者対象の雑誌
『主流』の発行者、シンディ・ジョーンズは言う。

テレビの寄付集め番組、
テレソンやポスターチャイルド、
これら障害の象徴ほど哀れみを助長しているもいのはない。
自身もかつてこのポスターチャイルドだった
彼女の言葉には、かなりの重みがあった。

1956年、シンディは5歳だった。
彼女は、ミズリー州セント・ルイスの
「硬貨の行進」という団体の寄付キャンペーンのため、
ポスターチャイルドに選ばれた。

そのときの、シンデレラにでもなったような心地は
今でも覚えている。
写真家がわざわざニューヨークから飛行機でやってきて、
フリルがたっぷりついた可愛いドレスを彼女の着せてくれ、
地元の市長はお祝いにキスしてくれた。
勇気を振りしぼり松葉杖にしがみついて
微笑む彼女の写真は、
街の中心地の大きな広告塔にも使われた。

テレビにも出演、一躍有名人にもなった。
マーチ・オブ・ダイム恒例の
一月寄付キャンペーン番組だ。

シンディはもともと杖を手放したら長くは歩けなかったが、
撮影前、演出家からふだん使っている
アルミの杖を落とせと指示されて、動揺、
泣いてしまった。

ところがテレビカメラを前にした彼女は、
言われたとおり舞台の上で杖を落とし、
そのままよろよろ二、三歩歩き、
ドシンという音とともにころんだ。

ドラマの主人公として「大成功」を収めたのだ。
彼女の姿は人々の心を打ち、
財布のひもを大いにゆるめさせた。

そして、二、三カ月後、
シンデレラ気分を現実に引き戻す
衝撃的な出来事が起きた。

シンディがある日小学校に行くと、
担任の先生がポリオ(脊髄性小児マヒ)の
予防ワクチンのお知らせを皆に配ったのである。

そのお知らせのチラシの一番上には、
「手足をマヒさせるポリオがふたたび増えています」
「ポリオにかからないように皆さんワクチンを受けましょう」
と書いてある。

チラシには写真が二枚あり、
一枚目には、男の子と女の子のきょうだいが、
手をつないで楽しそうにスキップする姿が写っていた。

この写真には、 「THIS」 (これです)と、
スタンプのような文字がかぶさるように印刷されていた。

そしてその隣の写真には、
フリルつきのドレスを着たやや険しい表情の少女、
松葉杖にしがみつく少女が写っていた。

自分だ。

「NOT THIS」 (これではありません)
という文字が印刷されていた。

シンディは、恥ずかしさのあまり
椅子から転げ落ちそうになった。
心がずたずたに引き裂かれ、
「私は全く価値のない人間」とさえ感じた。

誰にも気づかれないでと願ってももう遅い。
学校中の皆が知っている。

絶望のどん底で彼女は気づいた。
今までもてはやされていたのは
自分が素晴らしいからではなく、
ポリオだったからだ。

自分はまわりから恐れられていただけだったのだ。




『哀れみはいらない』
(NO PITY   全米障害者運動の軌跡)
ジョセフ・P・シャピロ
現代書館 1999年  3300円



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